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[黄色い布団]
いつのことなのか。いずこの場所であったのか。ともに分からない。またその少女が、どこの誰であるのかも分からない。しかしそんな、ないない尽くしの夢であったが、出てきた光景には臨場感があり、繋いでいた少女の手の感触は生々しいほど残っていた。
「黄色いお布団よ」
少女は私の手を振り解いて、散り敷く銀杏の落葉の中に潜り込んでいった。
私は傍らのベンチに腰掛け、読みかけの文庫本に読みふける。
どれほど時間の経過があったのか。ふと少女の声がしないのに気づいて、顔を上げると、銀杏の落葉に日は降り注いで変化はなく、少女のよすがを知る手掛かりはなかった。
ついて来ていた愛犬が、消えた少女をいぶかり、潜っていた銀杏の落葉を、ぐいぐい鼻で押しのけていく。
私も犬に協力して、少女が潜っていた辺りの落葉を足で掻き分けてみる。その隣り、その隣りへと探査を広げていったが、結局少女は出てこなかった。
そもそもその少女が、誰であったのかさえ分からずじまいだった。顔さえ覚えていなかった。
そして私は行方が掴めないばかりか、名前すら知らない少女を恋するようになっていった。名前を知らない分だけ、よけい恋する思いは募っていった。