スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

VolvoとSAABの将来

2009-01-13 08:11:48 | スウェーデン・その他の経済
スウェーデンの自動車メーカーであるVolvoSAABの危機的な状況は続いている。Volvo乗用車部門とSAABは、それぞれアメリカのFordGMの傘下にあるが、この2社は自分たちの再建に精一杯で、傘下に置く小さな自動車メーカーの救済などやっている暇がない。アメリカ政府が決定した自動車3社(Ford、GM、クライスラー)に対する救済策は、あくまでアメリカ国内の産業と雇用を守ることが目的なので、原則としてVolvoやSAABなどには救済金は充てられない。

そこで、Volvo乗用車部門とSAABをアメリカの親会社から切り離して売却する、という議論がこれまで続いてきた。しかし、世界的にみても自動車各社の経営は火の車で、買収の余裕のある企業はなさそうだ。Volvo乗用車部門の買収を検討していたドイツのダイムラーも今月初め、Noという返事を出した。Volvo以上に大変なのはSAABのほうだ。新モデルが登場せず、年間の販売台数が10万を下回るような小さな自動車メーカーは見向きもしてもらえないようだ。実のところ、SAABの主力である9-5モデルは生産が始まってから既に11年、9-3モデルは6年経つという。自動車業界では、モデルの平均年齢は6年ほどというから、SAABはいつまでも古いモデルを作っていることになる。

それならば、スウェーデン政府がこの2社を一時的にでも買い取ってはどうか、という議論が昨年の秋からスウェーデンでは続けられてきた。Volvoの地元ヨーテボリでは賛成だという声が盛んにあがっていた。ヨーテボリ大学ハンデルス(経済、経営、法学などからなる経済系学群)の学長もメディアに登場し、「暫定的な苦肉の策」として賛意を表明していた。

しかし、現実問題として、VolvoもSAABもそれぞれの親会社であるFordやGMの生産分業体制に深く組み込まれており「2社だけをそこから切り取って、自立して経営をやって行くのは困難だ」という声も上がってきた。

また、そもそもVolvo乗用車部門は、Fordに買い取られる以前はVolvoトラック・バス部門(こちらはいまだにスウェーデン資本)と一体であったのだから、このトラック・バス部門が乗用車部門を買い戻して、再び一体化すればいい、というような意見も聞かれたものの、この意見に対しては「乗用車とトラック・バスの生産工程は基本的に大きく異なっており、再び一体化することのメリットはあまりない」との反論もあった。

また一時は中国資本がVolvo乗用車部門を買い取る、というような話も持ち上がったものの、議論はその後、すぐに立ち消えになってしまったようで、今では(幸いにも)全く聞かれない。

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現在、アメリカ・デトロイト自動車の見本市が開かれている。それにあわせて、スウェーデン産業省の政務次官ヨーラン・ヘッグルンド(彼は中央党所属。キリスト教民主党の党首は同じ発音だが、綴りが違うことに注意)がデトロイトを訪ね、VolvoやSAABの将来についてFordやGMと協議している。

スウェーデン政府としては、VolvoとSAABの2社がひっくり返ってしまうのを防ぐために、融資保証などの救済策(280億クローナ)を講じる予定だが、アメリカ政府が自国の産業しか助けない以上、スウェーデン政府(および一部はEUからの拠出)のせっかくのお金がアメリカに流れてしまっては困る。そのため、FordやGMの経営陣と交渉して、スウェーデンのお金はあくまでVolvoとSAABの救済にのみ使われる、という確約を取り付けるつもりだ。

また、SAABに関していえば、近い将来の売却も見据えながら、SAABブランドの乗用車の生産をスウェーデン国内に戻すための準備を進めている。具体的には、9-3モデルの新バージョンの生産を、SAABの国内拠点であるトロッルヘッタン(Trollhättan)(←ハッタン、ではない!)に置くという。スウェーデン政府が数年前から、この町での生産能力拡張のためのインフラ整備(道路運輸・鉄道運輸)に支援を表明してきた。しかし、新バージョンの開発および生産設備投資にかかる費用には、政府として支援はしない、と表明しており、SAABの経営陣および労組と政府の間で対立している。

ちなみに、現在のスウェーデン政府の救済策は、消極的過ぎると各方向から批判を浴びているようだ。数千人に及ぶ従業員がVolvoやSAABなどから解雇されているが、経営陣も労組も「もし、政府がお金を支援してくれたならば、過剰人員は解雇でなく、労働訓練などの教育を受けさせるようにできた。解雇されて失業者になれば、国は失業給付・労働訓練などの形で費用を負担することに、同じことなのに・・・。」と苦言を述べている。


一方、Volvoのほうはデトロイトでの見本市で、S60という新モデルを発表した。歩行者警戒システムや、自動減速システム(Adaptive Cruise Controle)、ドライバーのために警告サインを示す装置がフロントガラスに埋め込む(フロントガラス・ディスプレイ)などの最新技術が施されているという。また、燃費も向上させ、1kmあたりCO2排出量119gという基準を満たすという。Volvoにとっては、この新モデルが一つの希望であるようだ。(ただし生産は2010年から。)

ちなみに、VolvoはこのS60をはじめC30、S40、V50、XC60などのセダンタイプは今後も、ベルギーのゲント(Gent)工場で生産していくが、同モデルのコンビタイプヨーテボリのトーシュランダ(Torslanda)工場に全面的に生産を移行していくと見られている。(スウェーデン市場ではコンビタイプが人気のためらしい。)このニュースが流れた昨日は、ヨーテボリは少し明るい空気に包まれたものの、生産は2010年からなので、今年2009年をどう乗り切るかが今の課題だ。

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