スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

『オルタ』2011年1・2月号 まちがいだらけの「魚食文化」

2011-01-16 23:50:27 | スウェーデン・その他の環境政策
昨年6月終わりから7月初めにかけて、欧州議会議員イサベラ・ロヴィーン氏(スウェーデン選出)を日本に招き、セミナーやシンポジウム、水産庁や環境省の訪問などを行った。その中で、7月3日に慶應義塾大学で開催したシンポジウムは、日本のNGOであるアジア太平洋資料センター(PARC)との共催で行った。

7月3日イベント 市民向けシンポジウム @ 慶應義塾大学 三田キャンパス

そのアジア太平洋資料センター(PARC)が発行している雑誌『オルタ』最新号が水産資源について特集している。特集への寄稿者は慶應義塾大学でのシンポジウムに講演者やパネラーとして参加してくださった、共同通信の記者である井田徹治氏や、三重大学の准教授である勝川俊雄氏、船橋市漁協の組合長である大野一敏氏のほか、水産大学校理事長の鷲尾圭司氏、国際魚食研究所所長の生田與克氏などだ。また、漁師としての経験も豊富に持ち、料理番組にも登場するという異色の水産庁官僚である上田勝彦氏の話なども載っている。


私が目を引かれたのは、特集のはじめの言葉だ。

* * *

 魚や貝、甲殻類など、海の恵みは古くから日本の食卓を彩ってきた。しかし現在、これら水産資源の枯渇が世界的に懸念されている。気候変動の影響なども指摘されるが、その大きな原因は乱獲だ。
 本来、水産資源には自然の営みの中で子孫を残し、再生産し続ける力がある。しかし、その力を上回る量の資源が、世界中の海で獲られ続けているのである。将来にわたって魚を食べ続けていくためには、漁獲量の規制をはじめとする管理が早急に必要だ。
 2010年、様々な国際会議の場で、日本の魚介類消費が話題に上がった。とりわけ、ワシントン条約ではクロマグロの国際取引禁止案が議論され、話題騒然となった。そうした議論で日本政府が用いてきた反論のキーワードが、「魚食文化」だった。「魚食文化」を支えるための「伝統的」な漁には問題がなく、今さら規制すべきではないとの主張が展開されたのである。
 だが、「魚食文化」という言葉が、あたかも免罪符のように使用されている現実には、多くの疑問がつきまとう。そもそも、現代の「魚食文化」は近代化の過程で形作られてきたものであり、それ以前の伝統的な魚食文化とは明らかに異なっている。
 現代における私たちの魚消費の実態とは?
 それが伝統的な魚食文化とどう異なっていて、どのような問題があるのか?
 私たちが守るべき「ほんとうの魚食文化」を取り戻すための食べ方や暮らしのあり方について考えるきっかけとしたい。
* * *


「魚食文化」という言葉が、あたかも免罪符のように使用されている現実、という部分はまさにその通りではないかと頷いてしまった。水産資源の漁獲や国際取引に対する規制を巡る日本での議論や反応、そしてそれを報じる日本の報道などを見ていてぼんやりと感じてはいたが、ここまで明確な言葉で書く度胸は私にはなかった。

アメリカ・ヨーロッパも一枚岩ではないものの、水産資源の枯渇と保全に関する議論は近年特に盛んになってきている。危機に瀕した動植物の取引を規制するワシントン条約の締約国会議では、地中海のクロマグロを取引規制の対象にする提案がなされて大きく議論されたし、中国で養殖され日本に大量に輸入されているヨーロッパウナギはすでに取引規制の対象となった。そのような世界の動きに対して、それは「日本の魚食文化を理解しない欧米によるバッシングだ」とディフェンシブに身を硬くするのではなく、生態系や資源の持続可能性に配慮する形で魚を今後も食べ続けるためにはどうすればよいかを議論する必要があるのではないかと感じる。

このブログでも何度か書いたように、ウナギやマグロなどが日本の報道で取り上げられる場合、漁の出来・不出来や国際的な規制が価格にどのような影響を与え、それが消費者や業者にどれだけの影響を与えるのか、ということは伝えても、資源の状態や漁獲量の減少の背景にある要因、国際規制が主張されるその背景などについて言及する記事はあまり見ない。
2010-07-30:もっと考えてほしい、土用丑の日

この特集記事では、生産者・流通者・消費者、そして行政のそれぞれの責任と課題がまとめられている。
『オルタ』2011年1・2月号 まちがいだらけの「魚食文化」

* 退化する日本の魚食事情-自然から遠くなった私たちが失ったもの
 上田勝彦
* 流通が魚食を変えた?-魚に触れなくなった日本人
 生田與克
* マグロ、銀ムツ、ウナギにサケ-変わる魚食がもたらすもの
 井田徹治
* 漁業の衰退を加速させる水産行政の無策
 勝川俊雄
* 東京湾が問う私たちの「豊かな」暮らし
 大野一敏
* 陸の無関心が海も魚もダメにする
 鷲尾圭司

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連載
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* ゆらぐ親密圏-<わたし>と<わたし・たち>の間 海妻径子
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* オルタの本棚
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