スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

再びギリシャ。

2010-05-07 06:14:41 | スウェーデン・その他の経済
ギリシャが大混乱だ。数日前からゼネストが決行されている。ストに参加する人は、これまでの政府の政策のツケを払わされることに不満を述べているが、極左の活動家もかなりいるようで、現在の危機を打開するために「銀行資本をはじめとする民間企業の国有化」を訴えていたりもする。勝手にやってくれという感じだ。平和的なデモにまぎれて若者が暴徒と化し、銀行に火炎瓶が投げ入れられ炎上。逃げ道を失った銀行員3人が死亡する悲劇もあった。消防隊の到着を暴徒が妨げたという報道もある。

経済学者のポール・クルーグマンは自身のブログに「Greek End Game」というコラムを書いているが、その中で、これまでは最悪のシナリオとしてギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥ると見られてきたが、それはおそらく楽観的過ぎる見方だろう、それくらいならまだ良いほうで、むしろ単一通貨ユーロから離脱する羽目になると見たほうが現実的だと述べていた。(通勤の途中にいつも聞いているスウェーデン・ラジオの朝の経済ニュースも、ブログ上での彼の発言を取り上げていた)

逼迫した財政を立て直すための唯一の鍵は経済を拡大させることだが、そのためには輸出を増やしていかなければならない。しかし、それには高コスト構造を打ち砕く必要がある。そのための一つの方法は、労働組合が団結して国内全体で価格・賃金カットに同意することによって「internal devaluation」をすることだと彼は述べている。つまり、通貨切り下げ(devaluation)と同じ効果を、国内における価格・賃下げによって実現し、国際競争力の向上を図るということだ(彼は書いていないが、賃金カットに加えて、年金などの社会保障のスリム化によって歳出を大幅に削減することも必要だろう)。

しかし、現在のゼネストを見ていると、労働組合側が現況に理解を示して、一致団結した賃金カットに同意するなんて到底考えられない。とすると、残された手段として、ユーロ離脱・自国通貨再導入によって本当の「devaluation」を行わざるを得ない、ということになる。

ただし、ギリシャが前もってユーロ離脱を発表したり、欧州中央銀行(ECB)の誰かがギリシャが離脱できる可能性があることを示唆してしまえば、たちまち市場は投機に走るだろうから危機がさらに深刻化してしまう。だから、表向きそのような可能性が絶対にあり得ない!ことを表明しておきながら、その裏で着々と準備を進め、ある日、突然「今日からユーロを放棄して、自国通貨ドラクマに切り替えます!」と宣言する、というシナリオを暗黙で想定しているところが面白い。

クルーグマンのブログ
既に導入した統一通貨を放棄して、再び自国通貨を導入するという例は、2001年にアルゼンチンであったらしい。アルゼンチンは米ドルが広く出回り、公式通貨として使われていたらしいが、それをやめ再びペソを導入したようだ。最初は固定レートでの切り替えだったが、そのうち変動為替制に移行(固定相場制は投機に弱いので)した結果、通貨が大きく減価したようだ。

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これまで、ユーロの問題点をこのブログ上でも指摘してきたが、ギリシャがユーロに入りさえしなければ危機は防げたと考えるのは少し早急かもしれない。前回書いたように、ギリシャ経済は構造的な問題を抱えており、その抜本的な改革に取り組まなければ、遅かれ早かれ危機はやってきただろうからだ。だから、ギリシャがユーロ加盟したことによる問題点だけをことさら強調してユーロ批判を行ってしまうと、逆にユーロ賛成派から叩かれやすい。

しかし、クルーグマンも書いているように、逼迫した財政を立て直すための鍵は輸出を増やすことであると考えれば、もし自国通貨ドラクマを維持していれば、経済力の衰えに応じて通貨が自然に下落していただろうから、国際競争力がある程度は回復して、経済改革や輸出振興の一助にはなっただろう。しかし現実には、ユーロ加盟にともなって、ギリシャでは他のヨーロッパ諸国と同じ生活水準を享受できる!というユーフォリア(高揚感)が蔓延し、便乗インフレ・賃金上昇が起きてしまい、高コスト経済になってしまった。

また、現在続いている大規模なストライキを見ていると、危機意識というか問題の深刻さに対する認識自国の人々にはあまりないのではないか?とも思ってしまう。もし、ユーロに加入していなければ、自国通貨がもっと早い段階で暴落していただろうから、一般の人々にも経済や財政の構造的問題の深刻さがもっと認識されていたかもしれない。通貨が暴落していれば、輸入品が高くなるし、国外旅行をしようと思っても手が届かない。つまり、為替レートが一つの指標となって、一般の人々にも何か深刻な問題をギリシャが抱えているというのが分かりやすかったかもしれない。だから、ユーロに入ったおかげで、そのようなメカニズムが働かず、問題が顕在化せず、よって改革の必要性が認識されず、先送りされてしまったと見ることもできるのではないかと私は思う。

すべて「もし××だったら・・・」という仮定の話。でも、マクロ経済は面白い。

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最後に、ギリシャ人が享受し、高コスト構造を作り上げてきた恩恵のいくつかを紹介。
・企業では、外国語を話せたり、時間通りに出社したり、パソコンが使えるというだけでボーナスが支払われる。
・さらに、従業員全員に14か月分の給与が年間支払われる(イースター休暇と夏休みにそれぞれ半月分、そして、クリスマス休暇に1か月分のボーナス)。
・公務員は35年働けば、退職して年金を満額もらうことができる。
・退職した公務員に、独身または離婚して一人身となった娘がいる場合には、その公務員が死亡したあと、娘に年金受給権が引き継がれる。

そのほかにも、国税庁が補足できない闇経済が多く税金逃れが横行していたり、軍事費がGDPの6%に達するなどの問題点もある。

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1 コメント

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まったく (里の猫)
2010-05-07 17:49:46
今回の混乱を見ていると、ユーロというのも随分だらしない団体だな、と思います。
そもそもの始まりは数年前にドイツとフランスが赤字3%のボーダーをオーバーした時(たしか4%以上になったように覚えてますが)、大国の威を借りてペナルティーを払わなかったあたりにあるんじゃないでしょうか。ドイツも今回は最後まで援助を払うのを拒絶してたけど、「かってなもんやなー。ようやるよ」と思いました。なにかあの辺から箍が外れたような気がします。3%を超えても誰も何も言わなくなった。大体EUの中で予算オーバーが3%以下の国は今はもう3国しかないとかだそうですね。

ギリシャが今回ユーロから離脱して通貨切り下げを行うと、ギリシャに投機していた国(EUの中にもいっぱいあるのでは?)には目も当てられなくなるから、そのへんからの抵抗はないのでしょうか。つい最近、エストニア(だったと思う)の銀行に莫大な投機を行っていたスウェーデンがなんとか切り下げを回避したかったように。
経済は何も分かりませんが、周りにこのようなことが起こると関連が分かってなるほどと思います。学校の教科書に書いてあっても、私なんかは絶対に分かろうとしなかったでしょうね。

ギリシャでは兎に角社会党が押し切って、強力な節約提案を可決させたけど、保守と共産党は反対したとか。こうなった原因の保守党が反対するとは。一体何考えてるんでしょうね。社会党の案に対抗する提案があったのでしょうか。
その辺の報道があいまいなので、歯がゆいです。スウェーデンでこんなことしたら、保守派は報道陣に徹底的に叩かれていたでしょうね。今まではあまり考えなかったけど、新聞が保守派/革新派にはっきり分かれているのも悪くないのかな、と思うようになりました。

ギリシャ、しっかりしろ。一体どこへ行くつもりなの。
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