スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

新学期の始まり

2010-10-05 08:30:38 | コラム
スウェーデンの小学校では秋学期が8月から始まるが、ある学校では今日が始業式となった。この学校では、初めて通う新入生が3分の1を占め、学校全体の雰囲気はどこか落ち着かない。校舎がとても大きいだけに、自分の教室が分からない子どもがいたり、廊下で迷子になる子どもがいたりするので、先生や用務員のおじさんは大変。子どもの中には、校舎の中を隅から隅まで探検しながら、食堂やカフェテリアの場所を確認したり、自分のロッカーを確認している。

そんなカオス状態は、クラスが始まってからも続いた。時間に遅れて教室にやってきたために担任の先生に怒られたり、トイレに行くと言って無断で教室を後にする生徒もいる。担任の先生は「さあ、皆さん、これから学級委員を選びましょう」と言うけれど、ガキ大将的な存在であるトーマスの姿が見当たらない。「トーマスは学校がもう終わったかと思って家に帰ったよ」と児童の誰かが言う。学級委員の選出はそれでも行われたが、クリスティーナという女の子が投票に参加しなかった。彼女は、クラスが始まっているとも知らずに、学校のカフェテリアに座ってジュースを飲んでいたのだった・・・。

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スウェーデン議会が今日から始まったが、雰囲気はまさに新学期を迎える児童のようだった。一院制で349人の議員から構成されているが、今回の選挙で初めて当選し、スウェーデン議会に足を踏み入れることになった議員が109人、つまり3分の1弱いる。

議員の多くは、すでに一週間以上前にストックホルム入りし、議員会館内の引越しをしたり、議員のIDカードを作成してもらったりと準備をしていた。


そして、今日は議会が初めて開かれた。いや、正確に言えば、議会の開会は明日(火曜日)だが、それに先駆けて今日は議会議長の選出が行われた。2006年から2010年までの間、議会議長を務めたのは保守党(穏健党)の男性議員パー・ヴェステルベリだったが、保守党を中心とする中道保守政権が継続することになったため、先週の段階では彼の再任が間違いない、と見られていた。

政権奪還に失敗した社会民主党を中心とする赤緑連合(左派ブロック)は、対立候補を立てることもできたが、議席数は中道保守政権よりも少ないために、もし当選を果たそうと思えば、極右・ポピュリスト政党であるスウェーデン民主党を味方につける必要があった。スウェーデン民主党も、自分たちが重要な鍵を握っていることを意識しながら「3つある副議長のポストの一つをわが党にくれるなら、保守党のヴェステルベリの議長再任を支持してやってもいい。この条件を飲んでもらえないならば、対立候補を支持する」と発言していた。

赤緑連合(左派ブロック)から対立候補を出すとすれば、2002年から2006年まで議会議長を務めていたビョーン・フォン・スュードウという社会民主党の男性議員が有力視されていたが、彼はスウェーデン民主党のそんな発言を聞いて「奴らの駆け引きに利用された上で議長に当選するなんて考えられない」と言って、立候補しないことを先週水曜日に表明した。そのため、対立候補なしで現職のヴェステルベリが再任される見通しとなった。

しかし、土壇場になって赤緑連合(左派ブロック)対立候補を立てることに決めた。「なんてこったい。スウェーデン民主党にキャスティングボードを握らせるつもりかよ!」と私は当初思ったものの、よく聞いてみるとそんな単純なことではなかった。

赤緑連合が立てた候補は、ケント・ハーシュテットという男性だったが、彼は社会民主党の中でも特に人権や人道的支援に力を入れている議員で、難民の受け入れに対しても人道的見地からその重要性を主張している議員だった。つまり、スウェーデン民主党とは水と油の関係なのだ。さて、そんな対立候補をスウェーデン民主党が支持するのだろうか?

彼らはどれだけ苦い思いをしただろうか。結局、副議長のポストを要求することなく、保守党のヴェステルベリを支持したようだ。投票は誰がどの候補に投票したかが分からないように、無記名で紙に候補者の名前を書き、議員が一人ずつ順番に箱に票を投じる形式が取られた。しかし、この時、社会民主党トーマス・ボードストローム(元法務大臣)という男性議員はアメリカに行っており欠席。また、左党の1年生議員であるクリスティーナ・ラーセンという女性議員は、カフェテリアに座ってコーヒーを飲んで、トイレに行って、議場に戻ってみたら投票が終わっていた(!)という大きなミスをしでかしてしまった。さらに、赤緑連合の一人の議員が保守党のヴェステルベリに票を投じたことも判明した。そのため、スウェーデン民主党の動向にかかわらず、いずれにしろ保守党のヴェステルベリは再選を果たしたことになる。(つまり、スウェーデン民主党がたとえ対立候補を支持していたとしても、ヴェステルベリには勝てなかった)


クリスティーナ・ラーセンは、メディアに対するコメントの中で「新しい職場で仕事を始めた初日には、こんな初歩的なミスはしたくないと日ごろから願っていたが、まさにそんなミスをしでかしてしまった」と弁解している。気づいて慌てて議場に走ったが、時はすでに遅かった。「同僚には申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。見逃してほしい。初日にこんな重大なミスを犯したのだから、これ以上ひどいミスは起こしえず、明日からは良くなる一方だから。」

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スウェーデン議会の面白いところは、議場内の席の配置が政党ごとではなく、選挙区ごとである点だ。だから、自分の隣の席に別の党の議員が座っていることも珍しくない。例えば、この二人。左は、極右政党であり難民や移民の受け入れの極端な制限やイスラム教徒の排斥を主張するスウェーデン民主党の新議員。一方、右は、保守党の新議員であり、彼はイラン革命の後、両親に連れられて3歳のときにスウェーデンにやってきて難民申請し、その後、スウェーデン国籍を取得した人だ。


二人とも1年生議員だ。テレビのインタビューの中で、スウェーデン民主党の議員が「隣同士なので、ペンや紙を貸し借りしたりすることはあるかもしれないが、政治的な主張は全く異なる」とまず切り出した。血気づきながら「難民や移民の受け入れはすべきではない」という。

すると、保守党の議員が冷静にこう切り返した。「彼の属するスウェーデン民主党が言いたいのは、私のような難民はスウェーデンに受け入れるべきでない、ということだ。彼らが政治の実権を握っていれば、私がこの国で暮らすことはできなかった。」

スウェーデン民主党の議員は、さらに顔を赤らめながら「多文化主義が問題だ。移民・難民の人々が自分たちの文化をスウェーデンに持ち込むべきではない」と主張する。様々な移民・難民の文化グループや同好会に対してスウェーデン政府が提供している活動助成金をなくすべきだ、とも主張する。これに対しても、保守党の議員は淡々と切り返した。「例えば、ギリシャやイランの文化グループの活動をつぶすことが、どうして社会統合の促進につながるのか、全く理解できない。社会統合の促進を考えれば、そんなことよりももっと重要なのは、彼らが仕事について社会の一部となれるように、雇用を増やすことだ。」


ギリシャ語起源の言葉にxenofobiという単語がある。見知らぬものに対して恐怖心を抱き、心を開こうとしないことを指すが、スウェーデン民主党の人々の主張を聞いていると、まさにこのxenofobiの典型ではないかと感じる。他文化を背景に持つ人々と接する機会を普段から持たないために「我々」と「奴ら」という二項対立を頭の中でどんどん膨らませていき、より頑なに心を閉ざしてしまっているようだ。

だから、このスウェーデン民主党の議員のように、今後の政治活動の中で様々なバックグランドを持つ人々と接して議論していくようになれば、自分たちの考えの幼稚さにも気づくようになるかもしれない。そういう意味で、議場内のこのような席の配置は面白い。さて、この2人がこれから4年間、隣同士で仲良くやっていけるのか、注目に値する。

何度も書くように今回の選挙では、ポピュリスト・極右政党スウェーデン民主党が4%ハードルを越えて初めて議席を獲得した。その一方で、あまり知られていないニュースもある。もともと移民や難民としてスウェーデンにやってきた議員の数が今まで以上に増えたということだ。2006年の国政選挙では、外国生まれの議員は16人だったが、今回の選挙では24人に増えた。イラン、イラク、ユーゴスラヴィア、トルコ、レバノン、エリトリア、ソマリア、スリランカなど16カ国に及ぶ。また、親のうち少なくとも一人が外国生まれという議員も加えると少なくとも30人ほどになるという。多文化を受け入れることで成長してきたスウェーデンの強さが、これからますます示されることを願いたい

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3 コメント

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Unknown (らお)
2010-10-09 22:16:23
政党毎の席順ではなく選挙区毎というのはこれは日本でも参議院でやってみるとおもしろいかもしれないです。
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Unknown (Yoshi)
2010-10-10 22:55:35
うるさい野次を飛ばす議員が減るかもしれません。
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