スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデン・デンマーク、国際地下鉄の建設

2012-03-05 01:41:31 | スウェーデン・その他の社会
先日紹介したストックホルムの地下鉄新線に続いて、トンネルのネタをもう一つ。

昨年12月中旬の朝刊1面の見出しに「デンマークへの地下鉄路線の建設を検討」と大きく書かれていた。簡単に中身に目を通すと、スウェーデン南端にある第3の町マルメ(マルモ)から、海峡を隔てた対岸のデンマーク・コペンハーゲンとの間に地下鉄路線を敷くという話だが、最初はちょっと首をかしげた。

スウェーデンとデンマークを隔てるこのオーレスンド海峡には2000年オーレスンド大橋(鉄道・道路両用)が完成し、鉄道および自動車が両国間を陸路で行き来できるようになった。それから12年経つが、同じ場所に再び鉄道を敷設するなんてどういうことだろう?


「デンマークとドイツを結ぶ大橋」は建設中とすべきだった。作り直すと時間が掛かるのでそのままにします。

その理由は、オーレスンド大橋のキャパシティーが今後10年から15年後を目処に一杯になる見込みだから、通勤客のための新たな輸送手段を確保する必要があるというものだ。

たしかに、オーレスンド大橋ができたことによって、デンマークの首都であるコペンハーゲンと、スウェーデンの第三の町であるマルメ(マルモ)とその周辺地域(スコーネ県)の経済統合が急激に加速することになった。コペンハーゲンの労働力不足を補うために、マルメに住むスウェーデン人がコペンハーゲンへ毎日通勤したり、逆にデンマークに住みながらマルメで働くデンマーク人もいる。それだけではなく、仕事のためにコペンハーゲンに移住するスウェーデン人もいるし、もちろん、その逆でマルメに移住したデンマーク人もいる。このように、両国の2つの町が一つの経済圏を形成しているのだ。

経済圏の統合を示す一つの統計として、マルメ市を含むスコーネ県に住むデンマーク人(国籍保持者)の数を見てみると以下のグラフのようになる。


この出典はスウェーデンの統計局の資料だが、スコーネ県全体の住民の数が2001年から09年までに微増(+8%)しているのに対し、この県に居住するデンマーク国籍保持者の数は11000人から25000人へと激増(+125%)している。

また、両国間の通勤客の数をEUの統計から割り出すと、スウェーデンのスコーネ県に住みながらデンマークで働く人は約2万40000人、コペンハーゲンに住みながらスウェーデンで働く人は約2000人だ(あくまで私の概算)。非対称だが、コペンハーゲンはやはり一国の首都なので、労働市場の規模や吸引力がスウェーデン南部とは比較にならないのだろう。(上述の2万40000人にはデンマークで住宅を確保するのが困難であるため、スウェーデンに住んでいるデンマーク人もいるかもしれない)

とにかく、経済圏の統合にともないオーレスンド大橋だけではこの先、足りなくなると見られている。おまけに、7・8年後にデンマークとドイツを結ぶ大橋が完成すると、ヨーロッパ大陸からスウェーデンに陸路でやって来る貨物列車の数が急増すると見られており、オーレスンド大橋をさらに圧迫し、通勤列車を思うように増やせなくなる。

そんな背景から、それならば地下鉄で両都市間を結んでしまおうというアイデアになったようだ。コペンハーゲンは市内および周辺自治体を結ぶ地下鉄路線網を順次、拡張しているが、新路線の一つをスウェーデンまで伸ばすことになる。

全長は28kmオーレスンド大橋を経る既存の路線がコペンハーゲン国際空港を経由するなど少し大回りをしているため35分かかるのに対し、計画されている新線は両都市間をほぼ直線に結ぶし、途中停車駅もないから所要時間も15分に短縮される。完成は2025年を予定。


課題は130億クローナ(1560億円)に及ぶ建設費をどのように捻出するかだ。マルメ市長は、既存のオーレスンド大橋が償還を終えてから、その通行料で賄いたいと考えているが、オーレスンド大橋は償還完了までにまだ13年ほどかかるし、それを終えても果たしてどれだけの利潤が生まれるかは不透明だという。

2025年にこの海峡の下に国境をまたぐ地下鉄が完成している可能性大だ。(今までに例があるのだろうか?)


マルメとコペンハーゲンを結ぶ列車(日刊紙DNより)。
この日はデンマーク側で鉄道従業員がストライキをやっており、
減便されていたために列車が混み合っていた。

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5 コメント

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トンネル (ぽちまま)
2012-03-08 02:30:59
一度目のトンネルの話題にコメントしようと思いながら遅くなってしまいました。
ハンブルクにはエルベトンネルというものがあって、Neuer Elbtunnelは高速道路です。交通量が増えたので4つ目のトンネルを後で作りましたが、それは川底を掘って作ったようです。最初の3つはかまぼこ式です。
あとAlter Elbtunnelもあって、歩いて川向こうに行けます。
ウィキで調べると出てきますので、良かったらみてください。
張り付けしようとしましたが、だめでした。

デンマークとドイツを結ぶ大橋が計画されている事を知らなかったので、興味深いです。金曜日にまたスウェーデンからドイツに行くので何か始まっているかみてみます。

Unknown (H.U.)
2012-03-09 01:12:51
デンマークとドイツの橋は具体化していますね。何せ交通量が多いですから。トレレボリとサスニッツを結ぶ列車航送フェリーは歴史は古いが人気が無くSJは撤退を表明、ヒュン島経由の鉄路は
かなり迂回なので貨物のみの利用で、急行列車はプットガルデン・ロドビー間列車航送フェリーで結んでも早いのでもっぱらこの線ですね。確かに橋が出来れば貨物もきますよね。もう1本必要になるかもしれないですがまだ先のような気がします。
Unknown (Yoshi)
2012-03-09 08:19:34
> ハンブルクにはエルベトンネルというものがあって

ありがとうございます。

>トレレボリとサスニッツを結ぶ列車航送フェリーは歴史は古いが人気が無くSJは撤退を表明
今は安い航空チケットがあるからね。マルメ―ベルリン間のこの路線は、現在は(いろんな面で評判のあまり芳しくない)Veoliaが担当しています。
http://www.berlin-night-express.com/

あと、ここには書きませんでしたが、スウェーデンがもし高速鉄道を建設した場合、ストックホルムとコペンハーゲンを結ぶ路線は、既存の大橋ではなくヘルシンボリ-ヘルシンゴー間の海峡の下をトンネルで通す予定です。現政権が続くうちは、その計画はおそらく進まないと思いますが。(私も少し関わったのですが、旅客量の予想をはじめ、いくつかの事前調査はだいたい出揃っており、あとは政治が動くかどうかです。)
Unknown (ログサン)
2012-03-09 14:13:27
以前のブログにSAABの記事がありましたがまた破産しましたよね。
その後BMW等が買収に興味があるみたいですが話は進みそうでしょうか?
VOLVOは中国国産化の動きに向けて調整してるみたいですし、
スウェーデン政府は自国の産業でも弱い企業は助けない方針なのですか?
またSAABの従業員は今何をして過ごしてるのですかね?
その人達に対して政府の反応はどんな感じですか?
スウェーデン人の好きな車はSAAB・VOLVOではないのですかね?
SAABの復活に期待している国民もまだいるのでしょうか?
日本にいてもマイナーなSAABの情報はなかなか入ってこないので
また記事にしてくれたら嬉しいです。
今回の記事ではない書込みですみませんm(_ _)m

Unknown (Yoshi)
2012-03-13 11:01:10
今日は返事できませんでした。
あしたまた m(_ _)m

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