スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

そして 「EUROVISION SONG CONTEST」 (上)

2005-02-16 08:35:37 | コラム
(・・・続き)


さて、スウェーデンの音楽コンテスト「メロディー・フェスティバル」は、決勝戦で終わりというわけではない。見事に優勝を勝ち取った歌手は、全ヨーロッパの音楽祭典である「ユーロ・ヴィジョン・コンテスト(Eurovision Contest)」へと進む。それぞれの国での国内予選で一位に選ばれた歌手が、一同に集結する。もちろん、スウェーデンと同様、それぞれの国からそこそこに知られている歌手がやってくる。

この大会、歴史は古く、最初の大会が1956年にスイスで7カ国が参加し開催された。その後、徐々に参加国を増やしていく。スウェーデンは1958年から参加を始めている。西ヨーロッパはもちろんのこと、ユーゴスラヴィアも1961年から、イスラエルも1973年以降、トルコは1975年以降参加している。アンゴラというフランスとスペインの国境上にある小国も参加している。

二流歌手(グループ)のコンテストだが、歴史を振り返ってみると、大きなスターもここから誕生している。数年前に日本でも再びヒットした、スウェーデンのABBAは1974年に国内大会を勝ち抜き、このヨーロッパ大会で見事優勝した。この時の曲が「Waterloo」だったのだ。そして、それ以降、世界的にヒットしていくのだ。また、スウェーデン国内で有名なカローラ(Carola)も1991年に優勝している。最近のスウェーデンの優勝は、1999年のハロッテ・ニルソン(Charlotte Nilsson)。

スウェーデンの成績は小国のわりに結構よく、過去40年あまりで4回優賞に輝いているし、準優勝は1回、第3位は4回も勝ち取っている。スウェーデンのポップ文化の高さを象徴しているかもしれない。

7 回: アイルランド
5 回: フランス、ルクセンブルグ、イギリス
4 回: スウェーデン、オランダ
3 回: イスラエル
2 回: イタリア、ノルウェー、スイス、スペイン、デンマーク
1 回: ベルギー、ユーゴスラヴィア、モナコ、ドイツ、オーストリア、エストニア、リトアニア、トルコ

ベルリンの壁の崩壊で、90年以降は東欧諸国が新たに仲間入りした。1994年には早くもロシアに到達。ヨーロッパ大会は5月半ばに3時間ほどかけて行われるのだが、東欧諸国の参加で一気に参加国が増え、時間が足りなくなってしまった。そのため、箱根駅伝のように前年の大会でよい成績を残せなかった国は、予備選を経なければならなかったり、自動的に前年の予選落ち組と総入れ替え、という風にして、参加国数に制限を加えている。スウェーデンは毎年、優勝しなくても上位のほうに落ち着くので、幸い毎年ユーロヴィジョン・コンテストに参加できている。

私がスウェーデンに来た2000年以降の優勝国は、
2000年 デンマーク
2001年 エストニア
2002年 ラトヴィア
2003年 トルコ
そして、昨年2004年の優勝国は、その1年前からこの大会に参加し始めたばかりのウクライナ。女性歌手Ruslanaはディスコ調の曲で見事、優勝を勝ち取ったのだが、彼女の活躍はここまでに留まらなかったのだ。


Ruslana(ルスラナ)


ルスラナとユシチェンコ

昨年の暮れ、ウクライナでは大統領選挙が行われた。第一回投票で候補者が二人に絞られ、新ロシアで守旧派のヤヌコヴィッチとEUへの早期加盟を掲げる改革派のユシチェンコの一騎打ちとなった。第二回投票の結果は守旧派ヤヌコヴィッチの勝利。しかし、次第に明らかになったのは以前から政治腐敗が騒がれたヤヌコヴィッチ陣営による組織化された選挙違反行為。ヤヌコヴィッチが大統領就任を宣言する一方で、改革派ユシチェンコとその支持者は選挙のやり直しを求めた。改革派の支持者は首都キエフの中央の広場に集結し、数週間にわたってデモを行った。改革派の掲げる旗の色から通称「オレンジ革命」と呼ばれた民主化運動だが、この時の支援者にRuslanaの名もあった。凍てつく冬のキエフで民主化デモに奮闘する参加者のもとへ駆けつけ、ユーロ・ヴィジョンでの優勝曲を歌い、元気づけた。そしてキエフは一種のお祭り騒ぎとなった。その効果もあってか、ウクライナ最高裁は選挙のやり直しを決定。第三回投票となった12月26日の選挙には世界各国から12000人を超える選挙監視員が派遣され、世界が注目する中での出直し選挙となった。この選挙を制したのは改革派ユシチェンコ。

このように、本来は文化の祭典である「ユーロヴィジョン・コンテスト」が東欧の民主化にも貢献したのである。もともと7カ国から始まったこの大会が、次第に参加国を増やして行く過程を追ってみると面白い。EU(EC)の成長とその東欧拡大に先駆ける形で、参加国が増え続けているのである。文化の面からのヨーロッパ統合と、ヨーロッパ的民主主義の価値観の伝搬に少なからずの貢献を、政治的統合に先駆けて行っていると言えば、言い過ぎだろうか?

慣例により、今年2005年の開催地は昨年の優勝国ウクライナ。先日、爆破事件があったレバノンも今年から参加し、史上最多40の国々が一位を競う。

「ユーロヴィジョン・コンテスト」の公式ホームページ(英語)

(続く・・・)