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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

「温暖化対策準備委員会」(2)

2008-02-07 08:22:40 | スウェーデン・その他の環境政策
前回紹介したスウェーデン議会「温暖化対策準備委員会(Klimatberedningen)」は、与党・野党を問わず、国政政党7党すべてからの代表者によって構成されている。気候変動の対策のために党派を超えた幅広いコンセンサスを築き、具体的な政策を実行に移し(掛け声だけではなく)、さらには国際レベルでの合意形成にスウェーデンとして貢献していくことが目的なのだ。


中央の小島にある建物が「議会議事堂」。本会議場があるのは後ろの影に隠れている半円の建物

この委員会は、議会から与えられた「指令(ミッション)」に基づき、3月4日までに報告書を議会へ提出することになっている。与野党がともに参加している委員会なので、合意形成は大変なんじゃないか!?、と思われるかもしれないが、いくつかの点については既に合意に至り、早くも先週の段階で、その一部がメディアに流れたのだった。

それはまず、
(1) ガソリン税とディーゼル税のさらなる引き上げ(リットルあたり0.70クローナ=12.6円。おそらく名目は「二酸化炭素税」として)
スウェーデンでも、自家用車の使用や運輸部門からの排出量をさらに減らしていく必要がある、と考えられている。そのための一つの手段は、燃料コストを引き上げること。大気汚染や温暖化といった形で、社会全体に対して「費用」が生じているのに、それが車の利用者によってきちんと支払われていないから、「税」という形でガソリン価格に上乗せする(つまり、車の利用による社会的費用を経済システムの中に「内部化する」)と捉えることもできる。

そして、
(2) 運輸トラックに対して走行距離に応じた「キロメートル税」を課す
長距離運送のトラックの数は近年も増え続けているという。そのため、走行距離に対して直接課税することで、トラック輸送に対する需要を抑え、さらに、運送会社がより効率的にトラックを運用することを狙っている。税の徴収も制度的に難しいことではなく、スイスやドイツ、オーストリアでは既に導入されているという。1kmあたり1-2.5ユーロ(ただし、独と墺では高速道のみ)。

さらには
(3)通勤に自家用車を使う人には、一定の条件を満たす場合に、所得控除が認められていたのだが、その条件を厳しくして、公共交通の利用を増やす

(4) ストックホルムが導入している「渋滞税(都心乗り入れ税)」の制度を、他の都市でも導入しやすいように法の改正を行う。

そして、今日も新たな情報がメディアに流れた。

(5) 2020年までの排出抑制目標として、スウェーデンは「30%減」を掲げる
これは実際にはまだ合意に至ったものではなく、あくまで来週の委員会会合で採決が取られる予定の“議長案”なのだが、与野党のそれぞれ1党が既に支持を表明しており、委員会の他のメンバーの出方が注目されている。
先日も書いたように、EU全体の温暖化対策では2020年までの削減目標を20%減に定め、そのもとでスウェーデンには17%減を課しているのだが、「このEUの目標にスウェーデンとして単に追随するだけでは不十分」という認識が、委員会メンバーの一部にあるらしい。そのため、来週の会合での採決を前に、世論や専門家、メディアの反応を確認する目的で出された一種の「リーク」ではないかと私は思う。

――――――
普段はいがみ合っている与野党のすべてが参加しているこの委員会で、なぜ、こんなにも早く意見形成が可能なのか?

(続く...)

2007年4月に設置された「温暖化対策準備委員会」(1)

2008-02-04 07:34:25 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの新しい温暖化対策目標について、先日書いたところだが、それとは別に、スウェーデン国内でも社会の発展と温暖化対策をどのように両立させていくのか、長期的ビジョンの模索が活発に続けられている。

スウェーデン議会は昨年4月に「温暖化対策準備委員会(Klimatberedningen)」を設置した。2008-12年、およびその先を視野に入れたの自国の目標を達成していくために、スウェーデンはどのような環境政策を追求していくべきなのかを調査するとともに、現行の取り組みはどうかという評価を行うのが役目だ。

党派の利害を乗り越えて、今後のスウェーデン社会の将来像を形作るためには苦労も多いだろう。しかし、現状の認識や、目標の策定、そして、その目標に到達するための具体的な手段・・・、といったステップを踏みながら合意が形成されていく過程は面白いと思う。

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国会が設置したこの委員会は、メンバーは国政政党7党のそれぞれからの国会議員によって構成されている。ただし、代表は非政党系の識者。
写真の出典:Sveriges Radio

<代表>
Hans Jonsson

<メンバー>
自由党: Carl B. Hamilton
中央党: Claes Västerteg
キリスト教民主党: Anders Wijkman
保守党(穏健党): Sofia Arkelsten
社会民主党: Lena Hallengren
左党: Wiwi-Anne Johansson
環境党: Maria Wetterstrand
(ちなみに最初の4党は与党(中道右派連立)、残りの3党は野党(左派ブロック))

委員会が設置されると、その委員会が限られた時間内に何をすべきかを細かくあげた指令(ミッション)議会から発布される。そのミッションを詳細に見てみると・・・

- 2008-12年に向けた国としての目標に到達する可能性を評価し、さらにどのような対策が必要かを明らかにせよ。(ちなみに京都議定書における目標(4%減)は既に達成している。なので懸案はそれよりも厳しい“国としての目標”なのだ)

2020年および2050年までの国としての温暖化ガス排出抑制目標を提案せよ。

提案されたその目標を達成するために必要な措置や手段に関しての行動計画を提案せよ。(例えば、国内外における措置、技術開発、技術移転、排出権取引の活用、経済インセンティブの活用など)

-将来に向けた排出抑制の取り組みに関する国際交渉におけるスウェーデンの立場がEUや他の先進国、そして途上国に対して、どのようなものなのか、事実に基づく見解をまとめよ。

-EUで検討されている排出権取引の他産業部門への拡大に関して、他の温暖化対策手段との効率面での比較や、国家財政に与える影響、スウェーデンの産業の国際競争力に与える影響をまとめて意見を提出せよ。

-将来の効率的な気候変動対策に関して、長い将来を見据えた国際合意が達成されるために、スウェーデンはどのような形で貢献できるのか、事実に基づく見解をまとめよ。


以上が、ミッション(指令)の要点だ。国内外における温暖化対策を形作っていくために必要な様々な側面が、この指令の中に盛り込まれていると思う。

――――――
委員会の代表Hans Jonsson(ハンス・ヨンソン)氏は、以前は農業従事者全国協議会(LRF)の代表をし、EUの農業政策にも詳しい人物らしい。

この委員会が設置された昨年(2007年)4月の段階で、「異なる政党を集めて、統一した見解をまとめるのは大変ではないか?」とのメディアの質問に対し、「いや、そんなことはない。」と答えた上で、さらにこう付け加えている。

– Min ambition är att vi ska ha en gemensam stark klimatpolitik i Sverige. Min utgångspunkt är: om vi i Sverige inte kan enas, hur ska då världen kunna göra det?

私の熱意は、スウェーデンとして皆が納得できる強力な温暖化対策の政策を築き上げることだ。スウェーデンにいる私たちですら合意に達することができないとしたら、世界はどうやって合意を達成すればいいというのだ!? 任務を始めるにあたっての私のスタートポイントは、このような考え方だ。」

このように、政党の垣根を越えて、国としての合意を作り上げるとともに、2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開かれる温暖化防止国際会議(COP15)に向けてスウェーデンとして準備をすることも、この委員会の具体的な任務の一つだ(上のミッション一覧参照)。このとき、スウェーデンはちょうどEUの議長国であるため、スウェーデンの果たす役割が重要になると考えられている。

「スウェーデンは研究や技術に関して大きく進んでいる。同時に、京都議定書が次のステップに移るための重大な協議が行われるときに、小さなスウェーデンが偶然にも議長国であるということは、大きな可能性を意味している」と彼は述べている。

――――――
委員会は、以上の調査結果を今年の3月4日までに提出することになっている。

政策決定に影響力を持つ者が、本当に熱意(アンビション)を持って温暖化対策に取り組み、目標だけでなく、それに到達するための具体的な政策提言を行い、さらには後の事後評価がきちんとなされるならば、難しい問題も解決可能だという気がする。

日本の政治に対する希望も、まだまだ捨ててはいませんよ!

(続く)

エコ・ドライビングの義務化

2008-01-29 07:47:34 | スウェーデン・その他の環境政策
日々の生活で車に乗るのは必要だとしても、化石燃料の使用を少しでも抑えたい、ということで、燃費のよい車が開発され、ハイブリッド車が開発されてきた。それに加え、スウェーデンでは「エコ・ドライビング(EcoDriving)」という、燃料の消費を極力抑える運転の仕方が注目を集めるようになってきた。

教習課程の中にこのエコ・ドライビングを取り入れていることをキャッチフレーズにした自動車教習所が登場したり、企業に対して環境認証取得のための講習を行う際に、エコ・ドライビングについてしっかり情報提供をする機関なども増えてきている。また運送会社の中にも、主に燃料費の節約のために、自社のトラックの運転手にエコ・ドライビングの講習を受けさせる会社もある。(これももしかしたらガソリン税(二酸化炭素税)のせい?)

ただ、これまでは教育機関や企業の自主的な取り組みに過ぎなかった。

しかし、スウェーデン社会はそれだけに留まらず、さらに一歩踏み込んだ政策を行政が取ることとなった。

実は昨年(2007年)12月以降、運転免許証の新規取得の際に、このエコ・ドライビングの習得が義務づけられることになったのである。免許証を取るための実技試験では、これまでは
- (1) 自動車に関する技術的知識と操作
- (2) 道路交通規則に関する知識とその応用
- (3) 道路交通安全に関する知識とそのための行動の仕方
のそれぞれについて、一定水準を満たしていることが合格のための条件だったのだが、これからは
- (4) 環境に関する知識と燃料節約のための運転法(エコ・ドライビング)
が加わったのだ。

エコ・ドライビングを具体的に説明すると、例えば

・ファースト(1)での走行時間をできるだけ短くしよう。数メートルしか走らないうちに上のギアへ切り替えよう。
・ギアの切り替えの時にできる限り途中のギアを飛ばそう。(2)から(4)とか(3)から(5)といった具合に。
・加速はなるべく早く(ただし、エンジンは最大3000回転/分を限度に)
・できるだけ重いギアを使おう(新しい車であれば、時速50kmの段階で(5)に入れられる)
・ギアの切り替えによる減速効果をなるべく利用しよう。(スウェーデン語ではMotorbromsa(モーター・ブレーキ)と言うんですが、日本語は何でしょうか・・・?)
・停止はなるべく避けよう(赤信号や渋滞に差し掛かるときは、早めに減速する)
・近視眼的ではなく、先を予見した運転を心掛けよう。
・下り坂ではアクセルをなるべく踏まないようにしよう。
・必要のない追い越しはやめよう。
・タイヤには空気が十分入っていることを確認しよう。
・アイドリングはもちろん禁止。
・外気が寒いときに使うエンジンの予熱装置は+10度以下で既に使おう。(マフラーの触媒は寒いと機能が低下する。予熱装置を使えば触媒の作用効率もあがり、有害物質の排出も少なくなる)

などだ。効果は、まず環境に対する負荷が減らせること。そして、燃料の節約のためにガソリン代が浮くこと。(スウェーデンの道路交通局の試算によると、通常の運転と比べて約1割節約できるらしい。一方、スウェーデンの自動車教習所連盟の試算によると2割も節約ができるという。)

世界的なガソリン価格の高騰に加え、スウェーデンではガソリン税(二酸化炭素税)が高いので、それぞれの家計にとっても燃費の抑制は大きな課題なのだろう。

道路交通局によると、よくある誤解は「スピードはなるべく落とした方がエコ・ドライビングになる」ということらしいが、これは正しくないという。のろのろ運転はむしろ燃料の消費を高める。実際、エコ・ドライビングに沿った運転法をすれば平均速度はむしろ上がるのらしい。交通事故の数との関連はどうなのか気になるところだが、一方でエコ・ドライビングには「先を予見した運転を心掛けること」が含まれているから、むしろ減るのかな?


運転歴の長いTVレポーターが、ヨーテボリ市内で試しにエコ・ドライビングの講習を受けてみた。インストラクターが様々な注意をする。もし、これが運転免許の実技試験だったら、かなりの減点になっていたらしい。「彼(レポーター)は既に免許をもっていたから運がいい」とスタジオの女性のコメント。
動画(TV4)

<注>加速は早く、とはいえども、この動画の途中に登場する急発進はダメな例です。


<追記:日本語による情報>
燃費を2割向上させるお得な運転術
理屈でおぼえる燃費向上ドライビング

20、20、20・・・ 。EUの新しい温暖化対策

2008-01-26 22:26:21 | スウェーデン・その他の環境政策
EU委員会は新しい温暖化対策を発表した。今後、細かい部分における協議が続けられ、最終的にEUの決定となるのは2009年春になるらしいが、大枠に変更はないと見られている。

この政策目標は、EU全体として2020年までに温暖化ガスの排出量を1990年比で20%削減すると同時に、使用エネルギー全体に対する再生可能なエネルギー(水力・太陽・風力・バイオ)の割合を20%にまで引き上げる、というもの。(運輸部門は燃料の少なくとも10%をバイオ燃料にするという目標も含まれている)

2009年の気候変動国際会議(COP15?)で排出抑制のために世界的な合意が結ばれれば、EUはこの目標を30%減にまで引き上げる用意があるという。


EU委員会の議長José Manuel Barrosoは「ここまで意欲的(アンビシャス)な温暖化対策を掲げることができる国は他にない」と誇らしげに語る。
写真の出典:SVT

そして、EU全体としての目標のもと、各国が達成していくべき排出削減目標と再生可能エネルギーの目標割合が、それぞれの加盟国に対して課せられている。

写真の出典:SVT

スウェーデンに課せられた目標は、EU加盟各国の中でもかなり厳しいものになった。温暖化ガス排出量を17%減すとともに、再生可能なエネルギーの割合を49%にまで引き上げるというものだ。(後者の目標には、電力源だけでなく、運輸・交通の燃料や暖房の熱源も含む)

再生可能なエネルギーの割合の目標が49%と聞くと、何とも高い目標だ!と驚くかもしれないが、スウェーデンは既に40%程を達成しているのだ。この割合は既にEUで一番だ。電力源の43.7%が水力発電であるというのが理由の一つだ(ただ、これは地理的にスウェーデンが恵まれているだけであって、積極的な努力とはあまり関係がないかも)。もう一つの理由は、地域暖房の熱源に木材の廃材などのバイオマスが活用されているためである。

再生可能なエネルギー49%、という目標を達成するためには、スウェーデンも社会全体でさらなる努力をしなければならない。まず、電力源に関してだが、現在のところ電力源の43.7%は水力発電、46.4%は原子力発電、そして9.1%を火力発電に頼っており、風力やバイオマスなどは1%にも満たない。新規のダム建設はほとんど無理だと考えられている。だから、風力、太陽光、バイオマスなどの活用を伸ばすことが鍵となる。また、運輸・交通の燃料にしても、バイオ燃料などのさらなる普及が求められている。(ただ、バイオ燃料に関しては問題も多い)


2006年の発電総量:140.1TWh

また、温暖化ガス排出量を17%削減するという目標についてだが、スウェーデンは2006年までに8.75%の削減を達成している。ということは、これから2020年までにこれまでの削減量とほぼ同じ量を減らす必要がある。そのためには、運輸・交通部門における削減が不可欠とみられるため、今後、燃料にかかる二酸化炭素税のさらなる引き上げが検討されている。

このように高い目標が課せられたスウェーデンだが、首相や環境大臣は「達成可能で、現実的な目標だ」とのコメントを発表した。実は、昨年末の時点では「再生可能エネルギー55%」というさらに厳しい目標が課せられる懸念があったので、むしろホッとしているようだ。

アル・ゴア氏、スウェーデン国会にて

2007-12-15 08:55:58 | スウェーデン・その他の環境政策
10日にノルウェーのオスロでノーベル平和賞の授賞式に参加したアル・ゴア氏とIPCCの代表Pachauri氏は、12日にはストックホルムを訪れた。首相官邸にてラインフェルト首相と朝食を共にしたあと、国会議事堂を訪れて基調講演を行った。この中で彼は、バリでの温暖化防止会議(COP13)において、温暖化対策をめぐる国際的な合意形成に対してアメリカが非協力であることに怒りをあらわにするとともに、京都議定書に代わる新たな議定書は2012年からではなく、2010年から早くも発効すべきであることを主張した。

また、国際的な二酸化炭素税の導入にも言及。温暖化ガス排出抑制に対して政策的に多大な努力をしてきたスウェーデンを「他国が見習うべきお手本」として讃えた上で、「とはいえ、さらなる努力も可能だ」と付け加えた。
具体的な例としてIPCCのPachauri氏は、

・国際援助において、温暖化対策の知識が援助受入国の発展プランのなかにうまく統合されるように、温暖化対策の専門家を活用すること、

などを挙げた。

動画・SVTより(1分半)


日本での環境税の議論

2007-10-21 18:12:08 | スウェーデン・その他の環境政策
1週間ほど前に、環境税や二酸化炭素税について取り上げました。
以前の記事:社会の望ましい発展のための経済的ツール(2007-10-11)

日本でも議論があるようです。

毎日新聞:

(2007-10-11)環境税:「効果も意味もなし」経産省事務次官が否定的見解
(2007-10-06)温暖化:環境税導入、4割「賛成」 「反対」は3割
(2007-10-12)民主党:揮発油税を環境税に…藤井会長「創設で廃止検討」

もしかしたら本当に「効果も意味もなし」なのかもしれないが、その見解に至った根拠も示さなければ説得力を持たない。新聞も見解をそのまま伝えるだけでなく、その見解の根拠も本人に追及して書いて欲しい。

社会の望ましい発展のための経済的ツール

2007-10-11 06:26:45 | スウェーデン・その他の環境政策
9月半ばに発表された「2008年予算」では、二酸化炭素税エネルギー税が来年1月1日から引き上げられることが決められた。この結果、ガソリンはリットルあたり0.29クローナ(5円)、ディーゼルは0.55クローナ(9.6円)高くなる。目的は、化石燃料の使用抑制、それから、所得税減税を補う新たな税収の確保。

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スウェーデンの政治において、税制や環境政策などを議論するときに登場する概念の一つが「ekonomiska styrmedel」だ。styrmedelとは社会の発展を操作する手段・ツール、という意味に使われるから「ekonomiska styrmedel」は「社会の発展を操作するための経済的手段・ツール」ということになるだろう。1970年代以降、使われるようになった比較的新しい概念だ。

環境政策で言うなら、二酸化炭素税がその代表例だ。社会全体にとって化石燃料の消費削減が望ましい、という方針が議会を通じて決定されたとする。しかし、我々の社会が市民や企業の自由な経済活動に基づいている以上、国が直接的に国民の消費行動を決定することはできない。しかし「価格」という操作変数を使えば、間接的に影響を与えることができる。つまり、政治的決定によって化石燃料の使用が消費者にとって割高になるように設定する一方で、化石燃料をなるべく使わないライフスタイルをとれば逆に割安になるような経済システムを導入するのだ。化石燃料に課せられる二酸化炭素税は、そのための一つのツールというわけだ。

タバコ税や酒税も、これらの商品の消費を抑えるための政策的ツールと見ることもできる。(嗜好品に対する課税による税収確保と所得の再配分という目的もあるが)

政府が「××を使わないように心がけよう」と努力目標を打ち出しても、誰も見向きもしないかもしれない。逆に、法律や通達によって「××を使ってはダメ」といえば、一番手っ取り早いかもしれないが、監視や罰金徴収の作業などが面倒だ。それに「××がどうしても必要」という人もいるだろうし、そういう状況もあるかもしれない。それに比べて、この「ekonomiska styrmedel(経済的ツール)」の良い点は、各個人が、ある行動を取ることの利益と損失を自分で天秤に掛けながら、意思決定をすることができることである。例えば、どうしても車に乗る必要がある、とする。二酸化炭素税のためにガソリンは高いけれど、そのコスト以上に車に乗る便益は大きい、とその人が判断すれば、割高なガソリンを買う代わりに、車に乗る権利を行使することができる。

「ekonomiska styrmedel」とは、国なり公的機関が、下部の組織や国民に対して「こうしなさい」と直接命令するのではなく、“こういう行動を取れば経済的に得になるような制度的枠組み”を設定する。各個人は、その枠組みの中で様々な選択肢を考慮しながら、自分の頭で考えて行動を決定することができるやり方なのだ。

もちろん、この方法がうまく機能するためには、そのツールが適切な所に用いられなければならない。例えば、税金などによって調整された価格が高すぎて、社会の一部の人に不当な悪影響を与えているかもしれない。もしくは目的達成のためにはまだまだ低すぎるかもしれない。だから、常に検討されなければならない。

今回のガソリン税の引き上げでも、日々の生活でどうしても車が必要な過疎地の人々に大きな負担をかけないようにするため、通勤に伴うガソリン代を所得から控除できる上限が引き上げられることになった。

さて、日本のガソリン価格はスウェーデンの6割程度。化石燃料の使用を抑制しようと思えば、まだまだガソリン税を引き上げる余地はあるのではないか・・・?

<追記>
理論という面からすると、何もスウェーデンだけに特別なものではない。経済学者のコース(Coase)などは、環境汚染の外部性を考慮し、汚染者と被害者が対等な立場で交渉することで、環境汚染の社会的被害を内部化し、汚染のマイナス面を考慮したうえで個人が消費量を決定する、そして、それが社会全体で見ると最適になる、というようなモデルを打ち立てて、ノーベル経済学賞を取っている(と思う)。

ただスウェーデンで注目すべきなのは、その考え方を社会発展の長期ビジョンの中に取り込んで、その一つのツールとして議論し、活用している点だと思う。/font>

環境に優しい車の共同利用

2007-10-07 19:20:07 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンの多くの自治体では、職員が職務上で使う公用車に、エタノール車ハイブリッド車など環境に優しい車を購入したり、長期のリース契約をレンタカー企業と結んで利用している。しかし、それらの車も夜間や週末、夏休みはあまり使われず駐車場に置かれたまま。せっかく環境のための投資をしているのに、それではもったいない。一台あたりの利用度を高めることができないものか? そんな疑問から、自治体による新しい“ビジネス”が始まりつつある。

環境に優しい公用車を、自治体が職務で使わない時間帯に、一般の市民に貸し出すのだ。数世帯で車を共同所有し協同組合のように管理して、利用しあうシステムは以前からあり「bilpool」と呼ばれてきた。(poolは共同利用のための“溜め池”の意) それを地方自治体が一般市民に対して行う、という画期的なアイデアだ。しかも、普通の車ではなく環境に優しい車なので「miljöbilspool(環境車の共同利用)」と呼ばれている。

この制度を利用したい市民はまず毎月の固定料金を払って会員になる。そして、車が必要なときに予約を入れて借りる。使用した時間と走行距離に応じて料金を払うのだ。

例えばヨーテボリ市の南にあるメルンダール市(Mölndal)の場合はこうだ。
固定料金:月150クローナ(2600円)
予約料金:一回当たり10クローナ(175円)
利用一時間につき:20クローナ(350円)
走行距離10kmにつき:20クローナ(350円)(燃料費込み)

典型的な利用例と料金はこうだ。
土曜日にIKEAに家具を買いに行く。
3時間で30km走ったとして、時間料金60kr+距離料金60kr=120kr(2100円)

火曜日の夜に保護者会の集まりに参加する。
3時間で10km走ったとして、時間料金60kr+距離料金20kr=80kr(1400円)
(注:平日夜間はもっと安い場合もある)

週末にドライブに行く。
金曜18時から日曜20時まで借りて、300km走ったとする。
時間料金(26時間)520kr+距離料金600kr=1120kr(19600円)
(注:1日10時間を超える分は時間料金にカウントされない)

夏休みに旅行に出る。
2週間借りて1000km走ったとする。
時間料金(140時間)2800kr+距離料金2000kr=4800kr(84000円)

自治体にとっては、環境車の有効利用に加えて、新たな収入源になる。実際に貸し出し業務を担当するのは、自治体自身ではなくて、委託を受けた民間または公的企業。

市民にとっては、車を所有するよりも安上がり。また一般のレンタカーよりも若干料金が安い上、環境車であれば路上駐車料金が無料になる自治体が多いので、これまた安上がり。

社会全体にとっても、最近は環境車に対する需要が伸び続けており、供給が追いつかない状態なので、公用車の貸し出しによって、その供給が若干でも高められるのだ。

このアイデアはヨーテボリ市で始まった。ヨーテボリでは4年前から、自治体職員を対象にこの制度が実施されていたが、順調に行ったので、それなら一般市民にも開放しようじゃないか、ということになった。すると、リンショーピン(Linköping)市、メルンダール(Mölndal)市、ハッランド(Halland)県、クリファンスタード(Kristianstad)市、ストックホルム県、ストックホルム市、etcなど他の自治体もこの動きに連なり、続々と導入が進んでいるところだ。

ちなみに、ヨーテボリ市でこのアイデアを実現化させたのは、道路交通部の環境課長だった。彼は実はそれ以前にはNPOである自然保護協会(Naturskyddsföreningen)で活動していた。だから、このイニシアティブも彼の環境問題に対する関心から来たようだ。ヨーテボリ市では職員がなるべく自家用車で出勤しないようにするため、公共交通(バス・路面電車・船)の定期券を無料で支給したり、通勤用自転車の貸し出しを行ってもいる。

ミネラルウォーターって必要?

2007-09-25 23:46:05 | スウェーデン・その他の環境政策
ミネラルウォーターの売り上げは、毎年伸びる一方だ。一人当たりの消費量は年間27リットルと、15年前に比べると3倍近くになるという。スウェーデン製のミネラルウォーターはもちろん、隣国ノルウェー製のものや、フランスやイタリアから遥々運ばれてくるものもある。一方、スウェーデン製のミネラルウェーターは国外にも輸出されている。

スウェーデン製のRamlösa


(ちなみに、売り上げが伸びているとは言っても、ヨーロッパ内では25位とかなり低い。1位はイタリアで200リットル、その後にスペイン、フランス、ベルギーと続く)

一方、スウェーデンの水道水は、一般にとても水質が良いといわれている。ヨーロッパの中でも有数だとか。広大な自然から良質の地下水がとれるし、人口も少なく汚染源が限られているためだろう。上記の通り、スウェーデンのミネラルウォーター消費量は他のヨーロッパ諸国と比べたらかなり低いが、一つの原因は良質の水道水があることだろう。

とはいえ、消費量が伸びている事実は確かである。これは大きな無駄遣いではないか、と指摘する声があるが、もっともだ。まず、ペットボトルの使用によりゴミが増える。それに加え、トラック輸送に莫大な量のガソリンが消費されるので、エネルギーの無駄遣いになる。さらには、水道水に比べたら1000倍以上値段が高い

スウェーデンの水道水がそれだけ良質なのだから、一番いいのは水道水を飲料水にしたり、ペットボトルに入れて持ち歩くこと。ストックホルム大学の地質学のAnders Nordström教授も「スウェーデン人がミネラルウォーターを買わなければならない理由は全くない。スウェーデンの水道水は世界一とも言えるほどだから。」と断言した上で、「むしろ、ミネラルウォーターのほうが塩素やナトリウムの濃度が高いケースが多い。ペットボトルからも微量の化学物質(アンティモン)が流出している。」と指摘してる。

ストックホルム消費者協会の試算によると、去年一年間にミネラルウォーターの輸送のためにトラックから排出されたCO2は3.4万トンと、12500台の自動車の年間排出量に匹敵する、という結果が出ている。

アメリカでも一人当たりの年間消費量は125リットルと多い。その一方で、アメリカの多くの地域の水道水も良質で飲料水に適しているという。サンフランシスコでは、市長の提案で、今年の7月から行政機関でのミネラルウォーターの販売や設置は禁止され、職員は水道水を飲まざるを得なくなったという。ここでの根拠も、莫大な量のペットボトル廃棄物と輸送エネルギーの削減らしい。ただ、地元のミネラルウォーター業界の反発は根強い。ニューヨークでも、ミネラルウォーターをレストランで出すことを止め、水道水をフィルターに通したり、自前で炭酸化してテーブルに並べる動きもあるという。

スウェーデンでは特に目立った動きこそないが、多くのレストランでもミネラルウォーターではなく水道水がテーブルに並んでいることが多い。だから、今後の課題は、家庭や職場、外出中でのミネラルウォーターをいかに駆逐していけるか、ということだろう。温暖化対策や省エネへの関心の高まりと共に、無駄な長距離トラック輸送は極力減らそう! 生鮮食品や牛乳もなるべく地元の物を購入しよう! という動きが広まりつつある。ミネラルウォーターも例外ではない。

環境党(Miljöpartiet)所属で私より少し若いある議員のブログには、「スウェーデンでミネラルウォーターをペットボトルに入れて売るのは、サハラ砂漠で砂をビンに詰めて売るのと同じ」との皮肉が書かれていた。全くその通りだ。

一方、スウェーデンのボトル飲料水製造業者協会のホームページを見てみたら、「消費者はあえてミネラルウォーターを選んでいるのに、水道水を飲めと強いるのは非論理的だ」と不快感をあらわにしている。そう、最終的には消費者が選択権をもっているのだ。でも待てよ・・・、彼らは水道水とミネラルウォーターをちゃんと飲み比べた上で、あえてミネラルウォーターを選んでいるのだろうか・・・!? それより、むしろ広告や習慣につい流されているだけなのではないのだろうか・・・?

(注:スウェーデンの水道水の水質は良い、と書いたものの、水の硬さ・柔らかさが日本人の体質に合うかどうかは分かりません。ちなみに私自身は、困ったことはありませんが。)

Al Gore、ヨーテボリ国際環境賞を受賞

2007-08-17 06:28:40 | スウェーデン・その他の環境政策
ヨーテボリ市が2000年に設立した「ヨーテボリ国際環境賞」は、地球を取り巻く環境問題に警鐘を鳴らしたり、その解決の第一歩に貢献した人、または、持続可能な発展の実現に努力した人などに授与される。審査員長は、前社民党政権時代に首相パーションの環境政策アドバイザーであったStefan Edmanが務める。去年の受賞者は、ハイブリッド車の開発に貢献したトヨタのエンジニアだったことは、記憶に新しいところ。

Stefan Edman

以前の書き込み:ヨーテボリ市の『国際環境賞』(2006-11-30)

この賞は今年から「Göteborgspriset för hållbar utveckling(持続可能な発展のためのヨーテボリ賞)」と名前を一新した。そして、今年の受賞者が昨日、審査委員長から発表された。アメリカ民主党の元副大統領および大統領候補だったAl Gore(アル・ゴア)。地球温暖化・気候変動の深刻さを世論に訴えて大きくヒットしたドキュメンタリー映画「An Inconvenient Truth」(ス語タイトル「En Obekväm Sanning」)の功績が讃えられたのだ。

さて、授賞式は来年1月22日、本人がヨーテボリにやって来るのだ。昨年の授賞式会場は小さな劇場「Storan」だったが、今回は世間のより大きな注目を集めることが予想されるので、関係者としては大きな屋内スタジアムがある「Scandinavium」で授賞式を行いたいのらしい。

しかし、当日、そのスタジアムでは、アイスホッケー第1リーグに属する地元ヨーテボリのFrölundaが試合をすることが既に決まっている。なので、これからアイスホッケー側と交渉して、どうにか試合会場を移してもらえるように交渉に入るとか。

わがヨーテボリ大学経済学部は環境経済学も専門領域の一つだ。だから、経済学部のつてで、どうにか授賞式のチケットを手に入れたいものだ。(去年は招待客を装って会場に入れたが、今回はさすがに無理だろうな・・・)

ストックホルム「渋滞税」の正式導入

2007-08-06 07:23:05 | スウェーデン・その他の環境政策
ストックホルム市街地で、乗り入れを規制し、中心部での渋滞を解消するために「trängselskatten(渋滞税・乗入税)」が8月1日に正式に導入された。“正式に”と書いたのはなぜかというと、実は以前に試行されたからだ。2006年1月3日から同年7月31日までの半年余り、試験的に導入され、その後、2006年9月のスウェーデン国会総選挙にあわせてストックホルム市および周辺の市において、この「渋滞税」の正式導入、つまり恒久化を問う住民投票が行われたのだ。その結果は・・・、JAともNEJとも明確には判断ができない結果となったが、ゴタゴタの中で最終的には中央議会の政治決定によって「2007年8月から正式導入」が決定されたのだった。ゴタゴタといえば、試験的導入を決定するまでも、社民党を中心とする左派ブロックと、保守党を中心とする右派ブロックの間で、2002年以来、ゴタゴタの政治論争が繰り広げられた。

だから、今から思えば“よくもまぁ、ここまで漕ぎ着けたものだ、天晴れ”と言いたくなるくらいの代物だ。その辺の経緯については、今まとめている最中なので、後ほど。

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さて、この「渋滞税(乗入税)」の仕組みはこうだ。

車でストックホルムの中心部に乗り入れる際に、時間帯に応じて通行税を支払わなければならない。渋滞税が課せられる「ストックホルム中心部」というのは、以下の地図の通り。

支払わなければならない渋滞税(乗入税)は時間帯に応じて異なり、朝夕のラッシュ時に最大20クローナ(約36円)になる一方、夜や深夜、そして、週末(土・日)や祭日およびその前日は無料だ。(ただ、一日に何度も出入りする人もいるため、一日の最大課金は60クローナという上限がついている。)

「ストックホルム中心部」の入り口の路上18ヵ所にはカメラが取り付けられており、通過する車のナンバープレートを自動的に読み取る。これによって、コンピューターに「乗り入れ」が登録され、渋滞税が請求される。銀行口座からの自動引き落とし制度があるほか、キオスクで14日以内に払うこともできる。試行期間中は「車載器」も利用されていたが、正式導入後は一部(Lidingsöに住む人)を除き、撤廃された。

“環境にやさしい車”、つまり、ハイブリッド車、エタノール車、天然ガス車などには渋滞税が課せられない。また、バスなどの公共交通および、障害者の車などにも課せられない。一方、試行期間中は非課税だったタクシーには今後は課せられることになった。

この「ストックホルム中心部」の左端は高速道路のE4/E20が通過する(通称Essingeleden、上の地図の緑線の部分)。しかし、この部分を通過するだけで、市内に乗り入れないのであれば、渋滞税は課せられない。

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上の地図で見れば分かるように、ストックホルムの中心部というのは、いくつかの島から成り立っている。だから、乗り入れ可能な通路も限られており、よって、監視も比較的容易だといえよう。広範囲において「域外」と陸続きになっている所(つまり、上の地図の11~14の部分)がどうなっているのか。横道からの勝手な進入を防ぐ工夫がなされているのか、気になるところ。今度、ストックホルムへ行った際に見てきたい。

KRAV - 増えるかエコロジー生産農家

2007-07-29 13:51:45 | スウェーデン・その他の環境政策
スーパーの野菜・果物コーナーへ行くと、多くの場合「KRAVコーナー」がある。KRAVというのはエコロジー認定を受けた生産者によって有機栽培された製品に付けられる認証だ。だが、その分、普通の農産物に比べると多少割高だ。

kravとは一般名詞で“要求・条件”という意味。だから、KRAVマーク“生産過程にある一定の条件を課した生産物”という意味。)


KRAVマークの製品を買いたいときは、なるべく大きなスーパーへ行こう。小さなところだと、KRAVマークつきの品揃えが良くないし、買う人が少なくて回転率が悪いのか、ほとんど痛んで食べられなくなったものも置いている。

私が行く小さなスーパーのKRAVコーナーはいつもそんな状況だから、てっきり人気が無いのかと思っていたが、統計によると、2006年のKRAVマークつきの農作物の売り上げは前年に比べて15%増という伸び。伸びる需要に応えるべく、そして、スウェーデンの農業をより有機的なものにするために、前の社民党政権は2010年までにKRAV認可を受けた農地を、全体の20%にするという目標を掲げていた。

しかし、高まる需要に対し、KRAVマークつき農産物の供給はあまり延びていない。現在、KRAV認定を受けた農地は全体の7%に過ぎないし、2004年比で多少減ってもいるのだ。今年、新たに500の農家がKRAV認定を受ける見通しだが、このままでは前政権の目標達成は到底難しい。エコロジー栽培に対する生産農家側の関心は実際は高いのだが、KRAV認可のためにかかる費用と手続きが問題なのらしい

KRAV認定を受けた農地面積の推移

一方、KRAV認定は受けていなくても、多かれ少なかれ「有機・エコロジー的」な生産をしている農家は実は、結構いるのだ。その数、KRAV認可の農家も含めると全体の20%。なぜこんなに多いかというと、EUの農業補助金制度の一つに「環境農家に対する補助金(miljöbidrag)」というのがあり、化学肥料や農薬を使わない、などの基準を満たした農家に特別手当が支給されるからだ。ただ、基準はKRAV認可に比べると緩いのらしい。

だから、このEUの「環境農家に対する補助金」を受けている農家(全体の20%)のうち、まだKRAV認可を受けていない農家にKRAV認定を取らせ、うまく取り込めば、前政権の目標も達成できてしまう。しかし、現政権はこの政策領域にはあまり力を入れていないようだ。

残念なニュースがもう一つ。このEUの「環境農家に対する補助金」の給付にあたっては、これまでは比較的緩い基準しか課せられてこなかったが、今年からはKRAV認可を受けた生産農家にしか支給されなくなるという。だから、KRAV認定の新規認可がこれから急激に増えなければ、これまで“多かれ少なかれ” 有機・エコロジー的な生産をしてきた農家に対する補助金がストップしてしまう。すると、費用の低い旧来の生産農法に再び戻ってしまう恐れが懸念されているのだ。

ルポ記事:エタノール生産の過酷な労働

2007-07-13 04:56:11 | スウェーデン・その他の環境政策
日本でもガソリンに代わる新しい燃料として、穀物やサトウキビなどから作るエタノールが注目されている。日本よりも早く導入したヨーロッパの国々やアメリカなどを見習え! といった報道も聞かれるが、エタノールにまつわる問題は数多くあり、あまり楽観的ではいられないような気がする。
以前の書き込み
エタノールへの懸念(2007-05-07)
スウェーデンにおけるバイオ・エタノールの普及(2007-04-09)

スウェーデンを始めとするヨーロッパの国々では、普通に販売されるガソリンの中にもエタノールが5%混ぜられている。EUは2010年までに加盟国各国がこの割合を5.75%にまで引き上げるという目標を掲げている。一方、石油販売会社のほうはそれ以上に意欲を燃やし、10%にまで引き上げる意向を示している。排ガスに含まれる二酸化炭素を抑制するのに効果を発揮するからだ。ただ、そのためにはEU域内でのエタノール生産を保護する目的で輸入エタノールに課せられている保護関税を撤廃し、EU域外からの大規模なエタノール輸入を可能にする必要がある

エタノールの問題点は、本来は食糧である穀物などを原料に使うことによる、穀物価格の上昇と、途上国の貧困への懸念、エタノールの原料生産のための農地拡大による熱帯雨林の伐採などが挙げられる。それに加え、プランテーションにおける劣悪な労働環境にも懸念の声が上げられている。
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ここ地元の新聞「Göteborgs Posten(ヨーテボリ新聞)」6月24日付には、エタノールの最大の生産・輸出国であるブラジルからのルポタージュが載っている。
ルポタージュ記事

タイトルは「環境のためがゆえに奴隷として働く(Slavar för miljöns skull)」ブラジルのサトウキビ農園の劣悪な労働環境についてだ。収穫の時期になると、ブラジル国内の貧民を季節労働者として雇い、低賃金で長時間労働を強いているという話だ。

サトウキビの刈り取りは、ナタを使った手作業であり、1日に一人当たり12トンを収穫するというノルマが課せられている。時給は約230円。(12トンのサトウキビから960リットルのエタノールが作られる)

季節労働者は他に仕事のあてがないので、いくら低賃金でも集まってくる。そのため、エタノールから得られる収益のほとんどがエタノール精製工場やプランテーション経営者、季節労働者の仲買人のふところに納まり、労働者の分け前は全体のごくわずか。しかも、長時間の肉体労働のため、体を壊す者が続出し、現場では死者も出ている、とのこと(サンパウロ州だけで2004年以来19人)。しかし、雇う側にとっては、季節労働者の代わりはいくらでもいるから、労働環境を改善しようという動機は働かない。

サンパウロの州立大学の学者の調査によると、労働環境は19世紀のプランテーションのほうがまだマシだったとのこと。農場経営者も、プランテーションで働く奴隷に対して、長期的な投資やケアを行っていたという。当時の奴隷は体を壊して働けなくなるまで20年間、農場で働くことができた。しかし、現在では季節労働者は買い替えの利く部品に過ぎず、このような苛酷の環境の中ではせいぜい12年しか体が持たないという。また、1960年代の軍事政権時代でもプランテーション労働者の1日のノルマはせいぜい6トンだったのだが、今では倍増している。それもすべて、環境ブームによるエタノール需要の増大とコスト削減の圧力のためだという。
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このような状況を、エタノール生産者業界はどのように考えているのか? このルポタージュを作成したGöteborgs Posten(ヨーテボリ新聞)の新聞記者は、生産者団体の代表にもインタビューをしている。その直前には、たまたま日本のテレビ局「ブラジル産のクリーン・エネルギー、エタノールで、今後日本の自動車社会がいかに脱石油を果たしていくか!」といった趣旨のドキュメンタリー番組を作るべく、取材に訪れていたという。そのため、この生産者団体の代表は超ご機嫌 :-) 続いてやって来たヨーテボリ新聞のこの記者にも「エタノールを積極的に導入してきたスウェーデンを、他の国々も見習って欲しいもの」とご満悦。しかし、そこでこの新聞記者が生産者側の倫理的責任を追及したもんだから、さぁビックリ・・・。
インタビュー記事

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このように劣悪なプランテーション労働というのは、南米のように利益の配分や教育水準の分布が極度に偏っている国であれば、何もサトウキビ農園に限ったことではないのかもしれない。また、低賃金による労働集約的な刈り入れ作業を批判されたエタノール生産者は「高価な農業機械を導入すれば、生産効率は上がるが、高くつく上、1台で120人の労働者に相当する。つまり、その分だけ貧民の雇用機会を奪ってしまうことになる。」と説明している。「全く仕事がなく、生活の糧に苦しむよりは、劣悪でも雇用の場があったほうが彼らも助かる」との見方だ。

たしかに、その弁明にも一理あるかもしれないが、エタノール・ブームで着実に利益を上げているエタノール生産者や農場経営者の裏側には、ブームの恩恵を受けることなく、生産効率の上昇圧力のもとで、地盤沈下しているワーキング・プアの存在があることを、エタノールを使用している我々はどのように捉えるべきなのだろうか・・・? 環境のためにエタノール万歳!一辺倒で、果たしていいものかどうか、疑問が残る。エタノールの需要増大がもたらすマイナス面にもしっかり着目する必要があると思う。

ガソリン価格をリットル20クローナ(350円)に!?

2007-07-11 04:55:26 | スウェーデン・その他の環境政策
日本のガソリン価格はレギュラーで1リットル当たり114円~135円、場所によっては140円という所もあるようだ。ガソリン価格比較サイト

これに対し、スウェーデンの現在のガソリン価格は、11.9~12.5 SEK(210~220円)と日本の2倍近い。一方、エタノールE85はこれまでも何度も書いたように、政府の補助金のおかげで7.9 SEK(140円)に抑えられている。
例えばStatoil

さて、現在の中道右派連立政権も、環境政策には力を入れ、2020年までに温暖化ガス排出量を1990年比で20%減らすという目標を掲げている。現在の予想によると、2010年にはスウェーデンは4.4%減を少なくとも達成する見込みだが、20%減までにはまだまだ先は長い。特に、運輸部門からの排出が全体の1/3と大きな割合を占めている(そのうち90%が道路交通)ため、これをどう抑えるかが今後の鍵である。

環境問題や資源リサイクルなどの問題を考える上で、スウェーデンでは、消費者や企業の意識の変革に期待するよりも、むしろ彼らの経済インセンティブに訴えかけることで、生産・消費活動をより環境に負荷を掛けないものに変えていこうとしてきた。そのため、運輸部門からの排出削減のためには、二酸化炭素税やエネルギー税を有効に活用するのが効果的と考えられ、その結果、これまで徐々に引き上げられてきたのである(現在のガソリン価格のうち、6~7割を二酸化炭素税とエネルギー税が占める)。

これらの税のおかげで今の水準でも随分、ガソリン価格が高いと思われるかもしれないが、運輸部門からの二酸化炭素排出をさらに減らすべく、環境保護庁(Naturvårdsverket)は、ガソリンにかかる税をさらに0.75 SEK(13円)引き上げることを提案している。

一方、同じく国の機関である交通通信研究所(Sika=Statens institut för kommunikationsanalys)は最近発表された報告書の中で、ガソリン課税の引き上げによってリットル当たりのガソリン価格を20 SEK(352円)前後にしなければ2020年までに20%減、という目標は達成できない、と主張している。ガソリンの価格を少々上昇させただけでは、自家用車から公共交通へ切り替えたり、トラック運輸から鉄道運輸へ切り替えるインセンティブにはならない、つまり、経済学の言葉で言えばガソリン需要の価格弾力性(price elasticity)が小さい。だから、より抜本的な価格構造の変化が必要だ、というのだ。

この報告書が試算の際の仮定に使っている先行研究によると、ガソリン価格が10%上昇すればガソリン需要が短期的には3%減少するという。それに加え、この報告書では、車の使用そのものの減少だけでなく、環境にやさしい車(ハイブリッド、低燃費車etc)への買い替えの促進をも仮定し、ガソリン需要が長期的には8%減少すると想定している(つまり、価格弾力性が短期では0.3、長期では0.8)。
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現在の環境大臣Andreas Carlgren(中央党)。現閣僚の中でもかなりアクティブに活動している(というか、労働市場政策やその他の改革が不人気で、現政権は支持率を着実に落としているので、内閣を率いる首相としては環境政策で挽回したい、という切実さもある)。彼も、ガソリンに対する二酸化炭素税とエネルギー税の引き上げは、環境保護庁の主張する0.75 SEKでは不十分と考えているらしく、この新しい報告書も積極的に考慮したい意向を示している。それと同時に、農村地域や過疎地域に住み、どうしても車に乗る必要がある人々に過大な負担がのしかからないように、住む地域によってはガソリン支出の一部を税金控除できるシステムを導入したいとしている(あっ、ちなみに彼の属する中央党は従来、農村部を支持母体としてきたという事情もある)。

一方、この中道右派連立政権の一翼をなすキリスト教民主党は、以前からガソリン価格の抑制を公約に掲げてきたのだ。だから、今ですら高いガソリン課税をさらに引き上げるなんて、もってのほか! と環境大臣(中央党)に食いかかっている。ちなみにキリスト教民主党は4%ハードルをぎりぎりクリアできるだけの弱小政党なのだが、一応、連立政権の建前、彼らを無視することはできないのだ・・・。

エタノールへの懸念

2007-05-06 20:18:26 | スウェーデン・その他の環境政策
ガソリンに代わる新しい燃料として注目されるエタノール。エタノールの生成にはトウモロコシやサトウキビ、麦類などが使われる。太陽の光をたっぷり浴び、光合成の過程で二酸化炭素を吸収し、糖が作り出される。その糖をエタノールに変え、燃料として使うと、再び二酸化炭素に還元する。だから、大気との二酸化炭素の出し入れは、プラスマイナス0、というわけだ。

スウェーデンの自動車メーカー、VolvoSaabエタノール車エタノール含有率85%のガソリンE85を燃料として使える)に力を入れてきた。例えば、Saabの主力である乗用車Saab93(ガソリン車モデルとエタノール車モデル[BioPower]がある)の宣伝文句は「Släpp loss naturens krafter.」(自然の力を解き放とう)だ。

政府の補助金のおかげで、E85の価格が通常のガソリンよりも低く設定されていることは以前に書いた通り。スウェーデン各地のガソリンスタンドの多くで、E85が給油できるようになっている。
<以前の書き込み>
スウェーデンにおけるバイオ・エタノールの普及(2007-04-09)

しかし、エタノールに対して大きな期待がもたれる一方で、既にスウェーデンでは悲観的な声も上がり始めている。少なくとも今の技術水準では、大きな弊害をもたらしかねない、というものだ。

本来、食料のために栽培されてきたトウモロコシなどの穀物が、エタノール生産のために投入されるため、特に、インド・メキシコ・ペルーなどの貧困国でトウモロコシの価格が高騰している。そのため、これを主食としている人々がまず貧困に陥りかねないという。さらに、このトウモロコシ価格の上昇を受けて、これまで大豆や米など他の作物を栽培していた土地を、トウモロコシ栽培に転用する動きが進んでいるため、他の食用作物の価格も上昇し始めているという。

途上国の貧しい農民は、食用作物の高騰から生活を守るために、自ら栽培を始める。一方、豊かな農民は、新たなビジネスチャンスと見て、トウモロコシの栽培を拡大させる。その結果、南米の熱帯雨林伐採が加速しているという報告もあるらしい。

本来、二酸化炭素排出を抑えるため、そして、化石燃料の使用を抑えるために、考案されたエタノール燃料。しかし、その生産のために、二酸化炭素の大きな吸収源である熱帯雨林を切り崩しているとしたら、本末転倒だ。もちろん、穀物の価格上昇による貧困の深刻化も、見過ごせない問題だ。

では、エタノールを食料以外から生産できないのか? 実は、可能だ。木材や藁など、いわゆる廃材を利用するのだ。この場合、糖からエタノールに直接変えるのではなく、植物の細胞膜を構成するセルロースを分解し、糖に変えてから、エタノールを生成するのだという。しかし、現在の技術水準では、この方法だとコストがかかる。トウモロコシからエタノールを作るのに、リットル当たり2クローナ(35円)かかるのに対し、セルロース・エタノールは3.5クローナ(61円)と7割ほど高くつく。

だから、エタノール利用の鍵は、このセルロース・エタノールのコストをいかに下げていくか、にかかっているようだ。日本でも、最近このセルロース・エタノールの製造工場が建設されたらしい(たしか、大阪?)。今後の技術進歩に期待したい。