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とつぜんSFノート 第110回

 そのころは、7月になればそわそわしてきたものだ。小生が7月生まれで夏好きということもあるが、7月になれば星群祭がある。
 1985年7月27日。土曜日である。毎年そうだが、この日は朝からウキウキソワソワしてた。土曜なれど出勤。会社での仕事が手につかない。夜になるのが待ちきれない。一年中で最も楽しい夜が、あと数時間でやってくる。
 5時になった。着替えるのももどかしく会社を出る。そのころの小生の勤務地は大阪北区の豊崎。阪急梅田駅はすぐそこ。京都河原町行きの特急に乗る。目的地は東山区の旅館きのゑ。純和風旅館である。ここが星群祭前泊の合宿の会場。SFのイベントに参加されたご仁なら賛成してくれると思うが、かようなイベントにおいて最も楽しいことは合宿でおこる。この法則は星群祭の合宿にもあてはまる。京都例会出席メンバーなら毎月会うが、地方の星群会員とはこういう機会でないと会えない。1年ぶりの顔も多数。あとは飲めや歌えやのドンチャン騒ぎに麻雀、議論、激論、旧交を温める。
 狂乱の一夜があけた。二日酔あたまを振りたてて星群祭会場の京大会館に行く。1985年7月28日。午前中である。いかなる天気であるかは忘れたが、雨天ではない。小生の記憶に間違いがなければ、雨の星群祭というのはなかった。たぶん、京都らしい底意地の悪い暑い日であったろう。
 と、いうわけで第12回星群祭は始った。テーマは「ファン創作の構造」実行委員長は亀沢邦夫氏。ゲストは荒巻義雄氏、風見潤氏、豊田有恒氏、堀晃氏、眉村卓氏、安田均氏。
まず、最初のゲスト講演。風見潤氏。楳図かずおの「漂流教室」を原作として風見氏が小説化した。その時の過程をケーススタディとして解説。漫画と小説の違い。多くの絵も小説なら数行ですむことがある。1枚の絵になん枚もの原稿を費やすこともある。
荒巻義雄氏。荒巻氏はファン創作の強力な支援者だ。SFアドベンチャーでファンジン評のページを担当されていたし、星群の同人たちも特別にお教えを賜ったこともある。荒巻氏は、このころ出始めたワードプロセッサについて話された。氏はこの最新の文章作成マシンを早々に導入され、その便利さにおどろかれたとのこと。
堀晃氏。堀氏は二足ワラジ作家である。会社員とSF作家を兼業されている。会社勤めをしながら創作活動するために克服すべき課題について。会社ではトシを取ると偉くなる。仕事も増える。結婚すれば家族も増える。かような課題をいかに克服するか。ポイントは土曜日曜日の活用ということ。
眉村卓氏。全力で書く。才能の食いちらかしはするべきではない。この1作で小説を書くのはやめようと思うぐらいで書くように。
豊田有恒氏。作家は『なる』ものだ。なにがなんでも作家になるというコケの一念が大切だ。
ゲストの講演が終わると。星群祭名物、星群ノベルズ批評となる。星群ノベルズに掲載された作品に対して、ゲスト諸氏の容赦のない批評が加えられる。この時の標的となったのは。
「エデンの産声」石坪光司
「洪水のあとで」山田博一
「G線上のマリア」井上祐美子
「シュレージンガーのチョコパフェ」山本弘
「逆ユートピア」坂本裕子
「白き闇のオデュセウス」立川みどり
「流謫祭」小沢淳
 の、七人の同人。星群ノベルズは毎年発行していたが、この年初めて女性執筆者の数が男性執筆者を越えた。女性が元気になる社会を星群の会は先取りしていたのである。最近のヒューゴー賞受賞者をみると女性作家が目立つ。
 なお、「シュレージンガーのチョコパフェ」は1986年ファンジン大賞創作部門賞を受賞した。
  
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上方らくごの舞台裏


 小佐田定雄          筑摩書房

「枝雀落語の舞台裏」「米朝落語の舞台裏」に続く「舞台裏」シリーズ3冊目。いちおうこれで完結とのこと。
 いやあ、面白かった。上方落語ファンなら愛おしくて、両手でそっと抱きながら読みたい本である。
 38席の上方落語の演目と、それにからめながら落語家を紹介していく。
「青空散髪」「網船」「有馬小便」「いかけや」「浮かれの屑より」「おごろもち盗人」「お玉牛」「鬼あざみ」「貝野村」「掛取り」「軽業」「近日息子」「丁稚蔵」「稽古屋」「滑稽清水」「皿屋敷」「質屋芝居」「死ぬなら今」「昭和任侠伝」「善光寺骨寄せ」「高尾」「蛸芝居」「田楽喰い」「天王寺詣り」「電話の散財」「野崎詣り」「初天神」「ふぐ鍋」「堀川」「豆屋」「みかんや」「深山隠れ」「大和閑所」「遊山船」「夢八」「弱法師」「ろくろ首」「山名屋浦里」
 だいたいは、小生が知っていて聞いたことのある噺だが、知らない噺もある。紹介される落語家は、六代目笑福亭松鶴、三代目桂春団治、五代目桂文枝といった四天王から、二代目桂歌之助、桂吉朝、六代目笑福亭松喬といった物故した落語家たちである。
 このうち、「有馬小便」はそれまで知らなかった。神戸はさんちかの古本市で落語のCDが出ているのを発見、そのうち三代目春団治のもあった。見ると「寿限無」「平林」「有馬小便」の3席が収録。衝動買い。小生の落語コレクションの中でも珍品である。
網船」六代目松喬の最後のテレビ。小佐田さんも書いてあったが2013年7月21日にNHK「日本の話芸」に出演した。小生も見た。大病を患いげっそりやせておられた。丸顔の先代松喬師匠が別人にようになっていた。痛々しくて見ていられなかった。テレビ放送された上方落語は必ずDVDに保存しているのだが、さすがにこの先代松喬師匠の「網船」は残せなかった。元気なころの先代松喬師匠の噺はたくさん保存してある。
 先代桂歌之助師匠の「善光寺骨寄せ」小生も何度か生で観た。また弟子の当代歌之助さんのも観た。先代歌之助師匠は落語会やると大きな惨事事故事件が起こるので「死神歌之助」と呼ばれていたが、小生の古いSF関係の友人で先代歌之助師匠ほどではないが大きな出来事を呼ぶ男がいた。その男がある大きなSFイベントの実行委員長をやったとき、大きな台風がやってきた。そのごいろいろあったが、極めつけは彼が結婚した時、式の翌日阪神大震災が起きた。交通網寸断の中なんとか空港までたどりついて新婚旅行に旅立った。
 落語家ばかりではない。本の後半には裏方のお囃子さんを紹介されているのが貴重だ。ともかく小佐田定雄さんの上方落語に対する愛情がいっぱい詰まった本である。上方落語のファンなら読まずばおれないだろう。
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「最近」はなんでもセルフなんだな

 土曜の夜はウィスキーをちびちびやりながら映画を観るのが楽しみだ。その映画の入手はBSで放送されたモノを録画するか、TSUTAYAで借りてくるかだ。
 自宅での映画鑑賞はネット配信されたモノが今は主流となっているが、小生はTSUTAYAの店まで出向いてブルーレイを借りてくる。返却は郵便返却をしている。最近、あちこちでTSUTAYAの店が閉店になっている。ネットが主流だからだろう。小生はクレジット決済というのが嫌いなので課金をともなうネット利用はしたくないのだが、いずれそれも考えなくてはならないだろう。
 で、TSUTAYAの店にブルーレイを借りにいくのだが、最近は(最近は、どうもこの『最近は』という言葉を使うことが多くなった。『最近』についていけなくなったということかな)レジはセルフレジになっている。最近は(まただ)TSUTAYだけではなく、スーパーのレジ、電車の定期券、映画の前売り、いろんなところがセルフレジだ。さすがにスーパーや定期のセルフは自分でできるようになったが、TSUTAYAのセルフレジはどうもうまくいかない。カードを機械が読み取ってくれない。ブルーレイのお皿のバーコードに反応しない。もたもたやっていると店員がやってきてやってくれる。見ると、他のレジでも店員が客の横について世話してる。これじゃ、元の有人レジと同じではないのかな。
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ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男


監督 ジョー・ライト
出演 ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームス、ベン・メンデルソーン

 戦時下のイギリスの首相になったウィストン・チャーチルが主人公の映画である。いうまでもなくチャーチルは政治家。それもベテランの酢でもこんにゃくでもいかん政治家である。
 対ドイツ政策の失敗でチェンバレン首相が退陣する。後継首相はだれか。選ばれたのがチャーチル。失政も多く「嫌われ者」チャーチルが首相に就任。「え、あいつが首相?」とびっくりする声も多かった。
 ナチスドイツは破竹の勢い。オランダ、ベルギーは陥落。フランスも陥落寸前。30万のイギリス兵がダンケルクに取り残されている。このままじゃイギリスの陸軍は壊滅。と、いう未曾有の国難の時にチャーチルは首相になった。貧乏くじを引かされたわけだ。チャーチルは挙国一致内閣を組閣。政敵の前首相チェンバレンとハリファックスも閣内に取り込む。
 チェンバレンとハリファックスはドイツとの講和を主張。イタリアを仲介してヒトラーと交渉しようという。チャーチルはそんなことをすればバッキンガム宮殿にハーケンクロイツの旗が立つぞ。絶対反対。徹底抗戦をゆずらない。
アメリカはまだ参戦してない。イギリスの命運は風前の灯。起死回生の策としてダンケルクのイギリス兵救出作戦を実行する。
 チャーチルは徹底的にドイツと戦う意志を貫く。しかし、少しはチェンバレンとハリファックスのいう講和に傾きかけたときもあった。しかし、チャーチルに戦う意志を維持させたのが、地下鉄に乗っている普通の人々、それに意外な人物。
 歴史というモノはどう転ぶかで禍福は表裏一体。チャーチルは徹底抗戦を主張して救国の英雄となった。東条英機も徹底抗戦を主張して、戦犯となって絞首刑となった。
 その英雄チャーチルをこの映画では英雄として描いていない。思い悩み迷い、奥方にあまえ秘書にやつあたりする。まことに人間くさいチャーチルだ。
また、政敵チェンバレンとハリファックスを悪役として描いていない。ひょとするとチェンバレンたちのいうことが正解だったかもしれない。チャーチルが絞首刑で東条が英雄になっていたかもしれない。歴史ってそんなもんだろう。

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わかめうどん


「おはよう」
「寒いよ。どてら着なさい」
「さ、お湯よ。顔洗って歯みがきなさい」
「どう、熱下がった?」
「そう。良かったね。だいぶん元気になってきたね」
「さ、朝ごはんよ」
「今朝はうどんよ。熱いうどん食べてあったまりなさい」
「わかめうどんよ」
「乾燥わかめじゃないよ。生わかめよ。わかめは今が旬なのよ」
「ウチはうす毛の家系だから、わかめ食べて毛に栄養やらなくちゃ」
「はい。七味」
「食べた」
「おいしかった。良かった」
「元気になった」
「そ、では、行ってらっしゃい」
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笑福亭松之助師匠は大きな落語家であった

 笑福亭松之助師匠が亡くなった。上方落語最年長で、93歳で老衰で亡くなったということなので大往生といえる。
 松之助師匠は明石家さんまの師匠というまくら言葉でいわれることが多いが、松之助師匠はそれだけの落語家ではない。
 笑福亭というと六代目笑福亭松鶴師匠が笑福亭の一門のカラーを作ったように思われているが、当たり前のことではあるが、現役の笑福亭の落語家は松鶴のカーボンコピーではない。たしかに松鶴師匠の流れも大きな流れとして一門の落語家に受け継がれている。実はもう1つ大きな笑福亭の流れがあると小生は思う。
 松之助師匠は五代目笑福亭松鶴の弟子である。六代目松鶴とは兄弟だ。松之助師匠の芸風は軽妙でひょうひょうとしていて、六代目松鶴とは違う芸風だ。この松之助師匠の芸風は、六代目松鶴から「米朝一門のまわしもん」といわれた先代笑福亭松喬に受け継がれているのではないだろうか。笑福亭一門の芸風は二つ流れているといってもいいかも知れない。ものすごくざっくりとしたいいかたではあるが。松之助師匠は六代目松鶴とは違う、笑福亭、というより、上方落語の大きな流れの源流といってもいい落語家といえる。
 上方落語というと、米朝、松鶴、春団治、文枝が四天王といわれるが、笑福亭松之助も上方落語の大きな流れの元といえるだろう。松之助師匠、実はものすごく大きな落語家であったといえよう。
 ご冥福をお祈りする。
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ウィスキー講座に行ってきました


 昨夜はKCC神戸新聞文化センターのウィスキー講座に行ってきました。講師はマスター・オブ・ウィスキーの石原裕三氏。
 昨年はバーボンのメイカーズマークでしたが、今回はスコッチのシングルモルト、グレンフィディックです。グレンフィディックは私も好きなスコッチです。
 それまで、ウィスキーといえばブレンデッドが常識でした。いくつかの原酒をブレンドして市場に出していたのです。それが、このグレンフィディックが1963年に世界で初めて原酒に使われるシングルモルトをそのまま発売しました。当初は、そんなもん売れるか。無謀だ。と、いわれたのですが、これが大当たり。グレンフィディックは世界も最も愛飲されているシングルモルトとなったのです。
 このグレンフィディックの創業者ウィリアム・グラントは48歳で蒸留所を造ってウィスキーつくりを始めました。これはたいへんに遅い創業。ちなみにバラタインは20歳、ジョニーウォーカーは18歳で創業しています。年とったグラントにとって良かったのは子供が9人もいたことです。9人の子供全員がウィスキーつくりに従事して父の仕事を手伝いました。
 ウィスキーは蒸留したては無色透明です。それが樽で熟成させていくうちに琥珀色の色がつくのです。このことにはスコットランドの哀しい歴史が秘められているのです。
イングランドとスコットランド。仲がよくありません。つい最近もスコットランドが独立しようとして僅差で否決されました。スコットランドはスコットランド独自の歴史文化伝統があるのです。このスコットランドとイングランドは被抑圧者、抑圧者の関係です。ウィスキーはイングランドではつられていません。いわばスコットランドの地酒です。このスコットランドの地酒にイングランドが法外な税金をかけました。スコットランドはつくったウィスキーを木の樽に入れて隠して貯蔵しました。そのうち何年もたった樽を開けて中身を取り出すと、琥珀色のいい香りの液体に変化していました。飲んでみるとたいへんにおいしかったのです。これが今のウィスキーです。
 と、ひととおりウィスキーの勉強をしたあとはいよいよ試飲です。ご覧のようにティスティンググラスが5つ並んでいます。上は左からグレンフィディクの12年、15年、18年です。12年モノは私も愛飲してますが、15年や18年モノはこんな機会でないと飲めません。ありがたいです。3年熟成期間が長いと円熟味がぜんぜん違います。18年ものは100パーセント18年熟成させた原酒しか使ってはいけません。18年モノに15年の原酒が一滴でも入るとそれは18年モノとはいえません。
 下の二つは銘柄名が書かれてません。なにか当てましょうということです。左はすぐ判りました。マッカラン12年でしょう、というと講師の石原さんに正解といわれました。右はアイラっぽいです。ラフロイグではありません。ラフロイグよりピートの香りがやわらかいです。ボウモアです。これも正解でした。スコッチの銘柄当て二つとも当たりました。

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蘇える金狼


大藪春彦      角川書店

 大藪のサラリーマンものである。サラリーマンものといっても東宝の「社長」シリーズや源氏鶏太の小説のような、お気楽なものではない。松田優作主演、村川透監督で映画になったからご存知のムキも多いだろう。
 経理の真面目社員の朝倉哲也。地味でおとなしいサラリーマンであるが、実は野望に燃える狼である。朝倉の会社は腐っている。社長をはじめ重役どもが会社の金をババして私腹を肥やし贅沢三昧。朝倉はそいつらの弱みを握り小ワルを呑み込む大ワルになるべく悪事を重ねる。
 車に銃に食いモノ。いつもながらの大藪ワールドであるが、このたび再読して判ったのだが、大藪春彦という作家は、とても律儀で生真面目な文章を書く人だ。主語、述語、動詞と日本語の文章の基本に則った文章を大藪は書く。
 朝倉は銃身で冬木の後頭部を殴りつけた。京子はヘロイン入りのタバコに火をつけた。と、かならず誰が、何を、どうした、と、記述している。朝倉は殴った。という省略はしない。大藪の文章には必ず主語述語動詞があるのだ。大藪春彦の小説は、お子さまには不向きだが、子供が正しい日本語の文章のお手本にするには、大藪の文章は良いお手本になるだろう。
 主人公朝倉は人の車を盗む人の家に侵入することがよくあるが、そのときのために、先端をつぶした針金を2本いつもズボンの折り返しにかくしているのだが、それを必ず描写する。
 朝倉は先端をつぶした針金をズボンの折り返しから出してコロナのドアを開けた。朝倉はコロナを盗んだ。とは決して書かない。誰が何を使ってどうやったのか律儀に書く。大藪の文章は判りやすいのだ。
 ひとつだけ不思議な描写がある。朝倉がトヨタのパブリカでカーブを曲がるシーン。ヒール&トゥーを使うのだが、つま先でアクセルを踏んでかかとでブレーキを踏むとあるが、逆である。マニュアル車に乗っている人ならわかると思うが、こんなことは不可能。ヒール&トゥーはつま先でブレーキを踏みつつかかとでアクセルをふかすワザである。まさかあの大藪がそんなことを知らないはずがない。大藪のかん違いであろう。また、大藪の担当編集者なら、こんな基本的なドライビングテクニックを知ってるはず。なぜ訂正されなかったのか不思議である。
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とつぜん上方落語 第33回 骨つり

 古典落語に「骨つり」という噺があります。江戸のほうでは「野ざらし」というのですが、上方では「骨つり」です。古い埋もれた噺でしたが、桂米朝師匠が発掘してよみがえらせた噺です。
 幇間の茂八が若旦那のお伴で釣りに行きます。魚の替りに骸骨しゃれこうべが釣れました。これも何かの縁だということで、茂八はそのしゃれこうべを回向してやります。
 その夜のことです。茂八が一杯ひっかけて寝ようとすると、戸をたたく者が。妙齢の美女が入ってきました。この美女、昼間のしゃれこうべなのです。幽霊です。「ごていねいに回向していただき感謝しております。お礼に夜伽のお相手をし、おみ足などさすらせていただきます」
 このことを知った、隣の喜六、自分も美女が欲しいというんで、翌日、さっそく釣竿もって骨を釣りに出かけました。そして、狙いどおり骨を釣りました。その夜、喜六の家に来たのは。と、いうのが「骨つり」という落語です。
 時代は流れ、茂八、喜六の時代からずいぶんと未来になりました。お笑い芸人の留五郎が、山にきのこ狩りに行きました。目的は松茸です。最近は松茸の人工栽培が盛んに行われ、椎茸より安価でスーパーで売っております。でも天然の松茸の方が味も香りもよろしい。ですから山に松茸狩りに行く人がときどきおります。昔は天然の松茸は貴重品でしたが、最近はそうでもなく、山で取っていてもとがめられません。
 留五郎、赤松の根元で何か見つけました。松茸ではありません。小さなプリント基板です。片手に乗るぐらいの大きさです。LSIが1個とゲートアレイのICが3個。あと抵抗とコンデンサー、水晶発振子、緑色のLED。それに基板用のマイクロスイッチが実装されています。留五郎がこちゃこちゃ触っているうちにスイッチを押してしまいました。LEDが点灯しました。
 その夜のことです。留五郎の家の前で大きな音がします。どどんどんどん、どどんどんどん。玄関のドアは吹っ飛び、皮ジャンにサングラスのでかいおっさんが入ってきました。手にはレーザー照準器つきAMTハードボーラーを持っております。前のカリフォルニア州知事みたいなおっさんがいいました。
「ソレハ ワタシノチップダ。デンパヲジュシンシタ。マッサツスル」
 レーザー照準器が光りました。留五郎の額に赤いレーザーが照射されました。それが留五郎がこの世で見た最後のモノです。
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服部誕さん、三好達治賞受賞

 たいへんにうれしいことがあります。わたしの古い友人の服部誕さんが、このたび三好達治賞を受賞しました。まことにもって大きな慶賀であります。詩にはまったく無知のわたしでも三好達治は知っております。

 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 この詩ぐらいは私も知っておりました。この関西が生んだ大きな詩人の名を冠した賞を、友人が受賞することは大きな喜びであります。
 受賞対象は詩集「三日月をけずる」です。この詩集は著者からご恵送いただき、わたしも読みました。詩を鑑賞する習慣のないわたしにも、読みやすい詩集で感銘を受けました。
 服部さんとは40年以上ご厚誼をいただいております。いまでも時おり酒席を供にすることがあります。ちかぢか喜びの美酒を酌み交わしたいものでございます。

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めぐりあう時間たち


監督 スティーブン・ダルドリー
出演 二コール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ


 観終ったあと、ふうーう、と、ため息が出てしまった。そんな映画である。なんともしんどい重い映画であった。観ていて決して楽しくなる映画ではないが、よく出来た映画といえる。
 三つの時間を生きる三人の女の物語である。
 1923年イギリスの田舎リッチモンド。作家バージニア・ウルフ。
 1951年アメリカはロスアンゼルス。主婦ローラ。
 2001年ニューヨーク。編集者クラリッサ。
 この3人とも一見幸せそう。ウルフはやさしく理解ある夫の計らいで、大都会ロンドンから自然豊かなリッチモンドに移住して執筆に専念できる。ローラはかわいい子供とやさしい夫、それに腹には二人目の子供がいる。クラリッサは恋人の詩人が賞を受賞。受賞お祝いパーティの算段をする。
 この3人の女をつなぐものが、バージニア・ウルフの小説「ダロウェイ夫人」
ウルフは小説の書き出しを考える「ミセス・ダロウェイがいった。花は私が買ってくるわ」ロスの主婦ローラは本を読む。書き出しはこうだ「ミセス・ダロウェイがいった。花は私が買ってくるわ」ニューヨークの編集者クラリッサは恋人リチャードに「ミセス・ダロウェイ」と呼ばれている。そして受賞パーティーの準備のため「花はわたしが買ってくるわ」
 と、こう書くとこの三人なにが不幸なのかと思う。他人にはうかがい知れぬモノがあるのだ。特にロスのローラ。夫との仲は良好子供は良い子。さらに子宝に恵まれる。どこが不足なんだ。なにかが彼女の中でずれている。見るだけでは平安な土地、しかし地中深く断層が隠れている。それがズリとずれた。大きな地震が起きた。そういうことなんだろう。
 キッドマン、ムーア、ストリープ。3人の女優の演技力があってこその映画である。男のうかがい知れぬ世界をかいま見る恐ろしさを思い知るだろう。暗い表情の女たちが百合っぽい雰囲気も漂わせながら、破滅の予感を感じさせる。傑作といっていいだろう。
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タラとカブのリゾット


 さむうございます。とはいいつつも、天気予報によれば、来週あたりから暖かくなるそうです。ありがたいことです。
 食卓にはもう春のきざしがあらわれてきております。ホタルイカ、菜の花、新じゃが、新玉ねぎ。それにもう少しすれば神戸に春を告げるイカナゴ漁が始まります。今年も不漁が予想されるそうです。心配なことです。
 冬の魚代表のひとつがタラですね。冬の野菜といえばカブでしょうか。さて、去りつつある冬ですが、この冬の食材ふたつを使ってリゾットを作りました。あったかいリゾットは寒い朝にぴったりですね。
 タラはフライパンで焼いておきます。カブの根は食べやすい大きさに切っておきます。葉っぱはさっとゆでておきます。
 みじん切りの玉ねぎとお米を炒めてスープをそそぎます。スープはストックしてある野菜スープを使いました。
 米がいい具合になってきたらカブの根と葉っぱをいれて、しばし煮こみます。カブの根は大根と違い、煮すぎるとやわやわになるので気をつけましょう。塩こしょうで味を調えて、お皿に盛り、タラを乗っければできあがりです。
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牛丼


 牛丼である。牛丼ちゅうと吉野家の牛丼を思いうかべるムキも多いだろう。ワシも好きで、ちゃっちゃと腹さえ満たせばええというときには重宝である。都会であれば牛丼屋はどこにでもある。安い。はよ食える。気軽で便利である。
 そんな吉野家の牛丼とはまったく違う牛丼を食いたくなって、これを作って食ったしだい。吉野家の牛丼は煮ているが、これは炒めてある。牛肉と玉ねぎを炒める。炒めるというと、やたら食材をこちゃこちゃ動かしまくる人がいるが、あれはムダは動きというモノ。玉ねぎを炒めるのなら、フライパンの上でじっとさせておけばいい。うまいぐあいに焦げ目がついたら、フライパンをあおって、さっとひっくり返せばいい。炒めるというのは焼くことなんだ。
 こうして加熱した牛肉と玉ねぎを丼つゆに入れ、卵でとじてご飯にのせればできあがる。ま、ようするに他人丼である。
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関西弁事典


真田真治監修     ひつじ書房

 小生、兵庫県は西宮の生まれで、三つの時から神戸在住。生まれも育ちも現住所も関西である。関西以外に住んだことはない。阪神タイガースファンで上方落語好き。こういうわけだから、関西弁なるものを勉強してやろうと、この本を読んだしだい。
 事典となっているが、事典的な要素は巻末に少しでているが、実質は学術書である。関西弁の概説から、地域別ジャンル別の各論まで、学術書としての体裁の本だ。ところどころにコラムがあって、読み物としてもおもしろいようにしてあるが、関西弁に興味のない人が読めば退屈である。小生は、興味深く読んだ。
関西弁研究の貴重な本ではあるが、ひとつ不満が。監修者の真田先生や、執筆者の諸賢は上方落語に知識がないのか興味がないのか、上方落語については、初代桂春団治に少し触れているだけで、あとは漫才や新喜劇を話題にしていた。こういうことならさけて通れないはずの桂米朝師匠にはまったく言及していなかった。上方落語ファンとして大いに不満である。
 とはいえ、関西弁の基礎を知るにはかっこうの本である。ずっと座右に置いておくべき本である。
 
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とつぜん対談 第121回 金満長者との対談

 おかしいなあ。ここで待ち合わせることになっているのです。もう、1時間以上待っているのですが来られません。今回の対談相手は大物だそうです。おいそがしいのでしょうか。
あ、来られました。あのでっぷりと太った人です。満面の笑みです。ゆったりゆっくり歩いてこられます。金満長者さんです。

雫石
 どうもはじめまして。雫石です。

金満長者
 ああ、きみが雫石くんか。なんの用かな。

雫石 
 ちょっとお話をうかがいたいと思いまして。

金満長者
 ワシになにが聞きたい。

雫石
 あなたは、たいそうお金持ちだそうですが、私ら貧乏人にはうかがい知れぬことをいっぱいご存知かと思いまして。

金満長者
 なんも珍しいことは知らんよ。ワシも人間じゃ。普通に生活しとる。

雫石
 個人資産はどれぐらいですか。億単位でしょう。

金満長者
 億?そんな貧乏やない。兆はあるじゃろ。

雫石
 兆!うへえ。なん兆ですか。

金満長者
 知らん。自分の財産を数えたことはない。

雫石
 それだけの財産をどうして築かれたんですか。

金満長者
 先祖から受け継いだものじゃ。

雫石
 あなたのご先祖は何してたんですか。

金満長者
 ワシもようしらん。なんでもじいさんから聞いた話では、鎌倉、足利、徳川の各幕府の影のスポンサーであったそうや。そういうわけで、これら三つの幕府が消滅した時、その財産を全部ウチが引き継いだそうだ。

雫石
 歴史の本には出てませんね。

金満長者
 あたりまえだ。ウチの家はおもてにはでん。

雫石
 それだけのお金ですと、いまの日本の経済にも影響するんじゃありませんか。

金満長者
 そうかも知れん。ワシが金を使うのをやめたら日本の経済は大打撃だろな。

雫石
 金満長者さんは、どんなお仕事をしているのですか。

金満長者
 へ、仕事?そんもん貧乏人がやることだ。ワシはそんなアホなことはせん。

雫石
 毎日なにをしているのですか。

金満長者
 別に、メシ食って、遊んで、酒飲んで、寝るだけだ。

雫石 
 どんなところにお住いですか。

金満長者
 日本に3ヵ所、アメリカに2ヶ所、アジアに2ヶ所、ヨーロッパに3ヵ所家があるな。

雫石
 今は。

金満長者
 日本じゃ。

雫石
 芦屋の六麓荘か東京の田園調布ですか。

金満長者
 そんな貧乏人がおる下町にはワシは住まん。

雫石
 へー。海外に行く時はどうしてるんですか。プライベートジェットですか。

金満長者
 何に乗るのか決めておらん。必要に応じていろんな飛行機をつこうとる。こないだ急いでリヒテンシュタインの家に行く時には、F22で飛んでいった。

雫石
 F22というとアメリカの最新鋭ジェット戦闘機ラプターですか。

金満長者
 そうじゃ。

雫石 
 操縦できるのですか。

金満長者
 ワシはできん。ワシはアメリカ空軍のスポンサーでもある。ワシ専用に二人乗りに改造したF22があるんじゃ。トランプに電話したらすぐ寄こしおった。ロシア製のMig31もある。プーチンにいって作らせた。それに、こんど家族で旅行する時のために三菱にいってMRJの特別あつらえを作らせとる。

雫石
 食事はどうしるのですか。

金満長者
 きのうの夕食はすしを食った。東京から小野三郎を呼んで握ってもらった。

雫石
 趣味はなんですか。

金満長者
 映画じゃ。

雫石
 どんな映画ですか。

金満長者
 ワシはスターウォースのファンじゃ。以前、ルークスがもうスターウォースを作らんといいおった。それでワシがテズニーにこれでどうにかせえと金をだしてやった。それからテズニーで作るようになったんじゃ。

雫石
 へー、テズニーでスターウォースを作るようになったんは、そういうことだったんですか。

金満長者
 そうじゃ。

雫石
 しかし、それだけお金があるということはどうなんでしょう。私ら貧乏人には想像もつきません。

金満長者
 いっしょじゃ。あんたらがカップヌードルを食べるのも、ワシが数寄屋橋三郎のすしを食うのも。

雫石
 いっしょじゃないでしょう。

金満長者
 いっしょじゃよ。カップヌードルはいくらだ。120円ほどじゃろ。ワシにとっては120円も120億もいっしょじゃ。

雫石
 ところでジャンボ宝くじを1枚買ってくれませんか。

金満長者
 いくらだ。

雫石
 300円です。

金満長者
 で、それ当たったらどうなる。

雫石
 3億円です。

金満長者
 3億円だしたらかんにんしてくれるんか。

雫石
 いいえ。3億円くれます。

金満長者
 いらんいらん。3億ぽっちり。当たったらあんたにやる。

雫石
 ありがとうございます。
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