とつぜんブログ

雫石鉄也の

ドライブと料理

2012年11月30日 | とつぜん日記
 ドライブと料理は小生の趣味だ。リストラされ大幅な収入減となったから、車を手放した。リストラ以前は愛車インテグラを駆って、あちこちにドライブに行ったもんだ。ネの1365番が当たったら、また車を持とうと思ってる。
 ところで、ドライブと料理には共通点がある。車は何でカーブを曲がると思う。ハンドルで曲がる。確かにハンドルでも曲がるが、ハンドルだけでカーブを曲がろうとすると、曲がりきれず、対向車と正面衝突するやも知れない。
 車はブレーキとアクセルでカーブを曲がるのだ。アクセルを踏んでいない時は車は最も不安定な状態だ、駆動力がなく惰性でタイヤが回っている。不安定である。カーブしているは車が安定していない。アクセルを踏まずにカーブを曲がるのは不安定の二重で非常に不安定だ。だから車は遠心力で、外へ外へと行きたがる。
 カーブの手前でブレーキを踏んで充分に減速。カーブの入口でアクセルを踏みはじめ、ゆるやかに加速しつつカーブを抜ける。これが安定したカーブの曲がり方だ。
 料理も同じ。車のアクセルとブレーキに当たるのがガスレンジの火力調整ツマミだ。車をアクセルとブレーキで調整して運転するように、レンジの火力を調整しながら調理するのだ、加熱中の素材の様子を見ながら、火を強めたり弱めたりしながら調理する。車の運転と同じだ。
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拡張幻想

2012年11月29日 | とつぜん読書室

大森望 日下三蔵 編    東京創元社

 毎年吉例、年間日本SF傑作選。第5集目。まずは今年もこの傑作選が出版されたことをSFを愛する者として喜びたい。大森、日下のご両所をはじめ、東京創元社編集部の小浜徹也氏、石亀航氏、そしてゲスト審査員の飛浩隆氏にねぎらいの言葉を贈りたい。まことにご苦労さまでした。来年も再来年も、この傑作選がずっと刊行され続けることを願う。
 さて、2011年度は、大きな衝撃を受けるできごとがあった。3月11日に起こった東日本大震災と福島の原発事故。SF界内部では小松左京を喪ったこと。そして、改めて惜しまれる伊藤計劃の存在。これらのことを受けて表現された作品がいくつか見受けられた傑作選である。
 で、小生は本書を読んで満足したか?結論をいう。いちおう空腹は満たされたが満腹はしなかった。傑作選と銘うっているからには、2011年に日本で発表されたSF短編の傑作は網羅されているはず。ところが本書を読了して、なにか忘れ物をしているような気がしてならぬ。なにか大事な傑作を忘れているのではないか。この忘れ物感はなんだろう。では収録作を紹介していこう。

宇宙でいちばん丈夫な糸  小川一水
 カーボンナノチューブの製造方法を考えた青年は、それを宇宙開発に使われるのを嫌がる。
5400万キロメートル彼方のツグミ 庄司卓
 AIを搭載した小惑星探査機が自意識を持った。AI開発者を「男」として意識する。
交信 恩田陸
 タイポグラフィ・ショートショート。はやぶさネタ。
巨星 堀晃
 小松さんを追悼する。ハードSFで。
新生 瀬名秀明
 小松さんを追悼する。エロで。
Mighty TOPIO とり・みき
 アトムの動力は原子力だったんだ。アトム、福島で働く。
神様2011 川上弘美
 熊とピクニックに行く。放射線の中を。
いま集合的無意識を 神林長平
 神林本人と思われる主人公が「伊藤計劃」と対話。伊藤計劃は亡くなった。気持ちは判るが、亡くなった人をいつまでも追悼してないで、とっとと自分の作品を書くべし。
美亜羽へ贈る拳銃 伴名練
 怪作。脳にインプラント。記憶性格を改変された美亜羽。そんな女を/に、愛するか/愛されるか。
黒い方程式 石持浅海
 ペスト菌に感染した女房をトイレに閉じ込めた。
超動く家にて 宮内悠介
 丸くってくるくる回っている現場で密室殺人。
フランケン・ふらん 木々津克久
 死んだ妹がタコになって生まれ変わった。妹とぐじゃぐじゃに。
結婚前夜 三雲岳斗
 娘は嫁に行く「ロマレス」へ。
ふるさとは時遠く 大西科学
 本書中一番の傑作。土地の標高によって時間の流れが違う。日本の中心地「高京市」は標高が高く時間の流れが速い。主人公は、そこからゆっくり時間が流れる故郷の低地へ帰ってきた。
絵里 新井素子
 新井さんの私小説かいな。
良い夜を持っている 円城塔
 円城塔としては判りやすい。お父さんは超絶的な記憶力を持っていた。ただし、普通のお父さんじゃなかった。
すべての夢|果てる地で 理山貞二
 第3回創元SF短編賞受賞作。限定的傑作。Kは三匹のフォッグ。アイザック、アーサー、ボブとともにニューヨークに飛ぶ。
 面白かった。ただし、それは小生がSFファンであるから。あちこちにSFファンの琴線をくすぐるくすぐりがいっぱい張ってある。クスリとしたりニンマリとするところ多々ある。もしこれをSFなんぞ読んだことがない人が読んでおもしろいだろうか。疑問である。いわば、SFファン向けの楽屋オチ的作品である。
 後記で日下氏が書いているが、この作品の受賞に関して、当初、小浜氏日下氏が反対、大森氏飛氏が賛成とのこと。小生は小浜日下組にくみする。
 いやしくも日本SFの年間傑作選に掲載される作品である。SFファンにしか評価できない作品を、これが受賞作であるとうたって掲載していいものだろうか。そもそも根本的な問いかけをしたい。本書はだれに読んでもらおうと思って刊行されたのだ。小生のごとき40年以上SFファンをやっている、マニア向けに刊行されたのか。そうでないのか。
 例えば、日ごろは佐伯泰英や東野圭吾を読んでいて、SFなんて生まれてから読んだことがないという人が、たまたま東京出張の新幹線での退屈をしのぐため、本書を手にして、この「すべての夢|果てる地で」を読んで面白いと思うだろうか。だいたいSFになじみのない人に元ネタが判るだろうか。アイザック、アーサー、ボブがアシモフ、クラーク、ハインラインのことだと判るだろうか。
 こういうSFファンの内輪受けの作品ばかりが評価されると、日本SFの未来は先細りとなる。

 

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とつぜんSFノート 第37回

2012年11月28日 | とつぜんSFノート
 星群の会は昔は京都で例会をやっていた。烏丸丸太町にあった府立勤労会館の会議室を借りていた。小生が入会したころは会員数も少なく、小さな会議室で間に合ったが、そのうち会員数が増えて大きな会議室でやるようになった。
 例会が終われば、そのまま素直に帰宅する、ということは絶対にない。必ずどっかでコケるわけである。2次会は喫茶店である。烏丸御池の「ビック」という喫茶店で2次会をやった。この「ビック」で一度プロの仕事を見せてもらったことがある。10人ほどで、ドヤドヤと入店してサッサとイスに座った。ウェイトレスのおねんさんが注文を取りにきた。おねんさんがわれわれのテーブルに近づいたら、みんな、すぐ口々に注文を始めた。おねんさん、「はいはい」と聞いている。別にメモを取っている様子はない。しばらくして、注文したモノが運ばれてきた。注文したモノは注文した人の前に間違えなく置かれた。おねえさんの記憶力に感心してコーヒーをすすった。
 この「ビック」も行ったが、それ以上に行ったのが「アインス」という喫茶店。御池通りと烏丸通りの交差点近くの御池通り沿いにあり、「ビック」は地上だったが、「アインス」は地下だった。ここではスパゲッテイをよく食べた。AスパBスパの2種類があって、確か、Aスパがミートソース、Bスパがナポリタンではなかったかと記憶する。
「アインス」を出た時点でメンバーは二派に別れる。山本弘、水野良といった若手はゲームをしに行った。われわれネンパイ組は飲みに行く。菅浩江は最年少だったが飲み組。三村美衣も飲み組だった。他の女性陣も飲み組だった。どうも星群の女性はゲームより、飲む方がお好きだったらしい。菅浩江が中学生、三村美衣が高校生だった。もちろん彼女たち二人は未成年なので、われわれおじさんたちは酒を飲ませていない。ほんとほんと。
「アインス」を出て御池通りをブラブラ歩く。柊屋旅館の前を通って、本能寺の手前で曲がる。寺町を通り抜けて河原町に出る。木屋町にある「凱旋門」という居酒屋によく行った。夏は京都市役所の東隣にあった都ホテル屋上のビアガーデンが主たる飲み場所だった。一度、上空にカラスが異常に集まって、まるでヒッチコックの映画「鳥」のような異様な雰囲気で飲んだことがあった。
 これが3次会でメインの飲み会。4次会もやる。「アフリカ」「サーカス」という名前のちょっとハイカラなカフェバーか、「厭離穢土」というショット・バー(仏教用語だがバーの名前なのだ)、また夏なら鴨川の床で飲んだこともあった。
 これで、京都での飲み会は終わり。小生たち神戸大阪組は四条河原町から阪急に乗って大阪は梅田まで。梅田でも飲む。5次会である。神戸まではたいてい最終電車だった。それに乗り遅れたら、カプセルホテルかサウナで泊まる。当時の勤務先は北区中津だったから、神戸の自宅より梅田に泊った方が近い。
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宝くじを買った

2012年11月27日 | とつぜん日記
 年末ジャンボ宝くじを買った。小生、ギャンブルはやらぬが、この宝くじだけが小生のやる賭け事だ。小生の乏しい小遣いで買うのだから、そんなに沢山は買わない/買えない。せいぜい10枚か20枚といったところだ。
 ニュースを観ると、大きな売り場には長蛇の列とあったが、小生はJR神戸駅構内の売り場で買った。なんのことはない、すぐ買えた。当たると評判の売り場では多くの人が沢山買っているが、かような売り場では沢山売れるのだから、高額当選が出る確率が高くなるのはあたりまえ。ニュースを観ると、大きな束で買っている人がいるが、いくら沢山買っても当たらない時は当たらない、1枚だけ買っても当たる時は当たるのではないだろうか。
 宝くじの楽しみは、獲らぬ狸の皮算用するのことではないか。小生は、物欲が強いから、こんな算段をしてあれこれ楽しんでいる。
 落語の「高津の富」は、本当はすかんぴんなのに、見栄を張って大金持ちぶってる男が、なけなしの金をはたいて買った「ネの1365番」が大当たりする話だが、小生もすかんぴんだが、別に見栄は張ってないつもりだが、素直に、小生の「ネの1365番」が当たって欲しいものだ。
 ま、たいてい300円か600円当たるが、一度だけ10000円当たったことがあった。その金は何に使ったか忘れた。酒か本に使ったのではないか。大阪は中津に勤務先があったころ、3000円当たったことがあった。いつも行ってる立ち飲み屋で、支払いの時、金の代わりにこれでどうだ、と、その3000円の当たりくじを出したら、ご主人、「これ、ほんまに当たっとる」といって、受け取ってくれた。
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レンタネコ

2012年11月26日 | とつぜん映画館

監督 荻上直子
出演 市川実日子、草村礼子、光石研、山田真歩、田中圭、小林克也

 荻上監督の映画が好き。「バーバー吉野」「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」いままでこれだけの荻上映画を観たが、どれも良かった。で、荻上映画の最新作のこの映画も観たわけ。
 いやあ、今回も良かった。荻上テイストいっぱいで、荻上ファンとしては大満足。この映画も例によって、絶妙な「間」の取り方、ほんの少しファンタジー、独特な美術で表現される画面、ほんわかとしたおかしさを持った登場人物、いやされるストーリー、いやあ、荻上直子いっぱいの映画であった。
 サヨコはレンタ猫屋。心に穴を空けてさみしい人に猫を貸す。猫は心の穴を埋めてくれる。夫に先立たれ、一人暮らしのさみしい老婆。家族から浮いている単身赴任の中年男。客の来ないレンタカー事務所に一人だけで勤務するOL。みんな心にぽっかり穴を空けている。
 藤子不二雄の「笑ゥせぇるすまん」も「心のスキマ、お埋めします」と同じようなことをいってるが、あの漫画の場合、客が喪黒の忠告を無視したり、欲をかいて分不相応な要求したため、とんでもない悲劇に見舞われ、最後に喪黒に「ど~ん」とやられる。
 サヨコは喪黒みたいなブラックではない。猫を貸すにあたって事前審査をして、合格したら猫を貸す。喪黒はタダだったが、サヨコはちゃんと1000円取る。
こんな料金では生活できないから、サヨコは別に仕事も持っている。サヨコは株のデイトレーダー、占い師、CM作曲家、ほんとはどれだ。
 3人の猫借り客が出てくるが、料金請求の時のサヨコのセリフはいつも同じ。ところが、借用書の文言や書式が微妙に違う。それにシーンが変わるたんびにサヨコの服装が違う。隣のばあさんはサヨコと顔を合わせば憎まれ口をたたくが、憎まれ口もいつも違う。
 一番でっかい穴を心に空けていたのは、だ~れだ。 
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ゴボウすき焼き丼

2012年11月25日 | とつぜんキッチン

牛丼は好物である。外出していて、ちゃちゃと腹を満たしたい時などよく食べる。いろんなチェーン店があり、いろんな丼が手軽に食える。自分でも牛丼を作って食うが、今日はちょっと違った牛の丼だ。すき焼の残った汁にご飯をぶちこんで食ったらうまい。あのうまさを丼で再現しようというものだ。
 材料はいろいろ入れたいが、ここはシンプルに牛肉とゴボウだけにしよう。小生は豆腐が好きだから、焼豆腐も入れたいところだが、がまんする。シンプルに行くのだ。
 ゴボウはささがきにする。鍋に牛肉とゴボウを入れ加熱。ゴボウは下ゆでしておいた方がいいだろう。酒、味醂、醤油で味付け、少し水を入れよう。牛肉とゴボウに火が通ったら、卵でとじる。丼めしにかけて、三つ葉を飾ってできあがり。
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とりしゃぶ

2012年11月24日 | とつぜんキッチン

 しゃぶしゃぶである。牛や豚のしゃぶしゃぶはよくするが、今夜は鶏のしゃぶしゃぶだ。鶏肉は胸肉使った。タレはごまだれではなく、ポン酢にした。
 鶏胸肉は薄く切る。少し凍らせてから切ると切りやすい。ポン酢は手作りした。なに、難しくはない。醤油、鰹昆布出汁、柑橘類の汁を混ぜるだけ。混ぜ具合はお好みしだい。小生は同量混ぜた。酸っぱいのがお好みなら柑橘類の汁を多く、薄めがいいのなら出汁を、濃いのがいいなら醤油を増やせばいい。テーブルの上にこの3種の材料を置いて、各人がそれぞれお好みのポン酢にすればいい。
 他の具は豆腐、くずきり、えのき、水菜。土鍋に昆布を1枚しいて水を入れて、グツグツいってきたら、具を加熱してどんどん食べよう。今夜のお酒は道灌だ。ポン酢には柚子こしょうでアクセントをつけた。しめはもちろん雑炊だ。
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いい人だったけど首相としてはちょっと

2012年11月23日 | とつぜん日記
 鳩山由紀夫さんが政界を引退する。ほんとは首相を辞めた時点で引退すると、おっしゃってたから、遅きに失した感はある。
 考えてみれば鳩山さんと前阪神タイガース監督の真弓明信さんは似ている。小生、お二方とはもちろん言葉を交わしたこともお会いしたこともないが、テレビ等で、お二方の様子を拝見するに、大変に良い人とお見受けする。真弓さんは監督の時は、選手の悪口やグチをいったことがなかった。鳩山さんは、60代のおじさんとしては、偏屈なところや頑固頑迷な一面は見えなかった。
 ところが、お二方とも良い人、身近にいても圧迫感を感じないお人柄だが、そのお仕事にはむいてなかった。真弓さんはプロ野球の監督という勝負師には不向きな方だった。鳩山さんも同じ。首相というお仕事には不適当なご仁であった。
 考えてみれば、鳩山さんのいって来た事は正解だったのではないか。普天間基地の沖縄県外移転。CO2削減20パーセント。友愛政治。もちろん鳩山さんのいうことすべてを賛成するとはいわないが、この三つは賛成だ。特に普天基地県外移転はできもしないことをいったといって、おおいに反発をかったが、もしできていれば大手柄だっただろう。
 あの時、みんなで鳩山さんのいう方向に支援しただろうか。どっちかというとアメリカの顔色を気にして、鳩山さんの足を引っ張った人が多かったのではないか。鳩山さんを先頭に、みんなで本気を出してアメリカと交渉していたら、ひょっとすると今とは違う結果が出ていたかも知れない。
 大金持ちのボン特有の、浮世離れしたところはあったが、石原や安倍、橋下らのいうことより、よっぽど鳩山さんのほうがマシだったのではないか。
 大金持ちの、人の良いおじさん。鳩山さんのようなおじさんが親戚にいてくれたら、どんなにうれしいことか。
 小沢さんを追い出し、鳩山さんを追い出し、菅さんを隅っこに追いやり、反TPPの急先鋒山田さんを追い出し、その他、気に食わんやつはみんな出て行く。これで民主党は野田さんの天下だ。新党が雨後のタケノコのごとき出来ているが、野田さんは、選挙後の民主党を野田新党にしようとしているのだろう。

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12月24日。バー海神にて

2012年11月22日 | 雫石鉄也ショートショート劇場
 12月24日。その老人は毎年この日にバー海神にやってくる。歳は70は超しているだろう。この年代の男としては背が高いほうで、小太り、大柄な老人である。
 見事な光頭で、それを補うかのようにきれいで豊かな白いひげを生やしている。赤ら顔で、日本人離れのした顔はいつも優しい笑顔だ。
 どんな仕事をしているのだろう。もちろんマスターの鏑木はそんなことは詮索しない。ただ、この街に住んでいないと思われる。一度も出合ったことがない。
「鏑木さん、お元気でしたか」
「はい。ありがとうございます。三田さん」
 鏑木が老人について知っているのは名前だけだ。12月24日の9時ごろやってきて、ノンアルコール飲料を飲んで、午後10時には、仕事だといって海神を出る。
「ココアをください」
「はい。今夜は冷えますね」
「ここはアーケードがあるから判りませんが、外は雪が降ってますよ」
「冷えるはずでね。今夜もお仕事ですか」
「はい。まだ配達しなくてならない荷物があります」
「寒いのにご苦労さま」
 鏑木は三田の前に、熱いココアを置いた。バーである海神に、三田は一年に一度やってくる。どうも、仕事の途中の休憩に使っているようだ。この街で、こんな時間に開いている喫茶店はない。だから海神に来るのだろう。
 二人連れの客が入ってきた。若い男女だ。 
「こんばんは鏑木さん」
 男が鏑木にあいさつした。
「こんばんは彦田さん。お二人で冬に来るのは初めてですね」
「はい。今年も夏に逢えなかったので」
 女が答えた。
「そうですね織部さん。7月7日には、あれを用意してお待ちしてましたが」
 この二人、毎年7月7日に海神にやって来る。二人は遠距離恋愛で、仕事の都合で7月の初旬にしか逢えない。彦田は関東、織部は九州で仕事をしている。7月7日の七夕の日に、二人の故郷である、このS市に来て、海神で逢うことにしていた。ところが、ここ数年は、お互いの都合がつかず逢えなかった。
「なんとか、クリスマス・イブには二人のスケジュールが開きました」
「そうですか」
 鏑木は二人がキープしているボトルを出した。ボトルには「ヒコ&オリ」と書いてある。
「いつもはあれを出すんですが、今は冬ですので」
 鏑木は柿の種の小皿を二人の前に置いた。
「あれって何ですか」
 三田が聞いた。
「川津エビです」
 鏑木が答えた。
「おいしいんですか」
「ものすごく美味しいんです。海神の名物なんです」
 彦田がいった。
「小さなエビを揚げたものです。サクサクとしてて、とっても美味しいんです」
「いっぺん星子(せいこ)に揚げてもらったのですが、もひとつで」
「マスターでなくちゃムリよ。伸一」
「コツを教えてもらえよ」
「難しくはありません。油の量と温度です」
「ここは海がない土地なのにエビはどうしてるのですか」
「川津エビは梅雨頃からが旬で、このころになると明石の友人が活けのまま送って来ます。三田さんもそのころに来られたらごちそうしますよ」
「ぜひ、そうしたいのですが、私は暑いのは苦手で」
「ぼくたちもしばらく鏑木さんの川津エビは食べられそうにありません」
「来年の7月も来れないのですか」
「はい。ぼくフィンランドに転勤になりました」
「わたしもついて行くんです」
「ぼくたち結婚します」
「わたしは会社を辞めます。フィンランドで新居を持ちます」
「それは、おめでとうございます」
 鏑木がシャンパンを出した。
「三田さんもごいっしょしてください」
「おめでとうございます。彦田さん織部さん。私は仕事ですからアルコールは遠慮します。ちょっと待っててください」
 そういうと三田は出て行った。15分ほどして戻ってきた。冬なのに汗をかいている。
「これですか」
 三田はザルにいっぱい小さなエビを持っている。ピチピチとまだ生きている。
「どうしたんですか。三田さん」
「私は人が心から欲しがれば、たいていのものは調達できます。長年そんな仕事してきましたから。鏑木さん、調理お願いします」
 川津エビの素揚げがカウンターに置かれた。軽く塩を振ってある。
「これはうまいですね。ビールが飲みたくなります。今度は仕事がないときに来ますよ」
「これで、思い残すことなくフィンランドに行けます」
「今から新居を下見に行きますか。仕事を終わったら私もそこに行きますから」
「え、フィンランドですか?」
「いいからいいから。私について来なさい。それじゃマスター、良いお年を」
 三田はそういうと二人を連れて出て行った。外で鈴の音がした。鏑木が外に出てみると、星空を飛ぶソリが見えた。ソリの後部には二人の人影が見える。

「博士、びっくりしました」
「なんだ」
「こと座のベガがわし座のアルタイルの伴星になりました」
  
 
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とつぜん対談 第46回 蚊との対談

2012年11月21日 | とつぜん対談
さて、そろそろ寝ようか。お酒もいいあんばいにまわってきて安眠できるぞ。
ん、いまブ~ンといったな。蚊か。こんな季節になってもまだおるんかいな。あ、こんなとこに停まりやがった。ようし。

蚊 
 あ、たたかないでください。

雫石
 うわ、びっくりした。だれがしゃべってんねん。


 わたしです。

雫石
 どこや。どこにおるねん。


 あなたの腕です。

雫石
 蚊やないか。お前がしゃべっとるのか。


 はい。

雫石
 で、蚊がなんの用や。ちゅうても蚊が人間にすることは決まってるな。


 はい。お願いです。あなたの血を吸わせてください。

雫石
 いやや。かゆくなるやんか。


 私はメスです。卵を産まなくてはなりません。栄養をとるため人の血が欲しいのです。

雫石
 よそ行って吸ったらええやん。ワシは嫌やで。


 私はこんな体です。ちょっとの風で吹き飛ばされます。今夜は風が強いです。ほかの家に着く前に死んでしまいます。

雫石
 病気うつされるかも知れんやんか。日本脳炎になったらあかんやろ。


 私はコガタアカイエカではありません。私は病気はうつしません。

雫石
 そんなこと信用でけん。病気うつします、ゆうて血吸う蚊がおるんか。


 私、ジョウモンアカマダラカというめずらしい蚊です。ものすごく少ないのです。絶滅寸前です。私が卵を産まないと絶滅します。

雫石
 蚊なんか絶滅したらええねん。

蚊 
 そんなさみしいこといわないでください。蚊もせいいっぱい生きてます。

雫石
 そんなめずらしい蚊やったらなんで国が天然記念物にせえへんねん。


 蚊だからです。同じ昆虫でもオオムラサキなんかは蝶だから、国蝶といって大切にされます。コウノトリや雷鳥は鳥だから保護されます。蚊なんか、どうなっても知らん顔です。ううううう。

雫石
 泣いとんのか。


 蚊だって生き物です。生きたいのです。うう。

雫石
 判った判った。かゆくなく吸うのんやったら吸うてもええ。


 無理です。血が固まらなくなる液を注入して血を吸うんです。そうしないと固まって吸えないんです。その液がアレルギー起こしてかゆくなるんです。

雫石
 かゆいんやったら嫌や。


 お願いです。あなたが死んで万が一地獄に落ちたら、私が飛んでいって助けて極楽までお連れします。

雫石
 芥川の「蜘蛛の糸」のパクリかいな。桂米朝師匠の「地獄八景亡者戯」を聞くと、極楽より地獄のほうがおもろそうや。ワシ、いっぺん人呑鬼の腹の中であばれてみたかったんや。SFのお仲間と閻魔の庁の前で落ち合う約束しとんや。で、お仲間と「おぇー」「へーくしょん」「あいたたた」「あっはははは」「ぶー」「おぇー」「へーくしょん」「あいたたた」「あっはははは」「ぶー」「おぇー」「へーくしょん」「あいたたた」「あっはははは」「ぶー」をやんのん楽しみにしとんねん。


 しかたありません。どうも失礼しました。さようなら。

雫石
 あ、ちょっと待て。ちょっとだけやったら吸わしたる。
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JR三ノ宮から南を見る

2012年11月20日 | とつぜん日記

 神戸は三宮の朝の風景です。午前7時前。左の建物はそごう。右の奥の高い建物は神戸市役所です。神戸市のシンボル花時計は市役所の北、南側には東遊園地があります。12月6日から始まるルミナリエの終着点はこの東遊園地です。
 この写真はJR三ノ宮駅から南を向いて撮ったものです。今朝はここでJRを降りて神戸市営地下鉄海岸線に乗り換えました。私、通勤はJRと神戸市営地下鉄を利用しております。普通はJR神戸で降りてハーバーランドで地下鉄に乗るのですが、時々、気分を変えるために、三ノ宮で降りて、花時計前で地下鉄に乗ります。今朝はこっちのルートを使いました。どっちで乗っても到着時間は同じです。
 私、健康のために毎日、ひと駅は歩いています。左足の関節を痛めておりますが、装具をつけておりますから、普通に歩けます。今日、神戸から元町まで歩く、明日は元町から三ノ宮、次の日は三ノ宮から灘、灘から六甲道という具合に、毎日、ひと駅づつ歩いてます。総合すると、会社から家まで歩いて帰ることになります。勤務先の兵庫区と自宅の東灘区を何度も歩いたことになります。
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テルマエ・ロマエ

2012年11月19日 | とつぜん映画館

監督 武内英樹
出演 阿部寛、上戸彩、市村正親、宍戸開、笹野高史、北村一輝、竹内力

 小生、原作の漫画は未読だが、この映画は楽しめた。漫画の実写映画化で成功した例は少ないが、本作は成功しているのではないか。
 古代ローマ帝国の浴場設計技師ルシウスは、ローマの大浴場から21世紀の日本の銭湯にタイムスリップする。そこで日本の銭湯を見たルシウス大きなショックを受ける。見たことのない浴場。見たことのない設備。見たことのない壁画。そして見たことのない「平たい顔族」の人々。ローマに戻ったルシウスは、ローマの技術を使って、日本の銭湯をローマに再現する。彼は、ローマの大浴場と日本の銭湯や湯治場を行き来する。そうこうしているうちに皇帝ハドリアヌスの専属浴場設計者となり、日本の漫画家志望の若い女性山越真実と知り合う。
 阿部演じるルシウスのキャラがいい。生真面目で常に頭の中は、お風呂の設計でいっぱい。お風呂バカ。とうとう奥さんにまで浮気され逃げられる。
 日本で見てきたいろんなモノを知恵を絞ってローマで造る。湯治場の「平たい顔族」とも知り合うが、間に立ったのが上戸演じる真実。タイムスリップして場面が替わるだんびにオペラ歌手のおっさんが、なんの脈略なく出て来て「だれも寝てはならぬ」を歌う。
 ローマ帝国の歴史の勉強になるし、ローマのシーンの映像も、日本の湯治場の映像も見事だ。最後に、山越真実がどういう人物であったが明らかになる。ルシウスと真実が安易に恋愛関係にならず、二人が別れる場面もあっさりしていて、日本映画独特のベテベタの愁嘆場にしなかったのが大変良かった。
 大変面白いコメディで、後味の良い映画であった。


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ソーセージご飯

2012年11月18日 | とつぜんキッチン
 
 

ソーセージの炊き込みご飯である。中華料理に辣腸(ラーチャン)飯といって中華のソーセージ辣腸を炊き込んだご飯がある。辣腸を手作りしてやろうと、調べてみたら大変で、1週間ぐらいかかる。辣腸手作りはネの1365番の一番富が当たって、会社を辞めてたっぷり自由時間ができてからの楽しみに取っておこう。南京町を探したが適当なものが見つけられなかった。
 普通のウィンナーソージでやることにした。別にむつかしいことはしない。ウィンナーソージを食べやすい長さに切って、お米といっしょに炊き込んだだけ。ソーセージからしみ出た肉汁がご飯にしみておいしい。
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大学いも

2012年11月17日 | とつぜんキッチン

 最近は機会がなくて、ごぶさただが、中華料理の宴会で、コースの最後にさつまいもを揚げたものに糖蜜をからめたものがよく出てきた。たらふく食べて、ビールも紹興酒も好きなだけ飲んで、お腹がパンパチコンになっているところに、さつまいもの揚げたものなんか食べれない。そういうわけで、小生、このデザートにたどり着いた記憶はあまりない。
 この料理、中華では抜絲白薯(バースーバイシュー)という。同じような料理が日本にもある。それがこの大学いも。なぜ中学や高校ではなく大学なのかよく知らぬが、小生も作ってみた。
 さつまいもを食べやすい大きさに切る。酢水に漬けてアク抜きをしておく。蜜を作ろう。鍋に砂糖と水を入れて加熱。分量は砂糖1カップ水大さじ2というところか。これを弱火で加熱。水飴もちょっと入れた。
 アク抜きしたさつまいもの水分をよくふいて、170度の油で揚げる。竹串を刺してスッと通ればOK。揚げたてのアツアツに蜜をからめて、黒ゴマを振れば出来上がり。熱いうちに食べよう。冷えてくると蜜が固まって、ハシの先がポキッと折れたりする。ハシが折れるとゲンが悪いとか。
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屍者の帝国

2012年11月16日 | とつぜん読書室

伊藤計劃×円城塔         河出書房新社

 本書を読んで、あらためて伊藤計劃の死を惜しく思う。伊藤計劃が単独でこの作品を完成していたら、ものすごく面白い冒険SFになっていただろう。
 数年前、伊藤が生前に書いた冒頭30枚がSFマガジンに載った。ものすごく面白く、後を読めないことが大変に残念に思ったものだ。その作品が完成した。伊藤の遺志を継いで完成したのは円城塔。喜んだ。そして不安もあった。小生は円城塔はよくわからぬ。現代のSF作家としては、最もノッテる作家だとは思うが。円城の作品のどこが良いのか理解できない。これは、たんに小生がアホだから円城塔が判らないのか(そういえば元都知事も円城塔は判らんとおっしゃってた。小生がアホだとすると元都知事もアホだな)、アホではないが小生と円城塔はソリが合わないのか、自分ではよく判らん。
 結論をいう。不安が的中した。第1部は面白かった。ところが第2部、第3部と話が進むに連れて、あたかもマラソンランナーが息切れするように、面白くなくなり、わけが判らなくなり、第3部の後半からエピローグにかけては、もうぐちゃぐちゃ、何をウジウジゆうとんねんという感じ。
 主人公は医学生のワトソン。後にシャーロック・ホームズの相棒となる、あのワトソンと思われる。19世紀。死者に擬似霊素をインスツールして、屍者として蘇らせ労働力として使用している。ロボット3原則のような屍者3原則もあって、屍者は文明を支える最重要なものとなっている。
 ワトソンはイギリスの秘密情報機関「ユニヴァーサル貿易」のエージェントとして世界を駈ける。同行するのは豪傑バーナビー大尉。屍者の書記フライデー。
 アフガニスタンの奥地に屍者の国を創ろうとしている男がいる。この企みをロシアのエージェントとともに探りに行くという、映画「地獄の黙示録」を彷彿とさせる話が第1部。そして第2部では日本に飛ぶ。アメリカに渡って、イギリスに戻って来るというのが大まかなお話。いちおう本書は冒険小説に分類されるかと思うが、円城塔は冒険小説にむいていない。円城の描くキャラは行動しない。うだうだと講釈をたれるだけだ。
 500頁近い分量だが、全部読むことはない。第1部だけ読めば充分だ。つくづく残念なり。伊藤計劃が全部書いていたらなあ。
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