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とつぜん上方落語 第38回 犬の目

 上方落語には病気がネタの噺がいくつかおます。「夏の医者」では熱中症、「蛇含草」は食いすぎ(食いすぎが病気かどうか知らんけど)「癪の合い薬」では癪(いまでいう胃けいれんやな)。病気がネタですから、医者が出てくるわけですが、落語に出てくる医者はロクな医者はおまへん。寿命医者、なんでも、ご寿命ですな。葛根湯医者。どんな病気でも葛根湯を処方する。
 手遅れ医者。「手遅れじゃ。なんでもっとはよう連れてこんのじゃ」「先生、これ、いま屋根から落ちたばかり。これで手遅れじゃ、いうんならいつ連れてきたらええんじゃ」「屋根から落ちる前ならなんとかなる」
 病気の落語の中にも眼病の噺は、ワシの知ってる限りでは「景清」と「犬の目」ぐらいかな。この「犬の目」に出てくる眼医者もええかげんな医者で、患者の目玉をくりぬいて水で洗うというのんが治療。で、陰干ししていた患者の目玉を犬に食われてしまう。しかたないので、犬の目を患者に入れますのんや。
「おお。どうですかな。その後目の具合は」
「よう見えるようになりましたわ。暗闇でも見えますねん」
「それはけっこう」
「ところがね。先生、電柱みたらおしっこしたなりますねん」

 それからX年後。人工の目が開発されました。人工眼球です。重症の眼病の患者は手術するより、人工の目を装着するようになりました。ミクロサイズのカメラが仕込んであって、極細の線が視神経につながっていて、視覚が蘇ります。

「あ、しもた。社外秘の新製品のサンプルを北側眼科に忘れてきた。ま、ええわ。今度取りにいこ」
「中川さん。どうぞ」
「どうですか」
「もう痛くないです」
「どれどれ。うん。眼用のコネクタがええぐあいに眼底に定着しました。人工眼球を入れましょう」
「はい」
「おい。前田くん。中川さんの目を持って来て。ほら、保管庫の上の棚の一番右のやつ。ザルモのXL-221RPや」
「う~ん。どれかな。これやろ」
「はい。先生」
「では、中川さん。人工眼球をいれます」
「どうですか。中川さん、人工眼球は」
「よく見えますわ」
「それは良かった」
「ただ、不思議なことが」
「ほう。なんです」
「大阪の埋め立て地が見えるんです。そこに大ぜいの人が来てます。どうも博覧会みたいなんですが」
「それ、2025年の大阪万博みたいやね」
「なんで6年先の未来が見えるんですか」
「先生、ちょっと」
「どうした前田くん」
「ザルモのプロパーの河合さんが」
「なんや河合くん」
「先生、すみません。試作品の人工眼球ML-221RPをわすれてませんでした?」
「あああ」
「どうした前田くん」
「すみません。中川さんの人工眼球を間違えて持ってきました」
「すると中川さんに入れたのは試作品のML-221RPか」
「はい」
「河合さん、試作品の人工眼球ってどんなんですか」
「予言者用の人工眼球です」

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