ル=グウィンの『ゲド戦記』シリーズのあとしばらくたった書かれたファンタジー。少年オレックと少女グライの物語。
オレックはカスプロマントの跡継ぎで、代々「もどし」のギフトを継承することが期待されている。グライは隣国のロッドマントの生まれで、母から「呼びかけ」のギフトを継承している。「呼びかけ」のギフトは動物たちを呼び寄せるもので、動物たちにとって狩られるという負の部分と人間に飼いならされるという正の部分をもっている
オレックの母のメルは低地の生まれで、オレックの父カノックが「もどし」のギフトと交換に手に入れた低地から贈られた「ギフト」でもある。低地の人々から、カスプロマントなど「高地」の人々は魔法使いとみなされていたが、その低地からやってきたエモンという流れ者とオレックとグライの会話から物語が始まる。
「もどし」のギフトを継承できているのかどうかオレックには自信がない。「もどし」のギフトは眼差しを対象に向けると対象を破壊してしまうという暴力的なギフトだ。ある時、オレックには自覚がないままに、飼い犬を殺し、蟻塚とその周辺を破壊してしまう。父がそばにいたのだが、父はその眼差しを封印しなければ危険だという。カッダートという偉大な祖先は荒ぶるギフトを封印するために目隠しをしたという故事にならってオレックは目隠しをして暮らすことになる。
敵対する隣国ドラムマントとの応酬で、その支配者のオッゲの「すり減らし」のギフトによって母メルは衰弱死し、オッゲを「もどし」のギフトで殺すが、自らも矢を受けて命を失った父カノック。父の死をきっかけにオレックは新たな旅立ちを決意する。
狩りのために動物を呼び寄せるために「呼び寄せ」のギフトを使いたくないグライと自分自身が父からギフトを継承していないことを自覚し、母から受け継いだ物語を記憶し、創り、語る力を自覚したオレックは、彼らの能力を「低地」で活かして暮らしてみないかというエモンの言葉に導かれるように、ふたりで新たな旅立とうとするところで、年代記Iが終わる。
次の物語が楽しみだ。ただ、ギフトというと、贈物という訳語を思い浮かべてしまうが、賜物つまりは、才能という意味も含んでいることがこの物語の重要なポイントである事を忘れてはならない。