限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第280回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その123)』

2016-11-03 20:53:14 | 日記
前回

【222.当然 】P.1666、AD133年

『当然』を英語に訳すと、「certainly, without doubt」となるが、訓読すると「当(まさ)に然るべし」となるので、「as it should be」の訳が最適であろう。二十四史(+資治通鑑+続資治通鑑)で検索すると後漢書が初出であるので案外と新しい単語であると分かる。資治通鑑では9回見られるが、その初出の部分を見てみよう。

時は、後漢の順帝の時代、順帝の乳母の宋娥(以下、文中では宋阿母、あるいは単に阿母)が侯に封じられた。これに対して、儒者たちが反発した。その理由は、前漢の劉邦が定めた「非劉氏不王、非有功不侯」(劉氏以外の姓は王にしてはならない、功績がない者は侯にしてはならない)という掟に反するという理由であった。

しかし、論理だけでは動かないのが中国の帝王だが、好都合(?)なことに、地震のせいであろうか、地面に 200メートル(85丈)にもわたって大きな亀裂ができた。天人合一思想を信じていた古代の中国人にとっては、これは政治に対する天からのイエローカードであると受けとった。順帝はイエローカードにびびって、臣下や儒者たちから意見を求めた。この時、李固が次のように述べて、順帝の誤りを指摘した。

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…宋阿母の陛下にたいする功績は大きく、まめに仕えていると言っても、それだけならボーナスをはずむことで、その苦労に報いればいいはずです。しかし、一国を分け与え、封侯するなどとは、実に我が漢の伝統に反することです。仄聞するところによると、阿母自身はまことに謙虚な方で、必ずや今回の封侯は辞退されるに違いありません。陛下、どうかその辞退を受け入れ、宋阿母が安心できるようになさって下さい。今までの歴史を見ますと、后妃の家で、長く続いている家は至って少ないのは、もともとそういうもの(当然)なのでしょうか?そうではなく、爵位を受け、高貴な身分になると、つい傲慢になり権力を独り占めしようとし、悪事の限りを尽くすのですが、それが我が身にふりかかるとは知らず、結局は破滅してしまうのです。

…今宋阿母雖有大功、勤謹之徳、但加賞賜、足以酬其労苦;至於裂土開国、実乖旧典。聞阿母体性謙虚、必有遜譲、陛下宜許其辞国之高、使成万安之福。夫妃、后之家所以少完全者、豈天性当然?但以爵位尊顕、顓総権柄、天道悪盈、不知自損、故致顛仆。
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李固はじめ、多くの儒者が宋阿母の封侯に反対の意見を述べたので、順帝も任命を撤回した。


 【出典】《泰山松雲》

このように、中国では天災がある都度、朝廷や王宮の中に何らかの不祥事がないかを検討することが頻繁に行われる。つらつら考えるに、天災などはしょっちゅう発生しているのだから、官僚や儒者たちはこの時に、普段から言いたかったことを思い切って述べることができた訳だ。好都合なことに、中国の朝廷や王宮では不祥事の絶えることがなかった。

理論的には、まったく箸にも棒にもかからない、きわめつきの、がらくた理論である「天人合一思想」(天人相関説)は、図らずしも「言路を開く」(言論の自由)という用途には ― 全く、怪我の功名と言うしか他ないが ― 非常に威力を発揮したということになる。

さて、現在(2016年11月)、韓国では、朴大統領の友人(あるいは、グル?)の崔順実(チェ・スンシル)が逮捕されて大騒ぎとなっているが、上の文を読んでいると、「何とまあ、2000年も前から、崔順実の運命がぴったりと予言されていたことよ!」と感嘆せざるをえない。李朝の宮廷ドラマの現代実写版とも言える、韓国のソープオペラは、これからもまだまだ続くことだろう。 Stay tuned!

続く。。。
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