限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

想溢筆翔:(第273回目)『資治通鑑に見られる現代用語(その116)』

2016-09-15 09:32:52 | 日記
前回

【215.節度 】P.3806、AD429年

『節度』とは「行き過ぎのない適当な程度。ほどあい」というのが現代の意味である。つまり「限度」を外れない、ということであろう。

しかし、漢文ではニュアンスがすこし異なる。例えば史記の天官書の冒頭には北斗七星は世の中の規律の定める重要な星だとして次のような記述が見える。

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史記(中華書局):巻27(P.1291)

北斗七星というのは、所謂「旋、璣、玉衡は七政を正す」と言われている星である。…陰陽や四季の区別を立て、五行を均等に巡らせ、二十四節気などの時節を的確に定める。これら全ては斗の働きである。

北斗七星、所謂「旋、璣、玉衡以斉七政」。…分陰陽、建四時、均五行、移節度、定諸紀、皆繋於斗。
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このように、節度とは、定められた順序のことを指す。辞源(1987年版)によると『節度』とは「謂、節序度数」と説明する。つまり、現代使われている「限度」のニュアンスより、「定められたルール」というニュアンスの強い語であることが分かる。

しかし、いつからかは分からないが、現在用いているような意味にも解釈される文がある。資治通鑑の宋紀の部分を見てみよう。

劉宋の文帝(劉義隆)が異母弟で江夏王の劉義恭に、王族としてのあり方を諭した手紙の中に見える。

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…自分の身分が貴いと考えて人に接すると、人は付いてこない。しかし、態度に威厳が備わっていると、人は従う。これはそれほど難しいことではない。音楽や園遊は度を過ごしてはならない。賭け事や飲酒や狩りは一切してはならない。お供の者も、自分自身も節度を守れ。華美な服や珍奇な品物に耽ってはならない。

…以貴凌物、物不服;以威加人、人不厭;此易達事耳。声楽嬉遊、不宜令過;蒲酒漁猟、一切勿為。供用奉身、皆有節度、奇服異器、不宜興長。…
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上の文章が書かれた時期も含め、文帝の目配りの行き届いた政治運営によって、一時の平安が訪れた。これを「元嘉の治」というが、文帝の政治姿勢はまさにこの文に書かれたようであったのだろう。



私の本、『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』(P.122-123)では、中国人は気質的に派手なことが好きであったと述べた。
「…そもそも人口が多く、資源にも恵まれた中国人は派手なことが気質的に大好きであった。…経済性を無視して、どでかいことを好む中国の国民性を言っているのである。「地大物博」を誇り、何かにつけケタはずれの物量を誇るその稚気(childishness)にあきれかえる。…」

中国人の派手好みの伝統を考えると、残念ながら、文帝の忠告もどの程度実行されたか、疑問視せざるを得ない。

続く。。。
コメント
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