アベノミクス3本目の矢、成長戦略が大事であるとよく言われる。その点についての僕の考えは、4月19日付けレポート「アベノミクスのアキレス腱」で述べたのでご参照いただきたい。僕がそのレポートを書いた4月19日に安倍首相は、日本記者クラブで記者会見し、6月にまとめる成長戦略の第1弾を発表した。そのなかに女性の活躍を成長戦略の中核と位置づけるというものがあった。そのための施策として、今年度から2年間で20万人、5年間で40万人を保育する環境を整えて待機児童ゼロを目指すという。首相は「女性の活躍は成長戦略の中核をなす」との考えを表明した。なぜなら、日本では働く女性の約6割が第1子の出産を機に退職する。20歳代後半から30歳代の女性の就業率が低い状態を改善できれば、国内総生産(GDP)の押し上げにつながるからだ。
その点については以前にレポートで書いている。昨年12月6日付け「ダブル・ファンタジー」ではこう述べた。「日本もEU並みとは言わないものの、強い意識を持って女性の幹部登用を目指すべきだろう。(中略)日本の女性の労働参加率は62%程度で、これをG7並みの70%にすればGDPが0.25%上昇し、北欧並みの80%にすれば0.5%上昇すると国際通貨基金(IMF)は提言している。」
しかし、である。マクロ経済学的に言うと、GDP成長は、生産性の上昇、資本投入量の増大、労働投入量の増大、の3つの要素によってもたらされる。では日本の低成長は、労働投入量が問題なのか?労働力不足がボトルネックになって成長がストップしているのか?そうではないだろう。大企業はリストラの余地がまだまだある。日本では、それこそ規制に縛られて企業は人員整理がしにくいからだ。むしろ労働力は設備同様、供給過剰であろう。それが需給ギャップを生みデフレの一因となってきた部分がある。
無論、先を展望すれば少子高齢化やシニア世代の大量退職で日本の労働力は不足する懸念はある。しかし現在のところは到底、そうは思えないのだ。現在でも人手が足りないところはある。北陸新幹線工事に沸く富山県では重機の運転資格者が足りず、他県からの人員も含めて争奪戦になっているという。では、女性の登用を、と言っても北陸でショベルカーを操作する女性がどれだけいるだろうか。結局、女性の進出は中央都市部のホワイトカラーの世界で顕著になるだろう。結果的に起こるのは、前出のレポートのなかでも紹介した第一生命経済研究所の永濱さんが著書『男性不況』で指摘されたように、女性の社会進出でサラリーマンのオジサンたちが割を食ってはじき出されることになるだけだ。
産業競争力会議や規制改革会議で進んでいる議論のひとつに解雇規制の緩和がある。衰退産業から成長産業に人材を移動しやすくし、経済の活性化につなげる狙いがあるという。非常に重要なポイントだと思う。今の日本の労働市場の問題点は、単純な労働力不足ではなく雇用と機会のミスマッチだからである。
女性の登用で能力の低いオジサンたちははじき出されるだろう。解雇規制の緩和が進めば企業にとっては不要なオジサンを整理しやすくなる。会社への貢献度が低く会社にしがみつくだけの人材が有能な女性にとって代わられるとすれば、企業の生産性もあがるだろう。そう考えると安倍首相の「女性の活躍は成長戦略の中核」ということの主眼は、マクロ経済学的見地からの労働投入量の増大ではなく、生産性向上に置かれているのではないだろうか。