「政府・日銀・公的年金には見える手」により 官製相場が到来する可能性が高い理由とは?
藤井 英敏
日経平均株価は2月12日(金)の1万4865.77円でようやく底入れたようです。
欧州発の金融システム不安が沈静化したことに加え、円高・株安を受け、わが国政策当局の動きが慌ただしくなったことで、投資家心理が改善しつつあります。2月15日の日経平均株価は前週末比1069.97円高の1万6022.58円と、3日ぶり1万6000円を回復し、上げ幅は今年最大で、昨年9月9日の1343.43円高以来の大きさでした。
ドイツ銀行の債券買戻しにより
株式市場のムードが一気に改善された
まず、ドイツ銀行は12日、自らが発行した総計で6000億円規模のユーロ建てとドル建て債券を買い戻すと発表しました。高リスクの偶発転換社債(CoCo債)は対象外で、また、過去の金融商品の不正取引に伴う巨額な訴訟コストは2016年決算でも重荷となる見通しです。しかしながら、今回のドイツ銀行の対応を受け、日米欧の株式市場で金融株が大幅に反発し、市場のムードが大幅に改善しました。
また、12日に黒田日銀総裁が首相官邸を訪れ、安倍首相との「定例の意見交換」を突然開始、同じタイミングで為替介入の決定にかかわる財務省の浅川財務官が官邸入りしました。
これを受け市場では、今後、市場が混乱するようなら日銀が臨時会合を開き、追加の金融緩和を行うことや、財務省が円売り・ドル買い介入を決断・実行することへの期待が浮上しました。実際、麻生財務相は「伝家の宝刀」の為替介入について、「必要に応じて適切に対応していく」と話しています。そして、日銀の中曽宏副総裁は12日、マイナス金利政策に関して、「さらに引き下げることも技術的にできる」と述べ、今後必要があればマイナス幅の拡大を検討する考えを示しました。
なお、15日発表の15年10~12月期GDP速報値は、実質で前期比0.4%減、年率換算では1.4%減と2四半期ぶりのマイナス成長でした。一方、16年1~3月期については、現時点ではプラスに転じるというのが市場コンセンサスのようですが、年明けからの円高・株安で、企業経営者、及び富裕層を中心にした家計のマインドが大きく冷え込んでいる可能性があるため、2四半期連続でマイナス成長となる可能性は排除できません。
一方、民主党の岡田代表は14日、足元の円高・株安を受け、「アベノミクスの破綻」という観点で、衆院予算委員会などで安倍政権の「失政」を追及する方針を示しています。つまり、円高・株安という経済問題が、政治問題化しつつあります。このため、政府・与党は、野党からの攻撃をかわすべく、何らかの対策を打つ可能性を、市場は感じ取っています。もちろん、石原経済財政・再生相は15日、追加的な経済対策は現時点で不要との考えを改めて示していますので、現時点では、そのような財政出動期待は、あくまでも市場の一部にとどまっています。
急激な円安に政府・日銀による介入説も
1ドル=110円防衛ライン・介入観測が燻り続ける
ちなみに、日本時間の11日夜、欧米の外国為替市場で円相場が一時、1ドル=111円台半ばから113円台前半へと2円近く下落する場面がありました。この急激な動きは、「政府・日銀による円売り・ドル買い介入ではないか」との観測が浮上したからです。これについては、麻生副総理・財務相は12日、「この種のことに大臣がコメントすることはない」と述べるにとどめています。
しかし、市場の一部では、1ドル=110円を防衛ラインとした介入観測というか、介入期待が市場の一部で燻り続けています。また、その際には、介入で金融市場に放出した資金について、日銀が吸収を見送る「非不胎化介入」を行い、金融緩和効果を促すのではないかとみられています。
GPIFの運用成績大幅赤字回避のため
3月までに円高・株安対策が打たれる可能性も
ところで、政治問題化で、野党がアベノミクスを批判・攻撃する場合の最大の対象は、国民の関心が高い「公的年金」でしょう。実際、安倍首相は15日の衆院予算委員会で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用損が株価下落により拡大しているとの指摘を受け、年金受給額の減額の可能性もあるとの認識を示しています。
GPIFの2015年7~9月期の運用成績は7兆8899億円の赤字でした。GPIFは14年10月末の運用改革で株式比率を国内外それぞれ25%に高める方針を決めました。このため、債券中心に安定運用していた時に比べると、当然ですが、運用成績が株式相場に大きく左右されます。昨年10~12月はともかく、今年の1~3月が再び大幅赤字になったら、これを野党が攻撃・批判する見通しです。よって、3月の年度末を控え、前倒し的に政府・与党が、何らかの円高・株安対策を講じる可能性は低くはないとみています。
このように、政策発動期待があるため、今までと違い、日本株は「下がり難く」なったと考えます。
投資戦略的には、日経平均株価が5日移動平均線を下回ったら、「無理せず、株式投資は控える」という基本戦略に変更はないものの、「安易な空売り」は控えた方がよさそうです。「神の見えざる手」ではなく、「政府・日銀・公的年金には見える手」により、日経平均株価が仕手化するリスクが高まったと考えるからです。取り敢えず、3月一杯は、そのようにみておいた方が無難でしょう。
また、想定するような官製相場が到来するようなら、個別銘柄をチマチマ選んで買うよりも、株価指数を買う戦略をお勧めします。具体的には、指数連動のETFや、日経平均株価先物・コール・オプションの買いです。5日移動平均線を割ったらロスカットという基本を守りつつ、今は、政策期待を背景に「攻めに転じるタイミング」と認識しています。