創業者とその親族とみられる売り出しの実施状況を集計した。新規上場時を除く件数は1~9月に25件と、前年同期の2・5倍に増えた。このうち4月以降は18件で、金額は230億円と前年の14倍になる。
特に9月は8件と多い。KADOKAWAの角川歴彦会長は同社が発行している全株式の4・5%にあたる124万400株を売り出し、42億円を手にした。居酒屋運営のエー・ピーカンパニーの米山久社長、携帯電話販売のクロップスの前田博史会長らも持ち株の一部を売却した。
6月には食品スーパー、ヤオコーの川野清巳前社長、5月にはジェイアイエヌの田中仁社長が株を売り出している。
一方で売り出しの仕組みを使わずに、保有している株を市場で売却する例も目立つ。スマートフォン(スマホ)向けゲームのコロプラの馬場功淳社長は8月、発行済み株数の10%相当を推定140億円で売却。楽天の三木谷浩史社長と妻の晴子氏は7月までに約3600万株を売り、売却額が約400億円に上ったとみられる。
大株主である創業者らの保有株が市場に出回ると、株価には一時的に下落の圧力がかかりやすい。ただ、創業者やその親族などが多くの株を持つ新興企業の場合、一般の株主が取引できる株数が増え、その後の取引が活発になりやすくなる効果もある。
税制の優遇で株式の譲渡益にかかる税率は10%に抑えられてきたが、来年には20%に戻る。税負担が増す前に、保有株の処分を済ませたいと考える創業者らは少なくない。市場では「優遇税制が切れる年末に向けて、創業者やその親族の売り出しがさらに相次ぎそうだ」(国内証券アナリスト)との声も出ている。
▼上場株式の売り出し 大株主などが保有するまとまった数の株式を、不特定多数の投資家に広く公平に売却する制度。売却価格をあらかじめ決め買い手を公募する。売り出し直前の株価より価格を割り引くケースが多く、価格面のメリットから投資家の人気を集めやすい。2013年の売り出しの合計額は新規上場による売り出しを除き9月までに1兆1000億円と07年以来の高水準。
▼証券優遇税制 上場株式の配当や譲渡益に対する課税を20%から10%に軽減する制度。株式市場の活性化を目的に、2003年度に導入された。14年1月の少額投資非課税制度(日本版ISA=NISA)の開始に伴い、優遇税制は今年末で廃止になり、来年から20%の税率に戻る。