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ひとり考え続けていることを公開しています。また、文学的な作品もあります。

詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5404-5407

2023年10月31日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5404
鏡に映る自分に
ひとりでいても
軽くとまどうことがあり



5405
たぶん鏡慣れた女性なら
鏡の映す姿と
対等に渡り合うのかもしれない



5406
時折意識する鏡の中の姿と
取りあえずの
折り合いを誰もが付けているようだ



5407
日に一度は鏡の前に立つが
大体において
自然にスルーして鏡に背を向ける


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5400-5403

2023年10月30日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5400
決まってその曲がり角で
そんな曲がり方をする
自分にふと気づくことがあり



5401
曲がり角で他人にぶつかったり
ぶつかりそうになったり
ひやりとすることもある



5402
そんなヘンな自分が
嫌になったり
ふしぎに思えたり



5403
けれど誰もが曲がり角で
いろんな色合い放ちながら
にんげんの道を曲がっている


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5396-5399

2023年10月29日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5396
ことばの人となってしまっているから
言葉数が少なくても
その言葉も沈黙もことば色をしている



5397
ついにきっぱりと別れてしまっても
降り積もった時間から真っさらなお互いへ
は戻れないことば人(びと)



5398
人や生きものの遙かな果てしない無言葉期は
想像もできないが
ことば人から想像するしかない



5399
そこから浮上してことばの人になってしまったんだから
人や生きものの無言葉期も
ぼくらと微かなことばつながりがありそうだ


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5391-5395

2023年10月28日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5391
物語の語り手〈私〉ミミには美鈴の語る言葉は
きれいな文字になって
こぼれ落ちるのが見える



5392
『吹上奇譚』第四話ではミミの母にも
美鈴の語る言葉は
文字となって見える



5393
初めは作者の荒唐無稽な話と思ったが
『カエルの声はなぜ青いのか?―共感覚が教えてくれること』
に人の語る言葉が文字に見える話があった



5394
それは一風変わった街に住む人物たち
がそんな普通の世界から一段下った
こわれやすい柔らかな世界を生きて呼吸する喩なのだろう



5395
そうしてそういう世界を記述し見渡す
作者もまた
そんなことばの人の姿で立っている
 
註.吉本ばなな『吹上奇譚』第四話まで読み終えて。


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5387-5390

2023年10月27日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5387
人は あれもこれもそれも
考えてきた
たくさんたくさん考えてきた



5388
人は くり返しくり返し
考えてきた
それでも解けない曇天が続く



5389
数千年の闇から ぱあっと
秋の青空みたいに
解が打ち上がり広がるといいな



5390
けれど わからないことが多すぎる
あれもそれもこれも対立しこんがらがって
うーん よくわからないな


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5383-5386

2023年10月26日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5383
昨日と同じ言葉通り
を歩いている
のに何か少し違う風を感じる



5384
それは言葉にはならない
通りを流れる
風の匂いのようなもの



5385
(ああ あれ あれ・・・)
と言葉が浮かばない
今日の予定表からこぼれているもの



5386
そんな新しい脇道
の予感が流れる
朝の光を浴びることがある


画像詩 #9 昔は・・・

2023年10月25日 | 画像・詩シリーズ
 昔は・・・

時間を下ってゆく
もういろんなものが
霞(かす)んでいる
それでも
ふとしたことで
記憶が立ち上がることがある

行政用語の正式名称は知らないが
老人ホームらしきものが
前方にある
ずっと昔 社会党の市議会議員をしていた人が
建てたという話を聞いたことがある
どういう事情で
どういう理念を持ち
始めたものか知らない
中の利用者が
快適なのか 問題ありなのか
まったく知らない
建物が三つ四つと増えてきたのは知っている

よく知らない距離感で
建物たちが見える
逆に
畑にいるぼくも
向こうの中の人たちから
色んな視線で見られているのかもしれない

時間をさらに下ってゆくと
そこは小山だった
小さいぼくらは
夏には小山の手前の川を渡って
小山の中にある赤いヤマモモの実を取って食べていた
もうその木の場所も忘れてしまった

もっと時間を下ってゆく
と 人も少なくなり
風景が変わるのだろう

もっともっと 遙かに時間を下ってゆく
まだ人類が現れる前
それは自然に
火山の噴火の溶岩流が
多良山系を下って行ったのだろう
たぶんその小山もそうしてできた


 

詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5379-5382

2023年10月25日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5379
二昔前と比べて世界が広く近く小さくなり
物や人の交通が
格段に目まぐるしくなってしまった



5380
のんびりゆっくりのリズムでは
昔の民話に足取られ (しまった)
と交通のやり取りを逃してしまう



5381
イイカゲンな人も目立つようになった
ぼくの内にもイイカゲンがあるのだが
スルーとセーブで煮詰めない いい加減よ



5382
しっかり感じ考える人もまた
この世界の思わぬ所にちゃんと控えていて
この世界はいい加減に回っている


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5375-5378

2023年10月24日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5375
学校は窮屈だった
後からの視線では
小さすぎる椅子や机だが そんなことではない



5376
寄せ集められた世界とその出し物を
当然自然
と受けとめることはできなかった



5377
出会ったりぶつかったり手をつないだり
水槽の中
誰もが気ままな泳ぎ方を禁じられている



5378
誰もが有無を言わせぬ見えざる手に押され
歩んできた
あの子は その子は 今どうしているか


詩『言葉の街から』 対話シリーズ 5368-5374

2023年10月23日 | 詩『言葉の街から』
詩『言葉の街から』 対話シリーズ



5368
気になっている言葉がある
〈世界がぜんたい幸福にならないうちは
個人の幸福はあり得ない〉註.



5369
「世界」は、人間界のことか
副詞「ぜんたい」は、すっかりの意味か
主観的な「幸福」は、人間の本質力の十全な発現のことか



5370
それが人類の歴史の時間の中での話なら
理想の明かりの点る道
を人がとぼとぼ歩いて行く姿のことだろう



5371
抽象の論理レベルでは確かにそうだが
しかしそれなら
わずか100年の人の生涯では〈個人の幸福〉は不可能となる



5372
確かにこの世界の不幸の数々が
遠くから 近くから あるいは自身から
今もぼくらの内に影を落としぼくらの「幸福」が陰る



5373
けれど人間的な現実の有り様では
少し違うような気がする
影を振り払うようにあるいは影を忘れて無心に幸福するのだ



5374
それは影差す中の幸福の破片かもしれない
が小さな宝石のように
誰もが深く身に染み味わうのだ
 
5368註.宮沢賢治『農民芸術概論綱要』より。