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ひとり考え続けていることを公開しています。また、文学的な作品もあります。

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.23 NO109~No114(終わり)

2018年03月06日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.23



109
家の内動き出していても
遠目には
まだ眠っている家々朝七時


110
忘れ去るだろうとしても
この朝の
(ごはんおいしいなあ)と一人つぶやく


111
忘れ去っても良いも悪いも
深層流
のようにどこか巡り巡るか


112
幼時より積み重なりの
深層流
人知れずわが内を流るるか


113
病院の内をゆらゆら
少しばかり
泳いではぱんと飛び出る魚のよう


114
晴れの日に気恥ずかしさを
携えて
玄関を出て退院を踏みしめる


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.22 No101~No108/114首中

2018年03月05日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.22



101
今日もまたリハビリ・ジムの
コナミの
バイクこいでどこに行こうか


102
眠った家々の下を行き交う
ライト付けた
車たち冬の早朝

 註.少し開く窓から手を差し出して早朝の寒さ感じて。


103
今日は晴れそうだ
その大空に
二羽の鳥たち午前七時


104
この世のこまごまは誰もが
内側から
ジタバタモクモク潜り抜けていく


105
人の静かな深い湖
靄(もや)に包まれ
言葉はそこに通じている


106
言葉には口に出しても
わからない
ことがあり、ただ表情の立つ


107
音楽は表情
みたいに
心のうねり引き連れてくる


108
病室暮らしにも慣れ
慣れて
もうすぐ〈新人〉として立ちゆく


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.21 No90~No100/114首中

2018年03月04日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.21




90
窓ガラス隔て静かな
朝の景色
動いているのは車だけでなく


91
雲が所々明るい
今日も
晴れ上がるか朝七時過ぎ


92
普通がとっても新鮮に
匂うなあ
と思いつつ朝ごはん食べる


93
見慣れた部屋に何か
置くだけで
ちいさな新鮮が漂い出すよ


94
そうだねえの道を下ると
見知らぬ人
どこかなつかしい顔で現れる


95
少年のはにかみの雲は
次第に
晴れ間と共に散り散りゆく


96
心のかかとを気にしながら
慣れない
靴で入ってゆく未知の部屋


97
小さい頃やったきりの
天気占い
はずしちゃったな 今日は曇り晴れ


98
二筋のヒコーキ雲が
大空に
消え残っている夕暮れ近く


99
しばらくして大空は
平然と
いつもの顔に戻ってしまった


100
人はいつも遅れて出会うか
まったく
すれ違ってしまうことがある


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.20 No83~No89/114首中

2018年03月03日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.20


83
意味もない言葉に反応
してるって?
ただね、言葉の滑り台をすべってんの


84
みんなわけわからんでも
赤ちゃんとは
ことばのしりとりやりとりえーる


85
どんな言葉にも据えてある
お尻席
そこを一番に占めたらラッキーさ


86
うまくいけば退院真近
と告げられて
春の新芽の大気に触れる


87
現在(いま)でも春の日差しは
肌に触れ
心かき立て新芽ふくらむ


88
リハビリの自転車こぎ
10分間
足ダルいに始まり慣れ終える

 註.昨日のリハビリのこと。


89
今日は5分伸びて
15分間
不整脈なく足も胸も耐えきる


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.19 No80~NO82/114首中

2018年03月02日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.19



80
ライトつけた車たちが
アリさんみたいに
行き交っているくもり日の七時前


81
わたしもまたアリさんみたいな
渦中にいた
今は一時(いっとき)のアリさん休暇


82
小型の心電図計も
はずれて
やっと身一つ自由になった


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.18 No74~NO79/114首中

2018年03月01日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.18




74
病気を忘れてしまえば
すっかり
休暇に見える一週間後


75(連作1)
鳥、川原。大気を蹴って
飛び立つ
視界がぐーんと上がり広がる


76(連作2)
旅、言葉。言葉の内側へ
降下する
鳥の目・肌となって目印付けていく


77(連作3)
水、時間。いくつかの水の
層を成し
染み出してくる年輪の異なる言葉たち


78(連作4)
分析、味読。自らを試薬
と変じて
染み出すものに触れ味わう


79(連作5)
鳥川原旅言葉水時間分析味読の旅

 註.太古の天皇の称号を真似して。


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.17 No63~No73/114首中

2018年02月28日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.17


63
朝日受け向こう川沿いに
茶色の
建物が静かに立っている


64
わが妻はその建物に
今日の昼
叔父の四十九日に一人向かう

註.叔父は、わたしの母方の兄弟で、最後の一人。昨年末に亡くなった。


65
車が入ってくる
操る人の
表情が車の顔に出ている


66
ストッパーなく車たち
一つ一つ
デコボコおしりに並んでいる

註.六階のわたしの病室から地上前方の駐車場を見て。


67
前、枯草の川から飛び立ち
右、小山の先へ
飛んでゆく白い鳥四羽、遅れて一羽


68
病室(へや)の外にはまだ出れない
ので中を
歩き回っている(リハビリ兼ねて?)


69
こんなにも晴天なのに
ベランダに
出て日差しのシャワーを浴びれない


70
人はみな不可逆性の
時間道(みち)を
折れ曲がりしながら前進する


71
病室(へや)に居て晴天の日浴び
風に触れ
人気(ひとけ)ない川原道を心は歩む


72
人つながりの小社会
の磁場に
ぐいぐいぐいと人は病に倒る


73
123 323 546 332
人知れず
心足踏む謎のリズムがある


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.16 No53~No62

2018年02月27日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.16


53
ふと夜中に目覚めて
(人生はまぼろしのよう)
と耳に残る言葉を無言でつぶやいている


54
(銀河系の無限遠点からは
無数の明暗の
つぶつぶにしか見えない)が思い浮かぶ


55
そんなことを思っても、また
今日も
この足下から世界ははじまるさ


56
今日はくもり空でも
わたしの
心の空は静かな晴天


57
初期CD三巻を病室(へや)で
十数年ぶりに
聴く、やっぱりいいなタテタカコ


58
にぎやかな抽象の
すべすべでなく
心の肌合いにぴったり音が添う

 註.タテタカコの『そら』『イキモノタチ』『敗者復活の歌』の三巻。よしもとばななつながりで聴き出した。




59
いくつもの検査を乗り越え
今日もまた
ほっと一息つく夕暮れ


60
家々の明かり点々と
向こうの
薄闇に浮かぶ午後七時頃


61
内から見たわけじゃないけど
夕食や
テレビ観てるか金曜の夜


62
心はつながりの糸に
ふと足引かれつつも
ひとり病室(へや)を歩き回っている


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.15 No43~No52

2018年02月26日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.15


43
見慣れた街の光景
雨に煙り
われと共に乗る列島の舟


44
偶然にいま・ここに・いる
と思うこともある
銀河系の舟の方から眺めれば


45
いま・ここの重力下
われらは
様々な自由度の視線の層を持つ



46
若い女(こ)らの笑い声が
聴こえてくる
どんな職場でも笑い声はいいね


47
ここから斜面の森を
下ってゆく
言葉の樹木が表情を変える


48
行き止まりは見えない
そこに立って
見渡せない、言葉の森は


49
小さい子カタカタを押しながら
揺ら揺ら
バブバブ言葉をなめ回している


50
「パリは燃えているか」聴くと
胸キュンと
涙が滲む、見知らぬ老女の不幸によろめくもまた

 註.「パリは燃えているか」(加古隆)


51
新聞もテレビも見ない
いいさ
それくらい、ロクなもんじゃねえ!

 註.ラジカセを病室に持ってきてもらった。


52
『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』
一冊。
やっと よみはじめる

 註.この本は、吉本さんつながりでずいぶん昔に知ったが、とても高価な手の出ない古本だったと記憶する。昨年に手頃な価格の文庫版で復刊された。太古について知るには興味深い三巻本の一冊。

 


[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.14 No23~NO42

2018年02月25日 | 短歌味体 Ⅲ 入院詩シリーズ

[短歌味体 Ⅲ] 入院詩シリーズ・2.14


23
静けさの夜から朝へ
人も部屋も
衣替えしてにぎやかにはじまる

 註.歌人河野裕子を思いつつ。河野裕子は、病床でメモ紙以外のものにまで〈歌〉を書き続けたという。わたしはそこにどこかに述べていた作品を後世に残そうというモチーフではなく、言葉というものに長らく憑かれてきた者の、突き動かされるような熱情を感じるばかりである。




24
管などにつながれて
身動きの
狭い痛いくつろげない


25
明け方に電動ベッド
自分で立て
水一杯飲む、何という自由!


26
六階の病室の
ベットから
見る下界、よお晴れ上がっている


27
やりたいことやれないと
こんなにも
世界はザザザンざらついている


28
自主的なものや場を奪われ
てゆくゆくと
遥か太古の心意に近づくか


29
(おまえは何をしているのだ?)
別に
ただ大空に見入っているだけさ


30
(冷静に眺めれば)現在の医療や看護も
いくつかの
きつい峠を上ってきたのではあろう


31
トーフ屋さんみたいに声出してみる
(あーいうーえお)
ああ大丈夫とほっと息する


32
あそこに頭部分が
見える
遥か昔に通った中学校

 註.夕方近く、窓から外を見ていて。


33
この世界のてつがくを早く
仕上げて
しまわなくっちゃとしみじみ思う

 註.今継続中の『子どもでもわかる世界論』のこと。


34
廊下やどこかの部屋で
言葉たち
が飛んだり跳ねたりしている


35
なつかしい風のように
近くから
流れてきた「ひざぼんさん」

 註.一人住まいのおばあちゃんが向こうの病室で自分の説明で出てきた言葉。


36
人はみな〈物自体〉に
還るまでは
〈物〉になる居心地の悪さに耐えゆく


37
面倒な先々のこと
思いわずらっても
仕方がないその時はその時さ


38
押し寄せるこの重力下
その今・ここ
を歌え、未知も未来もそこに眠る


39
ふだんのネット過多もいいさ
ゆらゆらと
どっかへたどり着くさ、でも今はラジカセ聴いている


40
ベッドに髪の毛散り散り
いつの間にか
羅臼人(らうすびと)からケウス人になったか我は


41
一人住まいのおばあちゃん
病に
足もと掬(すく)われスッテンコロリン

 註.廊下を隔てた向こうの病室から声が聞こえる。


42
不穏不安と煙立つ
山梅村
明日は知らぬが今宵は静かに眠れ