最近、このブログに「PET-CTがん検診センター」(http://ihaku.blog100.fc2.com/)のトラックバックがあった。ときどきPET検査について尋ねられることもあるが、ネット上ではPET検査に関するいろいろな解説ページ(http://pet-first.com/)(http://health.nikkei.co.jp/pet/)(http://www.nmp.co.jp/public/index.html)(http://www.pet-net.jp/)がでている。最近は、PET検査を実施する施設が多くなっており、簡単に検索できるようになっている(http://www.wam.go.jp/iryoappl/menu_control.do?init=y&scenario=b1)(http://pet-first.com/)(http://pet.jrias.or.jp/index.cfm/28,367,95,html)。おそらく、実施施設の増加は、これまでのガリウムシンチ(http://www.hosp.go.jp/~zentuujh/document/kensa/kensa03.pdf)(http://www.shiga-med.ac.jp/~hqradse/riweb/ga.htm)のような核医学検査の保険診療としての需要が増えていることもあるが、検査用放射性医薬品の製造・供給拠点が増えている(http://www.nmp.co.jp/news/pdf/20080507.pdf)ことにもよるのかもしれない。今後、PET用放射性薬剤を製造せずにFDGを購入してPET撮影を行う「デリバリー施設」(http://pet.jrias.or.jp/index.cfm/28,367,95,html)が増えてくるかもしれない。そういえば、以前、こんな報道があった。
「PET検診、がんの85%見落とし…がんセンター調査」(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20060303ik07.htm)。<以下引用>
<国立がんセンター(東京)の内部調査で、画像検査PET(ペット、陽電子放射断層撮影)によるがん検診では85%のがんが見落とされていたことが分かった。PET検診は「全身の小さながんが一度に発見できる、がん検診の切り札」と期待され、急速に広がっているが、効果に疑問符がついた形だ。PETは、放射性物質が含まれた薬剤を注射し、がんに集まる放射線を検出してがんを発見する装置。同センター内に設置された「がん予防・検診研究センター」では、2004年2月から1年間に、約3000人が超音波、CT、血液などの検査に加えPET検査を受け、150人にがんが見つかった。ところが、この150人のうち、PETでがんがあると判定された人は23人(15%)しかいなかった。残りの85%は超音波、CT、内視鏡など他の方法でがんが発見されており、PETでは検出できなかった。がんの種類別では、大腸がんが見つかった32人のうち、PETでもがんと判定された人は4人(13%)。胃がんでは22人中1人(4%)だった。PETによる発見率が比較的高いとされる肺がんでも28人中6人(21%)、甲状腺がんで11人中4人(36%)にとどまった。PETは1994年ごろから使われ始め、現在は100近くの医療機関が導入、多くでがん検診にも使われている。がん検診には保険がきかないため、10~20万円程度の費用がかかる。日本核医学会の調査では、2004年9月の1か月間だけで4600人が受診した。PET検診と温泉ツアーなどをセットにした旅行企画も売り出されている。国立がんセンターの村松幸男検診部長は「PETでは『小さながんを見つけやすい』と言われてきたが、早期がんでは他の検査に比べ検出率が低かった。PET検診の意義は小さいのではないか」と話している。民間医療機関のがん検診では、がんのうちPETで検出されたのは64%、48%などのデータがある。国立がんセンターの超音波、CTなどを併用した検診では、がん発見率は一般の医療機関に比べ高いため、相対的にPETでの発見率が低下した可能性がある。>
日本核医学会・臨床PET推進会議(http://pet.jrias.or.jp/index.cfm/48,html)から、「FDG-PETがん検診ガイドライン 2007」(http://pet.jrias.or.jp/handlers/getfile.cfm/48,75,99,32,pdf)が出ている(http://www.jsnm.org/files/pdf/guideline/44-4guideline.pdf)。p25には一覧表にまとめられており、わかりやすい。それによると、頭頸部癌と悪性リンパ腫は「非常に有用」で「FDG-PET が最も優れた検出方法と考えられる」とされている。しかし、「がん対策推進基本計画」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0615-1a.pdf)p24での5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)について、胃がんと肝がんは「有用性は高くない;偶然,発見されることはあっても感度が低く,FDG-PET をスクリーニングの第一選択とすることには問題がある」とされている。また、がん統計(http://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/backnumber/odjrh3000000o8is-att/DATA04.PDF)で比較的罹患数が多い、前立腺癌、子宮頸癌、腎癌・膀胱癌、食道癌も「有用性は高くない」とされている。肺がん、大腸がん、乳がんについては、「有用性が高いと考えられる」とされているものの、「既に確立した有効なスクリーニング法がある」と記されている。確かに、肺がん、大腸がん、乳がん等を苦痛なく一度に検査できるメリットは小さくない。いずれにしても、がん検診として実施するには正しい理解が不可欠と感じるところである。
ガイドライン(http://www.jsnm.org/files/pdf/guideline/44-4guideline.pdf)p2。<以下引用>
<(2) PET がん検診の有効性に関するエビデンスは不十分であること。
PETがん検診の有効性、すなわちどのがんがどれくらいの精度で発見され、それによって生存年数やQOL がどれくらい延長するかに関しては、十分な臨床データがなくエビデンスが不十分である。一般にがん検診のエビデンスをだすことは容易ではなく、現在普及しているがん検診検査でも、十分なエビデンスなしに実施されているものが少なくない。しかしながら、PET ががんの早期発見に役立つことがあり、また高額の料金を払って受診する人がいることも事実である。したがって、本ガイドライン中にも詳述してあるが、PET がん検診を実施するときは、受診者に対してその限界をよく説明したうえで適切な方法で実施するとともに、エビデンスをだすための追跡調査など臨床データの蓄積に努めなければならない。>
「GE横河メディカルシステム 次世代のSPECT-PET複合機「Infinia8 Hawkeye4」を発売」(http://www.innervision.co.jp/041products/2008/p0805_19pet.html)。
「読売新聞のPET関連記事 (3月3日夕刊)について」(http://medical.nikkeibp.co.jp/all/special/PET/colinter/other/news001.html)。<以下一部引用>
<1. 今回の読売新聞の一連の報道は、最初から「PET検診たたき」の意図があったものと思われ,一般の方にPETが役に立たないような誤解を与えかねません。マスコミの方に聞くと、「よくあること」という答えが返ってきますが、我々、科学の世界に生きる者にとって、バイアスのあるデータをもとに議論を展開することは、断じて許されない事柄です。今後、正確な情報を報道することを切に望みます。
2. 現在、全国で行っているPET癌検診のほとんどは核医学会のガイドラインに基づいたものです。ガイドラインではPET単独では診断できない癌もあるため、 PET単独での検診は推奨していません。そのため、最近導入される機械のほとんどはPET/CTとなり、各施設はPETの弱点を補うため、CTの他、MRI、超音波など他の検査法を組み合わせて、見逃しを防ぐ対策を行っています。陣之内先生のご指摘のように、記事では全然このことに言及しておらず、PET癌検診が85%も癌を見逃すかのような印象を与えていますが、そのようなことはあり得ません。
3. 記事では検診の良し悪しは「検出率」で決まるような印象を与えますが,これは正しくありません。例えば,ある癌の検出率が2%で苦痛を伴う検査と,検出率が1.8%で楽な検査とでは皆さんはどちらを選びますか? 人によっては多少検出率が悪くても,楽な検査を選ぶかもしれません。つまり人間ドックの場合には検出率だけでは判断できない場合があるのです。さらに,内視鏡検査はまれですが死亡例も報告されています(2454万件中520件:0.002%;ただし内視鏡治療も含む)が,PET検査は死亡例0のきわめて安全な検査です。検診の場合,安全性が高いことも重要な要素です。
4. 今回の記事は「検診目的のPET検査」に対する記事ですが,一般の方々には「癌の精密検査目的のPET検査」まで同じように有用性が低いものと誤解された可能性があります。PETの本来の目的は癌の精密検査として,CTやMRIで分からない再発や転移の診断に用いることであり,現在10種類の癌で保険適用となっています。今年4月の保険改訂で医療費抑制を推進している厚生労働省が、さらに婦人科癌(子宮癌、卵巣癌)および食道癌にPETの保険適応の拡大を認めたのも、PETが癌診断に有用性が高い証左だと考えます。精密検査目的のPET検査の有用性が高いことは、読売新聞も以前に報道しています(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/sa511701.htm)。
5. PET検診施設の中には、以前「究極の癌診断」とか「全身の数ミリの癌が分かる」などという過剰な宣伝をホームページに載せていたところが確かにありました。また、マスコミも「魔法の診断装置」的な扱いで、PETの実力以上の能力を喧伝していたきらいもあります。
このような傾向の反動として、今回の記事が作られたのではないかという点は、我々も反省しなくてはいけないのではないかと考えます。今後は、あらゆる機会を通じてPETの正しい知識が浸透していくように努力したいと思います。>
「コンセンサス癌診療におけるPET診断の位置づけ」(http://www.cancertherapy.jp/pet/index.html)
「PET検査 胃や腎臓…低い発見率」(http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20071031-OYT8T00070.htm)。
毎年7月1日現在の施設基準の届出状況(http://www-bm.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0716-3c.pdf)によると、PET検査については、平成18年は病院82・診療所25から平成19年は病院110・診療所34に、PET-CT検査については、平成18年は病院74・診療所28から平成19年は病院118・診療所33に増加している。