ドキメント小説
小室哲哉 最期の真実
TK ~the last success story ~
~「こむろてつやの真実!
今だからこそ、小室哲哉
ノンフィクション小説
total-produced&PRESENTED&written by
Washu Midorikawa
緑川 鷲羽
this novel is a dramatic interoretation
of events and characters based on public
sources and an in complete historical record.
some scenes and events are presented as
composites or have been hypothesized or condensed.
”過去に無知なものは未来からも見放される運命にある”
米国哲学者ジョージ・サンタヤナ
あらすじ
08年11月4日、時代の寵児ともいわれ成功を手にした筈の小室哲哉容疑者(被告)が逮捕された……
それは一大ニュースとして日本中に駆け回った。90年代にかけて、作詞作曲音楽プロデュースで小娘たちを次々とヒットさせて百億円もの大金を手にして富豪となった筈。その小室哲哉(愛称、TK)が5億円の詐欺犯罪を起こした。
大阪で兵庫県の投資家からありもしない自分の著作権(806曲)を譲渡する見返りとして、10億円もらう算段であった。しかし、その詐欺事件を警察が感付き、マスコミもリークした。小室哲哉はこの時、20億円の借金があったという。
この小説は小室哲哉とは何だったのか?
…を問う、最高の書である。
これを読めば小室哲哉の成功と失敗がわかる筈である。
物語を通して人間、小室哲哉の人生と成功と失敗を学んでほしい。 おわり
1 TK 逮捕
『小室哲哉容疑者逮捕へ』
時代の寵児として大富豪にして天才音楽プロデューサといわれた小室哲哉(当時49歳)が大阪地検に逮捕されたのは、08年11月4日の朝だった。
小室哲哉……愛称、TK、先生、小室さん、テツ、テッちゃん……
90年代の日本の音楽(いわゆるJポップ)の音楽プロデューサとして、そして大富豪として有名だった男である。痩せた身体に、茶色の短髪、少し長い顔と大きな鼻、泣き黒子とツリあがった目尻…特徴的な印象を与える当時49歳の中年男である。
声は少し『ガマ蛙』のような声だ。
絶倫でもある。
彼は3度の結婚遍歴がある。女好きで、絶倫…女好きだけは治らない。
最初の嫁は元・アイドルタレントで、2度目の妻は同じく元・dosという音楽グループの小娘、そして最期の嫁が、TK・小室哲哉と同じ音楽ダループglobeのボーカル(歌姫)でもあるKco(KEIKO・ケイコ(当時36歳))である。
Kcoは美貌だし、金髪の長い髪も美しい。
小室哲哉は美女しか相手にしない。デブスなど相手にしてられない。
小室哲哉の妻・Kcoは何も事件のことなど知らなかった。だから、この突然の事件発覚に仰天したことであろう。「何てことなの……? あぁ」
妻・Kcoの痩せた手足や全身を寒気が襲ってきたのである。
誰かが哲哉と妻の運命のバスタブの蓋を開けてしまったため、溢れた金という色の水が音をたててなくなっていくばかりだ。これはえらいことになった。
小室哲哉は自分の身に起こっていることが、信じられなかった。そんなことはない。そんな馬鹿なことはない。もっと贅沢を…出来る筈だ。僕は天下のTK・小室哲哉なんだぜ! しかし、そうはいうものの運命とは皮肉である。
僕が逮捕……? そんな馬鹿な…? おかしいな。しかし、最期の贅沢だと思って大阪の高級ホテルのスウィート・ルームでひとりで一泊した後の早朝、大阪地検の男たちが任意同行を求めてやってきた。小室哲哉は勘づいていた。あの、詐欺事件か…。もう、僕はおわりなんだね…。体中が震えた。……あのときの事か……あの。
そうだった。小室哲哉の思考は当たっていた。そう、詐欺容疑だ。
08年11月4日、詐欺容疑で大阪在中の小室哲哉容疑者(当時49歳、もうすぐ50歳)を大阪地検は任意同行を求めた。ホテルから出るときマスコミのカメラが彼を写している。容疑は、兵庫芦屋市の投資家男性から自分に権利のない音楽著作権を10億円で(逮捕時は5億円)売るからともちかけて詐取したものだった。
茫然と歩く小室哲哉の目にはうっすらと涙があった。
もう90年代に一世を風靡し、『時代の寵児』といわれたTKはすでになかった。そこには”抜け殻”の只の中年痩男・小室哲哉容疑者(被告)がいるだけであった。他に2人が逮捕された。小室は「音楽配信ビジネスに参入したい」という被害者男性を詐欺し、たくみにまずは10億円のつもりで前金5億円を騙しとったのだ。借金の返済におわれてのことだった。それにしても香港での事業の失敗は大きかった。
一説には百億円あったとされる財産は、香港での事業失敗で70億円損失を出していたという。その後も、贅沢三昧の生活や、株の下落などと不幸が重なり、落ちぶれた。小室哲哉没落である。債務は20億円にまでなっていた。借金返済の期限までギリギリ…
もう音楽会社に譲渡して、自分にはないはずの著作権(806曲、Can you SEREBRATE?、Get wild、愛しさと切なさと心強さと…など含む)を10億円で……という皮算用だった。「全部あなたのものですよ」「ぼくはあのマードックとも親しい」「まずは前金の5億円振り込めば、夢の印税生活ですよ」
金が欲しいあまり、道を誤った。こんな筈ではなかった。そう、ぼくは、TK・小室哲哉は大富豪で…そして成功者、『勝ち組』の筈だったのに。おかしいな。いったいいつから、運命の時計の針が狂い出したのだろう? 小室哲哉は頭を傾げ続けた。
マスコミからマイクを向けられ、フラッシュを浴びながらも疑問ばかりが浮かんだ。
何もいいアイデアが浮かばなくなった。現在の音楽創作のように。
他に逮捕されたのが役員を務めるイベント企画会社『トライバル・キックス』社長、平根昭彦(45歳、当時)=東京都港区(5億円受取り、3,4億円返済。TKが金銭管理を委託している男)と、広告会社の実質経営者・木村隆(56歳、当時)=同中野区の2人。 小室は06年7月の詐欺容疑についていう。
「弁解することはありません。被害者には大変申し訳ありませんでした。深く反省しています。刑事責任を取る覚悟はあります」
更には事件発覚前に3000万円を口座に振り込むように、被害者男性に要求するメールを送っていたことも発覚した。小室哲哉の敗北である。
妻のKco(KEIKO・ケイコ)は衝撃で、頭が破裂しそうだった。同じグループでRAPのMARC・PANTHERさん(当時、38歳)は海外にいて連絡が取れない。
完全たるTK・小室哲哉の最期であった。
逮捕を受けて、『エイベックス・グループホールディングス』社は11月26日と12月17日発売予定だったglobeのシングル(『Get wild』と『Self control』(いずれもTM NETWORKのカバー曲))の発売中止を決定した。
更に、インターネットでの小室名義の曲すべての配信も停止した。
時代はもう21世紀……小室の活躍していた90年代ではなかった。かつて、天才音楽家とか時代の寵児といわれてもてはやされた小室哲哉だった。が、もう昔の話しではあった。 皮肉な事か、事件後には『小室哲哉ナツメロ・ブーム』が起きて、カラオケで彼の曲を歌って昔を忍ぶ若者が現れ出した。(音楽著作権譲渡の為に小室への還元金は無し)
生活費210万円(月)、東京港区事務所諸経費2千万円(月)……
香港のRojam株式会社はTK・小室哲哉が、メディア王・リチャード・マードックと組んで設立した音楽配信会社だった。音楽世界進出を夢みたが失敗、盗作や海賊版氾濫などで70億円の損失を出した。かつて年収20億円を越えた90年代、次々とヒット曲を生みだし『時代の寵児』といわれたTK……。
が、今は昔である。贅沢生活はやめられず、遂に債務20億円…。00年頃から人気低迷してきて、06年8月に2億円の借金返済日が迫り、06年7月詐欺。すべては後の祭りである。 時代は変わった。
小室は妙な心境で、独房の中へと入った。音楽もなく、寒い。臭いまずい飯と狭い部屋。小室哲哉はおかしいな、と思った。何故、この天才・音楽家、TKがブタ箱に? え?
すべてがおかしいようにも感じた。そして、同時に「すべてがおわった」と感じた。
そう、もうおわりなんだ。畜生め! 小室はか細い手で、壁を叩いた。無情感だけだ。
08年11月21日、小室哲哉被告が保釈された。
シャバに出られた!
小室はカメラの前で無理にひきつった笑顔を作り、頭を下げ続けた。
妻・Kco(KEIKO・ケイコ)が、エイベックス社に頭を下げて保釈金3000万円を払ったのだ。エイベックス社は「昔に恩があるひとだから」と渋々、金を出した。
午後6時頃、大阪豊島区の大阪拘置所を出るTK。
黒のタートルネックにジーパン、茶髪姿。やややつれた顔色に映る。200人の報道陣がカメラを回していた。小室は消えるような声で、
「どうもお騒がせして申し訳ありませんでした。これから音楽で償います」という。
「ファンに対して一言!」
小室は口を閉ざし絶句した。顔がひきつって、寒い風が痛い程である。
「『小室時代』のピークを2回迎え、生活が豪奢になっていた。誰からも意見されることのない”裸の王様”。そういう生活に疑問を感じながらも続けていた。人生をリセットし、再出発を図るチャンスを与えてもらった。自分には音楽しかない。曲の歌詞でよくチャンスという言葉を使ったが、今思えば軽々しく使っていた。家族とともにできる限り早く罪を償いたい。……ファンの皆様にはぼくの音楽を待っていて下さるのであれば有り難いことです」小室は安っぽいワンボックス・カーに乗り込んだ。身が妙に軽く感じた。と、同時に想像ではガリバー程に大きかった自分の体が、しゅうと音をたてて縮まっていくのも感じた。おわり……か…。もう、おわりなんだ! この糞ったれめ!
事件を知ってかつての小室プロデュースの小娘・Zoieさんは涙を流してカメラの前で訴える。「先生が……そんな」あとは涙声で言葉にならなかった。
昔の親友で、TM NETWORKメンバーだった木根尚登さん(当時・50歳)はコメントを発表した。『今だに信じられない気持ちです。でも、罪は罪。償ってもらいたい。彼の音楽へのリスペクト(尊敬)は変わりません』
また、TM NETWORKメンバーでボーカルだった宇都宮隆さん(当時・50歳)は『罪は罪なのだからちゃんと償ってほしい。その後ならTMの復活もあるでしょう』。
木村隆被告は同罪で起訴。イベント企画会社社長(45)は『利権がなく、関与の程度が薄い』として起訴猶予になった。TK・小室哲哉の全CDレンタル販売中止へ。
小室被告についてエイベックス社の若き社長・松浦勝人氏は、東京港区の慶応大学で開かれた学園祭で講演し、「罪を償った上で、協力したい」と情けをかけた。
こうして、小室時代はおわった。
小室哲哉 最期の真実
TK ~the last success story ~
~「こむろてつやの真実!
今だからこそ、小室哲哉
ノンフィクション小説
total-produced&PRESENTED&written by
Washu Midorikawa
緑川 鷲羽
this novel is a dramatic interoretation
of events and characters based on public
sources and an in complete historical record.
some scenes and events are presented as
composites or have been hypothesized or condensed.
”過去に無知なものは未来からも見放される運命にある”
米国哲学者ジョージ・サンタヤナ
あらすじ
08年11月4日、時代の寵児ともいわれ成功を手にした筈の小室哲哉容疑者(被告)が逮捕された……
それは一大ニュースとして日本中に駆け回った。90年代にかけて、作詞作曲音楽プロデュースで小娘たちを次々とヒットさせて百億円もの大金を手にして富豪となった筈。その小室哲哉(愛称、TK)が5億円の詐欺犯罪を起こした。
大阪で兵庫県の投資家からありもしない自分の著作権(806曲)を譲渡する見返りとして、10億円もらう算段であった。しかし、その詐欺事件を警察が感付き、マスコミもリークした。小室哲哉はこの時、20億円の借金があったという。
この小説は小室哲哉とは何だったのか?
…を問う、最高の書である。
これを読めば小室哲哉の成功と失敗がわかる筈である。
物語を通して人間、小室哲哉の人生と成功と失敗を学んでほしい。 おわり
1 TK 逮捕
『小室哲哉容疑者逮捕へ』
時代の寵児として大富豪にして天才音楽プロデューサといわれた小室哲哉(当時49歳)が大阪地検に逮捕されたのは、08年11月4日の朝だった。
小室哲哉……愛称、TK、先生、小室さん、テツ、テッちゃん……
90年代の日本の音楽(いわゆるJポップ)の音楽プロデューサとして、そして大富豪として有名だった男である。痩せた身体に、茶色の短髪、少し長い顔と大きな鼻、泣き黒子とツリあがった目尻…特徴的な印象を与える当時49歳の中年男である。
声は少し『ガマ蛙』のような声だ。
絶倫でもある。
彼は3度の結婚遍歴がある。女好きで、絶倫…女好きだけは治らない。
最初の嫁は元・アイドルタレントで、2度目の妻は同じく元・dosという音楽グループの小娘、そして最期の嫁が、TK・小室哲哉と同じ音楽ダループglobeのボーカル(歌姫)でもあるKco(KEIKO・ケイコ(当時36歳))である。
Kcoは美貌だし、金髪の長い髪も美しい。
小室哲哉は美女しか相手にしない。デブスなど相手にしてられない。
小室哲哉の妻・Kcoは何も事件のことなど知らなかった。だから、この突然の事件発覚に仰天したことであろう。「何てことなの……? あぁ」
妻・Kcoの痩せた手足や全身を寒気が襲ってきたのである。
誰かが哲哉と妻の運命のバスタブの蓋を開けてしまったため、溢れた金という色の水が音をたててなくなっていくばかりだ。これはえらいことになった。
小室哲哉は自分の身に起こっていることが、信じられなかった。そんなことはない。そんな馬鹿なことはない。もっと贅沢を…出来る筈だ。僕は天下のTK・小室哲哉なんだぜ! しかし、そうはいうものの運命とは皮肉である。
僕が逮捕……? そんな馬鹿な…? おかしいな。しかし、最期の贅沢だと思って大阪の高級ホテルのスウィート・ルームでひとりで一泊した後の早朝、大阪地検の男たちが任意同行を求めてやってきた。小室哲哉は勘づいていた。あの、詐欺事件か…。もう、僕はおわりなんだね…。体中が震えた。……あのときの事か……あの。
そうだった。小室哲哉の思考は当たっていた。そう、詐欺容疑だ。
08年11月4日、詐欺容疑で大阪在中の小室哲哉容疑者(当時49歳、もうすぐ50歳)を大阪地検は任意同行を求めた。ホテルから出るときマスコミのカメラが彼を写している。容疑は、兵庫芦屋市の投資家男性から自分に権利のない音楽著作権を10億円で(逮捕時は5億円)売るからともちかけて詐取したものだった。
茫然と歩く小室哲哉の目にはうっすらと涙があった。
もう90年代に一世を風靡し、『時代の寵児』といわれたTKはすでになかった。そこには”抜け殻”の只の中年痩男・小室哲哉容疑者(被告)がいるだけであった。他に2人が逮捕された。小室は「音楽配信ビジネスに参入したい」という被害者男性を詐欺し、たくみにまずは10億円のつもりで前金5億円を騙しとったのだ。借金の返済におわれてのことだった。それにしても香港での事業の失敗は大きかった。
一説には百億円あったとされる財産は、香港での事業失敗で70億円損失を出していたという。その後も、贅沢三昧の生活や、株の下落などと不幸が重なり、落ちぶれた。小室哲哉没落である。債務は20億円にまでなっていた。借金返済の期限までギリギリ…
もう音楽会社に譲渡して、自分にはないはずの著作権(806曲、Can you SEREBRATE?、Get wild、愛しさと切なさと心強さと…など含む)を10億円で……という皮算用だった。「全部あなたのものですよ」「ぼくはあのマードックとも親しい」「まずは前金の5億円振り込めば、夢の印税生活ですよ」
金が欲しいあまり、道を誤った。こんな筈ではなかった。そう、ぼくは、TK・小室哲哉は大富豪で…そして成功者、『勝ち組』の筈だったのに。おかしいな。いったいいつから、運命の時計の針が狂い出したのだろう? 小室哲哉は頭を傾げ続けた。
マスコミからマイクを向けられ、フラッシュを浴びながらも疑問ばかりが浮かんだ。
何もいいアイデアが浮かばなくなった。現在の音楽創作のように。
他に逮捕されたのが役員を務めるイベント企画会社『トライバル・キックス』社長、平根昭彦(45歳、当時)=東京都港区(5億円受取り、3,4億円返済。TKが金銭管理を委託している男)と、広告会社の実質経営者・木村隆(56歳、当時)=同中野区の2人。 小室は06年7月の詐欺容疑についていう。
「弁解することはありません。被害者には大変申し訳ありませんでした。深く反省しています。刑事責任を取る覚悟はあります」
更には事件発覚前に3000万円を口座に振り込むように、被害者男性に要求するメールを送っていたことも発覚した。小室哲哉の敗北である。
妻のKco(KEIKO・ケイコ)は衝撃で、頭が破裂しそうだった。同じグループでRAPのMARC・PANTHERさん(当時、38歳)は海外にいて連絡が取れない。
完全たるTK・小室哲哉の最期であった。
逮捕を受けて、『エイベックス・グループホールディングス』社は11月26日と12月17日発売予定だったglobeのシングル(『Get wild』と『Self control』(いずれもTM NETWORKのカバー曲))の発売中止を決定した。
更に、インターネットでの小室名義の曲すべての配信も停止した。
時代はもう21世紀……小室の活躍していた90年代ではなかった。かつて、天才音楽家とか時代の寵児といわれてもてはやされた小室哲哉だった。が、もう昔の話しではあった。 皮肉な事か、事件後には『小室哲哉ナツメロ・ブーム』が起きて、カラオケで彼の曲を歌って昔を忍ぶ若者が現れ出した。(音楽著作権譲渡の為に小室への還元金は無し)
生活費210万円(月)、東京港区事務所諸経費2千万円(月)……
香港のRojam株式会社はTK・小室哲哉が、メディア王・リチャード・マードックと組んで設立した音楽配信会社だった。音楽世界進出を夢みたが失敗、盗作や海賊版氾濫などで70億円の損失を出した。かつて年収20億円を越えた90年代、次々とヒット曲を生みだし『時代の寵児』といわれたTK……。
が、今は昔である。贅沢生活はやめられず、遂に債務20億円…。00年頃から人気低迷してきて、06年8月に2億円の借金返済日が迫り、06年7月詐欺。すべては後の祭りである。 時代は変わった。
小室は妙な心境で、独房の中へと入った。音楽もなく、寒い。臭いまずい飯と狭い部屋。小室哲哉はおかしいな、と思った。何故、この天才・音楽家、TKがブタ箱に? え?
すべてがおかしいようにも感じた。そして、同時に「すべてがおわった」と感じた。
そう、もうおわりなんだ。畜生め! 小室はか細い手で、壁を叩いた。無情感だけだ。
08年11月21日、小室哲哉被告が保釈された。
シャバに出られた!
小室はカメラの前で無理にひきつった笑顔を作り、頭を下げ続けた。
妻・Kco(KEIKO・ケイコ)が、エイベックス社に頭を下げて保釈金3000万円を払ったのだ。エイベックス社は「昔に恩があるひとだから」と渋々、金を出した。
午後6時頃、大阪豊島区の大阪拘置所を出るTK。
黒のタートルネックにジーパン、茶髪姿。やややつれた顔色に映る。200人の報道陣がカメラを回していた。小室は消えるような声で、
「どうもお騒がせして申し訳ありませんでした。これから音楽で償います」という。
「ファンに対して一言!」
小室は口を閉ざし絶句した。顔がひきつって、寒い風が痛い程である。
「『小室時代』のピークを2回迎え、生活が豪奢になっていた。誰からも意見されることのない”裸の王様”。そういう生活に疑問を感じながらも続けていた。人生をリセットし、再出発を図るチャンスを与えてもらった。自分には音楽しかない。曲の歌詞でよくチャンスという言葉を使ったが、今思えば軽々しく使っていた。家族とともにできる限り早く罪を償いたい。……ファンの皆様にはぼくの音楽を待っていて下さるのであれば有り難いことです」小室は安っぽいワンボックス・カーに乗り込んだ。身が妙に軽く感じた。と、同時に想像ではガリバー程に大きかった自分の体が、しゅうと音をたてて縮まっていくのも感じた。おわり……か…。もう、おわりなんだ! この糞ったれめ!
事件を知ってかつての小室プロデュースの小娘・Zoieさんは涙を流してカメラの前で訴える。「先生が……そんな」あとは涙声で言葉にならなかった。
昔の親友で、TM NETWORKメンバーだった木根尚登さん(当時・50歳)はコメントを発表した。『今だに信じられない気持ちです。でも、罪は罪。償ってもらいたい。彼の音楽へのリスペクト(尊敬)は変わりません』
また、TM NETWORKメンバーでボーカルだった宇都宮隆さん(当時・50歳)は『罪は罪なのだからちゃんと償ってほしい。その後ならTMの復活もあるでしょう』。
木村隆被告は同罪で起訴。イベント企画会社社長(45)は『利権がなく、関与の程度が薄い』として起訴猶予になった。TK・小室哲哉の全CDレンタル販売中止へ。
小室被告についてエイベックス社の若き社長・松浦勝人氏は、東京港区の慶応大学で開かれた学園祭で講演し、「罪を償った上で、協力したい」と情けをかけた。
こうして、小室時代はおわった。