経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

少子化も再分配も政治は的を外す

2023年10月22日 | 経済
 岸田政権は、防衛増税や少子化対策への保険料上乗せの検討を進めているだけなのに、「増税メガネ」と誹られ、イメージ払拭に焦って、所得減税を打ち出した。物価上昇分にも消費税が乗り、せっかくの賃上げも社会保険料で抜かれるから、特に、若い世代の不満は強い。再分配は喫緊の課題であり、若い低所得層が焦点だが、少子化対策で非正規の育児休業給付を先送りしたように、どうしてこうも肝心なところを外すのかね。

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 所得減税は1年限りの定額となるようだ。還元対象の2023年度の所得税収は、23.5兆円程と予想され、予算からは2.5兆円程の上ブレ、前年度決算からは1兆円程の増収であることを踏まえると、納税者数は約5千万人だから、1人当たり2万円で1兆円規模といったところだろう。夏に支給された住民税非課税世帯への給付は3万円だったので、これを上回らない程度と思われる。

 所得減税は、低所得者には不利であり、例えば、年収130万円だと所得税は4千円程だから、2万円も還元できないという問題がある。これに対し、住民税は1.8万円程、社会保険料は19.5万円程になるので、還元すべきは所得税なのかという根本的な問題が生じる。また、年収103万円だと、住民税は払うが、所得税はゼロなので、減税も非課税世帯への給付もないという悩ましい問題も生じる。

 負担が重いのは、消費税であり、社会保険料である。高所得層は、賃上げの率は同じでも額が大きく、必需品の値上がりをカバーできることを考えると、所得に応じた給付が適切であり、必然的に社会保険料に連動したものになる。だから、本コラムは1/1の時点で提案していたのであり、低所得層の問題がここに集中していることは偶然ではない。定額の所得減税は、手近な方法として選ばれただけだろう。

 9月の消費者物価は、総合が前月比+0.3と上昇が続く。前年同月比では、生鮮や加工食品の値上がりは2桁で、石油製品より高い。家計調査でのエンゲル係数の上昇も指摘され、実質の生活水準は、着実に下がっている。他方で、社会保険料が家計を圧迫し、今年は、厚生年金の保険料だけで1兆円超の増収になりそうだ。政治は、課題を設定できないから、的を外すのである。かっこだけでいいから、非正規を、低所得を、若者を救うのだと言ってほしい。  

(図)


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 定額の所得減税は、「増税メガネ」じゃない証拠にはできようが、何のためなのかがぼやけている。それゆえ、細部への批判が噴出しそうだ。理想があれば、多少の不備も許容されるが、減税のための減税では、制度の出来が批判の的になってしまう。本コラムは、「足りないのは財源ではない、理想である」とかねて主張してきたが、1兆円もの財源が出て来るにもかかわらず、為政者、批判者ともに、使い途の理想を立てられないのが、この国の現実である。就業差別を、働く貧困を、少子化をなくす挑戦をなぜしない? それは諦めていいことなのか。


(今日までの日経)
 所得減税、「定額」を検討 「1年が常識」。細る家計、食費が圧迫 社会保障費の膨張も重荷。9月訪日218万人、コロナ前水準に。中国成長、雇用不安が重荷。日銀、引当金拡充を模索 ETF収入1兆円。日銀、臨時国債買いオペ。

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