経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

設備投資の外で生まれる経済成長

2021年11月28日 | シリーズ経済思想
 みずほR&T・門間一夫さんの「経済成長のためには生産性を高めることが必要だという議論は、完璧に正しいが、無内容」*は至言だね。このトートロジーは、「どうすれば経済成長を高められるのか本当はよくわからないという不都合な真実を、生産性という言葉のクッションでとりあえず和らげるもの」というわけだ。そうした顛末に陥るのは、経済成長は設備投資の外でも生まれている不思議なメカニズムが知られていないためだと思う。

………
 自動車会社が優れた製品を生産して輸出を伸ばしたとする。これでGDPは増え、経済は成長する。その背景には、研究開発や設備投資があるだろう。普通にイメージする成長と生産性の関係は、こうしたものだ。それは正しいし、成長のために、研究開発や設備投資を増やせとする主張も的を射ている。しかし、成長は、それだけではないし、それ以外の部分の方が存外に大事なのである。

 輸出が伸びて売上げが増したので、自動車会社は従業員の給料を増やす。従業員は、工場前の行きつけの中華料理屋で、ラーメンにチャーシューを追加するようになる。すると、中華料理屋の売上げは、高付加価値化して伸び、サービス業は成長する。チャーシューの増産にはさして手間もかからないので、労働生産性も上昇する。つまり、研究開発も設備投資も関係なしに、成長と生産性が得られる。

 そして、潤った中華料理屋がラクをしようと、デジタル券売機を導入すると、設備投資も後からついてくる。さらに、外食の増加で忙しくなったので、子育てをしていた娘さんが店のバイトに入り、保育所に預けると、そこでも経済は成長する。むろん、保育所に技術革新があったわけではなく、分業化の利益が多少あるくらいで、炊事や子育てといった家内労働が貨幣経済化したために、GDPが拡大しただけだ。

 日本は、競争力強化と称して、法人税も下げたし、技術革新の補助金も出した。お陰で、アベノミクスの間、円安もあって輸出は伸び、あまり知られていないが、GDPの設備投資比率も高まっている。ある意味、成長戦略は大成功を収めている。他方で、財政再建を性急に進め、消費増税などで徹底して「給料」を削ってきた。誰もが可能な消費で成長する道を奪われたのだから、サービス業の生産性は上がらず、保育士の給料が安いのも、仕方あるまい。

(図)


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 「生産性向上は研究開発と設備投資にしかない」という誤れる片面の理解でもって、もう一つの経路である消費を潰す「反」成長政策をやり抜いてきた。安いニッポン、衰退途上国、韓国以下となるのも当然だ。日本経済は、政策どおりの素直な結果を出しており、そこに不思議さはない。成長と生産性が消費から生ずる実態を知らずに、財政に「賢い支出」を求める思想こそが賢さを欠いているというのは、とても皮肉である。

*門間一夫・「生産性」を語ることの非生産性(みずほR&T・経済深読み 2021.7.12)


(今日までの日経)
 新変異型、欧州で拡大 英で確認。補正で膨らむ予算、常態化。半導体製造装置なお不足。人手確保へ待遇改善急ぐ。経済対策で国債発行22兆円増 税収見積もり上方修正6.4兆円。

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11/24の日経

2021年11月24日 | 今日の日経
 9月の建設総合統計は、季調値にして見ると、公共が前月比-1.8%と前月に続く減少となり、7-9月期の前期比も-2.2%となった。GDPの2次速報も下方修正になるかもしれない。住宅が前期比+3.3%と伸び、企業が-0.2%と底入れしているのに、公共が足を引っ張り、建設投資全体では前期比がほぼ横バイにとどまる。こうした経済対策の基本については、経路が限られる未曽有の危機でもあり、怠らずにしたいものである。

(図)



(今日までの日経)
 米、石油備蓄放出へ 日中などと協調。中国「恒大」危機・梶谷懐。働く外国人の統計整備 厚労省検討。「クリエーター経済」12兆円。

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7-9月期GDP1次・増税 コロナ 物価高

2021年11月21日 | 経済
 11/15公表の7-9月期GDP速報は、実質の前期比が-0.8と、かなりのマイナス成長だった。消費、設備投資ともコンセンサスより大きめの減少を予想していたけれども、それを下回る結果となった。今回は、実質と名目の開きも広く、見極めが難しいところである。現下は、消費増税後のコロナ禍に、原油高・円安も加わる中、政策は、ワクチン接種だけで、経済運営の無策ぶりも合わさったような状況だ。

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 家計消費(除く帰属家賃)は、前期比-1.4%、寄与度-0.6とマイナス成長の大半を説明できてしまう。事前には-0.6%くらいと思っていたが、統計局CTIマクロの-1.6%に近く、7,8月の低下が深かったようだ。むろん、コロナ禍での自粛によるものだが、サービスより、影響が少ないはずのモノの消費も弱く、それゆえ、在庫増の寄与度が+0.3もあって、消費のマイナスを薄める形となっている。

 そもそも、消費の水準は、2019年10月の消費増税で9.5兆円減り、コロナ禍の足下で11.5兆円減っている形である。1期前の4-6月期には8.2兆円だったから、均せば、増税禍とコロナ禍は、同じくらいの規模なのだ。また、7-9月期は、前期より実質で3.3兆円減ったが、名目だと2.5兆円減であり、増税とコロナに加え、原油高・円安に伴う物価上昇による目減りも相当ある。

 景気の原動力である設備投資は、実質の前期比が-3.8%と大きめの低下となった。こちらも、名目では-3.0%とやや開きがでた。今期は低下したものの、9月の機械受注、10-12月期の見通しは堅調で、回復は持続していると思われる。また、底入れを果たしている住宅は、名目が+1.0だったのに、実質では-2.6%と符号が逆転しており、木材などの上昇が色濃く反映された形である。

 情けないのは、公共事業であり、名目でも前期比-0.7%の減少で、実質では-1.5%まで下がる。これで名実ともに3四半期連続での低下だ。9月の建設総合統計の公共も落ちており、経済を下支えすべき部門がマイナスになって足を引っ張っている。他方、政府消費は、実質で前期比+1.2%と高めであり、ワクチン接種が増加の要因だ。もっとも、ワクチンは輸入品であるから、増やすほどにGDPを減らす方にも作用する。

(図)


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 消費の弱さは、自動車の供給制約も一因だが、商業動態を見ると、昨夏の10万円給付金以来続いていた機械器具の好調さも途切れており、入れ替わるように、値上がりした燃料が増えている。経済対策が剥落する中で、物価高に圧迫されている。今回、55兆円とされる巨大な経済対策が決定されたが、果たしてどれほど需要に結びつくものか。税収が急びて緊縮が強まっていることもあり、効果のほどは、補正予算を見ないと、正直、何とも言えない。


(今日までの日経)
 欧州、コロナ規制逆戻り。経済対策、見えぬ「賢い支出」。財政支出最大55.7兆円 経済対策きょう決定。


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11/18の日経

2021年11月18日 | 今日の日経
 10月の貿易統計は、自動車生産の制約があり、輸出が大幅に低下した前月から横バイとなったのに対して、9月の機械受注は、製造業が前月比+24.8%と伸び、移動平均でも過去最高のレベルとなった。10-12月期の見通しも-1.8%と、7-9月期に大きく伸びた割には堅調であり、輸出主導の景気回復は崩れていない。他方、非製造業(除く船電)は、最低水準を更新したものの、10-12月期の見通しは+8.2と希望の持てる内容になっている。

(図)



(今日までの日経)
 外国人就労「無期限」に。飲食バイト時給、なお「最低賃金」。ガソリン170円超で補助金。非正規10万人の転職支援。揺らぐ「リスクオフの円高」。日本の所得分布全体は低所得化・田中聡一郎。経済回復、米欧に出遅れ GDP7~9月は再びマイナス。中国消費「ゼロコロナ」重荷。

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必要なのは単純でない財政

2021年11月14日 | 経済
 一律給付金は貯蓄に回り消費押し上げず、格差拡大よりも全体的な所得低迷が深刻という経済教室での小峰隆夫先生の指摘は、まさに、そのとおり。しかし、成長のためには、単純に財政支出を増やしたり金融を緩和したりすれば達成できるわけではなく、産業・企業の新陳代謝や規制改革を急げとされても、徒労感が漂う。そういう産業政策も散々やってきたわけであるから。

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 経済対策は40兆円に膨張し、財政支出だけでも30兆円になるという。普通に考えれば、名目GDPの5.5%にもなるから、景気が急加速し、供給制約で混乱が起こってもおかしくない規模だ。しかし、そんな心配がまったく出てこないのは、良かれ悪しかれ、経済対策を打っても、政府から家計や企業に資金が移転するだけで、消費や投資に結びつくことはなかろうと、誰もが思っているからだろう。

 例えば、中小企業向けの3兆円の給付金は、常識的には、コロナ禍で膨らんだ借金の返済に充てられるだろう。それはそれで健全だし、必要な動きである。また、大学への基金10兆円は、基金である以上、複数年に渡ってゆっくりと消化されると思われる。むろん、一律給付金は、2回に分ける良い工夫はなされたが、それでも、かなりの部分が貯蓄に回り、すぐには使われない。その意味で、巨大な対策にも不安はない。

 そして、裏では税収が急増していて、しっかり相殺してくれる。2021年度の国の税収は5.6兆円増え、地方はその7掛けとして、10兆円近い緊縮だ。だから、巨大な対策にも関わらず、原油高・円安による物価上昇はあっても、インフレになる気が全然しない。加えて、3.5兆円程度の経済対策は、毎年のことであり、それを超える分が追加的なものとなるし、10%消費増税対策の剥落はすっかり忘れられている。

 問題は、2022年度も、企業業績見通しからすると、引き続き、税収は好調で、緊縮が更に深まりそうなことだ。その時、巨額の対策の剥落とともに、緊縮の調整をしなければならない。恒久的な再分配の制度を整えておかないと、とても対応できず、成長にブレーキをかけてしまう。このような単純でない財政のコントロールが欠かせないのに、競争政策や規制改革で何とかしようとしても虚しいのである。

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 日経は、世帯人数2人以上の勤労者世帯の可処分所得は20年間で5%(月額2万4000円強)しか増えておらず、同じ期間に社会保険料は35%(月額約1万7000円)増えたと指摘する。消費が増えず、物価が上がらないのも当然で、売上げが伸びなければ、賃金も増えない。停滞する賃金を上げようとするなら、法人税で優遇するより、社会保険料を軽減する方がずっと直接的だ。岸田政権は勤労者皆保険を唱えつつ、そのハードルの低所得層の重い保険料の軽減にどうして向かわないのか。中小企業にとってもありがたいし、非正規に押し込めるこれ以上の不合理な規制もなかろう。

(図)



(今日までの日経)
 中小支援拡充、もろ刃の剣。値上げできない日本 鈍い賃上げ、円安で貧しく。経済対策、乏しい成長投資 40兆円に膨張。上場企業、7割が増益。介護・保育、月3%賃上げ。中小給付金、最大250万円 補正予算案に3兆円。

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11/10の日経

2021年11月10日 | 今日の日経
 10月の景気ウォッチャーは、緊急事態宣言の解除を受けて、現状(方向性)が55.5と大幅に改善した。50台の回復は、昨年10月以来である。ただし、現状(水準)は43.8にとどまる。それでも、40台の回復は、2019年10月の消費増税以降、初めてだ。他方、米国は、コロナ後も、敢えて財政出動を行い、成長の加速に成功し、物価は上昇に向かい、今では、緩やかに金融や財政の正常化へ進む段階となった。お手本のような経済運営である。いつもの「欧米に見習え」の主張は、どうして出て来ないのか。

(図)



(今日までの日経)
 物価上昇、身構える世界。米金利が低下、裏に国債発行減。失業抑制 雇調金頼み。米国経済 消費主導で回復底堅く。中国輸出額、価格転嫁支え 数量は伸び悩み。

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経済対策と疎かにされる需要管理

2021年11月07日 | 経済
 経済対策の作成が始まり、18歳以下2000万人に10万円で2兆円、マイナポイント3万円を5000万人で1.5兆円といった案が飛びかっている。一見、バラ撒きのようだが、2021年度の国の税収が5.6兆円も増えると聞いたら、これでも緊縮にしか思えないのではないか。加えて、地方税だって増収になる。「財源はどうする」といった議論は喧しいが、税収の動向を把握せずには経済対策もない。

………
 9月の統計局CTIマクロは、実質で前月比+ 0.8。ほぼ予想どおりで、7-9月期の消費は前期比-0.5くらいだろう。注目されるのは、名目が前月比+2.1と大きく差が開いたことだ。物価の上昇で消費が目減りしている。その背景には、原油高、円安がある。他方、このために、企業の増益率は、再び上振れしている。税収の高い伸びは、絶好調の企業業績が第一の理由だ。つまり、消費増税に似た構図になっているわけだ。

 こうした税収増を十分に還元してやらないと、消費が停滞し、成長の好循環が起こらず、デフレから脱せなくなる。とりあえず、35兆円とも言われる経済対策が打たれる当分の間は良いにせよ、次第に効果が剥落していくと、「更にコロナ対策を」という世情にはならないので、急速に緊縮が強まり、成長にブレーキがかかって、停滞から抜け出せなくなる。これは失われた20年で繰り返されてきたことである。

 成長に伴う税の自然増収に対しては、恒久的な再分配の制度を設けないと、不作為のまま緊縮になり、いつの間にか財政収支が改善されてしまう。財政当局は、そのとき限りの経済対策には寛容でも、再分配の制度化は増税を条件として頑なに拒み、自然増収はすべて財政再建に充てようとする。成長の果実の分配を受けるのは財政であって、その結果が低成長、貧困化、少子化の惨状なのだ。

 経済政策には、財政出動、金融緩和、投資促進の三つがあるが、日本ができていないのは、経済状況に応じた財政の運営である。派手に経済対策を打ち出すことはできても、その後の需要管理が疎かで、急速な緊縮になっていることも無自覚だ。改めるべきは、ちゃんと需要管理をするという極めて基本的なことであり、そもそも、そのつもりもないのが問題の深刻なところである。

(図)


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 すべての子供に10万円というのも一つの方法ではあるが、結婚して子供を持てたというのは、母子家庭は別にして、「勝ち組」の部類に入る。それを実現できるだけの収入があったと推認できるからだ。本当に少子化のテコ入れをしたければ、結婚できない低所得の若者をいかに支援するかになる。例えば、非正規の女性でも育児休業給付を受けられるようにするとか、保険料を軽減してパートでも雇用者の社会保険に入れるようにするとかである。

 今回の選挙では、野党が消費減税や所得減税を打ち出したのは残念に思えたし、広い支持を受けることにもならなかった。中所得層の支持を得ようとして、失敗した形である。経済が必要としているのは、低所得者向けの再分配の制度である。それが経済的にも合理的であって、成長にも出生にも資すると主張したら、これから目指すべき社会の看板政策になるというものである。


(今日までの日経)
 企業の増益率、再び上振れ。日本に潜む政治の分断 40歳未満だけ→自民300に迫る。継続雇用の賃上げ、税優遇の条件に。米就業者、53万人増 人手不足は続く。FRB、金融正常化へ未曽有の難路。トヨタ生産、来月最高に 今期純利益11%増。RCEP、来年1月発効。

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11/3の日経

2021年11月03日 | 今日の日経
 選挙が終わって、いよいよ経済対策となる。数十兆の中身の多くは融資で占められようが、再分配、とりわけ需要に結びつきそうなものがどのくらいかが注目される。他方、税収が順調で、9月までの移動累計は、既に2020年度を1.8兆円上回り、このままだと5.8兆円まで行くかもしれず、強いデフレ圧力がかかる。一足先に再分配を果たした米国は、急速に回復して物価上昇が心配になるくらいになっており、彼我の差は大きい。

(図)



(今日までの日経)
 脱炭素目標へ「決定的10年」COP26。首相「中旬に経済対策」。自民が単独で安定多数 立民は議席減、維新躍進。中国景況感、悪化続く。

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