経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

2/28の日経

2011年02月28日 | 経済
 昨日は長尺物を掲載したので、今日は休養させてもらうよ。

(今日の日経)
 富士フィルム、バイオ医薬事業買収。リビア、暫定政権の動き。児童手当拡充も。社説・原子力大綱。エコノ・公的金融、1/4に迫る。核心・日本の危機に「井の中政治」・岡部直明。オマーン2000人デモ。インド労働市場人材需給ちぐはぐ。中国、7%成長目標、課税最低限上げ。集会封じ込めも上海に1000人。アジアの賃上げも覚悟を・後藤康浩。ナノチューブ、フラスコで合成。会社説明会、ネットで中継。関心薄い応募も増加。経済教室・労働市場の改革・西村周三。日本人学生、留学生との競争で萎縮。市民ランナー世界選手権へ。

※核心の岡部さんのセンスには同感。この危機感は日本人には分かるまい。安定的なオマーンでもデモとはショックを受けた。ただし、岡部さんお勧めの超党派で長期に検討した年金改革案があの程度とはね。とても土台にならない。実現不能になって「超党派で公約破り」になりかねないよ。こういう政策立案のレベルの低さが本当の問題。本コラムの読者なら、レファレンスを知っているから、それが分かると思う。

※こういう人材のミスマッチは日本の高度成長期にもあったねえ。中国自身の目標が低くなっていることに注目。中国でも地鳴りがしている。そのとおりで波及は早いと見る、後藤さんに同感だ。コストダウンになる科学は意外に重要。今の採用活動にはムダが多い、これはビジネスになるよ。日本人は萎縮するけど、力がないわけじゃないんだ、引き出してやることが大事。
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壮大なる愚行

2011年02月27日 | 特別版
【未定稿】

はじめに
 皆さんは、財政赤字を心配にするし、省庁の縦割りも批判しますよね。それで、国、地方、社会保障の三つを連結した政府部門の財政収支って見たことがありますか。これはSNAと呼ばれるGDPの統計表で集計されているもので、見ようと思えば、簡単に見られます。自分の手で、全体を眺めてみようとは思いませんかね。

 困ったことに、日本の財政当局は、政府部門の全体を見回した経済運営をしていません。整合性がない運営のために、日本経済は大変な苦難に見舞われています。彼らは、自分の領分である国の財政にしか関心がないため、それを問題とすら思っていません。本来は、そうならないように調整するのが政治家の役割かも知れませんが、そうした能力を持った人は、今では枯渇しています。

 こうなってしまった責任の一端は、皆さんが全体について関心を持たず、各省がバラバラに出してくる情報に流されるがままの現状に満足しているからです。政治家は、国民や各界のリーダーが無関心なことに関わろうとするはずがありません。結局、日本経済がこんな悲惨なことになっているのは、日本では、誰も全体を見ようとしないという、ちょっと信じがたい状況にあるからです。

 それでは、全体は一体どうなっているのか、日本人らしくないと言われる私が、御案内することにしましょう。

1 数字は語る
 お手元の資料は、内閣府の国民経済計算確報の平成21年度版の数字を切り出したものです。具体的には、フロー編の付表「一般政府の部門別勘定」というものです。「確報」は、分厚くてとっつきがたく、過去の数字なので、マスコミが注目することもありません。しかし、政府部門全体、SNAでは「一般政府」と言う用語になりますが、それを統一的に把握するには、これを見る必要があります。

 この中で、「18.貯蓄(純)」という項目を見ます。これを見ると各部門の収支状況が分かります。これは、ごく簡単に言うと、税金や保険料を集め、それを行政サービスや給付に使った残りを示すもので、集めた以上に使うと、むろん赤字になります。ただし、これにはインフラを形成する公共投資は入りません。数字は、1980年度以降の中央政府、地方政府、社会保障の3部門とそれらの合計額が並んでいます。これを見ると不思議なことが分かります。
 ※このパラグラフには手直しを加えました(2011/8/15)。

 中央政府は、皆さんが予想していたとおり、バブル景気の一時期を除いて、ずっと赤字です。ところが、3部門を連結してみると、1997年まで黒字が続いています。その理由は、地方政府が黒字基調にあることと、社会保障が大幅な黒字になっているためです。これは、公的年金が整備され、大規模な積み立てを行ってきたことが理由です。

表 一般政府の純貯蓄 


2 財政赤字の1980年代
 財政赤字は、既に1980年代には大きな政治問題になっていました。初めて「消費税」が唱えられたのは、1979年の大平内閣の時ですし、臨調・行革路線がスタートするのは1981年の鈴木内閣のことです。ところが、皮肉なことに、中央政府の赤字は、社会保障の黒字に見合う大きさだったのです。

 当時は、需要不足に対応するため、景気対策として盛んに公共事業が行われました。これが財政赤字の原因だったわけです。しかし、全体を見ると、何のことはない、家計から年金保険料と言う形で所得を吸い上げ、それで積立金を造成する一方、その積立金を用いて国債を引き受けて、これを基に公共事業をしていたわけです。おそらく、保険料による吸い上げを一時的にでも緩めていれば、消費の拡大によって景気が回復し、財政赤字を出して公共事業を行う必要はなかったでしょう。

 しかし、当時の財政当局は、国の財政しか視野にありませんでした。経済的に理にかなった政策を取るのではなく、増税と行革という政治的な解決策に訴えます。経済運営の中心にある財政当局が、政府部門全体も見ずに、経済的にではなく、政治的に行動するというのは、恐ろしいものがあります。これは今も変わらない傾向ではないでしょうか。

 こうした結果、財政赤字が積み上がる一方、年金積立金も増えていきました。つまり、財政赤字という「借金」は巨大になったのですが、年金積立金という「貯金」も膨らんでおり、差し引きした純粋な借金は、国際的に見ても大したことがないという状況でした。しかし、財政当局は、国民経済的な見識を持ち合わせませんから、巨大な財政赤字に「筋違い」の不満を抱きました。これが後の悲劇の伏線になります。

3 バブル景気
 1980年代の終わりから1990年代のはじめにかけて、日本はバブル景気に沸きます。このときに不思議がられたのは、資産価格が高騰したにも関わらず、物価が極めて安定していたことです。高成長と物価安定という理想的な組み合わせであったわけですが、政府部門全体の状況を分かっていれば、謎ときは簡単です。

 一つの理由は、消費税の導入によって、物価が冷やされたことです。1990年の中央政府の黒字は5兆円を超えました。そして、もう一つの理由は、地方政府と社会保障の黒字は、その2倍以上にも達していたことです。全体ではGDPの6%程度に上りました。これだけの所得の吸い上げをしていれば、物価が安定するのも当然でしょう。

 他方、失敗だったのは、財政当局が日銀にプレッシャーをかけ、低金利を長引かせて、資産バブルを招いてしまったことです。政府部門での強力な需要抑制と、行き過ぎた金融緩和というバランスの悪い組み合わせを、何も知らずに行っていたわけです。まあ、好景気にありましたから、バブルの予防という高度なパフォーマンスまで求めるのは、贅沢なのかもしれませんが。

4 バブル崩壊
 バブルが崩壊すると、中央政府は、翌年の1992年度には赤字に変わりました。ところが、地方政府と社会保障は相変わらず黒字でした。その後、地方政府は次第に黒字幅を縮小していきますが、社会保障は、ハシモトデフレを始める1997年度まで、9兆円前後、GDPで言えば2%もの黒字を出し続けます。

 中央政府の赤字は、坂を転がるように増えていき、1997年度の頃には、GDPで2%近くに拡大しました。国の財政しか見ない日本の財政当局は、強い危機感を抱きましたが、政府部門全体では、まだ黒字だったんですね。地方政府はトントンで、社会保障が中央政府を上回る黒字を出していたのです。

 むしろ、大きな財政赤字は、経済のバランス上、欠かせないものでした。もし、大きな財政赤字を出していなかったら、社会保障の所得の吸い上げによって、経済は収縮していたでしょう。大きな財政赤字と言っても、政府部門全体では黒字なのですから、マクロ経済上は、何の問題もありません。

 もし、どうしても財政赤字が嫌ならば、社会保障の所得の吸い上げをやめるべきでした。この頃になると、財政赤字によって実施される公共事業は、かなり評判を落としていました。社会資本が蓄積が進んで、有効なプロジェクトが減っていたからです。それでも、経済のバランスを崩すよりはマシです。ムダと批判されつつも、地方の社会資本整備を進めることは、地方経済を支え、地方政府の税収の確保にも貢献していました。

 こういう状況ですから、日本の財政赤字は「深刻」とされてきましたが、それに伴う弊害、インフレだとか、長期金利の高騰だとかは生じませんでした。「必ずそうなるはずだ」と叫んで、国民の不安を煽る人も多かったですが、いつまで経っても、兆候すらありません。不思議がられたものですが、政府部門全体が黒字なのですから、弊害が生じるわけがありません。

 この頃には、一部の有識者から、「見た目の財政赤字の残高は大きくても、社会保障の貯蓄と差し引きのネットでは大したことがない」、「ネットの財政赤字は国際的に見てもも低いくらいだ」という、まっとうな指摘がなされるようになります。もちろん、私も、その一人でした。

5 経済に無知な財政当局
 ところが、財政当局は、まったく聞く耳を持たないんですね。政治には長けていても、経済をわきまえていないのだから仕方ありません。「社会保障の貯蓄は、将来の高齢化に備えて必要だからカウントしてはいけない」というような、経済的な観点からは「珍妙」なことが唱えられたりしました。

 経済的にみれば、国の財政赤字を詰めたいのなら、国の財政が引き受けている社会保障の黒字を誰かが引き受けねばなりません。しかし、黒字を消化するために、設備投資をGDP比で2%も伸ばすなんて、とても無理ですし、貿易黒字として、積み増そうとしたら、日米間で紛争が起こってしまいます。現実的な解決策は、唯一、保険料を下げて消費を増やすことでしたが、「将来の高齢化に備えることを考えればできない」と言われたら、もう打つ手がありません。

 ちょっと難しかったですか。マクロ経済の基本というのは、貯蓄=投資です。これは経済学の恒等式ですから、常に成立します。ただし、個々がバラバラにしている貯蓄と投資が結果的に一致するというのは、なかなか想像できないものです。それゆえ、経済学部に入学してきた学生は、まず、これを叩き込まれるわけですね。

 社会保障が集めた貯蓄は、そのままお札で置くわけにはいきません。ここがミクロとマクロの違いです。必ず何かに投資されないといけない。財政赤字というのは、それで公共事業をしていることをイメージしてもらえは分かりが早いのですが、投資の一種なんですよ。だから、財政赤字を減らしたいなら、代わりの投資先を見つけてやらなければならない。それをしないと、おカネを集めておいて、使わないことになりますから、需要が不足して、経済が収縮することになってしまう。平たく言えば、不況になるわけです。

 経済学では、貯蓄が余ると金利が下がり、これが設備投資を刺激してバランスが取れる方へ向かうことになっていますが、現実的には、急には増えない。だから、急激な緊縮財政をして、一気に貯蓄を余らせるのは禁物なんです。これは経済運営の基本中の基本です。更に言えば、使える労働力には限度がありますから、いくらでも設備投資を増やすことができるというものでもありません。

 また、金利が下がると、円安になり、輸出が増えることで、貯蓄が使われるという道もあります。輸出を増やすことは、代わりに輸入を増やすのでなければ、相手先におカネを貸して、それで買ってもらうことになります。ですから、貿易黒字を出すことも貯蓄になります。社会保障の貯蓄を、こうして処理する方法もあるということです。もちろん、これも、すぐには増やせません。また、米国などの相手国からみれば、借金になるのですから、嫌がられたりもします。

 日本の財政当局は、こういう経済の基本が分かっていません。だから、財政赤字を減らすことによって、自分たちが引き受けていた貯蓄が余ってしまうことを心配したりしないのです。何となく誰かが引き受けてくれるとか、金利のメカニズムで市場が均衡させてくれるとか思っているわけです。だから、急激に財政赤字を減らすという危険なことを平然とやります。その極端な例が1997年のハシモトデフレです。ここで、日本経済は、大きく構造が悪化することになります。確かに「構造改革」ではありました。

6 ハシモトデフレ
 日本経済の転機は、一般には1991年のバブル崩壊と言われたりしますが、本当の転機は、1997年のハシモトデフレです。ここでは、あまたの経済社会統計が屈曲しているのですから、後世の経済史家は、必ずそういう判断をするはずです。

 今の若い人は体験がないから分からないと思いますが、バブル崩壊後も、1997年になるまでは、それなりの大変さはあるものの、悲惨な感じはありませんでした。「バブル紳士が破綻するのは自業自得」くらいの雰囲気です。本当に悲惨なことになったのは、自殺が急増したことに表れるように、1998年以降のことです。

 バブル崩壊後、日本経済は、ゼロ%台の成長に落ちてしまったのですけれども、意外にも、家計の所得と消費は伸び続けました。バブル期の生活水準が維持・拡大され、剥落したのは過剰な投資だったのですから、幸福度からすれば、増していたと言えるかもしれません。同じ低成長でも、家計の所得も消費も減っている最近の10年とは様相が異なります。

 このように、経済状況も悪くはなく、政府部門も社会保障も含めた全体で見れば、まだ黒字だったにも関わらず、ここで過激な緊縮財政が取られます。これが1997年のハシモトデフレです。消費税増税で5兆円、所得減税廃止で2兆円、公共事業削減で4兆円、社会保険料の負担増が2兆円、あわせて13兆円と言われるデフレ予算が組まれます。

 こうした急激な緊縮財政の危険性は、財政当局以外は分かっていました。民間のエコノミストは強い批判を浴びせましたし、米国政府からもやめるように箴言を受けます。そして、予算案が決まった途端、株価が下落を始めます。迫りくるリスクから皆が逃げ出していったのです。したがって、財政当局が「思わぬ結果」と弁明することはできません。

 もっとも、ハシモトデフレは日本経済を奈落へ放り込むことになったのですが、財政当局は過ちを認めませんでした。アジア通貨危機や金融機関の破綻のせいにしたのです。これらも急激な緊縮財政が遠因になっていたものなのですが、なりふり構わずです。そして、消費税が消費を落とした証拠はないという、都合の良い統計だけを引いた論陣を張ったりしました。

 もし、それらが正しかったとしても、ハイリスクの緊縮財政を取るべき理由にはなりません。経済に不測の事態はあり得ることです。それに遭遇しても困らないように、緩やかにするというのがセオリーだからです。

 ところが、財政当局には、それだけの心の余裕はありませんでした。自分たちが担当し、責任を持っている国の財政は「危機的な状況」にあると信じ込んでいました。政府部門全体の収支が黒字にあるなんて関係ないのです。本当の問題は、そういう経済に無知な人たちに、大きな権力を与え、思うがままにさせたことにあるのではないでしょうか。
 
7 笑えない財政危機
 ハシモトデフレ後、日本経済は悲惨なことになりました。経済を壊してしまい、財政を再建をするどころか、本当の危機を作ってしまいました。増税をしたのに、税収が上がらなかったという皮肉な結果は、良く知られていますが、問題はそれに止まりません。国の財政が大赤字になっただけでなく、変調は社会保障の収支にまで及んだのです。

 社会保障は、1998年度以降、黒字が急速に縮小し、2002年には赤字に転落します。その理由は、高齢化によって給付が増えたこともありますが、それだけでは説明がつきません。これは、ハシモトデフレによる経済破壊によって、雇用者の所得の増加が止まり、保険料収入が伸びなくなったためです。

 バブル崩壊後、国の財政赤字は急速に悪化しましたが、それと引き換えの景気対策によって、日本経済は小康を保っていました。GDPこそ伸びませんでしたが、家計所得と消費は伸びていたのです。そして、1996年頃には、バブル時代の過剰な設備投資も元の水準に復して、これから経済成長を再開しようというところまで漕ぎ着けていました。

 ハシモトデフレは、経済成長の芽を摘んだだけでなく、雇用を極端に悪化させ、家計所得を減らしたことで、「財政は赤字、社会保障は黒字」という政府部門の健全だった構造まで壊してしまいました。1998年度には政府部門全体で赤字になり、2002年度には、中央政府、地方政府、社会保障の3部門がそろって赤字になってしまいます。

 つまり、日本の財政当局は、政府部門全体では黒字であり、健全であったものを、ハシモトデフレによって赤字に転落させてしまいます。国の財政しか見ていないために、いらぬ危機感を抱き、無謀な緊縮財政をして、政府部門全体における本当の財政危機を作ってしまったわけです。「財政再建」こそが財政危機の原因とは、その犠牲の大きさを思えば、皮肉を笑うことすらできません。

8 無謀は続くどこまでも
 ハシモトデフレ後、小渕政権の必死の経済対策で、日本経済は辛うじて崩壊を免れました。しかし、財政当局は、経済に無知なので、自分たちがこの危機を招いたとは思いませんでした。それどころか、なんとか危機を食い止めるために必要だった大規模な財政出動を恨みに思うようになります。そして、日本経済がデフレから浮かび上がれない早い段階から、緊縮財政を仕掛けるようになりました。これでは日本経済が低迷を続けるのも当然です。

 ここでお手元の表に戻って、2000年代の政府部門の純貯蓄の状況を見てみましょう。2000年代は、マイナスの符号ばかりになって、変化が分かりにくいので、前年との差を計算した表も用意しました。この表では、マイナスは前年よりも緊縮財政になったことを示し、プラスは拡張財政になったことを示しています。

 この表から分かるのは、ハシモトデフレが癒え切らない2000年度には、かなりの緊縮財政へ戻っていることです。森内閣の頃ですかね。その後、小泉政権に代わり、米国のITバブルの崩壊への対応で、2002年度には拡張財政が取られますが、2003年度以降は、また緊縮財政へと戻ります。

 よく誤解されるのですが、緊縮か拡張かは、前年度からの変化で見るべきものです。例えば、財政が10兆円の赤字から7兆円の赤字になった場合、3兆円の緊縮財政が行われたと判断します。まだ赤字にあると言って、拡張財政が続いていると考えるのは誤りです。しかし、小泉首相は、こういう主張を平然としていました。これを財政当局が言わせていると思うと、私は、驚くよりも、怖くなりました。

 私は保守派の人間なのですが、小泉政権が国民の歓呼の中で登場したときには、「これは大変なことになる」と思いました。国債発行30兆円枠の主張に見られるように、緊縮財政を志向していたからです。経済誌に、「このままでは、大規模な輸出でも発生しない限りは、悲惨なことになる」と予言したことを覚えています。

 しかし、幸いにも、予言は外れました。米国でバブルが発生し、大規模な輸出が発生するという「神風」が吹いたのです。そうでなければ、小泉政権は早いうちに行き詰まっていたと思います。これは、日本経済にとってみると、千載一遇のチャンスでした。ところが、日本はこれを棒に振ってしまいます。

 日本経済の歴史を振り返ると、輸出が伸び、それが設備投資から所得増へとつながって、景気が回復するというのが、いつものパターンです。小泉政権から安倍政権にかけては、それは起こりませんでした。輸出の伸びは大きかったのですが、そこで緊縮財政を取ってしまい、内需への波及を断ち切ってしまったからです。むろん、デフレから脱することもできませんでした。

 そのため、新興国を中心に世界的な好景気のブームにあったのに、ひとり日本だけがデフレに苦しむという奇妙な現象が起こります。その原因として、当時、最も強く主張されたのは、日銀の金融緩和が足りないという説です。ほとんど金利はゼロだったのですが、まだ他にも緩和の方法はあると言われたものです。

 こうして、日銀は攻撃にさらされたのですが、GDP統計をみれば、デフレの本当の理由は明らかです。2004年度から2006年度にかけて、政府部門全体で見て、平均して毎年5兆円近くの緊縮財政を行っていたのです。これでは、いくらゼロ金利にしたところで、デフレになるのは当たり前です。

 経済政策は、少しの違いで、パフォーマンスに大きな差がでます。緊縮財政を1年だけ待って、物価上昇率がプラスになってからにしていれば、結果は大きく違っていたでしょう。「政府と日銀は協力してデフレ脱却を図る」というのは言葉だけで、実際には、政府は、デフレ脱却よりも財政再建を優先していたのです。

9 リーマンショックと今
 大規模な輸出と緊縮財政の組み合わせをすれば、成長率が高まっても、内需が拡大せず、雇用が広がらないで、所得も伸びないというのは当然です。日本経済は、政策どおりの結果を出しています。どうしてデフレなのか、なぜ雇用の回復が鈍いのか、何ゆえ企業収益ばかりが高まるのか、随分と疑問が呈されましたが、何の不思議もありません。不思議に思えるのは、政府部門全体の収支の動きを把握せず、自分たちが何をしているかを知らないだけだったのです。

 そうこうしているうちに、頼りの大規模な輸出が、米国のサブプライムローンによる住宅バブルの崩壊とリーマンショックによって失われます。輸出を内需に波及させていなかったのですから、日本経済が大きな打撃を受けるのも当然でした。政策課題は、2000年代始めの「神風」が吹く前に逆戻りしてしまいます。

 この経済危機に対して、麻生政権は大規模な財政出動に踏み切ります。バラマキとも言われましたが、背に腹は代えられません。いろいろと批判もあるでしょうが、脆弱になっていた日本経済を、とにかく持ちこたえさせたのですから、それなりの評価は必要でしょう。問題は、その後です。

 ここから先は、GDP統計が未発表なので、私の推定ということになりますが、2010年度は、前年度に比べて、補正後でも5兆円の緊縮財政が敷かれました。また、2011年度は、更に5兆円の緊縮財政ですね。日本の財政当局は、2004年度から2006年度にかけてと同様のことをしているのです。ですから、デフレが続くというのも道理でしょう。

 ハシモトデフレ前と違って、政府部門全体が赤字という状況ですから、安易な拡張財政は行えません。しかし、緊縮財政を1年ほど待って、デフレが収まってから始めることもできないほどなのでしょうか。本当の問題は、こういう普通の議論がされないで、足元の緊縮財政の状況も知らず、闇雲に緊縮財政や消費増税を渇望していることです。そこには、需要を適正なものに調節するという平凡で冷静な考え方は欠落しているのです。

おわりに
 短い時間でしたが、この30年ほどの日本経済の謎や不思議に思われていることを解いて見せました。タネ明かしをすれば、GDP統計の政府部門全体の数字を見るというだけのことです。そんな基本的なことも踏まえないで、経済運営をしている日本の現状の方が、むしろ驚きでしょう。

 最近の財政当局は、税の増収を分かりにくいように予算案を説明したり、税収を意図的に低く見積もったりして、財政再建の進捗ぶりを隠すようにしています。彼らは、悪意からではなく、それを知られたら、政治が緩んでしまい、ひいては国民のためにならないと思っているのでしょう。ところが、これが正確な日本経済の状況認識を妨げ、適正な経済運営を難しくしているのです。まさに、「地獄への道は善意で固められている」のです。

 もちろん、財政当局の無知の罪は重いものがあります。しかし、それを各界のリーダーは、誰も批判しません。日本人は、全体を見たり、戦略的に考えたりすることが本当に苦手なのですね。それぞれの専門分野や現場仕事での質の高さとは対照的です。いや、むしろ、そういう志向性が邪魔をしているのかも知れません。

 今回、お話を聞いてもらえた皆さんは、すんなり納得できたのではないかと思います。一度聞けば、誰でも分かるようなシンプルな事実なのです。しかし、こうして話を聞いてもらえる機会には限りがあります。日本を動かせるほど、たくさんの人に話す力なんて、とても私にはありません。

 日本は、これからも、全体状況を見ずに、度外れた経済運営を続けてゆくことでしょう。衰亡の未来が見えるようで、私にはとても辛いです。ときどき、真実を知らずに、皆といっしょに財政再建に興奮していたら楽だったろうなと思うことさえあります。「知る悲しみ」というやつですかね。

 国家が天災や戦争によって衰亡してしまうのなら、悲劇の叙事詩にもなるでしょう。しかし、全体状況に無関心で、勘違いから財政再建をやって、それで本物の財政危機を作り出してしまい、経済まで破壊しましたなんて、とても歴史に書けません。

 もっとも、まだ歴史が決したわけではありません。偶然が奇跡を生み出すこともあります。時代の流れの中で我々ができることは、その可能性を高めるよう努力は続けることでしょう。何事も「終わり良ければすべて良し」です。どんな失敗も、最後に成功を収めれば、それに必要な経験だったと語れます。最後に日本経済を復活させれば、「壮大な愚行」の汚名をそそぐことになるでしょう。希望というのは、小さくはあっても、確かに在るものなのです。



 

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2/27の日経

2011年02月27日 | 経済
 特別版はもう少し待ってね。今日中にはなんとか。

(今日の日経)
 社債2年連続10兆円超。リビア政権側、激しく抵抗。社説・主婦の年金救済。為替の変動、個人が抑制。税と社会保障改革、政府、新聞5社の提言比較。イラク最大製油所炎上。中外・文化行政・小林省太。財政赤字削減に苦闘、日本未満でも危機感。科学立国・博士1/3が行方不明。読書・選択の科学、中国「反日」の源流。

※日本は法人税が高いけど低利資金は集めやすい。長引きそうだ。「消えた」と批判され、救済でも批判される年金担当者はつらいよ。逆張りでリスク取る分だけ抑制になる。悔しいが日本で年金を設計できるのは役所だけかね。便乗が怖いのよ。米国の国債を外国頼み、欧州は大きな政府、危機感が強いのは当たり前。
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2/26の日経

2011年02月26日 | 経済
 今日は特別版を夜までに掲載する予定です。

(今日の日経)
 企業収益・設備投資の償却内が続く。サウジ、原油を緊急増産。一票の格差最大2.5倍に、区割り審議、来年2月結論。日航支援8者が出資、更生手続き終結へ。イレッサ、製薬会社敗訴、薬害にPL法適用。国勢調査・増えぬ人口、経済に重荷。値上がり品目3割に。米GDP2.8%増、個人消費を下方修正。ロシア2年ぶり利上げ8.0%、10年CPIは8.8%。音楽配信、初の減収、携帯ゲームと競合。

※足りないのはカネではない。オイルショックのときも量は足りていた。政治の改革はいつも時間がかかる。薬害には保険が必要。人口減を地方の問題と思っていると危うい。物価上昇で購買力が海外に流出、緊縮財政を競っている場合ではないのだが、日本は鈍感だよね。CPIを下回る金利では効果ない。コンテンツは携帯ゲームと連結しないと稼げない。
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もう政策論争より総選挙

2011年02月25日 | 経済
 またも社会保障は政争の具か。子ども手当の事業規模は2.9兆円と巨大だ。しかも、年少者控除などの個人所得税にも結びついている。国民生活や経済運営の観点からは、その内容が良きにつけ悪しきにつけ、急に変えることをしてはならないのだ。こういう当たり前のことを日本人が分かるようになるのは、いつになるのだろう。

 野党自民党は、子ども手当中止などを柱にする予算の組み替え動議を決定した。まあ、管政権を退陣や解散総選挙に追い込むための「方便」であって、本気ではないのかも知れないが、これだけ経済の先行きにリスクが出てきたときに、需要を大きく引き抜く政策を看板に掲げてどうするのかね。

 与党民主党を侮って、反論もあるまいとタカを括っているのかも知れないが、こんな杜撰な政策は、筆者から見れば、赤子の手を捻るようなものだ。バラマキとは言うが、子ども手当は、年少者控除の縮小などで中期的に財源が確保されていて、給付を月額2.6万円に倍増するのでなければ、バラマキにはならない。そもそも、子ども手当は、自民党政権下の景気対策を組み替える形で始まっている。

 他方、児童手当や保育所拡充には、それぞれ1千億円しか戻してないのに、農家の戸別所得保証の方は、なぜか3千億円も積み増している。農家へのバラマキは続けようというわけなのか。また、景気対策や成長政策には1.5兆円も用意しているから、結局のところ、所得再分配から、業界へのバラマキに変えるだけ。それでいて、歳出全体は削減しているから、景気の足を引っ張ることになる。まじめに評論するのも嫌になってくるような内容だ。

 そんな中で、日経の社説は、子ども手当の財源が既に用意されていることも理解していないし、次の支給は6月に迫っていて、所得制限や給付対象の見直しのような手直しをすれば混乱することも分かっていない。政治も政治だが、経済紙までが大局から見ることができないのでは、日本の先行きはどうなることやら。 

 日本の政治に高度なことは求められないのだから、新聞各紙は、もう細かいことは言わず、予算をそのまま通して、さっさと総選挙に移り、あとは好きしろということで足並みを揃えたらどうか。この数か月で世界経済は大きく動く。選挙後に何をすべきかは、政治ではなく、経済が決めてくれる。

(今日の日経)
 レアアース・脱中国へ1100億円投資。最大級の太陽熱発電、三菱商事がスペインで。社説・与野党で子ども手当の制度設計し直せ。自民が予算組み替え動議案。原油高、長期化の見方、NY100ドル台。三菱UFJ、ニコスに3度目増資。中東混迷で連鎖株安、為替でもリスク回避。住専処理15年曲折の末。年金未納・専業主婦救済見直し。米国の新アジアチーム固まる。リビア、迫る首都攻防。米軍制服トップがバーレーン入り。イエメン大統領が衝突回避を命令。原油高騰、米景気回復の逆風に。三菱レイヨン、韓国で生産倍増。大機・破綻マニフェストの責任。金利1.220%に低下。経済教室・中東民主化の受け皿なく混乱も・池内恵。

※リビアが終わっても原油高は続くと見る。インフレ警戒とリスク回避で成長は減速だろう。池内先生、読ませる内容です。
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危機における歴史的業績

2011年02月24日 | 経済
 リビアで騒乱が始まったとき、筆者には戦慄が走ったけれど、日本の政治は気楽なものだね。やはり、騒乱は原油高騰に結びついてしまった。もちろん、早期に騒乱が収拾され、それも体制側の制圧で終わって、中東民主化の火も消えてしまうかもしれない。しかし、政策とは、危機に備えるべきものではないか。そういう感覚は日本人にはゼロかもしれないが。

 世界経済は、米国の量的緩和によってカネ余りにあり、インフレ傾向が強まっている。1974年のオイル・ショックの例を引くまでもなく、こういう状況で地政学的な危機が起こると、一気にインフレに火がついてしまうことがある。それは各国とも分かっているから、金融引き締めに踏み切るタイミングを計っているところだろう。

 筆者が心配しているのは欧州で、もともと、ECBはインフレに対する警戒心が強く、中東で騒乱が始まる前から、金融緩和からの転換があるのではないかと思われていた。そこへ、今回の騒乱である。特に、リビアの原油は欧州向けだから、一番影響を受ける。

 むろん、ECBが腹を括って、原油高騰分のインフレは仕方ないと判断すれば良いが、不安に駆られて予防的な引き締めに走るようだと、欧州の金融システムは体力が弱っているから、思わぬ影響が出る可能性がある。そして、債務危機にある国は、ますますカネが借りずらくなってしまう。これは最悪のシナリオだろう。

 そこまでいかなくても、原油価格の高騰と、これに伴う資源価格の上昇は、世界経済の一般的な消費の購買力を着実に奪う。スタグフレーション状態になるわけだ。その時、オイルマネーが上手く循環し、需要を補ってくれればよいが、地政学リスクが高まっているときでもあり、その保障はない。

 例えば、安全資産ということで、米国国債が買われて長期金利が低下し、それが設備投資に結びついたり、あるいは、更なる財政支出の拡大になって、原油高騰によって奪われた需要を補うということになれば良いが、それは考えにくい状況だ。

 日本の場合は、「幸い」デフレ状況にあるので、世界的に最も有利な立場にある。インフレをあまり気にせずに済むからだ。さらには、財政によって需要を補うことさえ可能である。ところが、日本には、困った政治リスクがある。2011年度予算が執行できなくなって経済に打撃を与えたり、仮に、野党案丸呑みで通しても、その野党案が5兆円も歳出を削る緊縮予算案だったりするからである。

 政府の経済見通しがデフレにあるのに、緊縮予算案を出してくること自体、常軌を逸しているが、中東情勢によってリスクが高まっている中では、ますます現実に合わないものになる。このことは、すぐさま、政府・民主党から切り返されるだけでなく、国民の政治に対する怒りまで買いかねない。

 筆者は、日本経済のために、管首相が6月にも解散総選挙をすると約束すべきだと考える。そして、代わりに政府の予算関連法案を通してもらうのである。それでも、野党・自民党が納得しなければ、総選挙で自民党が政権を獲った場合、最初に編成される2012年度予算の関連法案については、参議院で反対しないと約束すれば良い。こうした政治慣行の確立が現在の憲法体制における統治機能の不全を防ぎ、ひいては国民のためになる。歴史的に見ても、管総理、谷垣総裁の双方に十分な業績となるだろう。

(今日の日経)
 原油高騰、見えぬ出口、NY100ドルに接近。自民総裁、解散なら協力。企業収益、資源・材料高に向き合う。輸入小麦18%値上げ。こども園「保育」要件緩和。中東緊迫、円高圧力に。サウジ、混乱波及阻止図る。国内エネルギー価格上昇。鉄スクラップ一段高。経済教室・中東民主化・世界の秩序混乱に拍車・中西寛。原点はストリート・好きでたまらない。

※出口が見えねば備えるべし。そうしてください。小麦、円高、サウジ、エネルギー、鉄とリスクだらけだね。この先は中西先生でも見通せないだろうなあ。
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命を次代に引き継ぐこと

2011年02月23日 | 社会保障
 毎週火曜日に公開されるJMMの北野一さんの論考を読んでいたら、「税・社会保障の抜本改革を考える討論会(亀井善太郎研究員)」の話が出てきた。そういえば、この討論会の記事は日経にも出ていたね。北野さんは、とても感銘を受けたようで、毎回、出席したいとの由。そこで、東京財団のHPに飛んで、議事録を拝見したのだが…。

 まあ、有り体に言うと、素人談義だね。こういうものに感銘を受けていては、先が思いやられる。例えて言うと、難病の治療法を検討するのに、町医者を集めた感じかな。むろん、医者だから、それなりのことは言っているのだが、病気の原因をつかみかねている。中には、それらしく聞こえるが、的外れなことを主張する者もいる。おまけに、話を聞いた国会議員が「患者の納得が大事」などと、難病を分かった気になったりしている。

 例えはキツかったかもしれないが、年金制度を論ずるなら、一橋大の小塩隆士先生の「人口減少時代の社会保障改革」くらい読んでないとね。そのp,83には、賦課方式を積立方式に変えることは、数理的に無意味だという証明が出てくる。したがって、現下の危機を、賦課方式から変えることで何とかしようという議論は「即死」なんだよ。

 また、保険料方式を税方式に変えることは、先日の本コラムで書いたように、年金を受ける権利を弱めることになるため、ターゲットを絞り、目的をはっきりさせて投入することが非常に重要だ。安易に「税方式で一気に解決」なんていうのは、社会保険の意味が分かっていないと疑わざるを得ない。

 始末が悪いのは、日経ごひいきの学者は、こういう先行研究を、本当の意味で理解してないんだな。一般の人が聞いたら、有名大学の先生が言っているのだから、そうなのかなと信じてしまうのだろうが、大間違いでね。公的年金の原理は非常に特殊なので、普通の経済学者では却って誤解してしまうほどで、本当に一握りの専門家の世界なんだ。

 本コラムの読者は、「小論」を読んで、「なるほど、なるほど」とすんなり進めたと思うが、これを書くのだって、筆者は半年以上の時間を投入している。それほど年金制度の設計をするというのは大変な作業だ。大手新聞や経済団体の有能なメンバーと言えど、有識者から何回かヒアリングをしたくらいでは、とても使えるようなものにはならない。

 さて、ここで年金制度の技術論を展開してても、読者の皆さんは困惑するだけだと思うので、一点だけ、何が本当に重要なのかについて触れておきたい。それは、少子化である。極端に言うと、少子化さえ緩和すれば、どんな制度でも大丈夫だし、逆に、少子化を解決できなければ、どんなに改革しても給付は維持できない。これが絶対に外せない「戦略の焦点」なのである。

 なるほど、少子化は大事な問題だと、世間でも言われるようになっているが、素人と専門家の違いは、それがいかに重大で深厚な問題であるかを身に染みて知っているかどうかだ。誤解を受けるかも知れないが、少子化を解決できるのなら、財政が破綻したってかまわないし、財源が必要なら自衛隊を解散したっていい。それほど重要な問題なのである。考えてみてほしい。少子化が進んで、日本人が激減し、国民が消え去ってしまって、財政や国防に何の意味があるだろうか。

 少子化による人口減少は、始まって数十年は目に見えない。だから、素人は甘く考えてしまう。そして、激減が始まって、恐ろしさに気づいたときには、既に手遅れである。専門家は、これを予測できるから、強い危機感を持つ。専門家に言わせれば、財政が苦しいから、乳幼児保育の充実ができませんなんて、論外なのである。

 意外に思われるかもしれないが、マクロ経済スライドを導入したことで、現行の年金制度が破綻して給付が不可能になることはなくなった。「百年間は安心」になるように、給付をひたすら下げられるように仕組んであるからだ。現行制度の最大の欠点は、「少子化に持つかどうか」ではなく、少子化を解消する武器を持たないことである。

 それを、厚労省は年金制度の外で対応しようとし、本コラムは年金制度の中に組み込んで解決しようとしている。本コラムの改革案の「肝」は、そこにある。筆者としては、少子化が解決されるのなら、改革案の「乳幼児給付」のつまみ食いでも一向に構わないし、子ども手当でも何でも良い。筆者は国民に問いたい。生き続けること、命を次代に引き継ぐこと、これ以上に優先すべき政策目標はあるのですかと。

(今日の日経)
 NZ地震、邦人十数人が不明。都内の国有地、定期借地方式で再開発。中東リスク、市場揺らす、楽観ムード変調の兆し。政治に懸念、国債格下げも。都道府県予算案0.4%減。石油製品など中国で値上げ相次ぐ。インドネシアが監視団。イラン軍艦スエズ通過、イスラエル軍、挑発に対応。家電量販店には客足が戻る。アパレル、中小も中国脱出。経済教室・成長外需頼み、家計に弱さ・竹内淳一郎。

※地震の被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。
※とうとうリスクが顕在化したね。政治で格下げとは情けない。こういう記事は大事、税の増収分だけデフレ圧力がかかるのが分かる。中国はまた一歩インフレに。イスラエルは何をする。産業高度化ではあるが、成長力が減ってるということ。リスク顕在化の中で、日本は外需頼みで良いのかね。
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非合理だから読めない

2011年02月22日 | 経済
 日本の政治がどうなるかは、書かないようにしている。経済や外交・安全保障は、合理性があるので、将来を読むことが可能だが、日本の政治は非合理なのでね。ただし、最悪の選択をするという「法則性」はあるのかもしれない。

 日本の内需はふらついている。それは10-12月期のマイナス成長が端的に表している。原因は、経過措置も取らずに景気対策を次々に打ち切ったことだ。緊縮をするにしても、需要の急変は避けるべきで、セオリーの逆を行く稚拙な経済運営だった。政治の混迷によって補正予算も遅れ、この期には間に合わずに、公需の減少がマイナス成長を決定づけるという結果だった。

 他方、一般のエコノミストたちは楽観的だ。輸出の好調さから、生産が回復してきているためだ。筆者は、こういう外需に頼り切った成長には危うさを感じる。新興国はインフレにあり、既に利上げが始まっていて、いつ崩れてもおかしくない。予想外だった中東のネット革命の動きは、石油価格の高騰やオイルマネーの停滞を呼んで、脆弱な欧州経済に打撃を与えかねない。こうした状況を見ると、自分の城である「内需」を固めておきたいと考えるのが、普通の感覚だと思うが。

 本コラムでは、自民党が、民主党の予算案を容認する見返りに、外交・安全保障の主導権を握り、集団的自衛権、武器輸出3原則などで譲歩させるとともに、衆院で2/3が得やすくなるよう比例代表を削減し、参院は比例代表にして票の価値の不平等を是正するというシナリオを書いた。(1/15,12/27) これが彼らにとって、最も合理的だからである。

 しかるに、自民党は、その逆をしたいようで、子ども手当、高校無償化、農家所得保障、高速無料化を「バラマキ4K」と称し、国債発行額の減額を求めるようだ。気持ちは分かるが、政府の経済見通しは、今でも物価上昇率はゼロであり、GDPデフレーターはマイナスだ。そこへ更なる緊縮財政をしたら、日本経済はデフレに突っ込んでしまう。どうして、こういう不合理なことをしたがるのか理解できない。ただの駆け引き材料にすぎず、まさか本気でするつもりはないと思いたい。

 政治的シンボルとして「バラマキ4K」と称しているのだろうが、事実はバラマキとは違う。子ども手当は年扶養控除の縮小などで財源確保が確定しているし、高校無償化は配偶者控除の縮小で捻出可能だ。農家所得保障も土地改良などの公共事業費の削減で大半が賄われている。高速無料化は自民党政権下で作られた「基金」が財源である。まじめに議論したら、容易に切り返されるし、バラマキを止める代わりが、旧に復するだけの「時計の針を巻き戻す」ようなことだと分かれば、国民の不評を買いかねない。

 そもそも、経済政策は、景気に合わせてしなければならないもので、6月の解散総選挙までの間に、世界経済に異変があれば、経済政策の転換は自殺行為になってしまう。逆に、景気が好調なら、秋の補正予算の頃には、見通しを上回る税の増収が明らかになり、それだけで、かなりの財政再建になるはずだ。つまり、経済政策での譲歩で得るものは、水モノだし、あまり意味がないのである。

 こうしてみれば、与野党の幅広い合意が必要になる、外交・安全保障の基本原則の変更や選挙制度の改正の方が遥かに価値があることが分かるだろう。それを得ておくことが、総選挙後の政権運営を大いに助けることになる。これは、自民党だけでなく、民主党にとっても言える。もし、民主党が前原外相てもトップに担いで、同じ提案を自民党に持ってきたら、合理性ゆえに抗することができないだろう。

 結局、合理的な選択は、経済の安定、外交・安全保障の現実化、統治の基礎の再建を通じ、最も国民の利益になるのである。だからこそ、本コラムは、日本政治のことではあるが、例外的に提案をしているわけだ。まあ、非合理なのが日本政治の特徴なのでね。どうなるか先は読めないよ。

(今日の日経)
 リビア首都、混乱広がる。公明、首相退陣でも反対。ポルトガル、国債償還の手当ては2/3。社説・中国は安定保てるか、リビアの独裁続かず。自民・予算組み替え動議提出へ。食料高が店頭価格に波及。景気「足踏み脱する動き」。銀行の国債購入最高に。失業1年以上最多。需要不足、年20兆円に、10-12月、5期ぶり拡大。薄型TV下落、エコポ分超す。成長の限界という不都合な真実・末村篤。経済教室・競争政策・大橋弘。漫画で広告・弘前大。

※リビアがこうなるとは。ポルトは逆に危うく見えるね。食料高への国民の不満は他人事でない。回復も所詮は外需。投資需要がなく、失業は長期で、需要不足拡大なのに、自民党はバラマキ停止が看板ですか。末村さん、今までが過渡期というのは正しいと思う。
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永久革命へと続く道

2011年02月21日 | 経済
 国民の熱狂の中で長期政権が崩れ去り、新しい政治への期待が高まる。国民の声を聞くという新政権は、不効率な行政を正して負担を軽くし、生活を良くしてくれるだろうと。これは、エジプトの話ではない。2年前の日本のことである。そして、いまや、それは失望へと変わっている。

 この土日、テレビの報道番組でエジプトの革命の様子を見ることができた。そこで最も印象に残ったのは、エジプトの若者の「これで生活も良くなる」という声だった。残念だが、それは失望へと変わるだろう。経済は、政権が変わったぐらいで、すぐに良くなるものではない。年々の積み重ねが必要だからである。

 ムバラク政権下のエジプトでは、経済は好調であった。食料価格を抑制するといった貧困対策も取られていた。むろん、若者の高い失業率を下げる必要はあったが、これは相当に高度な経済運営が必要である。これを達成できたのは、高度成長期の日本くらいだろう。所得再分配には社会保障の整備も欠かせないが、これも専門知識の塊である。基盤の固まらない革命後の政権に、これらを求めるのは酷というものだ。

 実際、政権交代後の日本で起こったことは、非現実的な公約の続々たる破綻であった。外交や財政の難しさを痛感し、従来路線に立ち返ることによって、現状を維持をするのに精一杯となっている。従来路線は、あまり上手く行っていなかったとは言え、それなりに現実に鍛えられている。これを乗り越えるには、経験と知識に裏打ちされた、かなりの力量が必要だ。スローガンを掲げるだけでは、物事は一歩も進まない。

 本コラムでは、厳しい財政事情の制約の下で、経済成長の回復と社会保障の再建をする方法を示している。それは、基本内容の「雪白の翼」や小論を読んでもらえば分かるが、誰でも理解できるような簡単な内容ではない。しかし、この程度の知識を社会のリーダーが共有できるようでなければ、経済や社会保障の改善は望めない。

 これから、日本やエジプトで広がるのは「永久革命論」かもしれない。新政権による稚拙な政策による経済や社会保障のパフォーマンスの悪さは、再度の革命の待望論へと移っていく。日本でも、民主党以上に過激なバッシングで人気を集める人達がいるではないか。筆者には、彼らが経済や社会保障について満足な代案を持っているとは思えない。持っていたら、過激なことは言えないのである。

(今日の日経)
 中国、集会を封じ込め、外出制限100人超か。携帯、海外へ再進出。「吹きこぼれ」ていく学生たち。米欧利上げ観測を織り込む市場。核心・生き残ったグリード。反政府デモが中東全域に。ボルトガル国債7.5%超。家庭用燃料電池JXエネ初の次世代型。起業型国家シンガポール。強力超伝導磁石が小型に。有機EL材、希少金属含まず。塗れる電子素子開発。広告マスターコース。経済教室・企業戦略再構築の試金石・伊藤邦雄。アクティブ・ラーニング文系学部に遅れ。

※中国は情報ハブを徹底して潰しているのか。金利は期待先行かな。ポルトガルのある欧州は上げて良いのかね。新技術を見るのは楽しいもの。おもしろい広告だ。文系こそ必要なんだが。
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改革の自己目的化

2011年02月20日 | 社会保障
 昨日、年金制度について、保険料方式と税方式の違いについて書いたのだけど、ちょっと難しかったようだね。保険料方式の権利性とは何かということを、もう少し分かり易く説明することにしたい。

 保険料方式、これは現行制度の基調と言っても良いのだが、保険料を支払うと、いくら支払ったのかがキチンと記録される。そして、その記録に基づいて、将来の年金が給付される。むろん、多く負担した人には多く、サボってしまった人には、その分を減らして給付がなされる。

 他方、税方式、これは基礎年金を消費税で賄うことも同じなのだが、税をいくら払っても、それは記録されない。たくさん税を負担したからといって、年金の給付が保障されるわけでもない。だから、国の財政が苦しくなってきたら、あっさりと「年金も減額しましょう」というのも可能だ。まあ、これが当局者の本当の狙いかもしれない。

 民主党が政権を獲れたのは、年金記録問題が大きかった。「消えた年金」と称して、保険料を支払い記録がちゃんとなされていないことを批判して票を集めたわけである。この問題についての国民の怒りは、もっともなものだ。年金を受給する権利が減ったり、失われたりするのだから、当然のことだろう。

 そして、この問題の究極の解決法が年金の税方式化なのである。税方式なら負担を記録する必要はないし、負担したからといって給付を保障する必要もない。問題が将来に向かって解決されるのは自明だ。税方式化というのは、端的に言うと、年金受給権をなきものとして、そのときの財政事情で自在に変えられるようにする政策なのである。

 むろん、これに賛成の人も居よう。低所得で保険料が納められず、保険料方式では満足な年金をもらえそうにない人などは、そうかもしれない。日経は、こうした「メリット」を強くアピールする。しかし、大多数の保険料を納められる人たちは、受給権が保障されなくなることに賛成するとは思われない。目立った反対がないのは、こういう改革の意味が知られてないだけのことだろう。

 日経は、保険料未納による無年金者を減らす、世代間格差を和らげるという二つの課題を掲げるが、前者は、事情に応じて個別に税財源で救済する制度を整えれば良いし、後者は、年金給付の削減や課税で対応すれば良いことである。これらのために、受給権を捨ててしまうような制度の根幹に関わる改革までする必要はまったくない。「お湯とともに赤子を流す」とは、このことだろう。

 日本は改革が大流行だが、愚にもつかないようなものが多い。現行を改善し、地道に問題を解決する方が理にかなっているにも関わらずである。日本経済が衰退し、その焦りから、根本改革が自己目的化するようになっている。正しい道を指し示すより、愚行を諌めることに労力を割かなければならない、そんな有様である。

(今日の日経)
 G20不均衡是正指標で監視。最低保障年金盛らず。解散逃げ水なら既視感・西田睦美。消費増税を財源に・労使四団体が一致。中国もデモをネット書き込み。フィリップス・安定収益の事業を選択。中外・非婚に追いやるな・岩田三代。地方疲弊止まらず・谷隆徳。新しい国産の遠心分離機。読書・破壊する創造者。

※米国の輸出は足元で改善。大幅な増税が必要だからね。衆院の区割に1年半もかかるのか。現実的なのは日商だけ。非正規の固定化は130万円の壁だよ。
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