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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

家計調査に表れたもの

2011年11月30日 | 経済
 昨日、10月分の家計調査が公表された。最近は、内閣府の消費総合指数という便利なものがあり、GDPを占うには、そちらが有効だから、各調査機関の注目度は下がっているのかもしれないが、筆者好みの統計である。今回は、ロイターの記事がおもしろかったので、紹介することにしよう。

 それは、住居の設備材料が大きく伸びているというものだ。総務省統計局は、太陽光発電設備への需要が寄与している可能性があると分析しているらしい。太陽光は、次世代の成長産業として注目されているが、消費を押し上げている事実は、考えてみれば当然とは言え、新鮮な驚きだった。

 今回の家計調査は、対前年同月比が全体で-0.4であり、その内容は、地デジ化需要の反動で教養娯楽費が-0.84の寄与度だったの対し、設備修繕が+1.80の寄与度であり、全体を押し上げた。季節調整済の実質指数でみると、対前月の変化率は+0.3であり、震災以来の回復基調を維持していて、これに貢献したとも言える。

 太陽光は、パネルの値下がりによって、ほぼグリッドパリティに到達しており、今後、原発賠償や化石燃料の発電比率増大などによって、電気代が上昇することを考えると、更に地位は高まるだろう。太陽光は、補助金も勘案すると、10年ほどで元が取れるとされる。その設置は、10年分の電気代をまとめて払うようなものであり、消費の押し上げに貢献するというのもうなずける。

 太陽光を導入するコストのうち、パネルの割合は半分程度にまで下がっており、設置工事や付属装置のコスト割合が大きくなっている。その点から言えば、まとめて設置できるマンションなどが今後は有望なはずだが、普及させたくない電力会社の意向が働き、戸別に分電しなければならないという不効率を強いる規制がかかってる。すなわち、太陽光は、家計調査に表れるほど、消費の押し上げ効果を持つ、有力な規制緩和の項目になったということである。

 ところが、新成長戦略を標榜する経産省は、そしらぬ顔であり、うるさく規制緩和を唱える日経も、ダンマリを決め込んでいる。原発事故があって、新エネルギーが求められており、電力会社の社会的な影響力も弱まっているはずなのに、日本経済のリーダーたちは、チャンスを前に動こうとせず、法人減税・消費増税を唱えるのみなのだ。

 消費支出は、季節調整済の実質指数で見ると、2010年8月の101.4が直近のピークであった。その後、リーマンショック対応の経済対策が一気に打ち切られ、震災前の今年2月には、98.6まで、2.8ポイントも落ち込んだ。2月から3月への震災ショックの落ち込みが2.8ポイントであるから、その打撃がいかに大きいか分かろう。日本経済は、財政デフレと震災ショックのダブルパンチを受けたのである。

 そして、前回9月に98.8と震災前水準を取り戻し、今回10月は99.1と、その水準の維持が確認された。消費支出は、ようやく、震災ショックが癒えたばかりであり、今後は、財政デフレのショックからの回復過程に入る。成長というより、無謀な財政運営による傷を癒している途中なのだが、緊縮や増税を唱える人たちは、それを分かっているのだろうか。

 家計調査は、「民のかまど」を示すものである。その数字は、日本の経済エリートがやっていることの意味を浮かび上がらせてくれる。そういうことが、新しい加工統計が開発されるようになっても、いまだに筆者が好むゆえんである。

(今日の日経)
 イタリア国債7.4%。社説・欧州発の金融収縮。消費税・給付効率化ひるむ政治。沖縄防衛局長を更迭。新規国債44兆円以下に。立地補助は高シェア企業に。年金減額を容認の報告案。中国経済・本土からマネー流出。ASEANの成長率伸び悩み懸念。英、成長急減速、財政目標先送り。プラグインHV1月発売。住宅大手が開発を強化。経済教室・企業改革・山口一男。

※社説が遅れを取り戻しつつあるね。※ひるむのは有権者の家計の苦しさの反映でもある。※税の自然増収隠しをまたするってことか。※下げるにしても0.5%、マクロ的感覚がゼロだね。※PHVは電力ピークカットにも有効。料金体系次第だが、今の経産省は動かんだろう。

※明日は休載します。
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経済ビジョンの既視感

2011年11月29日 | 経済
 医療・環境・農業に重点の経済ビジョンというと既視感があるなあ。経産省も似たような戦略を繰り返すだけになったのだろうか。そもそも、目指す成長率が1.5%というのは、低く過ぎはしないか。こんなに低くては、消費増税は無理なので、財務省から「もっと産業政策を」と求められるかもしれんよ。

 日本の成長率は、2003年から2007年までの平均は2%以上あるし、昨年だって2.4%だった。ショックがなければ、この程度にはなる。これで労働力が逼迫することもなかったのだから、目標くらい高めにしてはどうか。2%成長を実現するにはどうするかという逆算的な産業政策が必要に思う。

 福祉分野で有力なのは、乳幼児保育がある。極端な少子化という、社会として異常な状態にあるのだから、どこかに酷い歪みがあるはずで、それを解放すれば、経済は効率化し、成長するだろうと考えなくてはならない。社会問題の解決にこそ、成長のタネはある。企業を優遇すれば、成長するなどと安易に考えてはいけない。

 具体策は、基本内容の「雪白の翼」に書いたとおりだが、要すれば、若い世代は、お金さえあれば、子供を産み、乳幼児保育を利用するはずなのに、老後のための重い年金保険料を課し、それを妨げているという矛盾があるわけだ。これを解けば、需要が生まれ、雇用と成長が得られ、その上、少子化が緩和されて、年金財政まで助かることになる。

 他方、高齢者介護は、曲がり角に来ているようだ。11/24のダイヤモンドO.L.で野口悠紀雄先生が指摘するには、介護保険導入以降、急速に増加した有料老人ホームは、供給過剰感が出始めているというのだ。これに対して、特別養護老人ホームは、未だ2~3年待ちの状況だから、価格にミスマッチが生じているのであろう。

 つまり、需給関係からすれば、有料ホームは高すぎ、特養ホームは安すぎる状況にある。産業政策としては、有料ホームにはコストダウンの方策、特養ホームは利用料は高く設定する代わり、参入規制を緩める方策が必要かもしれない。前者のコストダウンについては、高齢者専用賃貸住宅がそれに近い存在だろう。

 介護コストは、労働力のカタマリだから、介護先から介護先への移動時間を減らし、介護そのものの時間を増やすことがコストダウンのカギになる。使われなくなった社員寮を転用して高齢者を集め、給食は宅配を利用するといった方法でコストダウンを図る試みは、既に始まっている。

 環境分野では、太陽光パネルは、最新ではグリッド・パリティまで来ているのだから、すべての家庭が備えられるよう、公的融資を活用したリース制度などを設けるべきであろう。ところが、電力会社の抵抗で、未だにマンションに付けるのは難しいままである。経産省も、他省庁の分野には口は出すが、自分のところはサッパリというのでは情けない。

 今日の日経は、東電のリストラ加速として、KDDI株の売却とを報じているが、リストラの本命は、新鋭火力発電所を東京ガスや商社などに売却することだろう。東京都すら、発電所の建設を考えているのに、経産省の産業政策は完全に立ち遅れている。火力で働く東電の社員にとっても、原発賠償につき合わされて給料を抑えられるより幸せではなかろうか。

 OECDは、2012年の経済見通しを発表したが、標準シナリオ、悲観シナリオとも、日米欧では、日本が最も成長するというものだ。その要因として、復興支出が成長を牽引するとしている。実は、補正後の歳出レベルを比較すれば、2010年度、2011年度、2012年度は、だいたい同じくらいである。結局、財政当局が変な緊縮財政さえしなければ、2%成長にはなるということだ。

 低い目標の経済ビジョンとタブーのある産業政策、そして、低い成長とは関係なく緊縮をしようとする財政当局。日本経済にとって何が問題なのかが見えてくるような今日の紙面であった。こういう水平思考の見方をする人は、少ないのだろうがね。 

(今日の日経)
 伊・仏の国債入札堅調。東電がリストラ加速、KDDI株売却。医療・環境・農業に重点、経産省提言。社説・ODA予算、地位協定の運用改善。OECDが12年の悲観シナリオ。車の国内生産9月比2.7%増。雇用保険料下げへ、3000億円の負担減。中国景気・輸出と建設投資が低迷。経済教室・試算運用の拠点化・藤田康範。

※ODAもピークは1997年か。やはり、この年が日本がダメになった転換点なんだね。※運用改善を高く評価するとは玄人好み。環境調査の運用改善を指摘しているのも良い着眼。
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世代間の不公平を煽るなかれ

2011年11月28日 | 社会保障
 「日本破綻を防ぐ2つのプラン」という新書を読ませてもらったが、執筆した小黒一正さんは、端的に言って、コアになっている「世代間負担」について、十分に理解していないように思える。それでいて、「世代間公平委員会」を設けて、負担と給付を正せというのであるから、危ういものを感じる。

 小黒さんは、世代会計を基に、年金制度などで、高齢者世代は「得」をし、若齢者世代は「損」をしており、ゆえに、若齢者世代は、高齢者世代から搾取されているとするのだが、これは、世代間負担論の初学者に見られる典型的な誤りである。ここを理解できているかどうかが、社会保障論のプロか否かを分けるといっても過言ではない。

 公的年金制度は、親世代の給付を子世代が負担するという「賦課方式」によって運営されている。この賦課方式には、「フリーランチ」が発生するという特殊な性質があり、それゆえ賦課方式が採用されているとも言える。経済学の教育では、この「フリーランチ」は、通常は発生しないとするため、なまじ経済学を知っていると、かえって間違いを犯してしまう。

 公的年金のフリーランチとは、寿命が延びる長寿化が起こった場合、その世代は、より長い期間に給付を受けることができ、その分、「得」をするというものである。一見すると、それを支える子世代は、負担増になって「損」をするように思えるが、彼らも老後は、長くなった期間の給付を受けるため、「損」をすることはない。こうして、「得」だけが生じるという珍しい現象が起こる。

 このフリーランチのタネ明かしをすると、「損」をするのは、最終世代ということになる。最終世代は、子世代を持たないので、負担するだけで、給付は受けられず、そこで「損」が出る。最終世代に子世代がないということは、その社会なり、国は、その世代で絶滅することを意味する。最終世代の「損」を問題にしないのは、絶滅を前提に制度を設計しても仕方ないからである。年金の損得を正すより、絶滅の回避が優先されるのは、当たり前の話だろう。

 以上から言えることは、絶滅しないように、きちんと社会を維持していけば、賦課方式からは「得」しか生じず、「損」が表れることはないということだ。ところが、日本では、小黒さんが言うように「損」が出ようとしている。それは、日本では、緩やかな絶滅の過程である「少子化」が起こっているからだ。つまり、「損」が発生は、少子化を起こしたからなのである。

 お分かりだろうか。長寿化による「得」と、少子化による「損」には、直接の因果関係はないのであって、それを、高齢者世代は「得」をして、若齢者世代は「損」をしていることを以って、経済学のフリーランチの常識的な発想で安易に結びつけ、「搾取されている」と叫ぶのは、誤りだということである。

 例を挙げて説明しよう。仮に、若齢者世代が「損」は不公平だと叫んだとしよう。そうすると、高齢者世代からは、「君たちが少子化を起こさなければ、「損」は出なかったのだから、「損」は少子化の原因者が負うべきだ」という反論を受けるだろう。そして、「損得を騒ぐより、少子化を何とかしなさい」と諭されるのがオチだ。少子化は、放置すれば、絶滅に至るのだから、甘く考えてはいけない。

 しかも、日本の高齢者世代は、過去に、給付に必要な以上の保険料を払って、小黒さんが言うところの「事前積立」を行っている。130兆円に及ぶ公的年金の積立金がそれである。筆者の推計では、出生率が1.75程度の緩やかな少子化であれば、「損」が出ない程度の準備は、してくれてあった。

 ところが、小黒さんが「不公平」を焚き付けている団塊ジュニア世代は、この「安全ネット」をも突き破る激しい少子化を起こしてしまった。団塊ジュニア世代は、自分たちの人数の6割しか子世代を残していない。支える世代を、ここまで細らせてしまったのだから、十分な給付を受けられず、「損」を背負うのは、むしろ、当たり前ではないか。

 それでも、今の高齢者世代は、自分らの孫や子である団塊ジュニア世代を不憫に思って、多少は「損」を減らしてあげようと協力してくれるとは思う。しかし、団塊ジュニア世代を支える立場の子世代は、原因者責任を盾にとり、容赦することはしないだろう。彼らには、まったく責任のないことだからだ。小黒さんが団塊ジュニア世代を煽って悲憤慷慨させている「不公平」の刃は、団塊ジュニア世代に降りかかってくるのである。

 団塊ジュニア世代が、この窮地から脱するには、小黒さんの主張する、ほとんど現実性のない更なる負担増による積立金の強化より、少しでも少子化を緩和する努力をすべきである。その具体的な方法は、本コラムの基本内容の「雪白の翼」に記したとおりだ。「損」の本質は、高齢者世代の「得」ではなく、少子化にあることを見失ってはならない。少子化の緩和は、「損」を減らすのに、負担増より遥かに効果的である。

 一点、団塊ジュニア世代に同情を感じるのは、激しい少子化を起こしたのは、自由な選択の結果というより、緊縮財政が引き起こした就職氷河期のために、生活が安定しないで結婚のチャンスを失ったことや、緊縮財政が子育て支援策を惜しんで、子供を持つことを難しくしたことにあるということだ。筆者には、団塊ジュニア世代が怒りを向けるべき対象は、別であるように思える。

(今日の日経)
 欧州銀のドル調達厳しく、国債保有に不安で金利高騰。欧州国債の売り圧力一段と。消費税・細る担い手、ひずみ拡大。維新の会に議会制民主主義超える危うさ・御厨貴。中国経済は8%台に減速。忍び寄る老いるアジア。日本車と競うメキシコ車。東工大5年制大学院導入。経済教室・外資受け入れ・林敏彦。工学教育はスキルとのバランス。
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日経のいつもの主張

2011年11月27日 | 経済
 日本経済のGDPは540兆円あるから、2%成長を果たすと11兆円増えることになる。今日の日経は、毎年の社会保障の自然増1兆円が国の借金を膨らませるというが、日本経済が順調に成長する限り、その程度の負担は、何の問題もない。特に、現在はリーマン・ショックからの回復期であり、2%成長を果たせば、2兆円以上の税の自然増収も得られるはずだ。

 今日の日経の一面特集「消費税・どうなる一体改革」は、情報ソースが財政当局のようであり、財政当局に最も都合が悪く、他方で、最も重要な情報である自然増収は、オミットされている。社会保障費の自然増を指摘するなら、税の自然増収がどのくらいあるのかも考えるのは、基本ではないのか。情報操作の基本テクにやられてはいかんよ。

 日経は、社説で「増税の前に年金・医療費の膨張防げ」としているのだが、来年の社会保障の緊縮ぶりは大変なものがある。まず、毎年の年金保険料の引き上げ0.5兆円、子ども手当の削減0.4兆円、復興費のために廃止した子ども手当の上乗せ分0.2兆円、年少扶養控除の地方分廃止で0.5兆円、そして、年金の物価スライド特例是正で1%下げると、0.6兆円弱である。全部で2.2兆円になる。まだ足りないのだろうか。

 このように、税の自然増収は無視し、過去に決めた緊縮策をあっさり忘れて、「もっともっと」とやっていたら、デフレ圧力がかかり過ぎて、経済は変調を来たしてしまう。実際、2010年度は、14兆円のデフレ財政を試みて、年度後半をマイナス成長にしてしまったし、2011年度は、大震災のショックに見舞われたのに、三次補正が通るまで、前年度より少ない歳出に抑制し、経済の回復を遅らせてしまった。

 いずれも、前年度補正後の歳出規模との比較を一切説明せず、世間の目を欺いて実行した財政運営である。こうした度外れた財政運営をしていては、経済成長に支障を来たすのは、当たり前だ。情報操作を行って、無理な財政運営を実施し、成長のチャンスを潰しておいて、苦しくなって消費税に頼る悪循環。おまけに、無用な緊縮でデフレを呼び、円高にして輸出産業を壊した上に、慌てて大規模介入に踏み切り、緊縮で節約した以上に政府の借金を膨らませている。

 日本の最大の政策課題は、バカな財政運営をしないことであり、新聞や有識者の役割は、財政当局のエサ資料に頼らず、自分の目で財政数字を確認して評価することである。幸い、 2012年度は、三次補正の真水分6.5兆円があり、その半分は執行されるだろうから、財政当局からの「いじめ」にも関わらず、まずまずの成長を見せるのではないか。

 もし、欧州危機が米国や中国に波及し、第二次リーマン・ショックが勃発した場合は、数々の緊縮策が撤回される可能性がある。そうなると、日本経済は、不思議なことに、内需を中心に力強い成長を始めるだろう。日本の財政当局が間違って、緊縮財政を取りやめると、日本経済は復活するのである。復活が期待できるのは、こんなストーリーかな。

 今日は、いつも書いていることの繰り返しの内容だが、日経がいつもの主張をしているので、こちらもという次第である。楽をさせてもらって、すまないね。
 
(今日の日経)
 EUが銀行支援策を延長。投信マネーがユーロ圏離れ。ドイツ・欧州中銀に問われる決断・藤井彰夫。消費税・1兆円の自然増。社説・増税の前に年金・医療費の膨張防げ。農地集約・吉田忠則。海岸林の再生・小林省太。ネット保険半額・小平龍四郎。雇用生めば永住権・藤田和明。読書・消えゆく手、保険金不払い問題と行政。

※どこまで悪化すれば、ドイツもECBも決断するのかね。※問題はどうすればだよ。小規模農家には土地を貸す場合以外は補償なしを主張するくらいでないと。※保険会社も行政も人手不足というのが今時だ。
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日本経済のねじれた共犯関係

2011年11月26日 | 経済
 日本人が無意識のうちに持つようになったビジョンは、「法人減税をして、消費増税をすれぱ、日本は良くなる」というものだろう。「法人減税をすると、設備投資を促進して成長率が高まる。消費増税をすれば、財政再建がなされる」という単純な思考である。現実には、法人減税をすると、財政に大穴が空き、消費増税は内需の停滞を招いて設備投資を挫折させてしまうわけだが。

 日本人がこうした単純思考に凝り固まるのも無理はない。経済学の教科書が教えるところでもあるからだ。確かに、法人減税をして、投資収益を高めれば、設備投資は高まることになっている。また、日本の大きな財政赤字を埋めるには、大きな税収の期待できる消費税を上げるしかないというのも、極めて分かりやすい話である。

 しかし、現実はというと、財政の危機的な状況は、法人税の激減によるものである。リーマン・ショック前の2007年度には14.7兆円もあったものが、2009年度には6.4兆円にまで落ち込んだ。消費税にして3%分を優に超える大きさだ。このことは、経済が立ち直れば、税収も期待できることを示してもいる。実際、2010年度には9.0兆円まで回復した。

 もし、法人減税をしてしまうと、今後、大きく戻るはずの税収を捨てることになる。それは、とりもなおさず、財政に大穴を空けるということだ。しかも、景気が回復したときには、国債金利も上昇することになるので、これを相殺するものとして、資産に間接的に課税する法人税を保つことは、財政を安定させるための重要な要素なのだ。

 こうした法人減税の財政上の難点が表に出て来ないのは、日本の財政当局は消費増税を優先しているからである。景気回復によって、法人税や、リーマン・ショック前後で3.2兆円も落ち込んだ所得税が大きく戻る可能性が高いことを言ってしまえば、消費増税の機運が緩んでしまうし、経済界の支持を得る手札としても法人減税は欠かせないからだ。

 さて、税収の犠牲を伴う法人減税だが、設備投資を高めてくれるのだろうか。筆者の結論は、そうした効果を否定はしないが、ムダが多過ぎて、政策論としては成り立たないというものだ。考えてみてほしい、法人減税になったからといって、電力、銀行、商社といったところが、設備投資を増やすものでもないし、製造業だって、設備投資をするなら、海外であろう。

 設備投資の促進策としては、法人減税のようなバラマキより、設備投資減税をするほうが遥かに効率的である。現実には、反対に、設備投資の租税特別措置を廃止し、代わりに法人税率を下げることがなされている。これは、経済界が本音では設備投資を増やすつもりのないのを見透かして、財政当局が嫌がらせを仕掛けているのである。

 経済界と財政当局は、世間に本音を隠しつつ、ねじれた共犯関係を営んでいるように思う。本来なら、経済界は、内需拡大を求める一方で、納税は企業の役割と約束するだろうし、財政当局は、景気回復には努力するから、税収には貢献してくれと言うのが筋である。おそらく、両者とも、日本経済の成長を諦め、収益と税収を搾り取ることだけを望むようになってきているのである。

 筆者は、経済界の法人減税の主張を見るにつけ、ひと昔前はこうではなかったという思いがする。収益より設備投資であり、株主には、配当より成長性(株価上昇)で報いるという方向だった。設備投資に積極的なら、原価償却が膨らんで収益が圧迫され、法人税率は重大事ではなくなる。逆に、現在の法人減税への執拗なまでの拘りは、設備投資のやる気のなさ、そして、日本経済の未来を信じてないことを示すように感じられる。

 確かに、2002年に、240兆円だった民間消費(除く帰属家賃)は、9年後の今でも、250兆円になったに過ぎない。これは名目値ではなく、実質値である。9年もかかって、4%しか増えないのでは、日本経済の未来を信じろと言う方が無理かもしれない。こうした経済環境を通じて、経済界の考え方も変わったということだろう。

 かくして、平凡に過ごせば、緩やかに回復したであろう日本の経済と財政を、「改革」によって壊す試みが、大変な熱意と努力を以って敢行されることになる。未来を信じない人達がすることって、しょせん、そういうものなのだ。

(今日の日経)
 欧州国債の利回り上昇、イタリア7.3%超、入札不調、2年債は8%超。社説。止まらぬユーロ機器が迫るドイツの決断。欧州銀への不安再燃、景気低迷負の連鎖。独仏銀の債権突出。日本国債に欧州余波、財政悪化に警戒感。市場関係者は持ち高調整の見方。アイルランド経済上向く・滝田洋一。エジプトの資金流出加速。広告・TV向け復調。

※欧州危機は毎日がビックニュースだ。週末は休みになるかね。※ここでようやく社説か。経済に関して、日経は世論をリードしなければダメ。欧州なら、しがらみもなかろう。事態に対して、どうすれば良いかを示すのが木鐸だ。誰もがこうだろうと思うにようになってから、確認的に社説で書いてどうするね。こうなると、11/13の社説で、イタリアを叱り、日本も対岸の火事ではないなどと書いていたのが恥ずかしくなろう。※日本国債の金利が上がったら、条件反射のように財政悪化に警戒感などと書くのはやめるべき。日経は破綻願望でも持っているのかね。実報にあるように、単なる持ち高修正、行き過ぎの是正に過ぎない。見出しで実報が台無しだよ。

※KitaAlpsさん、まったく同感だ。悲惨な結果になるであろう「実験」を、我々は止めることはできないのだろうなあ。我々は、「規律」を守るためと称して金本位制に拘った戦前の人達と同じ立場になるのだろう。どうして、自分たちの管理を信じず、市場の猛威のなすがままだったのかとね。
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ソブリンリスクと四次補正

2011年11月25日 | 経済
 欧州危機は深刻だ。中央銀行が最後の貸し手としての役割を放棄すると、ここまでリスク回避が進むものなのだね。不安が不安を呼んで、欧州の国債金利は不合理な水準に高まっている。ここに至っても、ECBもドイツも動こうとはしない。インフレや財政負担を嫌っている場合ではなかろうに。

 今回の象徴的な出来事は、ドイツ国債の利回りが英国債を上回ってしまったことだろう。政府債務の規模や成長性から言って、英国の経済力が上とは、とても思えない。ひとえに、自らの中央銀行と通貨を持つことの差が表れているように思う。まあ、政府債務の大きさしか尺度を持たない日本人に、こんなことを言ってもムダだろうが。

 日本の財政当局に洗脳されている人を見分けるのは簡単だ。「政府債務のGDP比は世界一で、毎年の国債発行額は過去最高の44兆円、税収はそれを下回る」というのを、念仏のように唱えるからすぐ分かる。本当に財政を心配している人は、国債発行や税収の状況を自分の目で見ているから、当局のエサ資料をオウム返しするようなことはしない。

 今日の日経は、四次補正の編成を報じている。金利の低下で国債費が余り、税収増が見込まれるから、2兆円規模の歳出拡大をするらしい。普通なら、「財政が危機的とか言っておきながら、こんなことができるのか」と疑念を抱くだろうが、日本人は素直なので、ラッキーとしか思わないのだろうな。

 従来から本コラムで指摘しているように、財政当局は、意図的に、国債費を大きく、税収を小さく見積もっているだけのことである。その結果が四次補正として出てきたに過ぎない。「国債費44兆円、それ以下の税収」というのは、作られたものなのである。実態を見せてしまうと、政治や国民の危機感が薄らぐからである。

 だいたい、震災対応の大型補正予算と大規模な円高介入で国債を大量発行しているのに国債費が余り、震災と円高で経済成長が大打撃を受けているのに税収が上がるなんて、おかしいと思わないのかね。それほど余裕たっぷりに作ってあるということで、震災や円高がなければ、一体どれほど余ったかということだ。

 国債費や税収が余ったからといって、四次補正で使ってしまうのは、いかがかと思うが、おそらく、二重ローン対策ということであれば、政府出資に化けるだけであり、生活保護向けというなら、来年度の地方財政に組み込まれる形になるのではないか。実質的には、溜め込むということだろう。こうして、2011年度の余りはきれいに片付け、財政は厳しいと言って、2012年度の本予算を絞り込むわけだ。

 厳しいのは国民生活の方である。今日の日経によれば、年金減額を3年ではなく、より長い期間で行うという意見も出ているようだ。昨日の試算を見てもらえば分かるが、今の政府案は、マクロ的な影響が大きすぎるため、半分以下に抑える必要があると考える。消費増税の布石として給付削減が必要とされているようだが、消費税前にデフレを進めるようなことをするなんて、悪い冗談にしか思えない。

 欧州危機の状況を見れば、緊縮財政で成長を阻害することは、かえって危機を増幅することが分かる。欧州でも、日本でも、すべてが財政赤字を中心に議論がされすぎているように思う。そうではないのだ。経済運営は、成長の確保こそが優先され、そのためにリスクを緩和することにカギがある。

(今日の日経)
 リスク回避で株離れ鮮明。市場がユーロ圏に不信、ドイツ国債札割れ、英国債の利回り上回る、利払い上昇で財政が悪化して更に値下がり。欧米銀行株の下落も顕著。生保が欧州向け債権圧縮。年金減額、予算編成争点に、不公平感緩和狙う、消費増税の布石。円高の影響は自動車に集中・大塚節雄。介護保険・軽度とケアプラン負担見送り、健保負担増。国保保険料の軽減拡大。四次補正を年内に編成、2兆円規模。経済教室・後継指名・大杉謙一。米軍属裁判権を日本にも、地位協定の運用見直し。

※裁判権の問題は、高く評価したい。これぞプロの仕事だろう。樽井澄夫前沖縄担当大使の功績とお見受けする。有能な外交官ほど名を残さぬものだというが、敢えて記しておきたい。
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正しくも厳しい年金減額

2011年11月24日 | 社会保障
 「正しくとも、愛がなければ、人に厳しすぎる」という言葉がある。日経によれば、年金減額が来年度からされるようだ。確かに、物価下落分を下げていなかったのだから、それは正しいことである。とは言え、それがデフレ下を促進することになっては、誰のためにもならなかったりする。

 記事には、マクロ的な試算がないので、簡単な試算をしてみよう。おそらく、0.7兆円程度のデフレ要因になるのではないだろうか。ベースは、社会保障給付費の年金保険給付費50.4兆円を使った。これは、最新が2009年度のものになるので、2012年度の数字を作るには、これを伸ばす必要がある。

 まず、2010年度への伸びは、厚生年金勘定の歳出の伸びの3.6%を使う。この年は、3年に一度の支給開始年齢の引き上げという特殊要因があって低めの数字になるが、話が複雑になるので、2011年度へと、2012年度へも同じ数字を用いることにしよう。そうすると、2012年度の年金保険給付費は56兆円となる。これに1.2%の減額措置をかけると、0.7兆円になるわけである。

 いかがだろうか。復興増税は、当初の政府方針では、所得税とたばこ税を合わせ、年間0.72兆円引き上げることにされていたが、結局、増税期間を長くすることで、所得税のみの0.3兆円にまで圧縮された。これと比較すれば、日本経済にとって、年金減額がいかに重いかが分かるだろう。

 そして、従来から指摘してきたことだが、社会保障関係の負担増は、これだけではない。まず、毎年の年金保険料の引き上げがあり、これが0.5兆円ある。また、子ども手当が与野党合意で削減されたことによる0.5兆円、子ども手当導入に伴う年少扶養控除の廃止による地方税分の負担増で0.4兆円がある。震災対応の一次補正で流用した子ども手当上乗せ分の廃止0.2兆円もカウントできよう。

 以上をすべて足し合わせると、2.3兆円にもなる。この他に、医療・介護関係の負担増も考えられる。これは、消費税1%分2.5兆円と近い数字である。バラマキ反対だの、世代間への不公平だのと、バラバラの要求が合成されて、全体でこんなに負担増が積み上がっているとは、誰も意識していないのではないか。

 公平のためと言い募り、バランスを取ると称して、若い世代からは子ども手当を取り上げ、高齢者世代の年金を減らす結果、全体的に社会保障を圧縮するだけになる。しかも、子育て世代も、高齢者世代も、消費割合の高いグループであるから、消費と内需に大きく響くことになろう。欧米経済が変調を来たし、円高で輸出が危ぶまれる中で、日本がしているのは、こんなことなのだ。

 年金減額をしなかった1999年度から2002年度にかけては、デフレの中で、大局的な判断ができていたし、高齢者への同情心も多少はあった。その後、10年間の緊縮財政とデフレの時代を潜り抜け、日本は、経済的にも心理的にもゆとりを失った。バッシングの対象は、政治家や公務員から、高齢者、専業主婦へと広がり、優遇されていると思われる者すべてが批判の対象になりつつある。そんな攻撃的心情は、経済や社会保障を俯瞰する視点を失わせ、誰をも不幸にするようになっている。

(今日の日経)
 欧州国債、軒並み下落。ユーロ共同債を本格協議。ドイツ国債、入札不調。国債安が銀行財務を直撃。年金減額来年度から、物価下落分3年間で。外相訪中、異例の厚遇。艦艇通過、日本をけん制か。イエメン大統領辞任へ署名。都市財政は綱渡りの運営。経済教室・社外役員の質・砂川伸幸。

※ユーロ共同債を協議したところで、ドイツ国債が札割れではね。完全に後手に回っている。※中国は外交当局と軍部がバラバラだな。戦前の日本のようだ。
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一気増税論と理性ある政治

2011年11月23日 | 経済(主なもの)
 読売ですまないが、民主党の藤井税調会長は、「消費増税はGDP成長率2%超えが条件」としたようである。まあ、来年は2%超だから、増税できると思っての発言だろうが、再来年は、日銀や各調査機関が1.5%以下としているのを知らないのかね。ちょっと情けない発言だが、成長率と消費増税を絡めること自体は前進である。

 第一生命の経済見通しは、2012年度を2.0%成長と予想しているのだが、そのうち、外需寄与度が0.4である。つまり、欧州危機で輸出が下ブレするようだと、すぐに2%を割るということである。また、ニッセイは、2012年度を最初から2%割れの1.7%成長としている。外需寄与度を0.1としか見ていないからだ。

 確かに、日銀の展望レポートでは2.1%~2.4%成長になっているが、欧州危機が深まる前のものである。これでは、藤井会長は、自ら消費増税はできないと言っているようなものだ。おそらく、バックには財政当局が付いているのだろうが、お粗末なものである。この程度のセンスもなくて、よく経済運営ができるものだ。

 まあ、日本の財政当局は、消費増税をしても、景気失速の「主たる要因」には絶対ならないという強固な信念を持っているので、成長で増える所得の大きさと、消費税で抜く所得の大きさを比較してみようという発想すらないのだろう。彼らは、呼応する大学教員と、信念を固める論考をこしらえては、情報の自家中毒に陥っているように思う。

 1997年に消費増税をやった後、日本経済は破綻寸前に追い込まれた。むろん、他にも要因が考えられるから、主たる要因ではないのかもしれない。しかし、複数の薬剤を服用した際、死ぬほどの副作用を味わった後、そのうちの一つの薬剤は絶対大丈夫だからと、再び服用するバカはいないだろう。病状から服用が避けられないとしても、量を減らしたり、体力のあるときを選ぶのは常識だ。

 消費税の一気の増税が否定されるのは、経済学での論争にも値しない、常識レベルの問題である。経済学を知らない者でさえ、危険を減らす観点から正しい選択ができる。一気の増税への拘りは、もはや、理性を欠いた行動としか思えない。財政破綻への不安感のあまり、一気の増税に走るのは、ジリ貧だと言って、真珠湾攻撃を敢行したメンタリティと変わるところがない。

 今日の日経では、自民党の石原幹事長が、消費増税賛成の代わりに、話し合い解散を求めるとしたようだ。民主、自民の両党が、ともに一気の消費増税を掲げて総選挙に臨み、他方、小政党が、消費増税には絶対反対で、ムダ減らしで財源は出るという構図になると、国民は、リーズナブルな選択ができなくなってしまう。

 だがしかし、与党でも、野党でも、「まずは1%で」という普通の主張をする者が現れれば、形勢は大きく動くかもしれない。それほど、政策の歪みは大きく、中道に沃野が広がっているのである。藤井会長は、「消費増税に反対なら、党を出ろ」と言ったようだが、出て行った者たちが多数派を形勢することさえ可能だろう。常識論で勝てるのだから。

 日本が本当に議論しなければならないのは、どの程度の増税や緊縮なら、経済成長を阻害しないで済むかである。財政赤字が深刻だから、いくらでも増税できると思うのは論外だ。成長で増加する所得の範囲内ですることが、国民の痛みを和らげるだけでなく、財政再建を早めることにもなる。

 昨日のFTは、ソブリンリスクは抑え込んだものの、緊縮財政による内需不振で苦しむアイルランドの姿を報じている。アイルランドには輸出力があったから、ギリシャのように、緊縮が内需を冷やし、GDPが縮んで財政赤字を深刻化させるという悪循環にはならなかったが、その命綱の輸出が欧州危機で揺らいでいる。

 欧州危機は、不況下に緊縮財政を行い、財政の改善を果たせるかの実験場と化している。成功の望みは薄くても、統一通貨制度で金融政策の自由を失った以上、やるしかない。そして、米国も、議会の機能不全によって、不況下の緊縮財政の実験を始めるようだ。新興国は、欧米への輸出に頼っており、壮大な実験は、世界経済にとって苦難に満ちたものになろう。

 日本の場合、欧州と違って金融政策の自由はあるし、米国とは異なり国債を国内で消化し、中国のように輸出比率が高いわけでもない。つまり、日本は、自分で経済運営を決められる優位性を持ち、リーズナブルな道を選ぶことが可能なのだ。本コラムを見ている政治家もいるらしいから、理性的な政策がどんなものか、考えてみてもらえたらと思う。もっとも、理性が勝るとは限らないというのが、歴史の教訓ではあるのだが。

(今日の日経)
 IMF短期資金を供出。銀行間取引の混乱警戒。中・東欧向け新規融資制限。スペイン失業率46%、ゼロ成長。米国の赤字削減協議が決裂、13年からカット、年末には減税・給付切れ。米GDP0.5%下方修正。一体改革は年内で攻防。石原氏が話し合い解散を。復興交付金の使途拡大。朝霞宿舎中止の公算。診療報酬引き上げ反対・刷新会議。TPP・高木勇樹。鹿島共同火力削減。太陽光に海外勢が続々。経済教室・アラブの春・私市正年、山田順一。

※日程こそ日本政治。※自由度がある交付金には見えないなあ。※違約金を払うぐらいなら、建ててから売れば良さそうなもの。※開業医の税制特例をやめて勤務医に回したら。※小規模農家には土地の貸し出し補償のみにすべき。※電力市場がないからこうなる。※参入と競争は良いこと。国内はビジネスモデルを作るべき。家電ストアの施工に郵便局の融資をつけるとか。信用で勝負だよ。
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消費税は数字で議論を

2011年11月22日 | 経済
 日本人は死にたいんだなと、つくづく思う。2014年春に消費税3%引き上げ、2015年に更に2%上げるという計画を、もし、本当にやったら、経済破綻を起こしてしまう。むろん、これは言い値に過ぎず、政治過程で下げるつもりなのだろうし、ことによると、2014年は名目で5%以上の高成長かもしれないがね。

 今日の経済教室は、日経センターの短期経済予測で、2013年度の成長率は1.0%の予測である。GDPが5.5兆円しか増えない翌年に、消費税だけで7.5兆円も所得を抜こうというわけだ。その他に、社会保険料の負担増、成長に伴う自然増収、復興費の執行終了があることを踏まえれば、10兆円を超えるデフレ財政になるのは確実である。これが日本経済の自殺計画でなくて、何だというのだ。

 誤解のないように言っておくが、筆者は、消費税増税は必要だと考えている。しかし、1.0~2.0%の成長率の下では、1%の引き上げがやっとであり、それも低所得者の社会保険料軽減などと組み合わせなければならないだろう。そうしないと、景気に悪影響を与えて、かえって財政再建を困難にしてしまう。日本の財政当局が、どうして、ここまで野心的になれるのか、理解不能である。

 日本の財政当局は、震災に際し、2兆円の復興増税を掲げて、政治的論議を巻き起こし、被災地に雪の降る11月まで三次補正を遅延させた。初めから、復興債の利子と定率償還分に当たる3000億円の所得税の定率増税にとどめておけば、早期に政治的な合意が成り、被災者を犠牲にすることもなかったろう。政治巧者ぶって、野心的な計画を掲げたことが、どれほど国民に痛みをもたらしたかの反省がない。

 仮に、2014年4月から1%だけ消費税を上げることとし、社会保障費の自然増1兆円を認めるなら、差し引き1.5兆円の緊縮財政で済む。更に、0.5兆円を低所得者への手当や住宅の駆け込み需要の緩和対策に充て、実質増税は1兆円ということであれば、与野党の合意は、たやすいのではないか。経済に無理がかからないことは、言うまでもない。

 財政再建という観点でも、復興費が剥落するために、震災前の2010年度決算ベースから見ても、2014年度までに約5兆円の支出減が見込めるし、2012~2014年度にかけて、平均1.3%程度の成長があれば、自然増収が約4兆円にはなるはずだ。先の消費税と合わせ、締めて10兆円の財政再建になる。これでは足りないのか。なぜ、一気の引き上げを掲げ、政治的、経済的なリスクを犯そうとするのだろう。

 日本の財政当局は、1%の小幅引き上げを否定する理由に、中小企業が転嫁しにくいとし、2%ともなると取引先から押し込まれずに転嫁できるとするが、これなど、お役人の机上の空論だろう。幅が膨らむほど苦しむのは当たり前の話で、「3%の引き上げにするのは、2%だと計算が難しいから」とのたまうに至っては、開いた口がふさがらない。こういう人達が、日本の経済運営の舵を取っていると思うと、暗澹たる気持ちになる。

 こんなふうに思うのは、筆者だけなのかな。日経は、「ひるまず8%へ、社会保障も削れ」といった主張をするのだろうか。日経センターの予測は、日銀や各機関の予測の中でも低いものなのだが、これを気にしたりはしないのか。日本では、数字に基づいて経済運営を議論しようという発想すらないのかもしれない。

(今日の日経)
 ハンガリーが支援要請。仏利回り一時3.6%に上昇。NY株一時320ドル下げ。米財政赤字削減は決裂含み、米国債格下げ焦点。バフェット氏、リーマンより深刻。欧州危機に基金を260兆円に拡大を。消費税2段階て10%、14年春まで8%軸。円高対策で外債購入論。電力ガス値下げ。キコウ資本主義・西條都夫。経済教室・日経センター予測・愛宕伸康。

※風雲急を告げる中で、日本はお気楽。※センターの2013年度予測の特徴は、消費を高めに見ているのに、公的投資のデコボコが大きく、輸入の伸びが低くて外需寄与が大きいこと。これで輸出の5%増が確保できないと、成長は0%台になる。日経の論説陣に、この厳しさが分かるかね。それから、三次補正の真水は6.5兆円に過ぎないとしているのも大事な点だ。
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消費増税への国民の理解

2011年11月21日 | 経済
 今日の日経の「核心」が、芹沢洋一論説委員長の筆とあらば、コメントせねばなるまいな。芹沢さんは政治部出身だから、「逃げずひるまずブレず」に消費税というのは、良く分かる。だから、日本はダメなんだな。増税というのは、政治ではなく経済の問題なのだがね。

 芹沢さんは、今の消費税論議は、社会保障と関連づけ、有権者の理解を得ようとしているのがミソとして、かつて消費税で総選挙に敗れた大平首相の弁を引く。「福祉でなく、大蔵省のいうように赤字の穴埋めに使おうとしたから、国民はダメだと言ったんだよ」。そして、当時の官房副長官だった加藤紘一代議士に「増税はひるんではいけない」と語らせる。

 大平首相が、党内の反発のために消費増税を途中で断念せずに総選挙に臨んでいたら、負けなかったかも知れないというのは、戦後政治史で、よく語られる「伝説」である。増税そのものより、ブレるのが良くないというのが「教訓」だ。果たして、国民は、そんなことでダメを出したのだろうか。

 総選挙のあった1979年は、第二次オイルショックの年だった。日本経済は、最初のオイルショク後の不況から癒えておらず、ジリジリと悪くなるのを、大規模な財政出動で支えている状況だった。選挙の秋までに、インフレ予防のため、強力な金融引き締めが行われ、景気の失速は目に見えていた。そこに増税では、国民の理解を得られるはずがない。

 大平首相の増税策は、前の福田首相の大規模な財政出動の反動でもある。実は、福田が財政赤字という犠牲を払い、何とか日本経済を持ち上げていたことが、第二次オイルショックを軽症で済ませる要因ともなった。諸外国のダメージは日本以上に大きく、福田政権での余熱が引き締めを可能にしていた側面もあるのである。

 日本の財政当局や有識者は、増税に関して、こうした経済的な問題を視野の外に置いている。あたかも、政治が決断し、国民に理解させれば、実現できるかのようだ。現実には、経済的に苦しければ、国民はダメ出しするという、それだけのことである。景気が上向きの1996年に、橋本首相は、消費税を抱えても総選挙に勝ち、その後、消費税に悪乗りした無謀な緊縮財政を敷いて経済を壊し、1998年の参院選で惨敗するのである。

 今日の日経では、「年金債発行へ、消費増税で償還」という見出しが躍っている。「借金」をして、年金積立金という「貯金」をしようという奇妙な経済政策は、11/13に解説したように、年金を人質にとって無理にも消費増税を果たそうとするものだ。財政当局の戦略がいよいよ動き出した。これから、欧州に端を発する経済危機が深まる中で、どこまで国民が理解してくれるか、見物である。

 野田首相は、財政当局のシナリオに乗り、2015年までに10%にしたいようだが、再来年の2013年度の経済見通しは、10/18で説明したように、1.4%成長といったところだ。これでは、1%の増税ですら厳しい。残り2年で10%まで上げるのは、奇跡に類する話だろう。芹沢さんには、こんな経済状況で、どうすれば増税できるのか聞いてみたい。これで無理押しすれば、芹沢さんが言う「政治ドラマ」が勃発するのは確かであるが。

 日本の財政当局は、「どうせ日本は成長しないのだから、景気がどうだろうと増税する」という敗北主義である。教科書に答えがなければ、いとも簡単にあきらめるエリートの甘えを、国民が許すはずがない。「日本のリーダーなら、成長の答えを見つけて来い。大事をあきめて、増税など出来ようか」。それが国民の理解というものであろう。

(今日の日経)
 海外出店数が国内を逆転、小売・外食で加速。年金債発行へ、消費増税で償還。前原氏、年金法案を13年提出。エコノ・配当金の国内還流最高ペース。核心・大平首相「増税」の教訓・芹沢洋一。欧州企業の縮小相次ぐ。冬ボーナス4年ぶり増。景気指標・日本のエンゲル係数なぜ高い・太田泰彦。経済教室・値上げより数量調整・阿倍修人・森口千晶。科研費の年度越え使用を。

※需要のあるところに設備投資するのは当然だが。※13年は総選挙後だよ。※ボーナスで消費を押し上げてほしいね。※年金生活者が多い社会で食料価格が高いのは問題。※仕分けより、会計制度の改善が必要だ。
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