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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

家計調査の基調の悪さ

2013年11月30日 | 経済
 昨日、公表された10月の家計調査の基調の悪さには愕然とした。季節調整済実質指数の「除く住居等」は、-3.0の97.5まで落ちていた。これは昨年秋の最悪期を下回るレベルである。既に公表されていた10月の消費者態度指数の急激な低下に沿った結果となった。これで4ヵ月後には消費増税が来ると思うと、気分が暗くなる。世間は、株価の年初来最高値に沸いているだけに、孤独を感じるよ。

 7-9月期の家計消費の低迷は、円安の浸透による物価上昇で名目実収入の伸びが削り取られていることにあったが、この傾向が続いていると考えられる。確かに、所得と雇用は少しずつ良くなってはいるが、その分だけ、円安を転嫁する値上げが可能になっているのだろう。11月の東京都区部のCPIからすると、こうした状況は、まだ続くと思われる。

 今回の家計調査の特徴は、自動車と住居の消費は伸びていて、それらを含む実質指数では、前月比横バイを維持できたことだ。つまり、基調の悪さを、消費増税の駆け込み需要が補っている形である。一般的な消費に使うべきお金がこちらに回っているから、「除く住居」が悪くなっている部分もあろうが、勤労者世帯の消費性向は、前月に続いて高めであり、背伸びした消費となっている。

 むろん、駆け込み需要は、消費増税後には反動減となるもので、頼りにはならない。今後、円安が浸透し切って、雇用と所得の改善がストレートに消費に反映されるようになるのがいつになるかが、今後の基調を判断する上で焦点となろう。加えて、勤労者世帯は半分を占めるに過ぎないから、12月に表れる年金の1%カットの影響も心配である。

 今日の日経を見ると、財政当局は4兆円超も所得を吸い上げることを誇示したいようだ。成長を維持してこそ、年金黒字も、新規上場も可能になるのだが、消費の状況を見て、誰も不安には思わないのかな。そう言えば、第1次の安倍政権の時にも、新規国債を4.5兆円も削減したと自慢していたものだ。歴史は繰り返すだね。

(今日の日経)
 トヨタが期間社員6割増。新規国債を今年度以下に、基礎的財政収支を4兆円超縮める。物価上昇の裾野広がる。消費税の簡易課税見直し。公的年金の黒字3兆円7-9月期。住宅着工7.1%増10月。インド減速鮮明。ユーロ物価0.9%。株価上昇が新規上場に追い風。授業にタブレット革命。
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11/28の日経

2013年11月28日 | 今日の日経

(今日の日経)
 LNG船の特需2兆円。経済対策・公共事業1兆円に。石油資源開発が火力発電。次世代メモリー研究拠点が開設。経済教室・不動産バブル指標、取引減少価格上昇がバブル崩壊の前兆・倉橋透。

※今日の経済教室も興味深かったね。バブルは正のフィードバックが働く状況だから、それを検出するものを探す視点が大切。GDP比は景気が良くなると低めに出る傾向がある。これは成長が鈍ると一気にバブル化するのと裏腹だ。したがって、雇用者所得比の方がベターかもしれない。トレンドの8年後方移動平均は経験的なものかな。長期的な経済循環が基のようだが、それだけに長さは一定しないだろう。
※足元の住宅投資のレベルは、好調ではあるものの、1996年と比較すると、駆け込み需要が発生しているようには見えない程度でしかない。しかし、それでも、消費増税後に大きく落ち込まないとは言えない。バブル同様、崩れてみないと分からないのだ。
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11/27の日経

2013年11月27日 | 今日の日経

(今日の日経)
 パナ・半導体工場を売却。対ウォン円高が解消。社会福祉法人利益率6%。良品計画が最高益、駆け込み需要追い風。経済教室・サービス業の生産性・中島隆信。

※中島先生の「サービス産業の生産性は経済成長に依存する」という指摘は極めて重要だ。「金融サービスの価値は実体経済の成長とともに高まる」も見逃せない。「サービス産業の生産性向上が成長につながるというのは、尻尾が犬を振ることを期待するようなもの」なのだ。多様な知見こそが経済教室の意義。編集記者も褒めておこう。

※11/16にアップされたKitaAlpsさんのページを時折眺めては、増税後に起こることを思って嘆息しておるよ。影響が集中する住宅や耐久財には、何が起こるか測り知れない。サービス業も、時給が上がって労働生産性が高まってきたのに、増税で所得を抜いたら逆戻りだろう。まさに、マクロ政策が生産性を決めることになる。
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11/26の日経

2013年11月26日 | 今日の日経

(昨日の日経)
 生保が逆ザヤ解消。アフリカ経済に減速懸念、資源値下がり、縮む中国需要。シンガポール就業ビザ厳しく。借金漬けのアジア・韓国、マレーシア、中国、台湾の負債合計GDP比200%以上。経済教室・中国経済・加藤弘之。えちぜん鉄道・成長路線。

(今日の日経)
 NISA口座を毎年選択に。ASEAN・インドへの道。円安加速、緩和で株買い、低リスク資産の円に売り、にじむ過熱感。使途自由枠を拡大、税収増で。中国資本が欧米不動産へ。出力向け電池が実用化。経済教室・中国経済・大橋英夫。

※景気回復と金融緩和が並行するという見方からの米国株高か。矛盾を孕んでいるね。
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金融緩和と摘芽型財政の帰結

2013年11月24日 | 経済
 欧州や米国は「日本化」するのかと、問われれば、イエスだ。また、サマーズが「高所得国の経済は、需要の慢性的な低迷と遅い経済成長の体質にあり、バブルがなければ成長しない」と懸念しているが、こちらもイエスだ。なぜなら、そうなるような経済運営をしているからであり、それは日本が過去にしてきたことである。

………
 欧米のディスインフレの原因は何かとを考えると難しいが、「強力な金融緩和をしておきながら、成長を低迷させ続ける方法として何があるか」に角度を変えるなら、答えは容易に見つかる。金融緩和に緊縮財政を組み合わせれば、そうなるのは明白だからだ。欧米ともに、それを試みているのだから、結果は当然のように思える。

 むろん、こうした経済運営は、「緊縮財政は景気に良い」というドグマに支配されているためである。「設備投資は低金利で伸びる、緊縮財政は金利を下げる、よって、緊縮財政は設備投資を伸ばす」という三段論法が下す結論だが、現実には、低金利は、資産高と通貨安をもたらし、それによる住宅や輸出の需要増が設備投資を引き出すのであって、緊縮財政で途中の過程をカットすれば、金融緩和の効果は出ない。

 時計の針を1年前に戻してみると、米国は「財政の崖」という問題に直面していた。結局、「坂」ぐらいには収まったものの、消費の足を引っ張ることになった。もし、Fedが金融緩和を続けることで住宅投資を押し上げなかったり、高所得者への課税強化に伴う駆け込み配当の所得増という特殊要因がなかったりしたら、事態は、もっと深刻なものになっていたはずだ。

 逆に言えば、財政が余計なことをしていなければ、消費は今よりも力強く推移し、Fedはテーパリングに着手できていたかもしれない。ドル安による米国製造業の復調もあり、その機運は十分であったろう。こうした構図からすれば、米国議会の緊縮派は、Fedの金融緩和に甘えているとも言える。景気回復に向け、金融と財政がクツワを並べられないことが、今のディスインフレを生んでいる。

………
 金融緩和をして、それによる需要増を緊縮財政で抜くという経済運営をすると、後に残されるのは、低金利と低成長である。景気回復は振り出しへ戻る。この事態に対して、超低金利と再度の緊縮財政で臨むと、ゼロ金利なのに成長しないという事態にまで至る。サマーズが懸念するところの、マイナス金利にでもしないと成長しないような経済は、こうして立ち現れるのである。

 サマーズが成長手段として望みをかける「バブル」だが、実は、これも似たような経済運営によって発生する。バブルを作るには、強力な金融緩和を続ける必要があるが、これは意外に難しい。金融緩和をすると景気が良くなり、インフレが進んで引き締めをせざるを得なくなるためだ。したがって、強い金融緩和を続けて資産価格を高騰させる一方、物価を抑制するための工夫が必要になる。

 それには、いくつか方法がある。一つは、景気を失速させない程度に緊縮財政をする方法だ。強い金融緩和と多少の成長、これがバブル発生には必須のものだ。二つには、金融緩和とともに、何らかの仕掛けで自国通貨高を演出し、輸入品安で物価を抑制する方法である。三つには、不平等を拡大する方法だ。高所得層に所得を集中させれば、一般向けの消費はあまり増えないから、インフレを加速させずに済む。前の二つは、日本が1990年前後のバブル景気で実践したものだし、後の二つは、米国の得意とするところだろう。

………
 サマーズの「需要不足」の指摘は、さっそく、WSJでウェッセルから財政赤字を拡大させるものだと批判されている。よくある論争ではあるが、大事なのは、財政で需要を追加することではなく、財政で需要の底を抜かないことである。今の米国は、年初に、それをしたがために、景気回復を軟弱なものにしている。

 やむなく、Fedは、テーパリングを見送らざるを得なくなった。しかし、住宅のフリッピングが始まり、ダウは最高値を更新するようになると、バブルも気にせざるを得ない。金融緩和によって、住宅や輸出が回復し、その需要が設備投資を呼び起こして、景気が本調子となれば、実物経済が追いつくことでバブルとはならないが、それを緊縮財政で腰折れさせてしまうと、結果的にバフルにしかねない危険も孕む。

 年明けには、「Fedが金融緩和で助けるから、米国議会が財政で火遊びできる」という困った構図の下、またも財政を巡って議会は揉めそうである。「小さい政府」ありきでなく、民需の回復を待って、徐々に財政再建を進めるという、平凡な経済運営を取れないことが本当の問題だ。景気回復への好循環を起動させるのに必要な、小さくても、かけがえのない需要の芽を摘んでしまう「摘芽型財政」がなされるなら、その帰結は「日本化」である。

……… 
 さて、「摘芽型財政」の本家たる日本だが、お手本のような経済運営は、来春に実施される。1997年のハシモトデフレ後も、小規模な「摘芽型財政」を繰り返し、15年に渡るデフレを実現してきたが、今度は、久々の「ショック療法」になる。足元のアベノミクスが好調なだけに、そのコントラストの激しさが「摘芽型財政」の存在を国民に気づかせてくれるかもしれない。

 安倍政権は、一気の消費増税のショックを、補正予算と賃上げ促進で補うつもりのようだが、補正予算は、前回比で実質的に3兆円も小さく、補うどころか、デフレ要因になっている。また、賃上げは、連合の要求方針ですら「1%以上のベア」に過ぎない。1997年の春闘の賃上げ率は2.9%増、夏のボーナスも2.9%増だったのに、たった2%の消費増税にも耐えられなかったことを忘れたかのようだ。

 唯一の頼みの綱である輸出は、政府の月例経済で1年ぶりに「弱含み」に変更された。あと4か月で景気を牽引するまでになるのは難しかろう。少なくとも、半年前の輸出で決まる輸出関連の設備投資は間に合うまい。来年度のGDP予測の多くは、消費増税で内需が崩れても、輸出と高い設備投資が支えるとしているから、シナリオの修正が必要になるだろう。

 一気の消費増税は賭けであり、輸出が崩れたら終わりだが、負けの確率は高まっているようだ。しかも、今年度の国と地方の税の自然増収の実態が、消費増税後の苦境の中で、次第に明らかになっていくから、野心的な増税をしたこととの矛盾に怒りを覚えるようになろう。そして、「なぜ、こんなことをしてしまったのか」と、理由が分からなくなってくる。人間とは、そういうものである。

(昨日の日経)
 福島に最新鋭石炭火力。高速の割引縮小、4000億円圧縮。欧米の上がらぬ物価・企業業績回復でもデフレ懸念、長引く金融緩和、投資・雇用に慎重。NY株が初の16000ドル、持続力には疑問符。月例経済・輸出1年ぶり「弱含み」。政策経費は来年度増やさず。

(今日の日経)
 日米で次世代半導体。NYダウ・IT関連熱に警戒感。都市財政に際立つ格差。給料、来春は増えるか。謎かがく・氷期の仕組み。
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11/21の日経

2013年11月21日 | 今日の日経

(今日の日経)
 中国でハイブリッド開発。米・もたつく景気に株最高値。年間の訪日客が最多。中国SLBMが年来にも配備可能に。コンビニ売上高4か月連続減少。経済教室・農地集約・橋口卓也。秋田大・国債資源学部。

※予想どおり10月のコンビニが良くない。むろん百貨店も。天候要因がもっぱらの見方だが、こういうときに趨勢が隠れていたりするもの。貿易統計の純輸出もマイナスだ。7-9月期GDPの結果を受けて、各社がGDP予測を下げなかったのは意外だったよ。
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11/19の日経

2013年11月19日 | 今日の日経

(今日の日経)
 最高益企業が危機後で最多。軽減税率の検討指示、準備に1年半。中国が住宅規制へ転換、景気重視を見直し、消費は力強さ欠く。税収上ブレ2兆円前後。国債市場で進む日銀依存、3~4割保有。経済教室・診療検診データ・飯塚敏晃。

※消費が伸び悩んでいるのに、住宅投資を締めないといけないのは、中国がいかに不平等かということだね。11/17のNYTでクルーグマンが示唆したように、中国もバブルにしないと需要が足りないという経済構造になっているのだろう。そして、滞留する資金を吸い上げ、代わって使っているのが財政赤字。不健全さの根源がどこにあるかということだ。
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少子化のインセンティブ

2013年11月17日 | 社会保障
 社会保障制度が整えられ、老後の不安が薄れたことが、子供を持とうとする意欲を低下させ、少子化を進めてしまったのではないか。そうした疑問は、誰しも抱くものだ。しかも、少子化は、支え手を減らして社会保障制度を掘り崩しかねないから、それを防ぐために、どうすべきかは、重要な問題となる。

 これに数理的な分析を加えたのが、先頃、日経・経済図書文化賞を受賞した、山重慎二著「家族と社会の経済分析―日本社会の変容と政策的対応」である。この本の評価は、改めてするまでもない。賞のHPで松井彰彦先生が述べるとおり、「言葉や印象論で語られることが多かった壮大なピクチャーを緻密な理論で語った意義は大きい」というものだろう。

 私も、大変、楽しませてもらったが、残念ながら、子供を持たないで済まそうとするインセンティブの大きさ、それは、すなわち、少子化を防ぐために必要な施策の大きさを示すことになるが、そこまでは書かれていないので、今回は、その大まかなところを計量してみることにしよう。おそらく、結果は、山重先生が想像する以上の大きさだと思う。

………
 子供を持たないインセンティブは、そうすることで、どれだけ社会保障制度から「得」を引き出せるかを量れば良い。それには、まず、社会保障制度がどのような負担の仕組なのかを理解しておく必要がある。これは、賦課方式と言い、親世代を子世代が支え、その子世代を孫世代が支えるという、世代間で負担する方式が基本となっている。

 賦課方式の本質は、子世代が親世代の給付に必要な保険料を納めるとともに、子世代が孫世代の養育もして、老後の給付の支え手を確保するところにある。このような、保険料だけでなく、次世代の育成という人的投資をする負担も欠かせないことが、制度を理解するのに極めて重要になる。

 なぜなら、子供を持たないことによる「得」とは、この人的投資という負担を免れることだからである。本来、賦課方式では、保険料と人的投資の二つの負担をしなければ、将来の給付は確保されないが、子供を持たない人は、片方の負担だけで給付をもらうという「得」をしてしまう。これがインセンティブになるのだ。

 少子化が起こった場合、負担と給付を均衡させるには、子供を持たない人に対して、保険料を取っても給付はしないか、2倍の保険料を取って通常と変わらない給付をするか、いずれかの方法が必要になる。すなわち、これらの方法による、負担と給付の変化の大きさがインセンティブの大きさというわけである。

 保険料をとって給付をしないと言うと、違和感を持つかもしれないが、保険料を負担するという行為は、親世代から授かった自分という人的投資について、いわば、配当を返すようなものであり、将来の自分の給付には関係がない。給付は、孫世代への人的投資によって初めて実現するから、投資なしに配当が得られないのは、仕方のないことである。

 もう一つの、2倍の保険料を払う方法の意味は、通常分の保険料は親世代への給付に使い、割増分の保険料は積立金にして、将来の自分への給付に備えることである。いわば、子供を持つという人的投資をしない代わりに、お金を貯めて置くということだ。これによって次世代には負担をかけずに済むのだから、負担と給付が均衡するという、当たり前の話である。

………
 それでは、後者の2倍負担法に従って、インセンティブの大きさ、すなわち、本来はしなければならないのに、免れている負担の大きさを計量してみよう。なお、あまり複雑にならないよう、簡便なもので済ませていることは、予めお断りしておく。

 まず、年金である。男性の生涯の平均月収を36万円とすると、これに厚生年金の保険料率18.3%を乗じ、40年分を算出すると、約3200万円である。女性は月収12万円として、約1100万円。男女を合わせて夫婦分と考えると、計4300万円である。子供を持たない人は、年金で、これだけの「得」をしていることになる。

 年金には、基礎年金の税負担もあるが、省略する。実は、この負担が子供を持たない人の年金を支えている。少子化によって次世代が払う保険料が足りない分を、積立金の取り崩しに加え、全世代が税で負担することによって、子供を持たない人の給付を確保しているのだ。子供を持たない人が2倍負担をしないツケは、実際には、こうして始末されているのである。

 次に、医療である。男女の平均月収は先程と同額とし、保険料率を10.0%として40年分なら、男性1700万円、女性600万円である。そのうち1/3を高齢者医療分とすると計800万円になる。介護保険ついては、ごく単純に月5000円の20年分を2人で240万円としておこう。ここでも、簡単化のため、税負担は省略する。

 以上で、総計5300万円である。実は、これが巷で話題の「世代間の不公平」の正体でもある。今の少子化であると、1世代でメンバー数は2/3に減るので、すべてを次世代に負担させるなると、次世代は1.5倍の負担をしないと給付を維持できない。この割増分が「損」となる。「世代間」とは言われているが、本当は、子供の有無で発生する「少子化の不公平」である。

………
 子供を持たないことは、年金などで社会に多大な負担をかけてしまうが、他方では、子供を持たないがゆえに、教育費などで社会の負担を軽くする面もある。こちらもカウントしないと公平ではなかろう。

 まず、税で賄われる学校教育費であるが、幼稚園3年分と小・中・高の12年分で、1人当たり1400万円になる。大学については、便宜、国立大学の運営費交付金を基に1人当たり年50万円とし、進学率50%として100万円としよう。子供2人分なら合計で約3000万円となる。次に、未成年の間の医療費については、保険制度分で240万円だから、2人分で約500万円である。さらに、児童手当は、3歳未満が1.5万円、中学生までが1万円として、2人分では約400万円となる。

 以上で、総計3900万円である。あとは、先ほどの5300万円から、この3900万円を差し引くと、1400万円という数字が出てくる。これが子どもを持たずに、年金や医療の給付を受けることの「得」の大きさ、すなわち、「子どもを持たずに済まそうか」という気持ちを誘うインセンティブである。この大きさなら、少子化も無理からぬことかもしれない。

………
 さて、以上の計量は大まかなものだが、どのような意味を持つのだろうか。一つは、教育や0-2歳児保育、児童手当を充実させれば、インセンティブは減らせるということだ。もう一つは、それを解消するために必要な次世代育成のための施策の大きさは、子供1人当たり700万円にもなるということである。

 例えば、国立大の学費は4年間で約200万円、私立大(文系)では約350万円である。大学の学費の無料化をしても、まだ、インセンティブは埋まらない。そこで、乳幼児期に認可外の保育を受けられるよう、月額8万円を3年間給付したとして、約300万円である。つまり、次世代の育成のために、今の日本では常識ハズレと思われるほどの手を打って、ようやく、満たせることになる。

 ここで、海外に目を転じるならば、少子化の克服に成功したフランスやスウェーデンは、保育は完備しているし、大学の学費もほぼ無料である。本気で少子化を克服したいのなら、ここまでの覚悟がいるということなのだ。こうした高福祉・高負担は、子供を持つ人には、負担と給付が「行って来い」だか、子供を持たない人には「行く」だけになって、少子化のインセンティブを減らすことになる。山重先生が著書の中で「中福祉・中負担という中途半端でなく、高福祉・高負担が望ましい」とするのは、それを感じているのではないかと思う。

………
 現実的には、日本の今の国民意識の状況からして、「高福祉・高負担」が受け入れられるとは思われない。少子化とは絶滅への道であり、毎年100万人が減る人口崩壊も避け難いという危機感は、専門家だけのものだ。世の中は、少子化対策よりも財政再建であり、社会保障を目の仇にする日経が賞を出したのが意外なくらいである。

 そんな社会状況を踏まえて、本コラムでは、「雪白の翼」などで、年金保険料を乳幼児期に約300万円ほど引き出せるようにしたり、将来の年金受給権を担保に若者が学費分を引き出せるようにしたりすることを提案している。これなら、新たな財政負担なしにできるし、少子化が緩和されれば、むしろ財政再建にもつながる。

 国民の多くは、子供を持つかどうかで、社会制度上の損得を計算したりはしないだろう。それは、直感で決められるものだ。しかし、そのときに、この社会において、若者や子供が本当に大切されているかは、それとなく分かるものだ。山重先生は、結びで、「よく働き、よく生き、よく学ぶことができる社会を作ることを、私たちの社会的責任ととらえ、実現に努力し続けたい」とする。まさに、それが大事なのである。

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危惧が的中した7-9月期GDP

2013年11月15日 | 経済
 昨日、公表になった7-9月期GDPは、筆者の予想どおり、相当に悪い内容だった。表面的には実質年率で1.9%成長だが、在庫の急増という要因を除くと、0.4%成長になる。ゼロ%台の成長もあり得るとしていたから、まあ的中と言って良かろう。在庫は、消費が悪い結果として伸びるとは思っていたが、その大きさを事前に読むのは、困難な項目であり、2次速報で大きく変わる可能性もある。

 民間消費は、実質の前期比で0.1%増であった。筆者は、これでもまだ高い方だと思っている。GDPを占う消費総合指数は感応度が低いためにプラスだが、家計調査は既にマイナスになっているからだ。消費の不振は、雇用者報酬が-0.6%と落ち込んでいることによる。賃金が上がらない中で、円安による物価高の浸透が実質値を下げている。

 前にも書いたが、今年前半の経済の好調は、外国人の旅行者増と日本人の海外旅行からの国内シフトという円安メリットであり、円安デメリットは表面化していなかった。メリットとデメリットのタイムラグが好調さを演出していたのである。賃金が上向いて消費を伸ばすとする見方が多いが、物価高がそれを殺ぐおそれがあり、楽観できない。

 今回の在庫増は、消費税の駆け込み需要の準備であり、悪いものではないとする見方もあるが、それはそれで、今後の消費増を在庫減が相殺することも意味するから、GDPが伸び悩む要因になる。加えて、住宅投資、公共投資もピークを迎えつつあり、これから更に牽引することは考えにくい。

 今回、円安にも関わらず、輸出が伸びていないことは、非常に心配である。これは新興国やASEANが停滞しているだめだ。来春の消費増税後は、輸出に頼る一本槍になるが、これが折れてしまえば、日本経済はマイナス成長に転落する。増税まで4か月半しかないのに、世界経済の回復は間に合うのであろうか。

 本コラムが危惧していたとおり、消費増税を決めたその日から、悪い景気指標が出始めることになった。円安による輸出増を安易に期待し、理由の分からない好調さに幻惑され、野心的な緊縮財政に踏み切ってしまったことになる。折りしも、補正予算で国債発行が不要なほど税収は伸びているという。つまりは、こんな危険を犯す必要さえなかったわけである。 

(今日の日経)
 医療費2011年度38.6兆円。両陛下の葬儀は火葬。5大銀は6割増益。イエレン示唆で低成長と株高共存。コメの関税280%に見解修正。補正予算案で国債追加せず。独一人勝ちに欧州で反発。ユーロ圏0.1%成長、仏伊マイナス、南欧は輸入減でGDP押し上げ。ユーチューブ限定で著名監督の映画公開・ネスレ。経済教室・消費増税の低所得対策・田中総一郎。

※ユーロ圏も悲惨なことになっているね。金融緩和と緊縮財政を組み合わせれば、輸出力のある国のみが潤うのは当然の理。南欧は飢餓輸出ならぬ「飢餓輸入減」の成長か。※公的年金控除の廃止には筆者もまったく賛成。低所得者対策には具体策がほしい。考えられるのは、医療費上限の引き下げかな。
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11/13の日経

2013年11月13日 | 今日の日経

(今日の日経)
 中国は市場重視で改革。飲食・介護で派遣広がる。消費者心理悪化、下げ幅は震災以来。FRB頼みに危うさ、期待先行のドル安。ビジネスホテル・鈍る開業。工作機械18か月ぶり増、国内向け回復。経済教室・法人税の課税ベース・森信茂樹。残業増で夜消費。

※政府は「改善基調」とするが、消費者心理は6月から趨勢的に下がっているのではないか。そう見れば、家計調査と整合的だ。他方、11/11の消費総合指数は「改善基調」だったが、これは移動平均並みに不規則変動が出ない指標だから、最近の動向を映していないかもしれない。この分だと、10月の家計調査はかなり悪いのではないか。「7-9月期GDPは大きく減速しても、10-12月期は回復」という世間的な見方は、修正を迫られるかもしれない。
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