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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・想定内の破綻

2014年06月29日 | 経済(主なもの)
 5月の家計調査について、ロイターの事前予想は、前年同月比の中央値が-2.0%、最小値でさえ-4.0%だったところ、一昨日の結果は-8.0%にもなった。誰も考えなかったほど大幅な「想定外」の落ち込みである。しかるに、財務相は公表後の記者会見で「想定内」。アベノミクスが危殆に瀕しても、泰然として国民を安んじようという配慮なのかもしれない。本田内閣参与は、実質賃金の低下を憂慮しておられるようだからね。

 さすがの日経も、昨日は「所得目減りが消費に重荷、物価高に賃金及ばず」として、もはや「想定内」の文字はない。本コラムは、先月の家計調査の公表の時、既に所得の低下に警鐘を鳴らしていたし、消費増税の幅が大き過ぎて春闘の賃上げでカバーできないことは、それ以前から繰り返し指摘してきた。起こって当然のことが現実化しているわけだが、アベノミクスの想定シナリオは、確か「増税を賃上げで乗り越える」ではなかったか。

………
 前年同月比だと、一般の方は読み取ることが難しいので、ここからは、季節調整済の実質指数で前月比を見ていこう。その結果は、ニッセイ研の斎藤太郎さんが6/27に指摘しているところだが、5月の低下により、家計調査の「除く住居等」は、駆け込み需要の反動以上の落ち込みとなった。同じ結果は小売販売額指数にも出ている。ここまで強烈に、消費増税の所得減の効果が表れるとは、悲観論の筆者も思っていなかったことで、世間的には、かなりの「想定外」のはずである。

 その所得の状況を、家計調査の勤労者世帯の実質実収入の指数で確認すると、5月は95.9と、4月より1.2ポイントの上昇となった。上昇と言っても、図を見れば分かるように、4月があまりにもひどかったので、これでも大震災時の2011年3月とほとんど変わらないレベルである。こうした動向の解釈だが、駆け込み需要の仕事が減って4月に落ちた収入が、5月に賃上げの浸透によって埋め合わされたということで、いかがだろうか。

 アベノミクスが頼りとする賃上げの力が、これで費やされてしまったとすると、見通しは厳しい。今回の賃上げは一時金が手厚かったので、6月の収入の伸びは期待できるものの、当然ながら、一時的なものになる。5月の実質実収入の95.9は、2013年度の各月平均の99.8から、まだ4ポイント近く差がある。これを埋められないと、消費は、収入に連動するので、反動減を抜けた後も、マイナス成長の水面下にとどまることになろう。

(図)


………
 収入と関係する雇用の状況も見ておく。同日公表の労働力調査では、失業率は低下したが、季節調整値の雇用者数は21万人増と、4月の27万人減を取り戻せなかった。また、職業紹介では、有効求人倍率は上昇したものの、先行指標の新規求人倍率は、季節調整値の求人数が1.5%減、求職数も1.5%減と、共に減る形で維持されている。求人倍率の歴史的な高さも、短時間労働者の求人が膨らませている点を割り引かねばならない。

 他方、国内消費がマイナス成長の危殆に瀕しているなら、外需はどうか。5月の貿易統計によれば、季節調整値の輸出は前月比-1.2%と、円安にもかかわらず停滞している。駆け込み需要の剥落で4、5月は輸入が減り、貿易赤字が縮小して、4-6月期のGDPを0.2ほど押し上げると思われるが、外需が牽引するとは、とても言えない状況だ。米国の景気は順調とされるが、1-3月期のGDPが大きく下方修正されており、足元の順調さは反動増に過ぎず、勢いが弱まっていく可能性もある。

………
 5月の家計調査の消費性向は、70.3%という異様に低い値になったため、反動減の回復過程で、勤労者世帯の実質消費支出は、5月の92.1から浮上して来ることは確実である。それでも、今のところ見込めるのは、実質実収入の95.9あたりまでだ。前年度のレベルに到達し、マイナスから脱するには、そこから更に4ポイントも実収入を上積みしなければ届かない。つまり、大量得点で形勢を逆転し、消費増税を突破するのは、極めて厳しい状況にあるということだ。

 W杯の日本は、残念ながら、FIFAランキングどおりの結果となった。英国、イタリア、スペインなどの強豪も敗退した難関への挑戦だったのだから、期待を裏切ったと言って恥ずることはない。他方、所得増以上の消費税を課せば、消費はマイナスになるという単純な道理を聞き入れず、「賃上げがある、外需もある」と言って期待を煽った者は、責任を感じなければなるまい。それとも、まだ一縷の望みはあると、上位進出を唱え続けるのだろうか。

(昨日の日経)
 携帯会社を端末変えずに変更。圏央道きょう開通。揺らぐ年金、世代格差鮮明。有効求人1.09倍・人手不足が好況で浮き彫り。中国・潜在成長率5%。国債発行2兆円減、税収回復。ホンダの輸出が消える日、ピークの6%。

(今日の日経)
 シェア首位5品目交代。日本もできるインテリジェンス・秋田浩之。マネーは再び新興国へ。終末期医療は3%・二木立。地球回覧・ボスニア。論壇・年金改革・土居丈朗。


※おまけ…日本の衰退
 A地区の平均所得は200万円、B地区は140万円というデータがあれば、確かに「地域間格差」は存在する。しかし、B地区の7割の所得が200万円で、3割が0円だったとしたら、問題の本質は、B地区の「無収入者の多さ」であり、地域間格差ではない。

 実は、年金の格差の問題も同じことで、支えるために別途お金を用意しないといけない「子供のない人」が、各世代にどの程度いるかで決まる。当然、効果的な解決方法は、制度いじりではなく、少子化の緩和となる。どうしても制度で解決したければ、「子供のない人」に給付しないほかない。あえて給付する程度が「損」の大きさになる。

 日経を始め、多くの損得勘定に長けた人たちが嵌り込んだのは、こういう迷宮である。そうした人たちに、厚労省のように「損得の問題ではない」と言っても聞いてもらえないし、「子供のない人の存在が本質」と言ったら、今度は、女性差別論者として誤解され、袋叩きに会いかねない。そうして、本質が分からないと、少子化対策より目先の財政再建が優先にされ、日本は縮小、衰退してゆくのである。
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6/27の日経

2014年06月27日 | 今日の日経
 国の税収は、本コラムが昨年末(12/29)に指摘していたように、1.6兆円と、かなりの上ブレとなった。ただし、当時の筆者の予想の2.2兆円よりは少ない。これは、法人企業統計における経常利益の伸びより、税収の伸びが小さいことによる。円安で企業が海外から受け取る配当が急増したが、これには法人税がかかららないためかもしれない。他方、企業の税引き後の利益が増せば、その分だけ個人の所得税が伸びることになる。また、1-3月期の法人企業統計の経常利益は、金融業で前年同期比が-12.1%になるなど、伸びが今一つだったこともある。いずれにせよ、「ニッポンの理想・2兆円でできる社会」は、財源1.6兆円で対策を作ってあるので、ご安心あれ。

(今日の日経)
 三菱自が小型車供給。税収が予算を1.6兆円上回る。真相・実質賃金が気がかり・本田内閣参与。経済教室・原発廃炉は政府で・長山浩章。
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6/26の日経

2014年06月26日 | 今日の日経
 サッカーは、日本人に最も向かないスポーツかもしれない。体格で勝負が決まるものでないだけに、気づきにくい。守りに入れば逆転され、単調な攻撃は通用せず、臨機応変さが命だ。強い個性を幾人も育て、活かさねばならない。これが魅力でもある。

 経済政策もまた同じ。状況を怜悧に眺め、新たなアイデアも加え、波状的に手を打つ必要がある。その点、日本は「財政を守る」の一辺倒。金融緩和・法人減税・規制改革という攻め手も20年来の繰り返しだ。

 本コラムのメインは社会保険による需要供給だが、税収の把握、資産課税の準備、投資減税の賛同など、財政リスクもケアしつつ、幾重もの「攻撃」を用意している。リファレンスがないと、頼り切るエースの金融緩和が疲弊したらどうするかなんて、想うこともなかろう。

 サッカーは、日本人の意識せざる特徴を教えてくれる。ブラジルで戦った若者達は、弱点を容赦なく突く厳しい国際舞台で、そんな苦闘に挑み続けた。新たな姿に活路を開こうとしたゆえの辛さなのだ。ここを超えてこそ次のステージがある。

(今日の日経)
 燃料電池車を初の市販。保育所参入で公取委が自治体に要求。サービス物価不亜年ぶり伸び。ハイディ日高・人件費高でも増益に。ミドリムシ燃料始動。育つ企業家、光創生大。経済教室・電力システム・大橋弘。

※人件費が高まるときには、増益の機会も広いということかな。
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6/23の日経

2014年06月23日 | 今日の日経
 今日の経済教室のような「世代間の不公平論」は、いつまで続くのかな。不公平は、世代ごとの負担と給付の差でなく、少子化の大小で生じていることに気づくのはいつの日か。これに気づかなければ、おざなりの政策がいつまでも続くことになる。

 小林先生は、「掛け捨てと積立を組み合わせた年金なら」と言われるが、子供を持たなかった人には、給付をしないか、2倍の負担を強いて積み立てさせるかすれば、「不公平」がすべて解消されることを分かっているのだろうか。それをしないで、世代のみんなで負担をしているから、世代という範囲で「損」が生じているように見えるだけである。

 少子化の本質は、人的資源への投資不足である。人間の再生産に必要な資金配分を日本がしていないということだ。今日の日経にある内部留保うんぬんで明らかなように、企業は人間の再生産に必要な資金さえ家計から吸い上げる形になっている。現世代の家計が余計に消費してインフレにし、次世代に残すべき資産を食い潰しているわけではない。企業に資金が偏り過ぎ、人的にも物的にも投資不足になって、ロクなものを次世代に残せないでいるというのが実態だろう。これが財政赤字を出して投資不足を補わなければならなくなっている原因でもある。

 別に、これは企業が強欲だからではない。景気が上向けば、すかさず増税するような国では、怖くて人的にも物的にも投資はできない。溜め込むか、海外にするかになる。雇用が引き締まらなければ、家計への資金配分も厚くならない。問題は、世代間の協調の実現ではなく、金融緩和や法人減税で、とにかく企業の資金を潤沢し、そのために緊縮財政と消費増税を組み合わせれば、経済は良くなるというドグマにある。

(今日の日経)
 9月までに消費回復。エコノ・企業内部留保どこへ、大企業はM&Aで海外株式増。家電・価格競争が一服。経済教室・世代超えた協調・小林慶一郎。
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W杯を眺めつつの経済観戦記

2014年06月21日 | 経済
 しょせんサッカーではあるが、どうしても日本の在り様と重ね合わせてしまう。なぜ、リスクを取って攻め上がれないのか。デフレ脱出前から、財政赤字を怖がり、一気の消費増税に走ってしまうのだから、日本代表の若者達の批判などできまい。臨機に応じられず、約束事を変えられないまま、苦しくなって後付けの手で打開するところは、鏡のようですらある。

………
 さて、最新の消費動向だが、6月第3週の「消費税率引上げ後の消費動向等について」を見ると、飲食料品(除く生鮮)の前年同月比は、まだ-2.73である。わずかずつ戻しているものの、足取りは鈍い。日経は「回復」としているが、スーパー協会の5月の前年同月比0.0というのは、値上がりが目立つ生鮮込みの数字であり、それらを除く一般食品は-3.3となっている。W杯と同様、期待先行ではなかろうか。

 筆者は、シティの飯塚尚己さんと同じく、実質所得の減が心配だ。6/12の日経ビジネスO.L.にニッセイ研の斎藤太郎さんが『消費の回復は来年前半にずれ込む』を書いているので、これも参考にすると良い。エコノミストの中には、賃金総額の増にはならない定期昇給まで含めて所得が伸びると言う人もいるので要注意だ。また、ボーナスは上がる一方、6月は、0.7%カット後の最初の年金支給月でもある。

………
 公的年金の財政検証の公表から半月が経って、さまざまな評論が出ている。6/19のダイヤモンドO.L.で、野口悠紀雄先生は『現実的な見通しを置くと、年金財政は2039年頃に破綻する』と言われるが、どうしたいのかね。マクロ経済スライドを強化して、年金の所得代替率をひたすら下げれば、「破綻」はしない。問題は、生活水準が低下しないよう、成長を所与のものとせず、経済をどうするかに行き着く。 

 6/24の毎日エコノミストで、東北学院大学の若手研究者である佐藤滋先生は、「年金財政は持続可能だが、そのために給付水準を引き下げていけば、破綻するのは我々の生活」とする。筆者には、こちらの方が本質を突いているように思える。結局のところ、成長や出生を回復させ、経済や社会を立て直すしか道はなく、年金制度をいじるだけで解決のつくような問題ではないのである。 

………
 出生を回復させるには、今日の日経に載っているスウェーデンのように、少子化対策に十分な予算を割けば良いことは分かり切っている。それでも、大機の隅田川さんのように、財政が心配で、身がすくんでしまう状態にあるのだろう。ゴールを割るだけの「アイデア」が不足しているとも言えよう。その戦術は、既に基本内容で示しているが、大切なのは、自分達が何を目指すかである。

 財政再建が戦略目標で、そのためならギャンブルもするというのも一つの生き方ではある。しかし、誰もが、それは制約条件に過ぎず、目標としてはくだらないと感じているのに、それに振り回され過ぎのように思う。4年前のW杯で、守るだけでは更なる高みへは行けないと悟り、攻める道へ踏み出したはずだ。それなら、目標へ至るため、その道を走り貫こうとする気概こそが求められよう。

(今日の日経)
 GEとアルストム提携有力。高島屋25%増益。中国の日本国債減らしの怪。個人消費の判断引き上げ、百貨店・スーパー回復。米景気・長期停滞説の波紋。LCCが大陸間に参入。食品スーパー・総菜伸びる。大機・1億人目標・隅田川。スウェーデン・専業主婦率2%。
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6/20の日経

2014年06月20日 | 今日の日経

(今日の日経)
 最新石炭火力をチリに。外国人株主3割超。純利益全額を株主に還元。米景気・高額消費が旺盛の陰で低所得者層は苦境脱せず。白物家電出荷額5月5.7%減。工作機械の外需はiPhone特需。公的年金が株に流入の見方も。経済教室・配偶者控除・阿部正浩。

※米国は回復か、寒波後の反動増か。テーパリングの下での高株価が崩れると高額消費もどうなるやら。※控除廃止でパート供給が減り賃金は高まるというのは興味深い。社会保険料軽減の財源を配偶者控除の見直しで捻出しても良いのでは。
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6/17の日経

2014年06月17日 | 今日の日経
 根拠のハッキリしない記事だが、厚労省は、デフレ下でも年金のマクロ経済スライドを作動させるよう、法改正することを決めたらしい。筆者は、デフレが続いても積立金が枯渇しない制度を整えて、国民に安心感を与えることには意味があると考えるので、必要な改正ではあろう。もっとも、デフレ下でデフレを促進する政策になるから、これを相殺する需要追加策を、別途、行う必要がある。

 今日の経済教室では、駒村康平教授が年金の支給年齢の引き上げを求めておられるが、個人の都合によって減額の上での早期受給も認めざるを得ないから、65歳受給での所得代替率50%を維持しないというのと同じことになる。したがって、その政策転換をストレートに言うべきだと考える。支給年齢を言ってしまうと、65歳ではもらえないと勘違いする人が多く出て、「逃げ水」というあらぬ批判を呼びかねない。

 他方、基礎年金の低下幅が、経済再生ケースでさえ約30%減、慎重ケースでは39%~45%減にもなることについては、筆者も危機感を共有している。筆者の対応案は、「2兆円でできる社会」で示したような大幅な適用拡大とその対象者への保険料の軽減の組み合わせである。45年加入も一案であるが、国庫負担が増える一方で、最も貧しい保険料免除者は救われないという問題もあろう。

(今日の日経)
 年金を来年度から給付抑制、物価下落でも減額。住宅扶助の上限下げ。ハイアール1万人削減。派遣時給が5月一段高。経済教室・年金財政・駒村康平。
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6/16の日経

2014年06月16日 | 今日の日経
 経済教室で年金財政シリーズが始まった。西沢和彦さんと同様、筆者も経済再生ケースのように行くとは思っていない。既に消費増税で足元が怪しいわけでね。基礎年金の目減りが重大問題という点も同感だ。とは言え、税方式化はハードルが高いのだから、税財源の追加投入をどう有効に使うかが思案のしどころ。デフレ下でマクロ経済スライドを作動させた場合には、その分を低収入層の保険料軽減に使うようにしてはいかがか。

(今日の日経)
 起業手続き1か所で。地方公務員天国の実態は。関税収入1兆円超へ、景気回復で輸入増。逆ストロー・経営の視点。法人減税で孤立する米国。経済教室・基礎年金の満額は半額も・西沢和彦。

※攻撃サッカーを貫けず、引いて守ろうとして逆転された。アベノミクスは本田のスーパーゴールのようなものだが、財政の守りに入ったがために、消費増税で連続失点をしてしまいそうだ。日本代表には、勝敗を思わず、ただ果敢であれと願う。
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人間に絶滅する自由はあるのか

2014年06月15日 | 社会保障
 今の若い人たちはどうか知らないが、筆者が若い頃は、「人間には自殺する自由があるのか」なんてことを哲学したものである。「他人に迷惑をかけない限り、生きるも死ぬも本人の勝手」という主張を理屈で覆すのは、なかなか難しい。小塩隆士先生の新著『持続可能な社会保障へ』を読みつつ、思い起こしたのは、そんな昔のことだった。

………
 新著の内容は、現行の社会保障制度は、世代間の不公平が大きく、規模を縮小する必要があるとするもの。とは言え、具体策は穏当で、①公的年金控除の廃止、②年金のマクロ経済スライドの徹底実施、③年金支給開始年齢の引き上げ、④被用者保険の適用拡大、⑤基礎年金財源への税負担増、⑥子どもの貧困の解消となっている。これらには、筆者も、③を除いて、基本的に賛成だし、制度設計も示している。(基本内容を参照)

 特徴的なのは、具体策の中に、この手の議論では定番の「少子化対策」が入っていないことだろう。それもそのはずで、小塩先生は、「子育て支援への過剰な期待は禁物であり、社会保障改革を遅らせる危険性すら持っている」という評価である。そして、「人口が減少し、少子高齢化が進んでも維持できるように、社会保障制度を見直すというのが政策論の本来の在り方」とするからだ。

 筆者の考え方は、これに真っ向から対立する。少子化は、それを起こした集団をいずれ絶滅させてしまうから、必ず克服しなければならないとする。これは、「命をつなぐことには意味があり、人間が存在するのは、そうしてきたから」という価値観が基になっている。端的に言えば、絶滅に耐える制度づくりより、絶滅の回避を優先すべきということだ。むろん、絶滅の選択も自由とする立場には、この理屈は通じない。

………
 果たして、少子化が自由な意思の結果かについては、大いに疑問がある。これは皮肉なことに、どんなに少子化が進んでも維持できる制度を設計してみると分かる。その制度設計は、非常識ではあるが、原理的には簡単だ。少子化に責任のある人、すなわち、子供を持たない人には、社会保障給付を行わなければ良いだけだからだ。

 今や40代となった団塊ジュニア世代は、子世代を自分たちの7割しか残さない極端な少子化を起こした。社会保障は世代間の扶助なので、親世代の年金のために10割の負担をしたとしても、減らした子世代から7割の年金しかもらえないのは、当然ではないか。これに何の不公平があろう。

 この場合、負担と同じ給付を受けたければ、子世代を残さなかった3割の「同世代」を切り捨てれば済む。おそらく、今は幼い子世代が大人になったときには、「育ててくれた親の面倒は見るが、子供はいらないという選択をした人は、自分の面倒は自分で見てください、子育ての負担がなかったのだから、貯金する余裕だってあったでしょう」と言われるだろう。

 小塩先生は、多数派の高齢者が社会保障を牛耳る「シルバー民主主義」を心配しておられるが、そうはならないだろう。起こるのは、それによる社会保障の破綻ではなくて、子供のない人の社会保障からの排除である。小塩先生が必要とする社会保障の規模縮小は、このようにしてなされる公算が高い。

 もし、こうした事態が前もって分かっていたとしたら、それでも子供を持たないという選択をしただろうか。「子供を持とうが持つまいが平等に給付を受けられる」という甘い見通しが安易な選択をさせた懸念がある。つまり、自由な意志で少子化を選んだわけではなく、本質を示さない世代間の不公平論に惑わされ、子育て支援の不備に流されたがために至っただけの悲劇になるのではないか。

………
 筆者は、十年前には、「団塊ジュニア世代が適齢期のうちに少子化の克服を」と訴えていたが、もはや、そのチャンスは過ぎ去った。それでも、これから少子化を克服しさえすれば、命が永続することで、団塊ジュニア世代が出した「損」を、多世代で分かち合うことも可能となる。まだ希望が完全に潰えたわけではない。

 社会保障の危機は、実のところ、少子化が起こったからではなく、原理的に支えることができない「子供がない人」にも惰性で給付を与え続けていることにある。そのために、積立金や税負担を投入して「二重の負担」を行い、世代間の不公平なる「損」を出し続けているのだ。それが小塩先生の言うところの「本当に困っている人」に、十分に財源が回らない理由の一つでもある。

 「死にたい」と呻く人には、論理的ではなくとも、「死んで花実が咲くものか」と説得するにしくはない。本当は、死を好んでいるのではなく、苦しさから逃れたいという理由がほとんどである。少子化も、支援策を整え、大変さを軽減すれば克服できると、筆者は信じている。少なくとも、そう信じて戦うだけの価値はある。

(今日の日経)
 外国人持ち株比率が上昇、30%程度に。トヨタや日立が最高。社説・法人減税に続き歳出削減にも取り組め。 

※外国人のために、法人減税と消費増税をしているような気がして来るよ。景気の底入れで、法人減税の方針が決まる前から、今年度の設備投資の見通しは高まっていた。更にしないといけないのかね。
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6/12の日経

2014年06月12日 | 今日の日経
 昨日、法人企業景気予測調査が発表され、日経は「景況感、夏以降に急回復」としたが、この調査の「景況」は、上昇と下降の二択の差であり、方向を示すだけである。今期の極端な反動減から上昇するのは当たり前で、フレが出やすくなっているから、読み間違えてはいけない。見るべきは、やはり「雇用」だ。3月より「不足気味超」が減少し、9月、12月の見通しでも更に低下する形となっている。つまり、景況は今よりは良くなるが、そのレベルは必ずしも高くないと見るべきだろう。ただし、自動車などの設備投資増は明るい材料である。経済の「猫」の生死も量子論的なんだね。

(今日の日経)
 三菱重工と買収提案。JAの衰える政治力。苦渋のベア12,000円。新電力の登録3倍、発送電分離に抵抗。公共工事5月請負額11%増。経済教室・農業改革・神門善久。世界の名門大の研究室を誘致。

※公共工事請負額がボトムから2割も増して需給は引き締まっている。そこに上乗せだ。
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