経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・本格化する景気

2017年07月30日 | 経済(主なもの)
 6月の経済指標を踏まえると、4-6月期の成長率は2%後半が見込まれる。殊によると3%超となる可能性もある。在庫の押し上げが含まれるが、消費は2%成長に加速し、それに設備投資が先行する堂々たるものだ。遂に、消費は増税前水準を取り戻し、賃金の上昇が始まった。物価への波及を待つのみとなり、安定下の成長は、日銀の立場を別にすれば、理想的ですらある。成長実現の最大の功労は、消費増税の見送りだ。緊縮なければ、成長する。これが日本経済の実力である。

………
 6月の商業動態の小売業は、前月比+0.2と若干の上昇であった。消費者物価の財が+0.2であったので、実質では横バイであろう。その結果、小売業の4-6月期の前期比は+0.7となった。これを踏まえると、6月の日銀・消費活動指数+も概ね横バイと予想され、4-6月期は前期比+1.0程の高めの水準になると見ている。言うまでもないが、これだけあれば、2%成長は優に超えることになる。

 他方、6月の家計調査は、消費水準指数が前月比+0.4、同(除く住居等)が-0.4であった。これからすれば、予想は難しいが、内閣府・消費総合指数も横バイくらいが妥当だろう。そうなると、消費総合指数は前期比+0.5となり、活動指数より弱いものの、概ね2%成長の水準となる。GDPの消費は、10-12月期-0.0、1-3月期+0.3であったから、加速感がある。そして、総合指数の4-6月期の予想値は105.3と、ようやく、増税の駆け込み前の水準を超える。

 賃金や物価が上がらないと指摘されて久しいが、消費が過去水準を下回っているのだから、国内的に需給に緩みがあるわけで、当然と言えば、当然だ。GDPは、既に増税前水準を上回っているとは言っても、大半は純輸出の増大によるものだから、輸出部門はともかく、全般的な賃金、まして物価には、なかなか波及しない。それが、過去水準の更新という節目を迎え、これと軌を一にするように、賃金も上向きだしている。

 賃金については、来週の6月毎勤を待たねばならないが、既に4,5月の現金給与総額には、上向き傾向が見られる。ちなみに、6月家計調査の勤労者世帯の名目実収入は、前月比+2.4と大きく伸び、原指数の前年同月比も+0.6と4か月ぶりのプラスとなった。ボーナスが良好だったのかもしれない。これらからすれば、毎勤も期待が持てる。

(図)



………
 次に、雇用を見てみよう。8月の労働力調査によれば、全体的には、就業者が前月比+12万人、4-6月期の前期比が+30万人と順調に積み上げた。ただし、男は、6月が+5万人だったものの、今年に入ってからは頭打ち状態である。それでも、内容的には、25-34歳、35-44歳の就業率がリーマン前水準にもう一歩のところまで迫り、就職氷河期を経験をしたロス・ジェネの底にも日が差し始めている。また、失業率は2.8%と、再び2%台に下がった。

 6月の職業紹介では、有効求人倍率が1.51倍で前月比+0.02となり、特に、正社員が2004年11月の集計開始以来初めて1倍を上回ったことが話題となった。新規求人倍率は、前月比-0.06だったけれども、前月に急伸した反動の範囲内にとどまる。新規求人を産業別に見ると、除くパートでの製造業が多かった。運輸業も勢いを増している。半年前は医療・福祉が突出していたが、製造業と建設業が並ぶほどになっている。

 今週は、まだ鉱工業指数が発表されていないので、投資部門の判定は、暫定的なものとならざるを得ないが、いずれも、4-6月期は高水準が見込まれる。鉱工業指数の出荷内訳・総供給表や生産予測を踏まえると、設備投資は、前期の伸び悩みがベースにあるにせよ、資本財(除く輸送機械)の状況からすれば、かなり高いものになりそうだ。他方、建設投資は、同じく建設財の動向からすると、ほぼ横バイと思われる。

 一方、在庫投資は、前期に原材料在庫の寄与度が-0.3にもなった反動が大きく出ると考えられ、加えて、鉱工業指数と商業動態の状況から、製品在庫と流通在庫もプラスになりそうだ。1-3月期のGDPは、1次速報で2.2%成長となったのに、2次には在庫要因で1.0%に下がるという、つまらない結果だったが、今度は、在庫の大きな押し上げで、実態以上の高い数字になる。反対に、外需については、好調だった輸出が一休みとなり、輸入も増して、マイナス寄与になりそうだ。

………
 さて、景気の本格化の要因は、直接的には、輸出の拡大に加え、補正の公共事業が進捗したことがある。こうした追加的需要によって、設備や人材への投資リスクが癒され、所得が高まり、消費へと波及してきた。物価は、足下の円安によって財価格が高まってきた反面、賃金と裏腹の関係にあるサービス価格は、通信費の低下もあって、フラットなままだ。賃金と物価は相互に作用するが、敢えて言えば賃金が先なので、物価はこれからである。

 政策的には、消費増税の見送りが最大の要因と言えよう。もし、予定どおり4月からしていたら、増税前水準を取り戻す前に、家計消費を更に2%も押し下げていた。輸出に恵まれたので、景気後退まで行かずに済んだかもしれないが、デフレと低成長は、あと2年は続いただろう。それを回避したのだから、消費税見送りは大成功である。しかも、一般政府の財政収支は、改善を続けている。緊縮で妨害さえしなければ、日本経済は成長するのである。

 景気が本格化すると、企業の戦略上、先に設備や人材を確保した方が勝つ。投資しないことが逆にリスクになる。企業間競争の相互作用で賃金が伸び、消費増による需給の引き締まりと賃上げの転嫁で物価が高まり、サービスの生産性も上がる。これが、かつて在ったことで、これから起こることである。昔より消費税と社会保険料の「自動ブレーキ」が重く、動きは鈍かろうが、若い人たちには初体験の経済成長になろう。

 景気は本格化したというのに、功労ある安倍政権は、隠蔽体質と告発者つぶしの謀略で、すっかり国民の信用を失ったとは、皮肉な成り行きだ。だからと言って、アベノミクスを全否定する必要はない。異次元緩和第一弾は成功、消費増税は失敗、第二弾は失敗、増税見送りは大成功と、実験結果を素直に受け取り、安定的な需要管理が経済には何より大切であって、金融政策は代わりにならないという、平凡なる教訓を活かせば良いのである。それには華々しさはない代わり、まったく難しさも、危うさもない。


(今日までの日経)
 人手不足 正社員に波及 6月求人1倍超え。1-3月消費者物価・円高、0.4ポイント押し下げ。米、2.6%成長に加速。
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7/27の日経

2017年07月27日 | 今日の日経
 研究開発費が最高と聞くと、景気が本格化してきたなと感じるね。需要が上向くと、投資しない方がリスクになる。今、自動運転の研究をせず、自主株買いをしていたら、競争から脱落しかねないと、誰しも思うもの。こうして、経済は非線形に動く。経済を動かすのは、リスクなのだよ。他方、スーパーは庶民の味方だから、景気回復の最後尾になるのは仕方がない。それでも、長い目で見ると底入れはしたようだ。

 櫻川先生は、相変わらず鋭いなあ。GDPの収束は、先進国から途上国への資本移動でなく、逆向きで実現したとする。経済はリスクで動き、リスクは需要で癒される。癒す需要として輸出を持っている国は強い。むろん、先進国に輸入してもらうは、お金を貸してやる必要がある。先進国は、ディスインフレで金融緩和ができ、バブルで潤った。割を食ったのは、ワーキングクラスの庶民さ。


(今日までの日経)
 研究開発費4割が最高。南欧国債利回り低下。最低賃金25円引き上げ。日米中の政治序列変化も・櫻川昌哉。AI・介護情報に価値。スーパー回復に遅れ。
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人は考えを変えない、悲しいほどに

2017年07月23日 | 経済(主なもの)
 「デフレの原因は、企業行動が変化したせい」という主張を聞くと、「若いなあ」と思ってしまう。何やら、経営思想が変わったから、経済が動いたような印象を受けるからだ。やはり、もう一つ問いを重ね、「なぜ、企業は設備や人材へのカネを絞るようになったのか?」へ進み、「緊縮財政がもたらした需要増なき経済に適応した」という答えを導き出すべきではないか。やはり、根源は、景気回復の芽を、いち早い緊縮で摘む「摘芽型財政」にある。

………
 筆者も、若い時分は「意識変革で、世の中を良くできる」なんて議論していたものだよ。でも、人生経験の中で、「現実に合わなくなり、ボロボロになってすら、一念にしがみつく姿」を目にすれば、「人は考えを変えられない」と悟るようになる。だから、「思想の変化で、世の中が転換する」という説を、まったく信じられないんだね。方針に変化が起こるのは、多くの場合、人事での交代によってだ。

 企業行動の変化は、成長路線を取る経営者がゼロ成長経済に直面し、不振の責任を問われ、リストラで収益性を上げられる人に交代することで起こる。経済環境の変化で淘汰の圧力が経営者にかかり、企業は経営者を代えて生き残っていく。だから、変化への対応には、人材の多様性や人事の柔軟性は欠かせないものとなる。企業は自由主義経済の原動力ではあるが、マクロ的には受け身の存在だ。

 実際、1997年のハシモトデフレ以降でも、リーマンショック前は、歴史的に見ても高水準の設備投資をしていた。円安の下で輸出が好調だったからだ。反面、為替は水物だから、人材投資は余りせず、期間工で賄った。そして、案の定、円安は崩れ、派遣切りとなる。内需が弱いと、怖くて人は抱えられないという経営判断は正しかったわけだ。経営者は、収益性重視の思想に従うと言うより、需要の量と質に応じた行動をしているのである。

 他方、淘汰圧が働きにくい組織、官庁や学界、そして、残念ながら新聞も、なかなか「考え」が変わらない。財政再建が最優先で、デフレなのに緊縮を急ごうとする。小さな政府を望む経済界に近い日経はともかく、リベラルな立場にあるはずの朝日や毎日も、長らく貫いている。8%消費増税で成長が失速し、追加増税の見送りで、ようやく回復を見たという現実を前にしても、一向に「考え」は変わらない。

………
 今週は、中長期の経済財政に関する試算が公表され、2020年度に基礎的財政収支をゼロにする財政再建目標には8.2兆円足りないことが一斉に報じられた。正直、いつまで、この騒ぎが続くのかなと思う。本当に財政破綻を心配するのなら、社会保障基金を含む政府全体の収支を見ないと意味がない。例えば、国と地方の財政収支を黒字にしても、社会保障基金が大きな赤字だと、金利上昇や物価加速といった弊害が出る。栄養管理で、三食は制限するが、おやつは自由など、あり得ぬ話だろう。

 むろん、財政再建は大切だが、ひたすら緊縮すれば良いというものではない。成長を阻害しないような量とタイミングが決定的に重要だ。同時に、「緊縮財政は、金融緩和でカバーできない」というのも、黒田日銀体制での貴重な教訓である。金融緩和で物価2%目標を達成できるとは、誰も期待しなくなったが、いまさら「考え」は変えられない。変わるのは、たぶん、次の人事の時だろう。

 全体状況を知るため、政府の中長期試算に、社会保障基金の資金過不足を乗せたのが下図である。社会保障は、2016年度がGDP比1.0%の黒字だから、国と地方の財政だけで見るより、ずっと状況が良いことが分かる。前年度との比較でも、着実に改善している。そして、今後も社会保障の収支を保つなら、2020年度には、政府全体の収支はGDP比-0.3まで改善し、財政再建目標まであと一歩に迫り、まったく焦る必要がないことが分かる。

 実は、日本経済をデフレに突き落とした1997年の大緊縮は、バブル崩壊後の財政赤字の拡大に焦って行われたが、当時、社会保障基金は、年金が大規模な黒字を出しており、これを勘案すれば、まるで必然性がなかった。それなのに、無謀な大緊縮で経済を壊し、本物の危機を呼び込んでしまった。そして、愚行を犯す原因となった、全体を見ないという「考え」は、淘汰なき組織において、未だ常識として続いているのである。

(図)



………
 今回の中長期試算で真に懸念すべきは、「2024 年度以降、長期金利が名目GDP 成長率を上回り、…高い金利による借換えが進んでいく」という但し書だろう。これに対応するには、利子課税を上げ、金利上昇に連れて税収も増えるよう仕込んでおく必要がある。国内で国債を消化する限り、利子課税分だけ、実質的に低い金利で国債を発行できるのと同じであることを想起すべきだ。

 こうした準備は、物価や金利が上がり始めてから考えるようでは遅い。一定以上の金利に達したら、上回った分についての税率が高くなるようにしておけば、足下では増税とならず、将来の金利上昇に係る利払費の調達リスクの芽を摘むことができよう。摘むべきは、表面化する以前の信用リスクだ。もっとも、策と言うと、消費増税と福祉抑制しか能のない人たちに、何を言ってもとは思うが。

 さて、5月毎勤の確報は、速報と大差なく、現金給与総額の6か月移動平均は、4か月連続の上昇となり、過去1年の最高値を前月に続き更新した。賃金は上がり始めたのだ。これで、物価も上がる。常勤雇用×実質賃金の4,5月平均は前期比+0.9となり、内閣府・総雇用者所得も+0.6である。外需はマイナス寄与のようだが、4-6月期は、消費を中心に2%超の成長が望めそうだ。景気は、世間的な考えをよそに、先へ先へと進んでいる。


(今日までの日経)
 自社株買い急減速、株主還元から投資に軸足。不動産マネー 世界で過熱。消費、脱マイナス圏・日経DI7月。日銀2%達成6回目先送り。アルバイト時給1012円と最高。

※ガジェット通信さん、お申し越しはうれしいが、そっとしておいてください。


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7/18の日経

2017年07月18日 | 今日の日経
 昨日の経済教室の永瀬伸子先生の論考は、非常に興味深かったね。特に、「未婚期でも非正規雇用にしか就けない女性が高卒層、短大・専門学校卒層に拡大しており、しかもこの層の結婚・出産が遅滞し、離婚も増えている」という指摘は重要だ。日本は、一夫多妻制ではないので、所得の高低に関わらず、あまねく結婚・出産ができるようでないとならない。少子化対策の筆頭は、両立支援や待機児童だが、これは主に高所得層向けであることを意識する必要がある。

 そうでないと、待機児童は解消しても、出生率が上がらないなんてことになりかねない。だからこそ、本コラムは、保険料を軽減して非正規も厚生年金に加入させ、年金から月8万円を3年間給付するというプランを示している。実物給付が少子化対策には効果的というのが定説だが、「貧困の解決には、お金を与えるのが一番」という面もあるのでね。「あまねく」のためには、複合戦略が必要になるが、待機児童の一本槍ですら、永瀬先生が指摘するとおり、ようやく、この3年に加速したくらいだから、夢のまた先だ。

 他方、男性に対する少子化対策も欠かせない。永瀬先生は、大卒大企業の男性が家事育児をできるようにすることが大切とするが、低所得層の男性を底上げし、「良い人」を多く確保する必要もある。25~34歳の就業率は91%と、足下では回復しているが、簡易に正規従業員比率を乗じると下図のとおり。従業員中に非正規が16%もいるため、リーマン・ショック前にも及ばない。1990年代前半の就業率は97%もあり、非正規は3%しかなかった。出生率を盛り返すには、このあたりの改善もいる。

(図)



(今日までの日経)
 エコノ・物価予測なぜズレる。置いてきぼりの既成政党。高卒女性の非正規・未婚率高まる・永瀬伸子。24%の自治体で非正規比率が4割以上。
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ベーシックインカムと緊縮財政

2017年07月16日 | 経済
 ベーシックインカム(BI)への支持が広がらない最大の理由は、「生産していないのに、どうして消費が許されるのか」という素朴な疑問だろう。ルトガー・ブレグマン著『隷属なき道』は、面白さに満ちていたが、これには答えていない。「お金を集めても、消費も投資もしない者がいる」という論理とセットにしないと、社会制度としてBIが不可欠になるという主張は、成り立たないように思う。

………
 ルトガーの主張のうち、「貧困の解決には、お金を与えるのが一番」というのは、なかなか説得力がある。ホームレスに3000ポンドを与える実験、ケニアでフリーマネーを与える援助を取り上げつつ、歴史をたどり、カナダ・ミンガムでの試み、50年前の米国での保障所得実験、ガルブレイスやトービンらが賛同したニクソン政権の家族支援計画、そして、福祉の失敗例とされるスピーナムランド制度の評価が覆されたことなどを語る。

 残念ながら、家族支援計画は実現の寸前で潰え、ニクソンの次の時代はインフレと低成長へと変わり、むしろ、小さな政府が求められ、福祉は批判にさらされるようになった。だが、時代は、もう一巡する。ディス・インフレと格差の現在である。再配分の強化は、経済成長を確保する観点でも、すなわち、福祉を受ける立場以外の人々からも、正当化され得る環境になってきた。BIが注目されるゆえんである。

 BIが一律に現金を給付する施策だとすれば、公的年金は、それに近い存在である。日本の基礎年金は、手続さえすれば、保険料を納められなくても、1/2の給付が受けられる。1/2は保険料ではなく、国庫負担によるからだ。児童手当も、今は所得制限がついたが、BIに類すると言える。そして、「こども保険」という形で給付が拡げられようとしている。部分的であるにせよ、BIは着実に現実化している。

 むろん、その歩みが遅いのは、財源論が邪魔するからだ。少子化による人口崩壊が分かっていても、わずかずつしか児童手当を拡大できないでいる。その根底には、生産の裏付けなくして、消費を許して良いのかという素朴な疑問がある。ところが、今はデフレである。使われずに、溜め込まれているお金があるから、こうなっている。ならば、再分配によって、有効に使うべきではないのか。 

………
 もう一つのルトガーの興味深い指摘は、19世紀半ばからの労働時間の短縮が1980年代に止まったことと、不変と考えられていた労働に分配される国民所得の比率が低下し、資本に有利に傾いたことだ。経済は成長しているはずなのに、生活にゆとりは生まれない。これも、ディス・インフレと格差の別の側面である。どうして、こうなったのか。ルトガーは、テクノロジーの発展を疑うが、政策的な理由もある。

 経済政策の基調が、緊縮財政と金融緩和の組み合わせになっているのだ。緊縮財政で物価を安定させ、金融緩和で資産価格を高める。これによって、ある程度の成長は確保できるものの、実物経済は弱く、金融経済が強くなるので、分配が資本に傾くのは致し方ない。そこで資本の上がりに課税し、分配に使えば、まだ調和が取れるのだが、経済思想の性質上、そうはならないのである。

 次善の策は、財政赤字を容認することだ。ディス・インフレの下での財政赤字は、分配上の偏りを是正する「必要悪」である。これで金融を支える実物の土台が培われることにもなる。ただし、現実は、手っ取り早くバフルを膨らます方に流れがちだ。決して持続可能なものではないが、豊かな社会より、目先の利益が優先されるのは、何ら不思議ではなく、そうするだけの権力も持ち合わせている。

 財政赤字は、一括りに「悪」とされるけれども、インフレ下のそれと、デフレ下のそれでは、意味が異なる。インフレ下では、消費のし過ぎでしかなく、成長に必要な投資を確保するには削減が必要だが、デフレ下では、分配の偏りを是正するとともに、投資の際の需要リスクを癒すものであり、成長をもたらすことになる。特に、人的投資に使われるなら、財政赤字を拡大する方が成長を高めさえする。

………
 財政緊縮と金融緩和の組み合わせは、欧米においては、政治力を持つ金融資本が要望するところだが、日本では、財政再建至上主義と金融緩和による円安での需要確保が背景にある。したがって、権力構造を変えなくても、政策を転換できる可能性がある。すべての人に最低限の人的投資ができるよう、社会保険の適用範囲を拡大し、BIに近づけていくことは、日本の場合、比較的、容易と言えよう。


(今日までの日経)
 株持ち合い縮小10%割れ。緩和マネー縮小へ難路、各国中銀が密約。川下デフレ崩せるか。政府見通し実質1.4%成長。地方税収40.3兆円。非正規 雇用期限なしに。基礎的財政収支なお赤字8兆円。

※川下デフレは、斎藤太郎さんの指摘(7/14)のように、消費に需給ギャップがあるせいだろう。
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7/13の日経

2017年07月13日 | 今日の日経
 5月の日銀・消費活動指数は前月比-0.5、内閣府・消費総合指数は前月比-0.3と予想通りの結果だった。4,5月平均の前期比は「活動」が+1.0、「総合」が+0.5であり、消費は2%成長を超える勢いだ。上がらないと言われ続けた賃金も、人手不足の非製造業では、ボーナスが久方ぶりの高い伸びになったようだ。

 労働生産性は、賃金が上がれば、上がるもの。それで全ての物価が高まれば、タダのインフレにしかならないが、設備投資や輸入で、モノの値段があまり高まらずに済めば、実質でも上がる。つまり、モノとサービスの価格比がポイントとなる。肝心の設備投資は、研究開発を含んだ今のSNA基準なら、そんなに低くない。

 旧基準で見ると、輸出が好調だったリーマン・ショック前は、設備投資は、歴史的にも見ても高水準だった。21世紀になって、日本の経営者が高ROEを目指して設備投資をしなくなったわけではない。需要があれば、しているのだ。むしろ、投資しなくなったのは、公共だ。コンクリートを絞ったはいいが、少子化対策などヒトには投資しなかったんだよ。

(図)



(今日までの日経)
 今夏ボーナス、非製造業5.54%増 27年ぶり上げ幅。設備投資不足 賃上げの壁 労働生産性向上せず・経財白書。
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7/12の日経

2017年07月12日 | 今日の日経
 小売り全体の景気が悪いわけではないことは、景気ウォッチャーを見れば分かる。下図は原数値と12か月移動平均の推移だ。百貨店は、円安になってから急速に良くなっており、スーパーは、底は入れても低迷が続く。図は省くが、コンビニは、5,6月で追い上げて来た。商店街さえ上向いてきている。スーパーは、むしろ例外という位置づけだ。庶民的な日常品の物販は弱く、耐久財やサービスは良好である。

(図)



(今日までの日経)
 小売り業績減速、経常益0.6%増どまり。地方税収7年ぶり減-0.1兆円、輸入品消費税が円高で減-0.3兆円。
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7/11の日経

2017年07月11日 | 今日の日経
 毎勤を拡大すると下図のとおり。今年に入って現金給与総額が上向いてきたことが分かる。6か月移動平均は、2月から毎月0.1ずつ上昇しており、2016年央の水準を超えるに至った。パート比率の上昇が止まり、労働時間が伸びていることは指摘するまでもない。むろん、円安による物価高と消費増税で、実質賃金が低レベルにあるため、景気回復の実感は薄い。それゆえ、生活水準を維持しようと、女性や高齢者の労働供給が増えている面がある。

(図)



(今日までの日経)
 金利差拡大、円安一段と。日銀、6地域で拡大。長寿化で変わる保険。スマホ高度化、需給逼迫。

※今の景況で円安は無用だと思うがね。
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税収減がどうした、大事は賃金さ

2017年07月09日 | 経済
 2016年度の税収が前年度比-0.8兆円の55.5兆円と発表され、財政再建を危ぶむ声も聞かれるが、ほとんど意味がない。地方と社会保障の収支が改善しており、政府全体では着実に進展しているからである。日本では、財政を心配する人は、奇妙にも国の財政しか気にしない。本当に国の行く末を案じているか、疑わしく思えるほどだ。世を憂う政策通らしく振る舞うためのファッションなのだろう。そんなことより、下々の賃金や消費を心配してはどうかと思う。

………
 2016年度の名目成長率が+1.1%なのに対し、税収が-1.5%だった最大の理由は、法人税が-4.6%と、0.5兆円減の10.3兆円になったためだ。2015年度の-0.2兆円に続く減収であり、法人企業統計の経常利益が増加しているのに逆行している。両年度とも金融保険業が減益だったので、この影響かもしれない。第一生命研の星野卓也さんによれば、特別損失、M&Aに伴う税還付、法人税率引下げが要因として考えられるという。

 いずれにせよ、企業収益が最高を更新する中、法人税収は、直近で最高の2006年度14.9兆円に遠く及ばない。全産業の経常利益(除く金融保険業)と法人税収を対比させると、リーマンショック前は、20%台半ばであったものが、2016年度は15%を割るところまで落ちている。それで資金が設備や人材へ大して回ったわけでない。凡人からすれば、財政再建には法人増税が必要という話にしかなるまい。

 また、2016年度は、所得税と消費税も、それぞれ前年度決算比-0.2兆円となった。やや不可解だったのは、補正予算で、消費税の見積りが0.4兆円下方修正されたのに対し、結果は0.4兆円上ブレしたことである。やらずもがなの修正だったわけだ。確かに、消費税は、11月に落ち込みはしたものの、5月に大きく取り戻した。輸入時期のズレが考えられ、消費税の安定ぶりを示すものとなった。

 税収の見込み違いは、法人税収でも生じている。補正予算で1.1兆円下方修正されたが、決算では更に0.8兆円も落ちた。財政当局は、補正の段階で、法人税が前年度決算より約3%増えると見込んでいたが、当時、主要企業の業績見通しはマイナスになると予想されており、首を傾げるものだった。結局、どちらの税収も、当局の見込みは外れてしまい、外野が持つ以上の確度ある税務情報を持ち合わせていないように見える。

………
 政府全体の財政収支は、国だけを気にしていても始まらない。一般政府の資金過不足を資金循環統計の4期移動平均で見ると、1-3月期は、前期と比べ、国が悪化、地方が改善、社会保障が横ばいで、収支改善の動きは一休みだった。それでも、1年前の1-3月期と比較すれば、2.4兆円もの改善になる。内訳は、国が-1.0兆円、地方が+1.8兆円、社会保障+1.6兆円だ。政府の吸い上げがあったのだから、2016年度の消費や物価の低迷は、ある意味、当然である。

 そして、国の税収は、1-3月期に底を打ち、4,5月には高まっている。前年同期比は、1-3月期が-0.2兆円だったものが、4.5月は+0.2兆円となっている。これからすれば、4-6月期の政府全体の収支改善の再開は、十分に期待できよう。トレンドとしては、次の消費増税前の2018年1-3月期には「赤字ゼロ」まで行き着く計算となる。危ぶむべきは、財政再建より、消費増税の必要性である。

 ところで、今週は5月の毎月勤労統計が公表されたが、注目されるのは、現金給与総額が前月比+0.2となったことだ。実は、先月の数字が良ければ、「賃金も上昇を開始した」と宣言しようと思っていたのだが、反動減が出て、控えていたところだった。もう、今月は、そう述べて構わないだろう。常用雇用が順調に増す中で、パート比率も下がり、労働時間も上向いている。常用×実質賃金の4,5月平均は前期比+1.0と強く、消費と物価にも好影響が及ぶはずだ。

(図) 




(今日までの日経)
 指し値オペで防衛線。公的年金2年ぶり黒字。日本も長期金利上昇。人口、最大の30万人減・住基。アマゾン、一部で遅配。不振の造船なぜ売らない?・川重
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7/5の日経

2017年07月05日 | 今日の日経
 月曜に公表の消費者態度指数は、ほぼ横バイであったが、長い目で見ると、着実に水準を上げている。雇用環境については、ようやく、原数値が2014年や15年のピーク時並みに追いついた。有効求人倍率はバブル超えだが、主観的には、こんなものなのだ。収入の増え方は、長い目では、緩やかながら昇を続けたものの、暮らし向きは、物価上昇のせいか、停滞となった。6月短観は、日経の記事どおり、規模や業種で景気に広がりが出てきている。

(図)



(今日までの日経)
 日欧EPAあす大枠合意。米金利じわり上昇、円安基調。6月短観・景況感が幅広く改善。路線価は地方も上昇。法人税収4年ぶり低水準。保育補助の雇用助成拡大。
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