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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

ガルブレイスと時代の思想

2016年03月27日 | 経済
 歴史は今のために読まれる。リベラルで革新的な思想の持ち主であったJ.K.ガルブレイスを回顧するとは、現在の日本において、どのような意味づけとなるのか。伊東光晴先生の新著『ガルブレイス』を読んで、やはり、そういう思いは禁じ得ない。極端な金融緩和と緊縮財政の組み合わせは、アベノミクスの特徴だが、政権への立場を超え、エリート層には幅広く受け入れられている。それは1997年以降の意外に新しい思想だ。

………
 1997年の消費増税は、成長に彩られていた日本の一時代を隔するものとなった。ここで「戦後」は終わりを告げる。むろん、同時代を生きて、転換点に立ち会っていたとは、まったく実感できなかった。激しい景気後退とは言え、また回復できると思っていた。これを境に、成長を失い、企業も社会も、かつてとは別のものになったのだが、未だに、それを分かっていない人も多い。

 高度成長期の経済政策への一般的評価は、潜在力を活かしただけであって、特別のものはないというものだ。しかし、1997年以降は、景気が回復しだすと、すかさず緊縮財政で芽を摘むことを繰り返すようになり、成長を阻害する愚行を避けるだけのことが、どれほど非凡なのか、身にしみて分かるようになった。時代を認識できるのは、伊東先生が記すように、極北の時代を迎えてからなのである。

 成長の原動力である設備投資は、需要リスクに強く影響される。高度成長期においては、金融緩和は、必ず輸出増につながったから、金融政策が効くように見えた。意外にも、この構図は、小泉政権期まで有効だった。ただし、1997年以降は、緊縮財政を伴わせ、内需への波及を断ち切るようになったため、長期にわたる金融緩和の歪みが円高への揺り戻しで顕在化すると、直ちに成長が挫折するようになる。

 金融緩和と緊縮財政の組み合わせは、一時的には有効であるため、結局は失敗するにもかかわらず、極端さを増して、繰り返し試みられてきた。異次元緩和と消費増税のアベノミクスは、そうしたイデオロギーの頂点であり、円安株高の黒田バブルが弾け、慌てふためいて四月から補正予算というのは、毎度おなじみの挫折局面入りである。おそらく、このバカバカしさは、次の時代にならないと、社会的に認知されないものなのだろう。

………
 ガルブレイスは、「新しい経済用語を用いて、今までにない分析視野で現実をとらえ、既存の経済学の通念に挑戦」してきたが、大企業の製造業が中心となって経済を成長させていた時代の申し子と言えるだろう。伊東先生が終章で記すように、時代は「新しい産業国家」から「新しい金融国家」に移った。「ゆたかな社会」は「ワーキングプアの社会」となり、広告で刺激される「衒示的消費」と言われても、コンビニ弁当では実感が伴うまい。

 しかし、ガルブレイスが時代を切り取っていたがゆえに、金融緩和と緊縮財政が作り出すバブルと格差の今の経済のおかしさを認識できるし、貧困移民か人口崩壊かの選択を迫る今の社会の異様さが分かる。時代は、ガルブレイスがケネディ民主党の政治に希望を託したような公共政策の拡充を必要としている。むろん、それは、かつてとは違った形をとる。すなわち、財政赤字とは切り離された社会保険の拡充により、公共の「サービス」が支える安定した内需でもって「不確実性」が除かれ、実物投資と成長が引き出される新たな事態である。こうして先に現実が変わり、ファクト・ファインディングがなされ、時代の思想は改められてゆこう。


(今日の日経)
 サミット前に経済対策、財政出動で国際協調、消費増税先送り視野。

※衆院は解散せず、消費増税先送りを公約にして、参院選に負けたら、予定どおり引き上げるとすれば、選挙戦略としては完璧だ。国民に「選択の自由」はないけどね。
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3/24の日経

2016年03月24日 | 今日の日経
 3月月例経済が出て、基調判断は下方修正とされたが、果たしてどうか。消費の変更は遅過ぎのきらいがあり、横ばいは2015年を通して見られたことだ。むしろ、1,2月の最悪期を抜けた感じである。他方、設備投資と輸出は、若干ながら、上方修正となっている。一般的には、この二つが景気の先導を務める。

 確かに、賃上げは昨年より弱い。それでも、プラスではある。成長の牽引役は見当たらないが、経済は、需要が落ち着けば、おのずと伸び始めるものだ。緊縮財政で、あえて需要を抜くようなことをしなければ、成長戦略がどうあろうと成長する。そういう経済観でもって、筆者は見ている。資本主義のダイナミズムを信じているわけだ。あまりウケないがね。


(今日の日経)
 残業80時間で立ち入り。
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締め過ぎから反動拡大へ

2016年03月21日 | 経済
 1月の消費総合指数が3/16にようやく更新され、前月比+0.6と意外な強さだった。むろん、106.8という水準は、さして高くないが、11,12月が落ち込んでいたので、10-12月期平均より+0.5高く、素直に見れば、1-3月期のGDPは、それなりのプラス成長になると思うべきだろう。ゼロ成長状態で、前期の落ち込みの反動の範囲ではあるが、株安円高で悲観に振れるマインドとは異なる実態がある。

 この一週間、官邸で米国の大物経済学者を招いての会議が開かれ、産経は「待機児童を柱に5兆円補正予算」と、読売は「首相、消費増税先送りを検討」と、それぞれ一面トップで伝えた。異次元緩和Ⅱのバブルが弾け、安倍政権は浮き足立ち、その様が更なる不安と批判を呼んでいる。それなら、前年度補正や28年度予算で、わざわざ緊縮にしなければ良かったのだ。こうした締め過ぎと反動拡大は、日本経済の宿痾である。

………
 消費総合指数の結果は、家計調査とは食い違うものだったが、家計調査でも勤労者世帯はプラスであったし、鉱工業指数の消費財出荷は良好だったので、こういうことは、あり得ると思っていた。もっとも、10日もすれば、2月の経済指標が出るので、それまでしか価値のないデータではある。それでも、世間は、株安円高に引っ張られ過ぎのように思えるので、あえて指摘しておく。

 他方、景気の先行きを占う1月の機械受注が3/14にオープンになった。鉄鋼業の飛び跳ねの特殊要因があるので、それを除けば、低調な結果というのが一般的な受け止めだ。ただし、内閣府の移動平均より長めの「後方5か月」を使うと、下図のとおり、非製造業は上向いているようにも見える。むろん、使う移動平均により、傾向性は様々であるから、色々と試しつつ実態を読み解くことになる。

 特殊要因て乱れた製造業はどうなるか。こちらは輸出動向を確かめることが大切で、3/17に2月の貿易統計が公表されている。日銀の実質値で見ると、12月に大きく低下、1月は横ばい、2月は上向いたという動きである。3月には反動が出るかもしれないので、底入れくらいの見方が良かろう。そうすると、低下傾向にあった製造業の設備投資も、同様になる可能性があると見ておきたい。

(図)



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 景気は底入れの兆しがあるが、株安円高に慌てたのか、5兆円補正だ、消費税見送りだと騒がしくなった。参院選を前に焦りがあるのかもしれないが、待機児童対策であれば、5兆円は大仰で、0.3兆円強で十分である。保育の充実には何が必要かは、2015年の少子化白書に、職員配置の改善や給与の加算など、メニューが明記されている。あとの4.7兆円は、何を積み上げるのか。拙速に編成すれば、バラマキに類するものが出来上がる。

 保育士の確保に不可欠な給与の加算くらいなら、予備費の3500億円で、さっさと始末したら良い。「有能」な財政当局でさえ予見しがたかった人手不足が生じているのだから、名目は立つというものだ。残りは、2015年度の税収の上ブレが1.5兆円程は見込めるので、これを使い、秋の補正で措置することにすれば良い。税収の上ブレは、株安円高で企業収益が下方修正されるなどして、ひと頃より縮小しているが、保育の充実には十分である。

 また、消費増税も、単にやめれば良いというものでもない。物価目標を立て、1%を超えるようになったら、消費税も1%上げるといった、達成したら、必ず上げることにするマクロ経済の条件を設定しておく必要がある。そうすれは、闇雲に消費税を上げさえすれば良いというような財政当局の態度も変化するだろう。受験エリートは、問題の設定は苦手でも、与えられれば、脇目も振らず解こうとするものだ。

………
 本コラムでは、「ニッポンの理想」で、消費増税をしたら、どうなるかを予想した。成長を失い、バラマキに走るところまで見通し、そのとおりになった。しかも、なぜ政策を間違うのか、その背景の経済思想まで明らかにして説き起こしている。さらに、困ったときの処方箋まで示しておいたが、現実には、その萌芽が見られるだけで、実現には、まだまだ、時間がかかりそうである。つくづく、経済思想は変りがたいものだと痛感している。まあ、それもまた、分かっていたことなのであるが。


(今日の日経)
 NISA口座1000万。同一賃金・オランダの改革。
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3/17の日経

2016年03月17日 | 今日の日経
 スティグリッツ先生が官邸で消費増税の先送りを語ったが、日本のエコノミストの間では意見が割れているというのは、ちょっと不思議な感じがする。異次元緩和で勢いがあった2013年ならいざ知らず、ゼロ成長状態の足元では、到底、無理だ。8%増税後には、前回の景気後退の底を割るところまで行かすせに済んだから、今の小康を得ているが、今度、上げれば、確実に底を割る。そうなると、どんなデフレ・スパイラルが起こるか分かったものではない。今のゼロ成長状態ですら、ラッキーだったと思うべきである。

 他方、社会保障は、年々膨らんで行かざるを得ないのだから、2~3年に一度、1%は上げる必要がある。反省すべきは、一気に3%も上げて、需要ショックを起こしたことだ。物価目標と合わせ、1%を超える状況になったら、1%ずつ上げるといった節度あるビジョンを持たなければならない。また、金利上昇をにらみ、3/15のダイヤモンド・O.Lで森信茂樹先生が書いておられたように、金融所得課税の強化と社会保険料の軽減の組み合わせも考える必要がある。


(今日の日経)
 ベア「縮小」6割。増税に割れる意見、米教授が先送り提言。
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3/15の日経

2016年03月15日 | 今日の日経
 昨日の機械受注は、飛び跳ねた鉄鋼業を除くと、前月比-0.2%のほぼ横バイだった。まあまあの結果ではないだろうか。今の局面では、下げ止まっていれば、十分だろう。回復というのは、ここから始まるものなのでね。マインドは、株安円高に引っ張られ過ぎているように思う。法人企業景気予測調査でも、景況感は大きく悪化したが、経常利益計画はあまり変わらなかったりする。

 筆者は、いつもの逆転の発想でね。今を底に回復したという結果が出たとしたら、何が理由になるかと考える。例えば、円安は、非製造業を浮揚させる反面、製造業にとっては異次元緩和Ⅱ前に戻っただけで、今の水準くらいなら、あまり下がらずに済むとかね。転換点を見つけるのは、とても難しいけれど、とりあえず、2月の経済指標の結果は楽しみだな。


(今日の日経)
 東芝が白物を中国・美的に売却へ。1月機械受注・鉄鋼除きマイナス、企業慎重に。
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分割統治の国・日本

2016年03月13日 | 経済
 財政当局の人は、よく「政治や国民は増税を嫌う」とこぼすのだが、それは、どこの国も同じだ。とりわけ日本で抵抗が強いのは、デフレ下で消費増税をしようとしたり、みすぼらしい社会保障を更に切り詰めようといった無理を押し通そうとするからてある。そして、強引に進めるために用いられるのが、植民地支配で使われる分割統治の手法である。

 国民に消費増税を押し付けるのに、経済界には法人減税を約束したり、世代間などの様々な「不公平」を掲げて、攻撃対象を示し、社会保障をより低い方へと揃えようとする。これでは、財政再建にもならないし、公共政策への信望が失われて、国の存在意義を掘り崩しかねない。日本は、ベスト&ブライテストに、こういうことをさせている。

………
 井出英策・古市将人・宮崎雅人著『分断社会を終わらせる』は、こうした日本の在り方を鋭くえぐった快著である。共著でも分担執筆でないことに表れるように、熱意を感じる内容であった。財政再建に価値を置きがちな財政学者が「だれもが受益者」という拡張的な財政戦略を訴えるとは、正直、思わなかった。東日本大震災の際、財政学の教科書に反し、復興増税を唱える財政学者を見て、すっかり失望していたからね。

 井出教授の主張は、財政を「選別」主義から「普遍」主義へ変えようとするものだ。やや長い引用になるが、こう述べている。「低所得層を受益者にすれば、少ない予算で格差を是正できるので経済効率的だ。だが一方で、既得権益が目につくようになり、受益者批判や対立を激化させるという意味で社会的に非効率になる。しかもそれは租税抵抗という政治的非効率をも引き起こして、再分配のための財源を縮小させる。財源が減れば、再分配の機能は弱まる。経済効率性への偏重が、結果的に本来の目的を困難にし、社会的・政治的な対立だけを残してしまうのだ。(p.167)」 こうした見方には、まったく賛成である。 

 では、どうやって、ここから抜け出すのか。まずは、滅茶苦茶な経済運営を改めることである。せっかく、円安株高で景気が上向いたのに、一気の消費増税、続けての8兆円緊縮、ゼロ成長状態での更なる緊縮と、これだけ過激では、成長する方が不思議だ。成長がなければ、財政再建でも、格差是正でも苦しみに塗れる。需要管理の観点を持ち、成長を阻害しない範囲で、穏健かつ平凡な財政をすれば良いのである。

 二つには、普遍主義の下にある社会保険の守備範囲を広げることだ。2007年度から2013年度にかけて、介護等の高齢者向け現物給付は、6.3兆円から8.7兆円へ+2.4兆円だったのに対し、保育等の家族向け現物給付は、1.4兆円から1.7兆円へ0.3兆円増えたにとどまる。この違いは、社会保険であるか否かにある。これだけ保育不足が叫ばれても、税で財源を確保するのは極めて難しい。

(図)



………
 「育児保険」なんて、あり得ないと思われるかもしれないが、0-2歳児を抱える母親に月額8万円を、老後に給付する予定の年金の一部を前倒しする形で給付すれば良い。現在の保育の不足は、極めて高コストの乳幼児の保育を「安く」供給しているために、需要過多になっている。保育を利用しない代わり、現金を給付することで、需要を冷やすわけである。乳幼児保育はパート収入では賄えないほどだから、保育供給を増やすことだけによる解決は、時間もかかる上に、必ずしも社会的に効率的ではない。(制度設計は「雪白の翼」を参照)

 むろん、老後の年金を前倒しでもらえば、将来の給付が心配になるが、おそらく、出生率の向上や女性の就業期間の長期化の効果で補えると思われる。しかし、そうした心配の解消に、全額でなくても構わないので、一般会計から年金特会への繰り入れをするのが望ましい。その財源は、毎年、バラマキに費やしている補正予算を充てれば済む。こうすれば、「保育園落ちた日本死ね!!!」と言われることもあるまい。

 補正予算は、その時限りの建前に反し、毎年、組まれて経常化している。安定的な需要管理の観点からは、急にやめられないので、建前に縛られてムダ遣いをするより、社会保障の恒久財源としての利用法を考えるべきだ。毎年、まちまちな税の上ブレ分を年金特会へ入れ、もし、乳幼児給付の財源として足りなければ、年金のマクロ経済スライドで、長期的に調整すれば良い。こうした方法を応用すれば、低所得層の保険料を軽減し、被雇用者の社会保険の適用範囲を大きく拡げることも可能である。

………
 日本の財政当局は、財政破綻の恫喝や「不公平」を掲げての分割統治は得意だが、まともな需要管理もできず、予算の制度改革の知恵もないという無能ぶりだ。社会不安と経済不安を作り出すのが、彼らのお仕事らしい。他の財政学者も、いい加減、それにつき合うのは、よしたらどうか。財政の問題は、社会保険を含む一般政府や、経済全体から眺めないと、解決がつかないものだ。財政を学ぼうとする若い人には、ぜひ、社会保険の領域まで足を伸ばしてもらえたらと思う。財政と社会保険を連結する発想が、分断社会を終わらせることになると信じている。


(今日の日経)
 廃炉技術で米仏と連携。円安基調に変化の兆し、金融緩和に手詰まりの見方。中国工業生産低い伸び。社説・ユーロ圏は金融緩和だけで再生できぬ。

※それは日本も同じだよね。財政はムリと最初から思考停止になったり、逆に7兆だ10兆だとブチ上げだりするのではなく、緊縮から中立に戻すくらいの良識が必要だ。
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3/9の日経

2016年03月09日 | 今日の日経
 10-12月期GDPは、若干の上方修正だったが、在庫の整理が持ち越された形になったため、次の1-3月期が危ぶまれるものだった。また、消費動向調査、景気ウォッチャー調査とも、大きな落ち込みとなり、2月のハードデータの結果が懸念される。マインドは、株安、円高、マイナス金利といった出来事の影響を強く受けたと思われるが、それがどれだけ実体に響いているか見極めたい。

 本コラムでは、2015年2月の指標で、いち早く、アベノミクスの変調を捉えることに成功している。潮目を捉えるのはとても難しいが、今回、勤労者世帯の実収入や毎勤の給与総額の動きは、無視できないと判断して伝えた。昨年は、楽観の中での悲観だったし、今年は、悲観の中での楽観だから、違和感を与えるものではあろう。経済は気まぐれだが、多様な見方が実態をつかむのに役立つと思っていただけたら幸いだ。


(今日の日経)
 アジア企業7年ぶり減益。GDP改定・景気に下振れ圧力、街角景気2月も悪化。
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アベノミクス・消費底入れの兆し

2016年03月06日 | 経済(主なもの)
 10-12月期のマイナス成長を悪天候のせいにできないことは当然でも、なぜ、そうなったかは、もう少し詳しく見る必要があるだろう。「緊縮財政のため」と正直に言えない当局は、天気のせいにしかできないのだから、放っておくとして、それだけで済ますのは、惜しい気がする。どうすべきだったのか、反省してみる必要があるのではないか。

……… 
 景気は、追加的な需要に強く左右される。これは、景気変動の原動力である設備投資は、需要リスク次第だからだ。目先の売上げほど、大きく期待を動かすものはなく、金融緩和や法人減税に大した力はない。収益性で動くように見えるのは、それが需要の緊緩と密接に関係するからである。教科書的な説明は、知っておくべきだが、現実は違うことも心得ておかねばなるまい。

 この観点から経済運営を眺めれば、公的固定資本形成、すなわち、公共事業が2四半期連続で減っているのは痛い。政府最終消費を加えても、じりじり後退している。政府部門は、成長に参加せず、ブレーキになっているわけで、消費増税後の後遺症克服とか、デフレ脱却とかの意思をまったく感じさせない。

 他方、民間住宅は、2015年の成長を下支えしてきたが、ついに10-12月期は減少に転じた。下支えは、金融緩和の効果と言うより、相続税対策の意味合いが濃く、いずれ剥落するのは目に見えていた。これを読み、テコ入れしておくなり、財政で補うなりの発想が必要だった。経済運営では、政府部門や民間住宅といった、コントロールしやすい分野を安定させることが重要だ。

 もう一つの重要ファクターは輸出である。輸出金額は、2015年になってから低下傾向にあり、実質でも、秋に盛り返しはあったものの、再び落ちてきている。要するに、輸出には頼れない状況である。それゆえ、財政を揺るかせにはできないと考えなければならないのに、締められるだけ締めるという単調なことをするから、成長を失うのである。

 米国がゼロ金利から脱すれば、株安円高のリスクがあることは明らかで、それは本コラムでさえ指摘していた。これを見据え、5兆円程度の補正予算にしておけば、今になって慌てることはなかったはずだ。結局、ストップ&ゴーの財政出動となり、かえって財政も傷めてしまうだろう。こうした経済運営の無能さがデフレと巨額の財政赤字が共存するという奇観の理由になっている。

………
 さて、1月の経済指標がオープンになり、一般的な評価は、低迷が続いているというものであろう。正直、筆者は、日本経済の体たらくぶりを指摘することに飽きあきしている。そこで、今回は敢えて希望の芽を探すつもりで書くことにした。1月の指標はフレが大きく、見通しがたいところもあるので、気楽に読んでもらえたらと思う。 

 まず、家計調査だ。二人以上世帯の消費支出(除く住居等)は、季節調整済指数で前月比-0.2と、相変わらずの低調ぶりだったが、勤労者世帯の実質実収入と消費支出は、2か月連続の上昇になっており、底入れを感じさせる。また、改定によって消費性向は低めとなり、潜在力もある。むろん、水準は低く、1-3月期の消費が前期比プラスになるかさえ微妙だが、良い兆候はあると言えよう。

 その背景には、雇用の堅調さがある。労働力調査の就業者の増加は驚きで、季節調整値の前月比で61万人、原数値の前年同月比で90万人もある。さすがにフレが大きく、一時的と思われるが、毎月勤労統計でも、常用雇用は着実に伸びて来ている。そうした中、秋以降、停滞していた現金給与総額が1月に前月比+0.3と水準を上げたことは明るい知らせだ。実質賃金は、物価の低下で上乗せされ、+0.5まで伸びている。

 他方、鉱工業指数は、生産、出荷とも、春節の影響で高い伸びになったが、2,3月の見通しと均せば、不安定ながら横バイ圏の動きと評せよう。10,11,12月と低下が続いてたことを思えば、マシである。もし、5兆円の補正予算を用意していたとしたら、10-12月期の後退の後、1-3月期に底を打ったところでの実施になったから、効果的なタイミングだったろう。ひたすらな緊縮財政は、こういうチャンスを逃しているわけである。

(図)


………
 日本の経済運営の特徴は、「スキあらば緊縮」で、成長の好循環へ向かうチャンスを、ことごとく潰して来ている。財政、住宅、輸出といった追加的需要の安定を図るどころか、不安定要因ですらある。しかも、退くことばかり考えるから、毎年、補正予算を組むことになるのに、その時限りのバラマキばかりが選ばれる。結局、無闇な緊縮財政こそが、財政赤字を積み上げ、ムダ使いを助長している。一気の消費増税という大失敗だけでなく、この半年ばかりの対応のような小失敗も、繰り返されているのである。


(今日の日経)
 再生への戦い、復興日本の映し絵。

※日本の子どもの貧困問題は、本当に知られていなくてね。色々な意見があるだろうが、NPOキッズドアの渡辺由美子さんの言われることは、的を射ていると思うよ。
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3/2の日経

2016年03月02日 | 今日の日経
 予想どおりとは言え、1月の指標は読みにくい。鉱工業指数は急伸したが、落ち込む予想の2月と均して見なければならない。消費財出荷は増加した一方で、商業動態の小売業は急減、家計調査は低下だ。労働力調査の就業者数が飛び跳ねたのには驚いた。フレの大きい統計だが、ここまでとは珍しい。分析には手間がかかりそうだ。

 法人企業統計は、4年ぶりの減収減益だった。10-12月期はマイナス成長だったのだから、来るべきものが来た感じだ。1月税収も思ったより良くない。年初来の円高株安もあって、ようやく、悲観的な見方が世間に広がってきたようだ。しかし、こういう時こそ、上向きの兆候を探したい。筆者は、本来、楽観派なのでね。


(今日の日経)
 ドローン宅配の事業化検討。法人企業統計・設備投資に下押し圧力。日経PMIが2.2P低下。財政出動にらむ投資家、95年のV字回復の再現なるか。
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