経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・すごい大緊縮、本気でするわけ?

2023年01月29日 | 経済(主なもの)
 「中長期の経済財政に関する試算」の2023年冬版が公表された。このままだと、2023年度に一気にGDP比で4.8%もの緊縮になり、翌2024年度も3.0%の緊縮を連発でする姿になっている。こんな大きなデフレ圧力を本当にかけたら、経済は壊れてしまう。しかも、当局は税収を低めに見積っているので、緊縮はもっと強まる。急速な財政再建を喜ぶなんてバカげており、安定的な経済運営のため、どれくらい財政を出さなければならないか、まじめに心配しないといけない。

………
 大幅な緊縮になるのは、経済がコロナで低迷する中でも、税収が大きく伸びてきたからである。2021年度に6.2兆円増えており、2022年度は最大5.7兆円の増が見込まれ、2023年度は更に2.0兆円の見通しだ。この3年で、社会保障費は1.2兆円しか増えていないので、緊急対応のための予備費や補正予算が剥落すれば、12.7兆円もの急速な財政再建になってしまう。

 しかも、こうした事情は、地方財政も同じであり、3年間に、税収は最大6.1兆円の増が見込まれる一方、一般歳出は0.6兆円の増なので、5.4兆円の緊縮になる。加えて、厚生年金は、中長期試算の視野の外になっているけれども、この間に、保険料等の収入が3.2兆円増え、給付は1.3兆円増にとどまるので、1.9兆円の緊縮である。

 こうした緊縮の構造を覆い隠してきたのが、コロナ対策や資源高対策であり、2022年度の補正では、31.6兆円が措置された。財政再建も大切だが、一気にやるのは危険である。安定的な需要管理ために、少なくとも、2023年度は、緊縮幅に相当する20兆円程度の補正を組み、バランスを取る必要がある。

 「失われた25年」では、景気が回復しだすと、急激な緊縮をしてしまい、成長を失速させてきた経緯があるだけに、失敗を繰り返してはならない。折しも、2022年は、合計特殊出生率が過去最悪の1.25人を記録しそうな危機的な状況となり、少子化対策での再分配が求められている。少子化の緩和は財源を生むので、補正に入れるのに適する。

 また、政府の試算は、税収を低く見積っているので、足下の税収の伸びを踏まえると、基礎的財政収支の赤字をなくす財政再建の目標は、2024年度には達成され、2025年度には5兆円の過剰達成になる。それなら、5兆円を少子化対策のための一時的ではない財源に使っても構わないことになる。

(図)


………
 厚生年金の財政は、支える子供のない人のために税を投入していて、出生率が1.25人まで落ちると、将来的に、5兆円規模で追加投入をしなければならなくなる。逆に1.65人に上がると、5兆円規模で投入を軽くできる。こういう構造なのは、払った保険料が戻って来ないことになっては、制度の根幹が揺らぎかねないからだ。

 経済財政諮問会議では、賢い財政支出が議論になったが、人的資本への「投資」が不足しており、人間の再生産ができないほど若者が収奪され、社会の持続ができない状況が分かっていない。少子化を緩和する以上の「賢さ」なんてない。緊縮財政、金融緩和、産業政策という、永らくしがみついてきた幻想の成長戦略から、いい加減、目を覚ますべきであろう。


(今日までの日経)
 外食、新店7%増どまり 出店費・人手不足響く。コロナ5類、5月8日移行決定。利払い膨張 国債費4.5兆円増。米GDP、10~12月2.9%増 高インフレ下でも底堅く。所得制限、撤廃で足並み 児童手当巡り与野党。「愚か者」英国救った安全網。景気判断11カ月ぶり下げ。

コメント (1)
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財源は子供の減少で出てくる

2023年01月25日 | 社会保障
 11月の人口動態速報の出生は、前年同月比-6.7%と減少幅を拡げる形となり、2022年の合計特殊出生率は、過去最低の1.26人のレベルに至った。1.25人まであとわずかであり、12月の結果次第では、記録更新となる可能性もある。極めて深刻な状況であり、早く少子化対策を打たなければならない。

(図)


………
 「次元の異なる少子化対策」を首相が表明したことで、財源論が喧しくなってきたが、足下までの少子化によって、0~18歳の年少人口が年々減っていくのは確実であり、その分、教育や児童手当の予算が少なく済むため、これが財源になる。こうしたことは、あまり知られていないようだ。

 例えば、小学生から高校生までの人口は、この3年程は、年々13~14万人減る。1人当たりの教育予算は概ね100万円だから、3年で約4000億円の財源が出てくる。同様に、6年では約1兆円になる。これを、小中学生の給食費の無償化とか、高校生の教科書代など授業料以外の学校教育費の無償化とかに充てれば良い。

 また、0歳から中学生までの人口は、年々、25万人くらい減ると見込まれ、児童手当の1人当たりの15年通しの平均給付額は年13.2万円だから、年々、約330億円の財源が生まれる勘定だ。高校生に児童手当を拡大する場合、330万人に月1万円で年3900億円なので、半分を扶養控除の廃止で賄うと、約6年分で間に合う。

………
 問題は、財源より、多くの識者が、少子化の緩和には、若者の収入や働き方の改善が不可欠としながら、要となる勤労者皆保険の実現に意識が向かないことだ。困難に見えて、1.1兆円の保険料の軽減で実現できるのだから、正しい道を見つけてほしい。軽減してでもやる方針は、役所からは出てこないから、これこそ政治の役割だ。

 施策をまとめる過程で、当事者の声を聞くらしいが、聞くべきは、子育ての負担に悩む人ではなく、非正規で結婚が望めない人だ。おそらく、呼ばれないだろうし、たとえ、呼ばれても、辛さを訴えるだけになりそうだ。勤労者皆保険によって非正規の桎梏が破られることは、本人でも分からない。


(今日までの日経)
 社説・楽観を振りまく財政試算なら意味はない。首相、少子化対策3本柱 施政方針演説。賃上げ、前倒し表明相次ぐ。断てるか「停滞の30年」賃上げ持続は官民両輪で。技能実習、改革の視点。
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少子化対策の財源の信の問い方

2023年01月22日 | 社会保障
 少子化対策は、児童手当の増額が急浮上して、おかしな雲行きとなってきた。少子化対策はメッセージが大切で、「育児休業給付の普遍化で乳幼児期の生活不安は解消される」、「高校までの学校教育費は社会が持つから心配ない」といった具体性がいる。子育ての負担の軽減に児童手当では、メッセージが抽象的で、子供を持って大丈夫かどうか、なかなか認識を変えられない。そして、財源の確保も、難しいものになる。

……… 
 日本が採るべき戦略は、少子化の緩和に強い効果が期待できる施策に集中するとともに、緩和で生まれる経済的な効果を財源に結びつけることである。そうすれば、負担増なしで、少子化対策を実現できる。例えば、育児休業給付をすべての女性に行うために、「基金」を作り、とりあえず、補正予算から2年分の1.4兆円を繰り入れ、その後は、厚生年金が拠出して賄うことにする。

 厚生年金にとっては、収入が減ることで、将来の年金の引き下げ要因になるが、少子化が緩和すれば、引き上げ要因になるので、差し引きで変わらず、いわば、負担増なしで、少子化対策ができることになる。むろん、緩和できずに、年金の目減りなり、保険料アップなりの負担増になるリスクもあるため、そういうリスクを取っても攻めに出て良いですかという形で、信を問えば、選挙にも勝てるというものだろう。

 あわせて、低所得層の保険料を軽減してでも、勤労者皆保険を実現すべきである。これは、低所得層への少子化対策になるだけでなく、少子化が緩和しなくても、確実に年金の給付水準を上げられるからだ。軽減に1.1兆円使っても、十分にペイする。どのみち、次の厚生年金の財政検証で、給付水準の確保のためにやらなければならなくなるし、基礎年金の加入期間を5年延長するより得策である。

 ところが、児童手当を増額するために2.5兆円が必要となると、大き過ぎて厚生年金から拠出するには、保険料率を上げざるを得なくなる。増額は歓迎されるにしても、保険料アップとセットになると、嬉しさも吹き飛ぶのではないか。社会保険料のアップは、対象が勤労所得に限られるために、消費増税以上に重く、マクロ経済の運営上も、消費低迷と成長鈍化につながりやすい。

 負担軽減のために、児童手当を増額するなら、空白になっている高校生に月1万円くらいに限るべきで、教科書代等の授業料以外の学校教育費の無償化を組み合わせれば良い。小中学生については、児童手当のアップより、給食費の無償化が適当だろう。こうして、対象が明確だと、財源の確保もしやすい。高校生の扶養控除を転用するとともに、とりあえず、補正で2年分は措置しつつ、子供の減少で減る学校教育の予算を財源に回せるからだ。

(図)


………
 京大の柴田悠先生が「やさしい経済学」で指摘するように、育児休業などの両立支援と保育が出生率を向上させるという実証分析もあるので、ポイントを外さなければ、十分に勝算はある。問題は、政治がポイントを外し続けてきたことである。戦略を間違わないことが大事である。その骨子は、経済財政上の合理性を踏まえれば、誰が考えても、「少子化がマズいと思うなら、このくらいやろうよ」で示したようなものになる。

 岸田政権は、「新しい資本主義」と称し、再分配と勤労者皆保険を掲げて登場したはずだ。着眼は間違っていないのだから、あとは、メッセージのこもった施策を立案し、人口崩壊からの起死回生に、多少の財政上のリスクを負ってでも挑戦しようと、国民に理想を呼びかけることで、信を問えば良いのである。そうした合理性があって前向きな姿勢は、必ずや支持されることになるだろう。


(今日までの日経)
 未就園児預かり、9割補助。ネット通販にインフレの壁。「選択の自由」以前に脳が反応。コロナ、今春平常対応に。物価高、食品が拍車 電気やガスなど必需品6%上昇。年金1.9~2.2%増 実質目減り。

※2022年の17歳人口112万人に対して、3歳人口は82%の92万人しかいない。公立の高校生にかかる公費負担教育費は約102万円なので、高校生が82%に減ったら、教育費を125万円にしても、予算は足りる計算になる。

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1/20の日経

2023年01月20日 | 今日の日経
 12月の日銀・実質輸出は、前月比-5.5と大きめの減少で、停滞感が強まる形となった。コロナで混乱する対中、景気が減速する対米が不調だ。また、11月の機械受注は、民需(除く船電)が前月比-8.3%と、これまた大きめの減少となり、とりわけ、製造業は-9.3%と、3か月連続の減である。訪日客が大きく増えているものの、日本の景気は輸出次第であり、先行きが危ぶまれる展開である。

 月曜の諮問会議で中長期的課題が議論されたが、焦点は財政の使い方だ。アベノミクスでは可処分所得を削り過ぎて、消費が伸びず、外需に恵まれても、成長が低くなった。米国は、ポストコロナで積極策に出たものの、折悪しく、インフレに出くわしてしまった。もたついた日本は結果オーライである。タイミング、量、使い途をどうするか、そういう議論をしないと実りあるものにならない。金融政策は、それをどう支えるかになる。

(図)



(今日までの日経)
 子ども予算「倍増」論先行 政府初会合。日銀、金利抑制へ資金供給拡大。訪日客12月100万人超す。バイト時給、再び最高。中国、61年ぶり人口減。金利1%上昇で国債費3.6兆円増。企業物価、22年9.7%上昇。海外スマホゲームの消費税、IT大手から徴収へ。「国債60年償還」延長案。リスクに備え「財政余力確保を」。金川流「脱出速度」今こそ。家計の現預金保有、リスクに・櫻川昌哉。社説・少子化対策は社会の構造を変える覚悟で。日本の課題を解決する方策・柴田悠。

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少子化対策のための子育ての負担論

2023年01月15日 | 社会保障
 少子化を緩和するには、「これなら子供を持てる」というように、認識を変えてもらわなければならない。それには、施策の意味付けが重要になる。単に児童手当を増やすといったやり方では、「ありがたいけれど、確信が持てない」という反応になり、せっかくの施策が効果を上げられなくなる。負担する側にとっても、「何のため」が具体的であるほど、納得できるというものだ。

………
 まず、「基本的な教育は社会が担う」というコンセンサスを再定義することが必要だ。3歳から高校まで、全員の授業料が無償なのは、社会が担っているからである。ところが、0~2歳は、半数が育休も保育もない。ここでの社会の負担が欠落しているから、子供を持てないことにつながっている。施策の意味付けとしては、最初に直面する養育ないし教育の重い負担を解消するから、子供を持ってくださいとなる。

 次に、授業料以外の学校教育費の負担の解消だ。学校へ通わせるには、教科書、制服、通学など、どうしても必要な費用があるが、親の負担になっている。幼稚園から小学校までは、児童手当で賄える程度の大きさであるものの、中学校では、少し足りず、高校だと、児童手当はなく、扶養控除があるのみだ。この負担を社会が持つことにすれば、「学校にかかる費用は社会が持つから、不安にならないで」というメッセージになる。

 授業料以外の学校教育費を見ると、公立高校では25.7万円だから、1人当たり月2.1万円の給付になる。高校生は約300万人だから、約7,700億円が必要だ。なお、一部は、高校生等奨学給付金として、国と地方で約450億円の支出が既になされている。また、給食も教育の一環で、払わないわけにはいかないとすると、学校給食費を無償化する選択もあり得る。小学校で2,440億円、中学校で1,210億円が必要だ。

 他方、塾や習い事など、学校外の活動の学習費については、公立に通う場合、幼稚園で年9.1万円、小学校で24.8万円、中学校で36.9万円、高校で20.4万円かかっているが、これらは、ある程度、選択的なものでもあり、親の負担という整理になる。ただし、小学校1~3年生を中心に約131万人が登録する放課後児童クラブでは、月4000~6000円の自己負担が最多となっており、これについては、社会で負担するという考え方もあろう。

(図)


………
 子育ての負担が重い、お金がかかり過ぎると言われるが、中身がきちんと分析されてないように思う。何でも良いから支援を増やすというのでは、認識を変えられず、行動にも結びつかない。負担が0~2歳児と高校生に偏っていることは、多くの人にとって、意外だと思う。軽減するに当たっては、0~2歳については、育児休業と保育で分担しなければならないし、高校生については、月1万円を児童手当とし、残りは教科書学用品や通学費などの無償化で分担する方法もある。負担の中身によって、軽減のやり方も違ってくる。教育費については、既定の子供の減少を先取りして財源にする方法もあろう。いずれにせよ、施策のメッセージ、理念が少子化対策には大事である。

 反対に、ありがちなのは、「総合的に進める」と称して、何をするのかが抽象的になってしまうことだ。これだと、財源論も消費税といった一般的なものに傾きがちになる。また、少子化対策では、出生率が上昇すると、年金などで財源も生まれるという戦略上の重要性を見失ってはならない。本コラムが、少子化対策に勤労者皆年金を組み込もうとするのは、それが出生率のいかんにかかわらず、年金の給付水準を上昇させて、財源を産み出すことがある。当たり前だが、大事なのは、総合性でなく、戦略性である。


(今日までの日経)
 中国、IT「是正完了」の虚実。「QBハウス」、4月に150円値上げ。長期金利上限超え0.545%。米消費者物価、12月6.5%上昇 円、一時129円台半ば。東京都、第2子の保育料無償。街角景気2ヵ月連続悪化 原材料高騰。早期保育が高める幸福感。生涯子供なし、日本突出 50歳女性の27% 「結婚困難」が増加。工作機械受注、今年9%減 3年ぶり減少予測。世界の製造業在庫、3年ぶり減。

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1/11の日経

2023年01月11日 | 今日の日経
 11月の統計局CTIマクロは、前月比-0.2だった。物価高もあり、消費は冴えないね。12月の都区部CPIは前年同前月比で+4.0%に達した。巨額の補正予算でも、ガソリン補助のような政策は、良くも悪くも効果が薄い。エコな家電・車への補助のような政策は、効き目があっても、需要の急増急減で業界を弱体化させたりする。少子化対策のように、「急増」が望まれるところに打つのが正解だが、補正予算は、そのとき限りのものという自縄自縛があって、そうもいかない。結局、来年も補正はやめられず、恒常化していても、タテマエが現実を見えなくしている。

 JIJIの「アベノミクスブレーンたちの高揚、そして…」を読んだが、リフレ派が緊縮を看過していたのは、それを大事だとは考えていなかった証拠だと思うね。オールドケインジアンの筆者は、ちゃんとウォッチしていたよ。異次元緩和の円安に、輸出がもっと激しく反応していたら、緊縮を乗り越えていた可能性もある。民間エコノミストの見立ては、そっちが強かった。失敗を確信したのは、輸出がこれ以上伸びないことが見えた2014年の始めだったな。マクロの政策を成功させたければ、各需要項目の動向を計測し、対処していかなければならない。当たり前に見えるけど、こちらは経済思想が現実を見えなくしている。

(図)



(今日までの日経)
 都区部物価12月4%上昇、強まる節約志向。ファストリ、国内人件費15%増へ。コロナ減収世帯への特例貸付、3割が返済不能。「政策整理後に財源議論」首相、少子化対策巡り。日本の生産活動、鈍い回復 コロナ前比6.0%減。

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キシノミクス・2023年の経済政策の課題とは

2023年01月08日 | 経済(主なもの)
 明けて今年は、黒田日銀総裁の交代が確実視されていて、金融政策の最大の課題は、リフレの後始末ということになろうか。円安が進んだときにやっておけば良かったものを、機を逃してしまったので、苦労するような気がする。そして、財政の最大の課題は、大幅に増えている税収によるデフレ圧力をいかにかわすかという贅沢な悩みになる。課題も悩みも見えてない人が多いだろうが、それがリフレの失敗の原因でもある。

………
 経済政策に限らず、失敗に学ぶのは大切だ。リフレをやってみて、どれほど大規模に金融緩和をして、投資促進の成長戦略と組合せても、需要管理が疎かでは、経済を満足に成長させられないことは、良く分かったと思う。それが分かっただけでも、大きな成果である。もっとも、経験に学ぶという愚者の成果すら得ていない人も結構いるようなのが、やや残念ではある。

 他方、需要管理の使い方は、なかなか難しいというのも大事な教訓だ。米国は、リーマンショック後の病み上がりに、緊縮をして長期停滞を招いた失敗に学び、コロナ後は、積極財政に出たが、折悪しくウクライナ戦争と遭遇し、インフレに悩むことになって、金融政策で急ブレーキを踏むはめとなった。そして、最後は、一過性のインフレだったのに、過剰反応してしまったというオチだろう。

 日本でも、細かいことをいうと、コロナ禍で10万円をバラ撒いたら、家電に需要が集中してしまったとか、コロナ後の旅行支援では、人手不足が起こっているとか、再分配も、ただやれば良いというものでもない。低所得層に分配し、消費全般が拡大して、それに応じて、設備投資が増えるという理想的な形になるように、場当たり的でないやり方を工夫しなければならない。

………
 国の税収は、2020年度決算で60.8兆円だったものが、いつも控えめな2023年度予算ですら69.4兆円に上っており、最大74.8兆円までブレる可能性もある。この間の社会保障費の伸びは1.2兆円に過ぎないから、7.4~12.8兆円もの緊縮になる。これを埋めていたのが、2021年度36.0兆円、2022年度31.6兆円の補正予算である。つまり、2023年度も大規模な補正予算を打たないと、強いデフレ圧力になるということである。

 しかも、この間の緊縮は、地方財政で4.0兆円、年金で1.6兆円が見込まれるため、恒常化していた補正予算額の3兆円と合わせ、16.0~21.4兆円も補正予算を組まないと、財政中立にならない。コロナ禍も、ガソリンや電気代の補填も一服したら、一体、何に使うのかという悩ましい問題が生じる。社会保険料の還元や少子化対策など、まともなものを設計していかないと、身にならないバラ撒きに消えてしまうだろう。

………
 その少子化対策は、「異次元」の挑戦としたのは良いが、児童手当で都知事に先を越され、元党幹部の「消費増税で」という発言で水を差された。3月までにたたき台が出されるようだが、総花的で負担増とセットというのでは、盛り下がってしまい、せっかくの挑戦も、支持率は上がらないだろう。焦点となる施策を補正予算で先行的に実施し、財源は時間をかけて議論する方法で臨むべきである。

 少子化対策の焦点は、ミッシングリンクである乳幼児期の支援である。なにしろ、3歳以上は全員が無償で教育が受けられるのに、0~2歳では、育児休業給付も保育も半数しか受けていない。これを、全員がいずれかを受けられるようにして、「乳幼児支援の倍増計画」とでも銘打ち、看板施策としてアピールすれば良い。財源は、初年度は0歳児分だけの0.7兆円で済むから、補正予算で税収の上ブレなどを使って先行実施できる規模である。

 そして、最終的な財源は、出生率が向上すると、年金などで財源を節約できるので、そこから回すことにする。政治的には、「乳幼児支援を倍増するので、ぜひ、子供を持ってください、そうしたら、負担増にはならないので」というメッセージでもってリードするわけである。出生率が向上しなければ、年金が下がるリスクはあるが、適用拡大などの別途の方法で対応することができる。

………
(図)


 さて、11月の鉱工業生産は、前月比-0.1の小幅マイナスながら3か月連続の低下となった。これで10,11月平均は前期比-3.3であり、生産予測は、12月+2.8、1月-0.6ながら、前期比マイナスは避けられそうにない。生産を牽引していたのは、資本財(除く輸送機械)だったが、陰りが見られる。米国、欧州、中国ともに景気に不調が見られるので、仕方のないところで、外需に頼らない成長が望まれるところだ。

 とはいえ、国内の消費も、11月の商業動態・小売業は、名目なのに前月比-1.2だった。また、消費を支える雇用については、11月の労働力調査の就業者数は、前月比-25万人と伸びが止まっている。11月の新規求人は、前月比+0.09とは言え、4か月ぶりの更新だった。11月の毎日勤労統計は、常用雇用の前月比が横ばい、現金給与総額が前月比-1.0となり、まったく振るわない。

 12月については、消費者態度が前月比+1.7と4か月ぶりにプラスとなったものの、それまでの物価高の影響による低下が大きく、10-12月期は前期比が-1.6という状況で、基調判断も「弱まっている」に据え置かれた。内需をテコ入れしたいところだが、2022年度補正は、規模が大きい割に、値上がり幅を縮めるだけだったり、基金が多かったりと、あまり効きそうにない中身なのが残念である。


(今日までの日経)
 少子化対策拡充、3月末にたたき台。

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税収は激増、出生は激減、必要な倍増計画

2023年01月06日 | 経済
 11月の国の税収は、累計の前年同月比が+12.1%と極めて好調である。中間の納税月だった法人税は+31.0%にもなり、所得税は+11.6%、消費税は+6.1%と軒並み高い。11月までの実績に、GDPと企業業績の見通しを組み合わせて予測すると、2022年度の税収は72.8兆円になり、前年度決算から+5.7兆円もの伸びになる。2021年度の前年度比+6.2兆円に続き、アベノミクス期の平均増収幅2兆円の3倍近い異次元の税収増である。岸田政権の税収増の「倍増計画」は大成功を収めている。

 岸田首相は、伊勢神宮参拝後の年頭会見で、出生の激減を受け、異次元の少子化対策に挑戦するとしたが、子ども予算の倍増をすれば、黒田日銀総裁が異次元緩和で2倍をキャッチフレーズにしたので、「異次元」になるという意味なのだろう。むろん、「子ども保険」などの負担増とセットになるので、そちらも倍増となる。激増の税収は、すべて財政再建に充てられ、緊縮幅も異次元なものになるだろう。

 他方、小池都知事は、18歳以下に月5000円を打ち出して、注目を集めた。子ども予算の倍増では、児童手当の増額が焦点の一つになっており、それを先取りする形である。都の税収の上ブレも背景にあろうが、児童手当の増額が成れば、そこに吸収されることも考えられ、したたかな戦略であり、大衆を魅了する政治感覚は端倪すべからざるものがある。ただし、薄撒きにしてしまうと、少子化を巻き返す力は、弱くなってしまう。

 日本の少子化対策の欠点は、幼児教育無償化のときに外したように、乳幼児期の負担の重さを分かっていないことである。3歳から18歳までの教育は、既に全員が無償で受けられる。0~2歳については、正社員の女性なら、月13.5万円の育児休業給付を1年間受けた後、月21~19万円のコストがかかる1,2歳児の保育で「教育」を享受できるのに、非正規の女性には、いずれの支援もゼロである。約半数の女性の子供が支援を受けていないのであり、乳幼児支援の倍増計画こそが最重要の課題なのである。

(図)



(今日までの日経)
 国債落札利回り0.5%、日銀上限に。12月消費者心理、4カ月ぶり改善 年末年始の行動制限なく。11月税収21%増 法人税が大幅増。少子化の原因は20年前の白書に既に分析がある・中空麻奈。首相会見・異次元の少子化対策挑む。東京都、18歳以下に月5000円給付へ。円上昇、一時129円台 7カ月ぶり。食品・日用品、「今年値上げ」6割。

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少子化がマズいと思うなら、このくらいやろうよ

2023年01月01日 | 基本内容
~1.8兆円の再分配による少子化の緩和と非正規の解放~
この世界で生き続けること、その全てを愛せる様に、祝福を君に


はじめに
 2022年の合計特殊出生率は、過去最低の水準にまで落ち込む。これは、経済的にも、社会的にも危機的な状況だ。子世代が1.67倍もの損な負担を被るどころか、人口が崩壊して社会の維持が困難になる。この国に生まれたこと、この時代で生き続けることが、本当に無理なものになっている。だけど、これは運命ではない。少子化の緩和に成功している先進国がある以上、政策的な結果でしかない。受け入れるしかないと思うのは、誰かが描いたイメージや、誰かが選んだステージに、甘んじているだけだ。

 日本が少子化の圧力を跳ね返せなかったのは、若者への経済的な支援が薄かったせいである。いまだ、非正規には、育児休業給付もない。0.7兆円あればできるのに、そうなるのは、「財源がない」とする論理だ。税の自然増収が2年で9.3兆円もあり、成長戦略には巨額の補正予算から7.5兆円を投入するのに、再分配に割くものはないとされる。こうした在り方は、投資の促進で成長を加速するとして、正当化されているが、再分配がないために消費が停滞し、需要の少なさに投資は委縮したままという矛盾を起こしている。

 こんな決め付けられた運命なんて壊し、もう呪縛は解いて、定められたフィクションから飛び立ってはどうか。再分配によって、少子化の緩和に成功すれば、財政負担は10兆円規模で軽くなる。投入以上の見返りがある。経済は、需要の拡大で成長し、社会は、持続性を取り戻す。人間の再生を蔑ろにし、人口崩壊を起こす呪い呪われた未来は、君がその手で変えていける。

………
非正規への育児休業給付
 少子化対策として、何をすべきか。まずは、明らかな障害となっているものを除く努力をすべきである。目下の焦点は、非正規の女性への育児休業給付の拡大である。現在の育児休業給付は、継続雇用が条件になっており、正社員の女性でないと受けがたい。2021年の出生数は81万人なのに、初回の給付を受けた女性は38万人だけであり、46.4%の女性しかもらっていない。

 育児休業給付を受けられなければ、出産後しばらくは、生活費を夫に頼らざるを得ない。ところが、デフレ経済が続く中で、頼れる若い男性は少なくなっている。なかなか「良い人」に巡り合えず、いつまでも結婚ができない。この状況で、子供を持てと言われても、無理だろう。非正規の女性も、子育てに一区切りつけば、多くがパートなどで再び働き始めるのだから、現状は、まるで「身分」によって差別するような制度になっている。

 非正規への拡大で、ハードルになるのは財源だが、7,100億円あれば足りる。大きく見えるかもしれないが、国の税収は、2012年度から2021年度にかけて、消費税を除いても、平均して約8000億円の増収があり、その1年分を充てれば良いだけだった。アベノミクスの2014~19年度には、毎年、補正予算が組まれ、平均3兆円あったから、1/4を割けば、実現できていただろう。足りないのは財源ではない、理想なのだ。

(図)


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 2019年度の育児休業給付は、女性の受給月額の平均が約13.4万円、給付期間の平均が約11.7か月だった。これに月額1.5万円の児童手当が加わるので、月額で約15万円の生活保障になっている。こうした保障を、すべての女性に普遍化する。2021年度の女性への給付総額は6,100億円であり、女性の受給者数は出生数の46.4%だったから、普遍化には+7,100億円が必要で、総額は1.32兆円になる。

 この先、出生率が2021年の1.30人から1.75人まで上昇したとしても、+4,600億円多くなるだけである。これで出生率が向上するとしたら、安いものだ。なぜなら、出生率の回復による経済効果は大きく、このくらいの給付をするのに必要な財政負担を、軽く上回るからである。こうした財政上の効果の存在を、よく分かっていないために、少子化対策はケチられてきたとも言える。

 厚生年金の財源は、大まかに言うと、2/3が保険料、1/6強が税負担、1/6弱が積立金である。こうした構成なので、少子化で子世代が親世代の2/3になって、1/3に支え手がいなくても、税と積立金が支えるので、保険料に見合った給付ができる。このことは、もし、少子化が緩み、子世代が親世代の5/6まで増えると、税負担を不要にしたり、低所得者の保険料軽減や年金割増しに転用できたりすることを意味する。

 出生率で言えば、1.75人まで回復すると、子世代は5/6になる。厚生年金の現在の国庫負担額は約10兆円なので、ここまで来れば、それが浮く計算だ。すなわち、仮に、少子化対策に10兆円を投入したとしても、出生率が回復して、10兆円の負担が浮けば、差し引き、財政負担は変わらない。少子化対策には、こうした特別な効果がある。反対に、少子化の激化を放置し、出生率が1.25に落ちると、5兆円規模で追加の財政負担を迫られる恐るべき事態となる。

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社会保険料に連動した再分配
 次の打ち手は、低所得層の社会保険料の負担を、税の還付によって、実質的に半減させる。1.1兆円あればできる。その狙いは、第1に、少子化の緩和であり、若い低所得者の手取りを増やすことで、結婚や育児をしやすくする。第2に、勤労者皆保険の実現だ。厚生年金や健康保険の適用を拡大しようにも、低所得者には負担が重く、折半する事業者から反対されるというハードルを「社保還付」でクリアする。

 この勤労者皆保険の実現には、多大な意義がある。一つは、国民年金からの移転で本人負担が半減すること、二つは、将来の低年金を予防できること、三つに、シングルマザーの苦境を救えること、四つに、主婦パートの130万円の壁を撤廃できること、五つに、非正規への差別をなくせること、六つに、家庭の事情に合わせ労働時間を柔軟に変えられること、七つに、労働時間での雇用調整が可能になって有期雇用が無用になることである。端的に言えば、低所得層の底上げと抑圧のない合理的な働き方が可能になる。そして、八つに、厚生年金の給付水準を1割ほど引き上げるという、いまや、どうしても欲しい最重要の効果がある。

 社保還付は、社会保険料を月収ごとに決める等級表にリンクして行う。標準額5.8万円の健康保険の第1等級から標準額11.0万円の第7等級までは、半額を還付する。第8から第12までは、一段ごとに還付額を3万円づつ減らしていき、第13でゼロにする。還付額は、第1の年9.9万円から第7の年18.7万円まで段階的に増えていき、第8の年15.7万円から第12の年3.6万円までは徐々に減って第13等級でゼロになる。

 還付の総額1.1兆円を、対象別に試算すると、既に厚生年金に加入している者が3,160億円であり、適用拡大によって、国民年金の1号被保険者から移ってくる人のうち、常用雇用者が180億円、パート・アルバイト・臨時が2,600億円、学生が750億円となる。それに、専業主婦などの3号被保険者が4,600億円であり、ここまで拡げると、勤労者皆保険は完成する。他方、国民年金は、自営業者、家族従業者、無職などに限られたものになる。

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 勤労者皆保険が実現するとは、どういうことなのか。月収5.8万円以上なら、あまねく厚生年金と健康保険に加入できる。パートへの適用拡大で最大の問題は、事業者が負担を嫌い、賃金を下げて、労働者に転嫁しようとすることだが、すべて転嫁されても、社保還付があれば、手取りは変わらない。他方、国民年金や国民健康保険の負担はなくなるから、現在の収入と将来の年金が増して、生活が支えられる。

 また、月収や労働時間によって年金と健保が変わるという壁が消え、非正規と正規の差別がなくなり、能力や事情に合わせて、労働時間を柔軟に選べるようになる。シングルマザーであれば、パートに押し込められ、ダブルワークを強いられることから解放される。主婦パートは、130万円の壁が消えて、いきなりの高負担がなくなり、忙しい中で仕事を休んだり、時給アップや臨時手当を辞退したりせずに済む。

 社会保険の適用の違いがなくなると、正社員が介護で退職せずに、短時間で働きやすくなる。不況時には時短で対応できるので、解雇に備えた有期雇用も無用になる。制度の「壁」が消え、制約を気にせず、正規も、非正規も、能力を最大限発揮できる。それは、マクロ的には、労働供給を拡大し、消費を増やし、経済を成長させ、財政を改善するのであり、これこそ本物の成長戦略だろう。

 そして、勤労者皆保険は、年金の給付水準を上昇させる。2019年の厚生年金の財政検証でオプションAとして提案され、給付水準を示す所得代替率を、1割ほど押し上げるとされる。当時の想定より少子化が悪化し、所得代替率50%の目安を保つには、オプションの選択が不可避の情勢だ。基礎年金の加入期間を45年に延ばすオプションBもあるが、給付規模の拡大が伴い、働き方にも大きな波及効果があるAを、今こそ選ぶべきである。

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おわりに
 若い人の間では、「結婚は贅沢品」と思われているらしい。希望出生率も下がり、価値観が変わってきたようにも見える。けれども、それは、与えられた環境に、意識を適応させているだけではないか。選ぶ未来、望む道は、「誰かが描いたイメージじゃなくて、誰かが選んだステージでじゃなくて、僕たちが作っていくストーリー」であり、人口崩壊という呪い呪われた未来は、君がその手で変えていける。

 あきらめさせるように「少子化対策はいくらやっても」という声もあるが、かつて、団塊の世代が30代初めで、出生率が1.75だった1980年には、厚生年金の保険料は今の半分で、消費税もなかった。大学の授業料も半分であり、奨学金の返済や子供の教育費の心配もなかった。今は、余程の支援がないと、ハードルを乗り越え、結婚や出産をするのは難しくなっている。これまでの少子化対策は、全然、間尺に合っていないのだ。

 給付や還付については、少子化の緩和が年金の財政負担を軽くすることから分かるように、社会保険の枠内で措置することも可能で、いわゆる「財源なし」での実現もあり得るが、説明は省く。複雑になるし、財政上のテクニックで、いかようにもなる。少子化の緩和には、大きな財政上の効果があるという本質さえ分かっていれば十分で、大事なのは、不安やあきらめの鎖を、その胸に秘めた刃で断ち切り、一人孤独な世界で祈り願ったことを貫きたいと思えるかである。

 お気づきのように、今回は、YOASOBIのヒット曲「祝福」のフレーズを引いている。この曲に若い人たちが共感するのは、今の社会に強い閉塞感を抱き、飛び出したい気持ちが強いからだろう。なぜ、こうなっていて、どうしたらよいかは、分からないかもしれないが、君たちの世界や未来は、どんな物語にでも出来る。「この星に生まれたこと、この世界で生き続けること、その全てを愛せる様に、目一杯の祝福を君に」送ろう。


(元日の日経)
 グローバル化、止まらない。中国景況、低迷続く 12月も「50」割れ。首相、全世代型の社会保障改革「先送りせず」。18歳新成人、最少112万人。

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