経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

消費に希望の光

2010年12月29日 | 経済
 11月の家計調査の結果は、非常に良いものだった。もう少し注目して欲しいね。もっとも、日経夕刊の見出しが「消費支出0.4%減少」では、プロでなければ気づかないだろうが。エコノミストが早々と「御用納め」をしていてはいかんよ。

 注目点は、消費支出指数の推移である。前月より1.0%上昇し、97.9ポイントに達した。これはエコカー補助金の駆け込み需要があった9月の水準を上回る。10月の反動減を取り戻したと言っても良い。12/1コラムの家計調査の分析で、11月も期待できるとしていたが、予想通りの結果となった。

 大方のエコノミストは、10-12四半期は消費が落ち込むとしているが、12月に、もう少し積み増せば、プラスが望めるところまできた。年末商戦については、「節約疲れ」の様子が見られるので、可能性は十分と考える。10月の子ども手当の支給に伴う所得効果が持続しているのだろう。悪名高い「バラマキ」が助けてくれたわけである。

 さて、年末ということで、日経も1年のまとめ記事が多いが、「日本、回復遅れた1年」なんて言って欲しくないね。そうなるのは、6月頃から分かっていたことで、本ブログでは再三にわたり指摘してきた。前年度補正後より10兆円も歳出を削減したのだから、年度後半に「政策効果の反動」が出るのは当たり前で、政策の「結果」どおりと思わなくてはならない。

 ここは、「回復を後回して、財政緊縮を達成」と正しく評価しなければならない。自分のしていることを分かっていないんだよね、日本は。円高も天災ではなく、デフレ傾向が背景になっているものだし、鈴木淑夫さんが指摘するように、 「政策息切れ懸念は大きいが、円高の悪影響は明白ではない」(9/30コメント)というのが正しい見方だと思う。

 おまけに、米中の回復によって、「景気、来春再浮上も」なんて、どうして言えるのだろう。米国は住宅投資が重荷で回復の足取りは遅いだろうし、中国に至っては失速の恐れがある。FTの「中国の成長モデルは持続不可能と著名経済学者が警鐘」という記事でも読んでみてははいかがか。

 日本については、10-12四半期は、大方の予想に反して、踏みとどまりそうである。次の1-3四半期は、財政当局が世間を欺いて骨抜きにした補正予算と、子ども手当の2月支給の効果がどの程度なのかが注目される。来年度予算も「貯蓄投資バランス」の観点からは、緊縮財政になっており、今年から来年へと、財政による経済へのイジメは続く。それも一つの政策だろうが、世間に隠さずに堂々とやってほしいものだ。

 輸出を起点に、設備投資にしても、消費にしても、財政のイジメに合いながらも、すんでのところで、景気回復のボールをつなぎ続けてきた。本当に、この1年、日本経済は良くやってくれた。政策はと言えば、緊縮財政を取る一方で、法人減税で税収に穴を空けるという具合で、何もせずに前年と同じことをしておれば良いものを、あえて事態を悪化させるようなことに熱心だ。(法人減税はJMMの北野一さんの12/27論考でも参照されたい)

 来年は良い年であってほしいね。それは政策的な愚行に民間経済がどれだけ耐えられるかにかかっている。日本の「雪白の翼」は、まだ失われていない。羽ばたくなら、雲を抜けて、再び大空を舞えるのだ。

(今日の日経)
 NTT光回線値下げ。北朝鮮、年1発製造できる能力。人づくりへ総力結集を・中山伸弥。日本、回復遅れた1年、円高で年後半停滞、政策効果の反動も響く、景気来春再浮上も。海外投資家、日本国債保有増やす。介護再び人手不足、製造業に雇用回帰。ベトナム造船大手に政府融資。中国・小型車減税打ち切り。米住宅価格マイナス。ロシア資本流出、経済停滞の影。衣料品、中国依存見直し。半導体・液晶フル稼働。求人広告11月7%増。経済教室・ポスト京都・澤昭裕。

※経済がダメだと人づくりも崩れる。海外の見方は違うようだね。不況のなかの人手不足か、基本内容の「雪白の翼」でも読んでくれ。中国の需要先食いも限界。米国はまだまだ。ロシアは自業自得。中国も曲がり角。国内には明るさ。
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「変わった感」を作る

2010年12月28日 | 経済
 民主党の「忘れられた公約」に年金通帳がある。年金改革などは、初めから無理でも、これは実現の可能性はあるかなと思っていたが、やはり、そのままになった。通帳一つ作るとなると、それは紙ではなく電子的なものでも、全国民が対象になるので、数百億円はかかるためだろうが。

 もし、通帳が実現していれば、今日の企業年金の不明問題にしても、解決の方向性は示せたと思う。年金への不安は、将来の財源確保にあるが、記録だけでもしっかりさせて、少しは安心感を与えるべきだろう。「消えた年金」は、政権交代の一因でもあったのだから、一つくらい「変わった」と思えるものを作るために、踏ん張っても良かったのではないか。

 地球環境対策でも「変わった感」は乏しい。政権交代後にCO2の25%削減が掲げられるようになったし、太陽光発電からの買取り価格も2倍になった。エコカー補助金でハイブリッド車も普及した。対策は長足で進んだはずだが、なぜか、実感に乏しい。

 思うに、自民党政権のアンチテーゼばかりで、目指すべきビジョン、ライフスタイルを描き切れなかったからではないか。例えば、これから建てる住宅は、すべて太陽パネルを備えることにするとかである。これは、新築住宅の半分を占めるマンションには、縁遠いままである。エコカー補助金も、HV車だけは続ける選択肢もあったように思う。

 TPPについても、もし、党内の分裂を覚悟してでも、交渉参加を決断していたら、どうなっていたであろうか。そうでなくても、支持率は低迷しているのだから、乾坤一擲の勝負もあり得たはずである。政権へのリスクは大きいが、日本のために、一つは「変えた」という実感が得られたはずである。成功していれば、バラマキと評判の悪い、農業の所得補償の位置づけも変わっていただろう。

 子ども手当にしても、何を変えようとしたのだろう。乳幼児に手薄なのだから、少子化対策にはならない。「控除」から「給付」への転換と言うなら、配偶者控除は縮小せねばならない。専業主婦からの反発を恐れて、それをしないのでは、「変わった」のではなく、バラまいたとしか評価されない。

 民主政治では、誰からも悪く思われないようにしたいという意識が働く、しかし、誰からも悪く思われないようにすれば、人気取り以外の何をしたいのかが分からなくなり、右往左往しているようにしか見られない。実は、民主政治のコツは、悪く思われる人を上手く作ることである。かつての小泉政権が強く支持されたのは、郵政支持者などの「悪く思われる人」を作ったからに他ならない。

 「変わった感」を作るためには目標へ向かっていく鋭さがいるし、その矛先となる人々も捉えなければならない。民主主義で強調されるのが、コンセンサスではなく、リーダーシップなのは、そういうわけである。

(今日の日経)
 企業年金180万人分が行方不明。京セラ太陽電池タイで大型受注。開国で成長できる国に・太田泰彦。社説・遅すぎたテロ情報流出対応。アップル特需で新工場続々。みちびき実証実験は誤差3センチ。11月住宅着工6.8%増。介入渋るガイトナー。ロシア閣僚が北方領土訪問へ。アイル信用不安続く、英銀は追加損失。薄型テレビ前年同月4割減。電子部品世界出荷10月6%減1年ぶりマイナス。ユニー既存店改善。経済教室・ポスト京都・蟹江憲史。

※TPPはお寒い話ばかり。頭を下げていたのは課長級か。電機の内需を失ったのが不調の原因、それをアップルが作ってくれたか。住宅が景気を押し上げ。裏話も出たね、介入は輸入企業に円を与えるため。ロシアは大統領に倣え。こんな高金利で返せるのかね。ちょっと落ちが大きいね。マイナスの中国への影響はどうか。

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焦りによる先取りでの失敗

2010年12月26日 | 経済
 滝田さんは、自らの論に酔っているのではないかな。財政に対する危機感が頭の中を渦巻いているというのは良く分かるよ。しかし、どうしろというのだね。今の経済状況で消費税を上げたら、確実に二番底だ。そちらへの手当ては、日銀の効果的な金融緩和でカバーできると思っているようだが、これまでの緩和策に目に見える効果がないのに、一層の緩和をすれば、急に大きな効果が表れるとでも言うのか。とても、そんな危険は犯せない。

 来年度の税収見通しは、財政当局の「大本営発表」でも3.5兆円の増収である。これは意図的に低く見積もっているので、実際には、更に2~3兆円の上積みが期待できる。実際、10年度では、税収が財政当局の見積りを大きく上回り、それで国債発行なしに5兆円規模の補正予算を組めたではないか。来年度も同じことが起こるだろう。

 滝田さん、アイルランドの惨めな状況をリポートするのも良いが、そんな遠い外国のことを調べる暇があったら、自分の国の財政数字を検証したらどうかね。経済紙の役割は、ホラーストーリーを見せることではなく、現実の動きを知らせることだろう。

 確かに、日本の財政は、ひどい状況だが、税収が着実に回復しているのも事実だ。良い方向に進んでいるのであり、政策論としては、このペースを早めるべきかどうかが焦点である。筆者は現状でもハイペースだと思っているし、このくらいで良いという論者の居よう。滝田さんは、もっとペースを上げろというのなら、どのくらいかを言ってほしいね。

 消費税には、物価を冷やす副作用がある。これは過去二回の引き上げで実証済みだ。だから、十分な物価上昇圧力がないと成長にブレーキをかけてしまう。他方、法人税の自然増収には、そうした副作用がない。景気回復期には需要増大が設備投資を刺激するから、心配しなくて良いのである。

 だから、財政再建を重視するなら、法人減税をせずに、特定分野の設備投資減税なり、補助金なりを選択すべきだ。むろん、日経は、これとは反対のことを主張している。正しい法人税の在り方は、両二年ほどの減税は我慢し、自然増収が伸び切ったところで減税するというものだろう。この「2年後に引き下げる」というアナウンスが企業を国内に引き止めることになる。その頃には、物価がプラスになって、消費税の条件も整っているはずだ。

 社会保障の改革については、マクロ経済運営において、デフレ下で需要を抜くようなことをせず、物価をプラスに持って行くことが何より重要である。これで年金のマクロ経済スライドが作動して、給付水準を引き下げることができる。年金が名目で上がる状況になれば、その範囲内で医療・介護の負担増を求めるのも難しいことではなくなる。

 現時点で、与野党で話し合うべきは、増税そのものより、増税に至る「道行き」である。安定的な需要管理政策を採る一方、成長や物価の回復がどのような状況になったら、増減税や負担増を発動するのかを決めておくことである。それが日本の経済と財政に対する信用を高めることになる。

 日本のリーダーは、マスコミや学界のオピニオン・リーダーも含めて、焦りすぎである。危機に追い込まれると、一足飛びに打開しようとして、先走りや先取りをして失敗することがよくある。日本は、そうしたありがちな失敗の構図にはまり込んでいる。滝田さん、落ち着くのだ、時間軸を考えるのだ。国家のために、そうしてもらわないとならないのである。

(今日の日経)
 中国、追加利上げ0.25%。消費税上げ来年決断を・滝田洋一。景気二番底懸念和らぐ。電池材料、大日本印刷3倍に。社説・核軍縮に中国も取り込め。風見鶏・アジアは赤く染まるか・秋田浩之。来年度予算、成長へ効果ゼロ。原油熱、米緩和で再び。中国、利上げ継続観測。中国、値下げしないと売れない。湾岸諸国が軍備増強。省エネ運搬船導入。ナゾ科学・目の誕生。読書・経済図書ベスト10・池尾和人。

※中国もとうとう利上げか。しかし、0.25%とは小さい。金融政策は、マーケットが「これで打ち止めかな」と思うくらいでないとダメだ。結果的には追加利上げをするにしてもである。利上げ観測が出るようでは不十分。かえってマネーを呼び込むことになる。中国もありがちな失敗にはまり込んでいるということだろう。金融政策とは、適正なマクロ的水準を目指すものではなく、期待への対処だということを肝に銘じなければならない。

※今日の社説は、春原さんが書いたのかな。世間は米ロばかり見ているが、この視点は極めて重要だ。核やミサイルにおいて、中国が英仏以上の軍備になることが批判されるような知的枠組みを日本が作っていかないとならない。

※秋田さんの風見鶏も良いね。ワシントンの雰囲気を伝えてくれるのはありがたい。日米同盟の将来イメージは5/9コラムのような感じだろうが、中国には英仏並みの軍備で我慢するように訴えつつ、こちらも増強には対抗するという戦略が必要かな。それと「赤」のメコンの3国にも手当てがいるけど、この財政状況だとね。
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改革しすぎで、かすむ未来

2010年12月25日 | 経済
 来年度予算の税収は3.5兆円も増えている。社会保障費の自然増の1.5兆円を呑み込んでも、まだ2兆円余る。これだけあれば、何だって実現できそうなものなのに、一体、どこへ消えたのだろうか。

 予算案の数字だけを眺めれば、このくらいは、学生でも気がづく。むしろ、頭の良い人でも、時間を節約しようとして、手軽な財政当局の説明を聞いてしまうと、重要な基本数字の意味を見過ごしてしまう。こういうのを日本語で何て言うんだろうね。「情報操作」かな。英語ならマインドコントロールだろう。

 「ナゾ」の答えは簡単で、その分だけ、税外収入、いわゆる「埋蔵金」が減っている。一般の人は、「埋蔵金」というと、とっておきの財源のように思うかもしれないが、基本的に国債で運用しているから、それを売って財源にするわけで、経済的には、国債の追加発行と大差ない。まあ、貯金の取り崩しでも、そうせずに借金を増やしても、どちらも、差し引きでの借金の総額には変わりがないということだ。

 したがって、来年度予算は、これだけで、実質的には、借金を3.5兆円も減らす財政緊縮型の予算ということになる。さらに、今年度補正後と比較すれば、歳出規模は5兆円も少ないし、また、税収見積もりは、今年度の実績値に近く、来年度中の伸びを勘案していないから、実際は2~3兆円も多くなるのではないか。

 これを聞いて、「財政再建、大いに結構」と喜ぶ人もいるかもしれないが、政府がおカネをより多く集め、散じる量を減らすということは、経済に対してデフレ圧力をかけるということである。この予算を見たら、「ああ、日本は、来年も、あえて政策で、デフレにしようとしている」と思わなければならない。

 日本経済は、GDPの2%規模にもなる財政からのデフレ圧力を背負って走らなければならない。もの凄い財政再建への改革であり、「改革なき予算」なんて言う日経の目は節穴である。いや、「未来かすむ」と言っているから、それは当たっている。今年度のような急速な輸出の回復なしで、民間部門は悪戦苦闘しなければならない。

 日本の財政当局は、テクニックを弄して緊縮予算を隠蔽してしまう。真実の姿を見抜けるのは、一握りのプロだけである。もしかすると、財政当局すら、自分たちがしている経済的な意味を理解してないのかもしれない。まして、国民は、「どうして、こんなに苦しいのだろう」と思うだけである。

 そして、理由探しは、グローバリズムだの、人口減少だのと、あらぬ方向にさまよい、理由の分からない苦しさに、不満の矛先は、政府のムダ遣いやら、世代間格差やらへと向けられる。それは更に公共部門を細らせ、セーフティネットを薄くし、一層、日本を暖かみのない社会にしていく。最近は、真実が分かることが、むしろ辛くなってきたよ。クリスマスなのにね。だから、色だけは暖かくしておいた。 

(今日の日経)
 来年度予算案を決定、未来かすむ改革なき予算。中国の短期金利急上昇。野田が厳しめ、玄葉に花、財務省グリップ。11年度国債発行計画。初年度は3061億円減税。大統領2島返還取り下げか。欧州・経済格差鮮明に。乗用車生産、ホンダなどはプラスに。セメント8.8%増。三菱商事・若手全員に異文化体験。

※中国もいよいよだね。すべてはシナリオどおりか。ソ連時代に逆戻り。強いものが助けないとね。悪くない指標。できればマルチでさせたいな。
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無知で支える緊縮財政

2010年12月24日 | 経済
 楽な予算編成ですな。世間的には、子ども手当増額の財源探しなどで調整が大変だったように見えるかもしれないが、財源がたっぷりあったので、財政当局は余裕綽々というところだろう。真実(プラウダ=露語)の姿を経済紙がまったく伝えられないのだから、旧ソ連の機関紙「プラウダ」並みというところか。

 余裕の一番の理由は、補正で地方交付税を積んでおいて、それを流用できたことだろう。これで6000億円を浮かせた。補正のときは、円高で不安が高まっていたから、実質的に経済対策に使わずに、来年度回しにすると言ったら、大変な批判を浴びただろうが、世間の無知に乗じて積み込みに成功した。その分だけ一般歳出は伸びており、1.5兆円で収まるか「懸念」されていた特別枠を拡大することができた。

 余裕ぶりは、先日指摘したプライマリー・バランスの7000億円の改善にも見える。本当に苦しいと、ここに7000億円も積めないものである。NTT株の売却による3000億円は、国際協力銀行に出資することで、しっかり「埋蔵金」にできたし、最後に、総理指示で400億円ほどを科学技術関係費に積み増す演出までしたのだから、よほど余裕があったのだろう。

 また、12年度に向けても、積み込みは万全だ。国債費が8000億円も増えている。国債残高が増すとはいえ、日銀が強力な金融緩和をする中で、国債の平均金利は低下が予想されるから、これは過大だろう。いずれ、「余りました」と言って、11年度の補正の財源に化けることになろう。この他、前年度に1兆円もあった予備費がどうなったか、伸びが期待できる日銀納付金の算定の如何など、余裕を計るためには、まだ分からない部分もある。

 景気は回復基調にあり、この数年は、法人税を始めとして、毎年3兆円程度の税収増が見込める。普通にすれば、年間1.5兆円程度の社会保障の自然増くらい簡単に飲み込める。ただし、それをしてしまうと、財政再建が遅れることになるので、財政当局は、それをいかに隠して、社会保障のためには消費税が必要という構図を作るかに腐心することになる。それが各種の世間を欺くテクニックの駆使の理由なのである。

 誤解のないように言っておくが、筆者は、社会保障のために消費税増税は不可欠だと考えているし、財政再建も重要課題だと思っている。しかし、それは、物価がプラスになったときに、つまり、マクロ経済の運営と整合的になったときに行うべきものであり、今は、それを迅速に実行するための準備の時期である。

 今日の日経の社説は、完全に経済の大局を見失っている。現場の記者の情報をきちんと評価し、位置づけることができず、財政当局のテクニックに翻弄されている。大規模な税収増はどこに消えたのか、そう考えれば、見破れるはずである。もっとも、日経は、それを法人減税の財源として狙っているから、見て見ぬフリなのかもしれないが。

 法人減税については、日経電子版で、小平龍四郎さんが、海外に投資されるばかりで、国内の投資や雇用に結びつかないのではないかと疑問を呈している。小平さんは、企業財務に通じているから、そういう見方になるのは当然だと思うが、残念ながら、日経論説の主流にはなっていない。

 経済の大局は、来年度予算は、今年度補正後より緊縮になっていて、経済にデフレ圧力をかけるというものである。日経社説は、「政府と日銀が足並みそろえよ」としているが、意味不明だ。まさか、日銀に金融引き締めを求めているのではないだろうから、財政政策を誤認しているのだろう。日経論説が本気でデフレから抜けたいと思っているのなら、成長率の名目と実質の差のGDP0.5%分の歳出の追加でも求めてはどうか。

 おまけに、日経は当面の景気を楽観視しているが、景気の息切れは、次の1-3四半期が最も危うい。支えるべき今年度の補正予算がカラだったことが予算編成過程で明らさまになったのだから、普通は危機感を持つのではないか。ここも、日経論説が、財政政策をまったく分かっていない証拠になってる。

 日経が言うところの、家計や企業がキャッシュを抱え込む「冷え症の経済」になっているのは、国内需要が不安定だからである。それは、財政当局の隠蔽された緊縮財政が起こしているものだ。そして、それを日経論説が無知で支えているのである。

(今日の日経)
 東芝、サムスンと提携。三洋、車載電池を増産で150億円投資。オバマ政権、減税に続き成果。社説・デフレの罠から抜け出すには。CO2排出3年ぶり増、原発稼働率がカギ。消費税・社会保障のキーマンに聞く。ユーロ下落、不安再燃。政府経済見通し、消費の伸び縮小。米、中国をWTO提訴。米新築住宅販売5.5%増。米国・政策と株高で消費復調。経済教室・ネット検索・玉井克哉。

※LSIもダメか、バックの電機が衰えたからね。EUは見通しつかず。見通しは消費が小さくないか。米国はまだ安心できないね。
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社会保障改革の「視野」

2010年12月23日 | 社会保障
 正直に言って、事の本質が理解されてないと思う。社会保障改革の「視点」と題した、昨日と今日に掲載された経済教室のことである。社会保険では負担と給付を一致させることが極めて重要で、昨日の鈴木亘先生も、今日の田近英治・河口洋行先生も、それを十分に意識している。問題は、なぜ現実の制度が一致させられないかの理由である。

 確かに、日本の政治はだらしがない。行政当局も負担から逃げがちである。そういう実態を見ているから、政治や行政がしゃんとすれば、問題は解決するような気がしてくる。だから、昨日の鈴木先生は政治に喝を入れようとし、河口先生は精緻な制度を提案しようとする。それ自体は間違っていないのだが、それでは解決がつかないのだ。

 日本の社会保険に税が投入されるのは、なぜなのか、それは、一般に理解されているように、低所得で保険料を十分に払えない人にも給付を保障するためではない。所得に関係なく、子供のいない人の給付を支えるためなのである。今の出生率では、親世代と子世代の比率は10:6くらいになってしまう。つまり、親世代の4割が保険料を支える子を持たなくなるわけで、彼らは税で支えるしかないのである。

 このような少子化の状況にあって、給付を保険料で賄う社会保険が成立し得ないことは明らかである。河口論文について言いたいのは、リスク調整の精緻化は確かに必要であり、筆者も賛成であるが、少子化に伴う保険料の不足を、国がどのように税で補完するかという部分が不可欠だと考える。都道府県の不安の本質も、そこにあると言ってよい。

 続いて、鈴木論文だが、年金について言えば、鈴木先生が言うように、給付と負担の関係が曖昧なのでも、コスト感覚が失われているわけでもない。積立金と国庫負担は、子供のない人の給付に見合うものにしてあり、それを公然とは言わないだけなのだ。そうしないと保険料が給付を上回ってしまうので、そうせざるを得ないのである。

 したがって、鈴木先生が言うように、中高所得者への公費投入を減らしたりすれば、明らかに給付より保険料が大きくなり、個人貯蓄や民間保険の方が有利になって、社会保険は瓦解することになる。公費投入を減らすとすれば、中高所得者ではなく、子供のない人への給付を減らす方法しかない。

 彼らは、賦課方式の社会保険の下では、給付を受ける根拠を持たないため、給付減なり負担増なりによって、制度から離脱したとしても、むしろ、それは制度財政を健全にすることになる。留まるのなら、2倍の保険料を課して、「二重の負担」をしてもらわないと、制度財政は均衡しないのである。 

 結局のところ、社会保険の財政問題は、少子化の解決に大きく依存する。それをどう社会保険に組み込むかは、本コラムの小論なり、基本内容の「雪白の翼」に記してあるとおりである。単純に、消費税増税をすれば良いというものではないし、制度のリスク管理を極めれば済むものではない。若手の両先生には、より広い視野を持っていただければと思う。

(今日の日経)
 ソニーが工場買戻し半導体増産。新START来年前半に発効。日本人留学生11%減る。参院選改革議論が加速。店頭価格上げ下げ拮抗。介護計画の有料化見送り。年金財政、不安抱え合意、つなぎ国債も。交付税改革素通り。政府見通し、失業率改善4.7%。中国最大の揚陸艦が進水。ホンダジェット初飛行。日野が茨城にトラック工場。経済教室・社会保障改革・田近英治、河口洋行。

※買取りでも補助金が出るのか。もっと減っているかと思った、08年統計とは遅い。参院定数減は衆院比例で引き受ければ良い。埋蔵金も国債も同じ、枯渇とつなぎで増税論に誘導。
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プライマリー・バランスのからくり

2010年12月22日 | 経済
 日経の役割として、財政当局の「大本営発表」、これは、やってもらわないといけない。財政当局が何を考えているかを知るのは、政策分析の上で必要なことだからだ。しかし、財政当局と一体化してもらっては困る。多少は距離を持ち、批評も加えねばならない。

 その点、財政当局は巧妙で、「財政赤字は深刻」のような安易な批評まで用意してくれるので、それに乗らないことが大切だ。まあ、的確な批評などしたら、紙(資料)をくれなくなるかもしれないから、加減が難しいがね。彼らは記者への「飼料」だと思っているんだよ。

 さて、年末恒例の来年度予算案の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の発表があった。約23兆円ということで、今年度より0.7兆円ばかり改善するものの、「黒字化への道のりは遠い」という。わずかに改善とは、なかなか好都合な数字ではないか。筆者は、こういうものを見ると作為を感じてしまう。皆さんは、いかがだろうか。

 基礎収支は、財政再建の目安とされている。経済学的な裏付けもあり、その範囲内の赤字なら、債務は発散しないことになっている。そうとなれば、これを都合良く操作しようと思わないはずがない。そう考えるのは、筆者が素直ではないせいだろうか。

 もし、筆者に財政を任せてもらえれば、一気に10兆円詰めることくらい簡単にやってみせる。例えば、年金の国庫負担を停止し、年金特会の積立金の取崩しで賄うことにすれば、それは可能だ。つまり、社会保障などにおける国庫負担を操作し、特会の「埋蔵金」を使えば、基礎収支など、いかようにも転がせるのである。

 鋭い方なら、ここで気づくはずである。今年の予算編成過程で、年金の1/2国庫負担が焦点になり、鉄建機構の「埋蔵金」1.2兆円を使うことで決着したのは、そういう背景があってのことだったのかと。したがって、「基礎収支の赤字を埋めるには、消費税10%が必要」などという議論は、お笑い草なのである。これで増税幅を決めようと思ってはいけない。

 少々難しい話になるが、税外収入のうちの特会取崩し分のように、国債発行と同様に見なければならないものもあるし、12/20に取り上げた交付税特会への繰入れのように国債減額と同様に見なければならないものもある。基礎収支の見通しについても、税収が意図的に低く見積もられているので鵜呑みにできない。

 有り体に言うと、財政当局が作る分厚い予算書などの資料は操作が多過ぎ、学問的な分析の対象にはできないし、マクロ経済運営の基礎資料にもならない。そういうものを大変な労力をかけて作成しているのだから、ご苦労なことである。今どきなら、真っ先に「仕分け」の対象だろう。しかも、電子データでなく、紙の印刷物にしているのだから、財政当局のコスト意識も知れたものだ。

 本コラムの読者には、財政の人工的なデータで右往左往するのではなく、国民経済計算的な数字で捉えるよう意識してもらったら良いと思う。実際、橋本内閣の財政構造改革のときは、財政指標で目標数字を作ることができず、国民経済計算を用いたくらいなのだから。

 ここで、来年度予算のポイントを言うなら、一般歳出が今年度補正後よりも5兆円少なく、税収見積もりが2~3兆円程度少ないということである。つまり、その分、緊縮予算になっており、GDPで1.5%程度のマイナス圧力が経済にかかるということである。過去1年の家計消費が2%台半ばで伸びてきているのに、政府見通しの来年度成長率が1.5%というのは、そういう理由なのだろう。

(今日の日経)
 欧州格下げ圧力強まる。税外収入7兆円、基礎収支赤字なお23兆円。参院9ブロック制提示へ。16年までに一院制を提言。グアム整備に370億円。外相・嘉手納以南で先行協議。トヨタ国内生産5%減、世界3%増。日銀総裁・長期金利注視。ダラーラ・人民元管理バブル増幅。11年度実質1.5%成長。NTT株追加売却3000億円。中国、漁船転覆で韓国に賠償請求。インドがロシアとT50戦闘機を開発。中国、ユーロ危機回避へ協調。中国、財政赤字15%減。スマートフォン部品増産。経済教室・社会保障改革・鈴木亘。

※ドイツの覚悟がなければ救われまい。大連立の名分になる。普天間は11/29で指摘したとおりになった。法人減税したのにトヨタはこうなの。ここにも隠し財源が。中国は他国のEEZ無視か。EUには巧妙だね。減には何かある。社会保障は明日とするか。
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勝手な幻想の利用

2010年12月21日 | 経済
 今の消費を表すのに「節約疲れ」というが最近のキーワードになっているようだ。この言葉が使われるのは、「一時的なもの」という感覚からだろう。しかし、「経済学は心理学にあらず」だ。一時的な気分で消費は動くものではない。心理でなら、どんな解釈も可能になるから、一流のエコノミストは使わない言葉だろう。

 消費の回復は、所得の緩やかな増加によるものである。ここは日経もきちんと指摘している。景気が底入れする時期は、消費がまだら模様になりやすいし、高級品と低級品に分かれるというようなことも起こる。したがって、記事が示すようなことは、懸念材料ではなく、むしろ、回復の印である。

 消費が回復してくると、これに対応して設備投資が出始める。日経の「雲間のぞく」で、手元資金が膨大でも設備投資に火がつかないとするのは、消費の回復はこれからなのだから、当たり前である。ただし、来年度も緊縮財政で今年度以上の所得の吸い上げをする予定であるから、それも鈍りがちだろう。需要の動向を見ながら設備投資をするのが経営の鉄則だからだ。

 国内で緊縮財政を採り、法人税を引き下げれば、企業は益々海外に投資することになる。企業は競争力を得るだろうが、国内の成長にはつながらない。日本が、なぜ、わざわざ国内産業を空洞化させるポリシーミックスを採るのか理解しがたい。政治的にも、経済同友会の代表幹事が「力不足で成長にはつながらない」と断言するものを、年金の減額までする財政難の中で、8000億円もの純減税でするのだから、とても割りに合わない。

 民主党も、自民党も、そして、マスコミや有識者も、「企業を優遇すれば投資してくれるはず」という単純思考にとらわれているのだろう。それを信じていないのは、皮肉にも、企業の経営者だけである。彼らは、確かに「高い法人税では世界で戦えない」と言うが、戦うために海外での投資資金が欲しいだけのことである。日本のリーダーの勝手な幻想を利用しているだけに過ぎない。

 国内に投資してもらいたければ、国内の需要を大事にすることである。企業は、需要のあるところに投資する。それは、国内でも海外でも同じことである。せめて、財政が需要を抜くようなことをしてはいけない。日本のリーダーは、企業のことを、本当の意味で何も分かっていないのだなと、つくづく思う。

(今日の日経)
 富士重、大連に合弁工場。邦銀の国債売却は米国債損失の穴埋め。年金5年ぶり減額。雲間のぞく日本経済、設備投資じわり再開。国際商品在庫軒並み急減。財政難の痛み一気に、ギリシャ、アイルランド。高齢者医療の政府案は孤立無援に。消費者物価伸び率ゼロで調整。子供手当て上積分は国1550億円、地方950億円。超長期国債を増発。Kマキヤマ・医療が非関税障壁、TPPは不可能。Xマスお正月ちょっとリッチ、節約疲れが影響。経済教室・中国経済・黄益平。

※富士重が出る頃には市場は飽和。邦銀が出る頃には市場は反転。これは必要なこと。不況でどうやって返済させるつもりかね。出しても成立しないよ。ゼロなら緊縮財政にすべきではなかろうに。
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財政当局の病理

2010年12月20日 | 経済
 こういう記事で危機感を持つ人は世の中には少ないだろうね。地方交付税を繰越金で確保するというものだ。このポイントは、2兆円を交付税特会の借金返済に充てるという下りだ。これによって経済にはデフレ圧力がかかることになる。

 交付税特会の借入金は、いわゆる「隠れ借金」と言われるもので、経済的には国債で借金するのと変わらない。それを返すというわけだから、国債を2兆円減額して緊縮財政を行うのと同じことである。デフレの状況で2兆円の緊縮をすると言ったら、世間は目を剥くだろうが、そこは日本の財政官僚のすごいところで、分からないように始末してしまう。

 むろん、こうなることは、補正予算を組んだときから分かっていたことであり、10/27のコラムで批判もした。それでも、2か月が経って、1-3四半期のエコポイント反動の需要減が目前となると、なぜ、今、こんなことをして経済の足を引っ張らなければならないのかと、つくづく思う。日本がデフレなのは、デフレになるよう努力しているからに他ならない。

 今回の記事は、財政当局のごまかしのテクニック満載であり、繰越金で「日本復活特別枠」を作るとか、隠し財源がどうやって出てくるか良く分かるものだ。ついでに言うと、公共事業費は、来年度5%削減とするようだが、これも補正で積んだ分を前倒しと見なして、来年度分を減らすというテクニックである。

 マクロ経済で最も重要なのは、需要の管理であり、それが明確に分かるようでなければ、適切な運営などできるものではない。それも、国民にも分かるようでなければダメだ。デフレで苦しむのは国民である。やるのなら、隠れてやらずに、「デフレで苦しくとも、財政再建のために我慢せい」と、堂々と訴えるべきである。

 言うまでもないが、企業の会計原則では明確性が求められる。やり繰り上手で見栄えのよい決算を作るのが得意な経理マンなど無用だろう。そんな経理マンを重宝するようでは、実態にそぐわない判断をしてしまい、早晩、会社を傾けてしまう。日本経済が、なぜ傾いてしまったのかと言えば、それは明らかだろう。

 本コラムでは、経済成長には安定的な需要管理が不可欠であると、ごく常識的なことを訴えてきている。デフレ時に緊縮財政をとるのは、誰が考えても異常だろう。その異常なことがまかり通るのは、なぜなのか。財政当局にとって財政再建は使命であろうが、国民の無知に付け込んで果たそうとするなら、それはもはや病理である。

(今日の日経)
 地方交付税を5年ぶり5000億円削減、2兆円を交付税特会の借金返済へ。ロシア提案で安保理緊急会合。所得改善、薄日消費の持続力に課題。社説・高速無料化はもうやめよ。子ども手当に地方増収分のはずが。安値の国産米の競争力じわり、価格差2000円。現代自に異変、輸入車増。イラン燃料・食糧の補助金削減。重金属浄化コスト1/3に。研究者の育成策は中間層厚く。質量分析で感度100万倍。宇宙基本計画の予算半減。経済教室・地方税制・赤井伸郎。

※ロシアは何か情報を持っているのか。消費が粘ることに日経も気づいたらしい。ムダといったらこれ。地方には甘いね。山下一仁さんの言うとおりだ。今週の日経ビジネスと合わせて読むと面白い、11/17コラムも参照。イランも苦しいね。はやぶさでも半減か。
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善政気取り将来への罪

2010年12月19日 | 経済
 では、菅野さん、どうすれば良いんでしょう? 選挙を恐れて、目先の負担増から逃げようとする政治家をくさすのは簡単だ。しかし、需要不足でデフレ状態にある日本経済に、負担増をかけたらどうなるか、想像したりしないのかね。政治家にあきれるだけで、どうすれば良いかを考えないのでは、政治家と五十歩百歩。まあ、どんなに増税しても、法人減税さえすれば、力強く成長するとでも思っているのかもしれないが。

 もし、筆者が政治権力を持っていて、増税が可能な政治状況にあったとしても、今の状況では、そうした選択はしない。なぜなら、それは経済的に不合理な政策になるからだ。需要を抜いてしまうと、それによる投資の抑制効果は、金融緩和や法人減税による促進効果よりも遥かに強い。菅野さんも、経営者に「需要の見通しが不安でも、低金利と低税率なら、設備投資はしますよね?」と尋ねてみたら良い。自分の経済観を見つめ直す機会になると思う。

 日本の政治家がダメなのは、責任がないときに批判に終始して、自分が経済運営をする立場になったときにどうするか、代案を考えないことにある。どういう経済状況なら、どの程度の増税が可能なのか、財政や税制の改革をどういう順番で進めるのかに想いが及ばず、財政再建などの最終目標だけをお題目のように唱える。これは野党の自民党にも言えることだ。その点、菅野さんは、プランとまでは言わないまでも、イメージくらいは、持っておられるのだろうね?

 将来世代のために、成長を高め、財政を健全にすることが必要なことは、誰でも分かっている話だ。難しいのは、当面の経済状況と、どう折り合いをつけていくかである。申し訳ないが、菅野さんが引いている、一橋大の小黒先生は、御著書を見る限り、そういう整合性を考慮しない方である。似た者同士で共感しているのかもしれないが、学者はそれでも良いとしても、論説には現実感が必要になる。

 2011年度予算案は、今年度補正後より5兆円少なく、税収増を考えれば、GDPの1.5%もの需要削減になる。菅野さんは、これでも御不満なのかな。もし、経済に中立な財政運営にすれば、成長は1.5%以上が上乗せされる。物価上昇率はプラスに変わり、年金のマクロ経済スライドも発動できる。雇用回復から所得が増え、出生率が向上し、企業も国内に投資するようになるだろう。所得が増えれば、負担増も受け入れられるようになる。良循環に変わるわけだ。

 負担増さえすれば、「いまの赤ちゃんたち」のためになると思ってはいけない。そんな単純なことを唱えて「善政を気取って」いては、「将来への罪」を犯すことになる。菅野さんは、日経の論説陣の軸となる存在だ。レベルの低い政治家へのつまらない優越感を捨て、視野の限られる学者を俯瞰できるくらいでなければ、社会の木鐸たり得ない。ちょっと、厳し過ぎましたかな。


(今日の日経)
 資源獲得へ投資協定。企業の保育所参入促す。日中関係良好と思わない88%。カギ握る米は政策全開。けいざい読解・善政気取り将来の罪・菅野幹雄。中国漁船、韓国艇に体当たり。TPP日本農業の心配不要。ロシア経済の変調、外資撤退の動き、人件費と不動産賃料が高騰、3.8%成長。ガス製造・供給を強化。コロンビア治安回復で新興国に。中外・温暖化交渉・滝順一。物価高おびえる中国、切り札は人民元上げ。ナゾ科学・対称性の破れ。読書・穏やかな衰退続く日本経済・福田慎一。

※米の成長見通しからすれば、長期金利が高すぎるとまでは言い切れないが、際どいところまで来た、日本の財政の度胸とは大違い。中国の驕りはここにも。早くもロシアに限界、没落を待とう。コロンビアは隔世の感だ。誰が見ても切り上げが必要。磁区発生は相互作用の興味深い物理現象。衰退の原因を文化にするのはダメ分析。
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