経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

10/31の日経

2019年10月31日 | 今日の日経
 9月の商業動態が公表になり、前回より小さいと言われていた小売業での駆け込みが、意外に大きいことが判明した。3か月前との比較では、前回は+9.6、今回は+9.7である。ただし、今回は7,8月に駆け込みがほとんど見られなかったことから、期差を見ると、前回は+4.4に対し、今回は+3.3と75%程の大きさとなる。前回のような幅広い品目での駆け込みはなくとも、車、家電、化粧品などの高額商品では相当あったと考えられる。当然ながら、大きな反動減も覚悟せねばなるまい。

(図)



(今日までの日経)
 FRBが3連続利下げ 0.25%、先行きの緩和休止示唆。9月の小売販売額9%増 駆け込み需要鮮明。外国人の年金「払い損」見直し 出国時の一時金増額。水道設備、水害リスク露呈。薄氷の首都治水。
※首里城が炎上とはショックだ。復元事業が今年1月に完了したばかりだったというのに。

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世界を歪めたのは経済学なのか

2019年10月27日 | 経済
 森田長太郎さんの『経済学はどのように世界を歪めたか』は、なかなか刺激的で、おもしろく読ませてもらった。主流派経済学の数学偏重の背景や、金融市場を経て金融政策へと影響を及ぼしていく流れは、とても興味深い。そして、日本では、「リフレ」論によって日銀が攻撃の対象となり、政治的に押し切る形で「アベノミクス」という実験が繰り広げられることになる。市場と実務に精通する森田さんが、抽象的理論がそのまま政策になって猛威を振るう違和感を論証した一冊である。

………
 日本における「リフレ」論の功罪は、これから評価されることになろうが、筆者はオールド・ケインジアンなので、最初から、「ヒモで押す」金融緩和は上手く行かないだろうと思っていた。ただし、経験的には、金融緩和が自国通貨安を呼び、輸出を促進して景気を回復させる経路はあるので、そこにだけ注目していた。結局、アベノミクスという実験の成否は、輸出がどのくらいになるかに拠っていたのである。

 輸出は、異次元緩和だけが理由ではないにせよ、円高が是正されたことで、2013年に、落ち込みから脱し、2014年に入ると、世界経済の拡大もあって順調に増えて行った。設備投資も、輸出と並行して伸びて行ったから、「リフレ」は成功したと言えなくもない。他方で、2014年の消費増税によって、消費は、一気に落ちて、低迷するようになり、異次元緩和第二弾も虚しく、2015年に輸出が停滞すると、景気回復は途切れるのである。

 端的に言えば、「リフレ」は、輸出を拡大できる場合に限って有効であり、直接、内需向けの設備投資に働くものではない以上、緊縮財政をカバーできない。近年は、「自国通貨安の輸出拡大で景気回復」とは表立って言えないため、「リフレ」というお題目で行ったまでであり、輸出頼みの「お家芸」を繰り返したように見える。しかも、いつものごとく緊縮をやり過ぎ、内需への波及を塞ぎ、輸出の功を無にするところまで含めて。

 アベノミクスにおいて、政治的に「リフレ」論が重要な役割を果たしたことは間違いない。とは言え、それか難なく政策化されたのは、「お家芸」にマッチしていた側面もあろう。日本の財政当局の「理論」は、財政無効論であり、楽に安く国債を消化するには、日銀にたくさん買ってもらうのは都合が良い。「リフレ」論は、政策を元に戻す難儀を日銀に押し付け、財政を「機動的」すなわち一時的に済ます手段として、大変、役立ったのである。

(図)


………
 日銀は、国債の大量購入などによって、膨大な当座預金を抱えるという難題を背負った。国債の期間も長いため、福井総裁時代と違って、早期の解消ができない。前例のないことであるから、懸念は持たざるを得ない。しかし、それは相対的なものである。アベノミクスにおいて、国債は、市中銀行、郵貯、GPIFから日銀へと移った。マネーを管理する上で、誰が持つのが安定的かということである。

 消費再増税をやってしまったので、景気回復による物価と金利の上昇は遠のいてしまったが、その場合に、市中銀行の融資を抑制するため、準備率や付利をどう設定するかは、政策的にも、実務的にも相当に厄介である。それでも、市中銀行などが国債を持っている場合と比べれば、コントロールし易いようにも思われるし、国債の支払利子が民間に流れず、すぐに政府に還流される有利さもある。

 「リフレ」の弊害とは、そういうものではないだろうか。確かに、長引く超低金利政策は、建設投資の「先食い」をしているかもしれないが、限定的であり、少なくとも「バブル」の様相には至っていない。むしろ、問題は、「先食い」によって、金融緩和は、ますます効力の薄いものになっていることだろう。自国通貨安も、貿易黒字が増すに連れて、不安定になる。こうして、金融政策が完全に効力を失ったときの方が危いことになる。

………
 主流派経済学の欠陥は、利益最大化の原理を信頼し過ぎているところだ。経済の実態を知る者からすれば、経営者は売上げを見て設備投資をしており、金融業や一部の不動産業を別にすれば、インフレ期待どころか、金融政策の行方すら気にしない。「金融緩和をすれば、利益最大化の原理によって、景気が良くなる」という理屈ばかり振りかざさず、実態を説明できる論理を構築してもらいたい。

 金融緩和で増えるのは、輸出と建設投資に限られ、それらの需要に従い、設備投資がなされる。この経路が切れていれば、金融緩和は無効だ。実態は、利益最大化の原理に沿わず、ケインズの説く有効需要の論理に近い。主流派は、ケインズの訴えるリスクを期待値に囲い込んで済まそうとするが、リスクは、期待値の存在しない「ベキ分布」に近く、合理的には取り得ない性質のものだ。今の経済学の歪みはここにあろう。


(今日までの日経)
 5G特需 半導体底入れ。在留外国人、最多282万人。ドラギ総裁 最後の会見 「次は財政の出番」強調。百貨店売上高、9月23%増加 増税前に駆け込み。

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10/23の日経

2019年10月23日 | 今日の日経
 月曜に8月の建設業活動指数が公表され、民間企業の建設投資は、前月に続き低下し、7,8月の平均は4-6月期より-6.3も低い水準となった。民間住宅も同じく-0.9となっている。民間企業の設備投資については、資本財出荷(除く輸送機械)の国内と輸入を合わせた総供給は、同様に-0.8とマイナスになっており、7-9月期の投資の状況は極めて良くない。そして、9月の日銀・実質輸出は、前月比+0.2とほぼ横ばいに終わっている。景気が「悪化」局面にあるのだから、悪いのは当然ではあるが。

(図)



(今日までの日経)
 天皇陛下が即位の礼。対米輸出2ヵ月連続減 9月7.9%減 自動車、不振目立つ。持ち帰り・宅配「中食」急拡大。会社員の年収1%増、利益・配当の伸び率を下回る。

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弱まる物価に紛れる増税

2019年10月20日 | 経済
 10月の政府の月例経済報告では、景気判断が5か月ぶりに引き下げられた。むろん、データは8月までのものに基づいているので、消費増税前にして、既に景気が悪化しているということになる。こういう展開は、今年に入って輸出が崩れた時点で、十分予想できたことだ。むしろ、春の10連休や輸入急減によって、世間的な景気の認識が惑わされ、危機感が醸成されなかったことが恨めしい。

 今回の「月例」のポイントは、生産が「横ばい」から「弱含み」になったことと、物価の上昇テンポが「上昇」から「鈍化」になったことである。いち早く9月データが発表された全国の物価指数では、季節調整値が「総合」、「除く生鮮・エネ」ともに前月比-0.1となった。下図の12か月移動平均と原数値の関係を見ても、鈍化は明らかだろう。鈍化は、「財」にとどまらず、「サービス」にも見られる。

 前回の消費増税の前後では、消費の名目値はあまり変わらず、増税による物価の上昇が実質値の消費を減らすという形だった。今回の消費増税では、ニッセイ研の斎藤太郎さんや第一生命研の新家義貴さんの試算によれば、消費増税による物価指数(除く生鮮)の押し上げは、10月+0.8、11月+0.2の計+1.0である一方、幼児教育無償化の影響が-0.6あるとされており、消費の減少が明確な実質減という形にはならない可能性がある。

 そこへ、物価の基調の弱まりである。消費増税の影響は、ますます紛れ込んでしまう。加えて、台風による「生鮮」の上昇も考えられ、消費者がどのような反応をするのか、具体的には「とにかく名目消費を動かさない」という形になるのかが注目点となる。むろん、そうなったとしても、幼児を抱える世帯が消費を急増させたりしない限り、増税が消費を減退させることに変わりはないわけであるが。

(図)



(今日までの日経)
 中国「20年にGDP倍増」黄信号。景気判断 5か月ぶり下げ。 

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10/17の日経

2019年10月17日 | 今日の日経
 今年もまた大規模水害か。本当に災害が多い。被災地の方々には、心よりお見舞い申し上げる。正直、経済のことを書くような気持ちにはならないのだが、10月は、消費増税に加えて、水害の影響による生産や物価への影響は避けられないだろう。一時のものであってほしいと願うばかりだ。

(図)



(今日までの日経)
 大卒内定9年ぶり減 来春、本社調査。台風、21河川で堤防決壊 東日本の広範囲で氾濫。
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MMTの語らないこと、聞くべきこと

2019年10月13日 | シリーズ経済思想
 L・ランダル・レイ教授の『MMT 現代貨幣理論入門』を読ませてもらったが、肝心なことを語っていないように思うね。MMTは、煎じ詰めれば、「財源には制約がないのだから、失業がある限り財政を使うべし」という考え方になる。肝心なのは、その失業が、なぜ、生じるかである。このメカニズムを明らかにしないから、主流派経済学との議論は、かみ合わないものになっている。

………
 主流派経済学では、失業は存在し得ないものだ。在るにしても短期的である。なぜなら、合理的な経済人は、利益を最大化するよう行動するため、失業者が資本と組み合わされないまま、ムダに放置されたりしないからだ。したがって、金融を緩和し、資本調達のコストを低くすれば、いずれ解消されるはずとなる。財政政策は、タダで使えるものだとしても、そもそも無用だし、弊害だってあるだろうとなるのである。

 MMTが狡猾なのは、財政政策の制約はインフレのみであるとして、失業者の存在を当然の前提に置き、インフレにならないうちは、いくらでも財政が出せるはずと主張するところにある。しかし、失業の原因が何であり、なぜ財政で解消されるのか分からなければ、主流派経済学のやり方で何が悪いという話になる。そこを説明せず、財政はタダだし、失業は弊害に勝るから使えという理屈建てになるのである。

 MMTがJGP(雇用保障プログラム)とセットになっている理由が、初めは判然としなかったが、失業の原因という面倒な論議を回避する仕掛けとみなせば、容易に理解できる。失業があるとJGPが作動し、ないとJGPが空振りになるだけで、あとは、JGPの賃金水準を現実に合わせて調整して行けば良い。最低限の水準であっても、JGPを利用したい人がいることが失業の存在証明となり、存在するなら、タダで財政は使える。 

 おそらく、MMTの最大の問題は、失業者を雇い入れるために財政赤字を出すまでは支障がないにしても、完全雇用に至った後、それまで積み重なった国債が悪さをしないかどうかにある。オールド・ケインジアンなら、完全雇用を超えている時には財政黒字を出し、国債を減らすという理屈づけになるが、MMTがそうでないとすれば、どうやって安定的に管理するかがカギになる。大して実績のないJGPだけが、その仕組みでは心許ない。

 長期金利なんて、ちょっとしたことで舞い上がるから、中央銀行による調節は当然として、制度的な多重防御が必要である。このあたりは、今後、検討が進められるべき部分であろう。本コラムが提案するものとしては、金融資産に占める国債の割合に応じた利子配当課税の税率の引き上げ、物価上昇率に応じた消費増税の発動、社会保険料の引き上げや給付の抑制による公的年金の資産の積み上げなどになる。

………
 ところで、失業の原因は何なのか。景気を動かすものが設備投資である以上、企業が不合理に行動していると考えざるをえない。すなわち、利益を得る機会があるにもかかわらず、設備投資を見送るという「損」なことを、なぜするのかである。設備投資の判断は、時間をかけて理性的になされるもので、行動経済学での反射的な判断とは異なり、そう簡単に設定できるものではない。

 しかし、保険を扱う者にとっては、ごく常識的な事柄だ。顧客は、大きな損害を避けるため、期待値としては「損」になる保険料を喜んで払ってくれるからである。すなわち、需要にリスクがある場合、期待値がプラスの設備投資であっても、万一の大損害を避けようと、利益の機会を敢えて捨てる「小さい損」を選ぶということだ。受容できる損害の大きさには、それぞれの企業ごとに限界がある。

 どんなに大きな損害があろうと、期待値がプラスであれば、長く試行を繰り返すことによって、いずれは取り戻すことができる。そんな利益の機会を捨てるのは、利益最大化の観点からは不合理だ。しかし、生身の人間には寿命があり、経営の時間は限られる。死せるがゆえの不合理にならざるを得ず、理性では正せない。したがって、不死身の政府が需要を安定させ、リスクが不合理な行動を惹起しないようにするしかないのである。

………
 そうした需要の安定は、バブルの崩壊後においては、極めて難しいものがある。バブルによって、建設投資も、設備投資も行き過ぎてしまっており、金融を緩和したところで、伸びて来ないからである。それどころか、通常の成長軌道のトレンドに戻ろうと崩れ出してしまう。これを補うのが財政出動の需要であって、建設投資や設備投資の穴を埋める形になる。こうして、所得が減少して消費までが崩れることを防ぐのである。

 日本のバブル崩壊の場合、投資がトレンドに行き着いて、再び上向くまでに3年かかった。それまでは、投資に消費が入れ替わる形となり、成長は鈍かったものの、消費が増え、生活は向上していった。あとは、経済を支えた財政赤字を徐々に減らしていけば良いだけだったのである。ところが、急速に増えた財政赤字に過剰に反応し、需要ショックをもたらす一気の緊縮を1997年の消費増税の際にやってしまう。

 結果は、バブル崩壊後に一切の財政出動をしなかったようなショック症状を時間差で惹き起こすことになった。こうした財政赤字への過剰反応による早過ぎる撤退の失敗は、大恐慌後のルーズベルト不況という例もあったし、リーマンショック後の対応でも繰り返されることになる。財政赤字の膨張が急であったたけに、元に戻したいという焦りも強烈になりがちである。こういう無理が長期停滞の原因なのである。

………
 今となっては、国債のGDP比率なんて、気に病むような絶対的なものではないと分かっている。MMTを学ぶ最大のメリットは、「誰かの借金は、誰かの貯蓄」という会計的な恒等式を改めて認識させられることだろう。財政赤字を一気に削減するなら、投資か、輸出か、消費かが一気に増えなければ、バランスが崩れて、縮小均衡に向かう。それらの貯蓄を使うものの動きがゆっくりなら、国の借金も緩やかに減らすしかないのである。

 逆に、投資、輸出、消費の動きが鈍ければ、MMTが言うように、大きな財政赤字であってもあまり心配はない。それらの動きは、物価上昇や金利水準に映るわけだから、ディスインフレや超低金利であるうちは、財政再建の必要性は薄い。主流派経済学が「暗黙の前提」にしている「借金を減らせば、金利が下がり、投資などが自動的に増える」という粗過ぎる図式から脱し、現実の調整スピードを見極めることが肝要である。

 財政学者が金科玉条とする債務の無限大への発散も、これ自体を恐れるのは愚かで、そのスピードが重要であり、性急なプライマリーバランスの実現が自明なわけではない。しかも、利子課税などを強化して、金利が上がったら金融資産からの税収が増える仕組みを作れば、発散の制圧も可能だ。金融資産が国債残高の4倍なら、税率を逆数の25%に設定しておけば、金利が上がっても、利払いは税収増で賄えることになる。

………
 現代の金融の仕組みにおいて、独自の通貨を保持する政府は、際限なく歳出を用意できるし、決済を分担する銀行は、際限なく貸出ができる。これは、歳出ために税収が必須ではなく、貸出のために預金集めが不可欠ではないという意味においてである。現実に、どこまで歳出や貸出を増やして良いかは、金融そのものではなく、それによって実際に動かされる実物の量で決まる。

 問題は、歳出や貸出といったマネーと実物の供給力の比率がどのくらいであるのが適当かであり、それは経済の状況や構造で変わるということである。グローバル企業が法人税を出し惜しみ、タックスヘブンに溜め入れ、金融経済の中で囲い込んでしまうと、財政赤字を膨らませて、実物を利用できるようにしなければ、実物経済の中で必要なマネーが不足してしまう。財政赤字は、実物に使わない企業の不合理な行動の反映であって、実物に比してマネーが膨張するとしても、「必要悪」ないし「次善の策」と言えよう。MMTは、こうした現実を呼び覚ましてくれるのである。


(今日までの日経)
 消費増税、家電・日用品に反動減。介護 利用者の選択広く。機械受注減少の公算 7-9月、非製造業に弱さ。北朝鮮 核の脅威一線越す・秋田浩之。

(図) 


 
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10/9の日経

2019年10月09日 | 今日の日経
 昨日公表された9月景気ウォッチャー調査は、「現状」の季節調整値が2か月連続のプラスとなったものの、増税前の駆け込み需要によるもので、「先行き」は、3か月連続の下げである。やはり、問題なのは、上げた「現状」の中でも、駆け込みと関係の薄い「雇用関連」は3か月連続で下げていることだ。このあたりが景気の現状を物語る。駆け込みも業態別にみると、家電と百貨店に限られ、むしろ、既に下げているところが多い。むろん、増税後は、全業態において一段の下げとなろう。

(図)



(今日までの日経)
 なぜいま年金増額か・真相。景気指数、8月は「悪化」に。出生数90万人割れへ。デジタル課税の税収 OECDが新案。財政赤字拡大容認論を問う・Oブランシャール・田代毅。
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アベノミクス・景気「悪化」で増税へ突撃

2019年10月06日 | 経済(主なもの)
 8月の鉱工業生産の前月比が-1.2となり、週明けに公表される景気動向指数の基調判断が再び「悪化」に転じることは、ほぼ確実となった。景気が悪化する中で、増税に突撃するという、非常に拙い展開である。輸出減による生産の縮小から始まった景気後退は、設備投資の停滞に至り、雇用にも及んでいる。普通なら、顔色が変わって対応に焦る状況なのだが、偶然の要素に誤魔化され、すぐに復旧できるとばかり、危機感が薄いのが一番問題だ。

………
 8月の鉱工業生産の前月比-1.2は、7月が+1.3であったから、一進一退となる。そして、9月の生産予想は+1.9であるため、7-9月期の前期比は-0.5とマイナスに終わりそうである。鉱工業生産は1-3月期に-2.6と大きく落ち込み、4-6月期に+0.7とやや戻していたが、再びの低水準だ。この水準は、消費増税が延期された2017年の春頃と同じであり、これまで輸出に恵まれて積み上げた分を全て失った形である。

 内容も思わしくない。資本財生産(除く輸送機械)は、9月予測を含む7-9月期の前期比が-0.4、建設財生産も、同様に-0.2の見通しで、これでは、既に4-6月期GDPで弱まっていた設備投資は、増税前の7-9月期にしてマイナスへ転落すると考えざるを得ない。資本財は、1-3月期の極端な落ち込みからの若干の戻しがあり、建設投資は、企業が今年前半に急増させた波動と公共の2018年の抑制からの復元があって堅調だったが、それらは過ぎ去りつつある。

 消費財に至っては、前期に引き続いてのマイナスになりそうで、増税前の駆け込みすら見られない。他方、8月の商業動態の小売業は、前月比+4.8と跳ねたものの、7,8月の平均は4-6月期を+0.1上回るにとどまり、ほとんど伸びていない。さすがに、9月は増税前の駆け込みで上ブレしようが、消費の基調は、この程度である。そこに消費増税を持って来ようというのだから、常軌を逸している。

 9月の消費者態度指数は35.6と、増税前だというのに、前回増税直後の最悪値を突き破るに至った。とりわけ拙いのは、消費増税への不安が間接的であるはずの「雇用環境」の意識まで、アベノミクスで最悪になったことだ。不安を反映して、消費性向も最低レベルに落ちており、「増税をすると将来に安心して消費を増やす」という増税派の大好きな説は、単なる願望でしかないことが分かる。

 実態として、景気の悪化は雇用に及んでいる。前回指摘したように、新規求人数は低下を続けており、もちろん、それは製造業で著しい。加えて、サービス業でも減少が見られ、非製造業が必ずしも堅調なわけではない。もはや、求人を支えているのは医療・福祉のみであり、建設も少ないながらプラスを保つくらいである。これでは、就業者数が伸びるはずがなく、消費も鈍ることになる。

(図)


………
 消費税を上げてしまうと、消費が一段低下するだけでなく、そこから伸びないようにもなる。賃金が増えても、税や社会保険料で、すぐさま4割方が抜かれるから、消費や物価へ波及しなくなるのは当然で、ディスインフレの経済構造が作られているのだ。成長の原動力である設備投資は、消費需要に向けてなされるものだから、消費を伸ばさないようにすることは、「成長させない構造改革」を成し遂げたのと同じである。

 都合よく設備投資だけを伸ばそうとしても、その過剰さは経済を不安定にするだけである。加えて、輸出頼みになりがちで、極端な金融緩和で自国通貨安にし、無理に保とうとするが、貿易黒字が蓄積されると、経済的にも政治的にも、揺り戻しは避けられない。緊縮財政に拘り、消費を抑圧して、国民を絶対に豊かにさせず、必ず税で取り上げるという経済運営を繰り返している国の末路は、こうしたものだ。

 「日本化」は世界的な論議になっているが、消費叩きの緊縮が信念になっているのか、緊縮下の金融緩和で儲けるのかで、動機に違いはあれど、やってることは一緒だ。今後、日本では、躊躇なく景気対策が取られるにしても、消費を抑圧したまま、産業政策的なバラまきをするのは目に見えている。しかも、消費が伸びて来ないために、なかなかやめられず、増税を強いたのに財政再建も進まない。「成長とは消費を伸ばすこと」と分かるのは、いつの日なのか。


(今日までの日経)
 駆け込み 動いた消費者 紙製品2.5倍。働く高齢者 年金減額縮小 月収62万円まで全額支給。消費者心理 最低水準に。

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10/2の日経

2019年10月02日 | 今日の日経
 今週、次々公表されている8月の指標は、景気の悪化ぶりを示すものばかりだ。そんな中、新規求人倍率は前月比+0.11となったが、新規求職者数の大きな減による。前年同月比で見た求人数は低下を続けており、特に、製造業で著しい。加えて、サービス業でも減少が見られ、非製造業が必ずしも堅調なわけではない。求人を支えているのは医療・福祉のみであり、建設も少ないながらプラスを保つ程度だ。これでは、就業者数が伸びるはずがなく、消費も鈍ることになる。まだ、増税前の数字なのであるが。

(図)



(今日までの日経)
 景気、停滞感強まる 日銀短観 増税後の内需を警戒。GPIF、外債投資拡大へ マイナス金利で国債運用難。前代未聞の将来像 東京戦略 出生率2.07。

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