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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・ゼロ成長状態からの転換点となるか

2016年10月30日 | 経済(主なもの)
 9月の貿易統計や家計調査などからすると、日本経済は、年率2%成長に乗ったかもしれない。世間的には意外な高さだと思う。7-9月期は、輸出の戻りを中心とした成長、10-12月期は、消費の伸長を中心とした成長が期待される。7-9月期GDPが公表される前から、10-12月期を語るのは早すぎるきらいはあるが、転換点の予想は、難しい反面、貴重でもあるので、あえて指摘しておく。

………
 9月の日銀・実質輸出入は、輸出が前月比+1.0と順調に伸び、7-9月の平均は前期比+0.7となった。他方、輸入は前期比+0.6と、これを下回るから、外需はGDPのプラス寄与となる。ニッセイ研の斎藤太郎さんの試算によれば、7-9月期の外需の寄与度は、前期比0.4程度になるようだ。あとは、内需で0.1程度を確保できれば、7-9月期は年率2%の成長になるわけで、その可能性は十分に高い。

 もっとも、外需は、4-6月期に寄与度-0.3と落ち込んでいたため、これを取り戻す部分が大きく、ありがた味は薄いかもしれない。それでも、4-6月期のプラス成長に続き、2%成長を確保できることの意味は小さくない。GDPは、2015年1-3月期から1年半もゼロ成長状態にあり、ようやく、ここから脱する形となるからだ。そして、次の10-12月期も2%成長となれば、今期が景気の転換点となる。

 10-12月期、それも消費の伸長に期待するのは、雇用や賃金の向上に比して、7-9月の消費が伸び悩んでいるからだ。この4か月程、家計調査の消費性向は異様に低いが、こういうことは長くは続かず、回帰するものである。7-9月期のGDPの消費は、消費総合指数からすると、横バイにとどまるだろうが、高まらないだけ、今後、消費が伸長する潜在力が蓄えられているとも言える。それが10-12月期に現れても、まったく不思議ではない。

 9月の家計調査では、二人世帯の実質消費支出(除く住居等)が、8月の落ち込みを経て、7月の水準に少し足りない程度に、消費水準指数が7月をやや上回る程度に、V字回復した。これからすると、9月の内閣府・消費総合指数、日銀・消費活動指数とも、7月並みに戻るだろう。そうすると、総合指数から導き出される7-9月期のGDPの消費は横バイとなる。他方、活動指数は、8月の落ちが浅いゆえ、前期比+0.8になる。これを10-12月期の潜在力と見る。

(図)



………
 雇用については、9月の労働力調査は、雇用者数が前月比+18万人と着実に増加している。この3か月、男性の雇用者数が低めであったが、9月に+17万人となり、増加トレンドに戻ったことは心強い。消費低迷や性向低下は、天気や将来不安のせいにされたりしているが、このあたりが影響を与えていたのかもしれない。消費を訝しがるときは、まず、一時的なブレ、次いで、雇用の量と質、そして、物価を探るべきである。

 景気の先行指標となる新規求人倍率は、9月の全体が+0.07の2.09倍、除くパートが+0.09の1.81倍、パートが+0.03の2.77倍となった。急加速とは行かなかったものの、需給の引き締まりは着実に強まっている。求人数に目を移すと、7月に対前年同月の増加数が大きく減っていたが、8,9月は持ち直している。ここにも、夏場の陰りは見られるのであり、天気ばかりが変調だったわけではない。

 あとは、11/7の9月毎月勤労統計を待つばかりだ。常用雇用×実質賃金のトレンドは、1-3月期が前期比+0.7、4-6月期が+0.9となっており、7-9月期は、更に加速する可能性が高い。つまり、消費の潜在力は強まっているということだ。なお、常用雇用×総労働時間は、このところ頭打ちになっており、フルの求人増と合わせ、パートの労働時間の制約が成長のネックになっているのではないかと、気になるところである。

………
 そんな折、小泉進次郎議員の率いる自民党の小委員会は、社会保険料を軽減することで、非正規を含む「勤労者皆保険」の実現を打ち出したらしい。将来の低年金者を減らすため、2020年と言わず、早期に実現してほしいものだ。財源と雇用主負担を気にしているようだが、マクロ経済スライドを使えば、加入者全体で負担できるので、基本的に財源は不要だし、軽減で保険料の壁をなくせぱ、労働時間の調整が容易になるため、見返りに解雇規制を緩和するまでもない。ここまで本質を見抜いて議論を進められるかが実現のカギになろう。

 なお、シュレーダー改革になぞらえているようだが、ドイツ経済を復調させたのは、ユーロ導入を背景にした輸出の急伸である。むろん、改革も生産力強化に貢献はしているが、外需なしで、社会保障の圧縮だけをしていたら、デフレ圧力で悲惨な結果になっていただろう。改革で経済を再生できると、ストレートに考えるのは危うい。景気の原動力である設備や人材への投資は、需要に導かれるのであって、痛みをもって低い労働コストを提供したとしても、改革で需要が減る状況では、見向きもされないからである。


(今週の日経)
 米、2.9%成長に改善 7~9月年率 2年ぶり高水準。円高警戒ひとまず後退 3カ月ぶり105円台。物価2%さらに遠のく。単身世帯、3分の1超す 国勢調査、若い男性や高齢女性。電子部品 日本勢、「質勝負」に影。小泉進次郎世代が描く「人生100年時代」の改革。
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消費が動くとき・昔と今

2016年10月23日 | 経済
 10/17に消費総合指数がようやく更新され、8月は前月比-1.2の大幅減だった。ここまで落ちるとは思わなかったよ。結果として、7,8月平均は、前期比-0.1であり、9月がV字で戻しても、7-9月期の消費は前期比で若干のプラスにとどまる。「一気に景気回復の様相」には、なかなか行かないね。いずれにせよ、今週金曜には、9月の結果も出てくる。

………
 消費はフラついたが、生産活動は順調に伸びている。10/19発表の8月全産業活動指数は、前月に続き上昇し、7,8月の平均は前期比+0.5となった。10-12月期の前期比-0.1から、1-3月期+0.1、4-6月期+0.3と歩んできたので、徐々に加速していることが分かる。なかでも、景気の牽引役である住宅、公共、輸出の動きは、もっと明確で、三つを合成した指数を下図で示すと、この3か月の回復ぶりは顕著だ。消費も7月は良かったので、8月の不調は残念であった。

 9月については、景気ウォッチャーが季節調整値で+0.3になったものの、企業動向関連や雇用関連が押し上げており、家計動向関連は足を引っ張っている。また、消費動向調査では、消費者態度指数が8月の+0.7に続いて、9月も+1.0と着実に改善したが、雇用が牽引している面がある。つまり、ここでも、生産活動は順調であっても、消費への波及は、まだ弱いと言える。

 雇用を見ると、10/21に毎月勤労統計の8月確報が出て、現金給与総額が0.1上方修正され、常用雇用は変更なしだった。8月の現金給与総額は、消費と同様に、季調値が7月より大きく低下してはいるが、前月の伸びを無にするほどではない。家計調査でも、勤労者世帯の実質実収入は堅調である。そうしてみると、消費総合指数の前月の伸びの2倍以上もの落ち込みは、フレ過ぎのように思われる。

(図)



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 さて、総括的検証がされて以来、金融政策の限界が言われるが、皮肉にも、景気は、今年2月頃の住宅・公共・輸出の需要の底入れを契機として、緩慢ながらも回復している。経済は、金融でなく、需要で動くという常識的なメカニズムである。需要で動く以上、相互作用から連鎖反応が起こり、いわゆるティピングポイントが観測できるのではないかと、すこし期待しているところだ。

 そうなると1987-88年以来だから、実に30年ぶりとなる。景気回復の芽を摘むような財政が繰り返されて来たので、もはや、生きているうちには拝めないと諦めていた。これが、2度も消費増税が延期されるという得がたい時間によって、実現するかもしれない。もっとも、昔とは違い、家計調査の対象世帯は、半分が60歳以上、1/3が無職世帯であり、雇用者は増えている反面で、自営業などの趨勢的な減少もあって、どうしても動きは鈍くなる。

 加えて、雇用から消費への間には、8%の消費税と28%の社会保険料という「制御棒」のようなバリアがある。日銀の資金循環を見ると、税収は頭打ちになったけれども、社会保障基金の「黒字」は更に拡大中だ。なればこそ、「130万円の壁」をスロープにする軽減策がほしい。就業調整で半分が保険料逃れをするのなら、全体で50%の軽減策を取っても、失うものはないはずである。まあ、そうしたトータルで見た合理的な手を打てないところが、実に日本らしいのではあるが。


(今週の日経)
 国立大学、交付金減り「産」へ走る。脳はベイジアンネット。不動産、離れる海外勢 売越額最大。中国大都市「バブル」懸念 地方政府が購入制限策。日経平均、半年ぶり高値。原油高、資源国経済支える。バイト時給1000円時代 9月、人手不足で初の大台。10年納付で年金、成立へ。訪日客消費2.9%減。自社株買い、最高の4.3兆円。公共工事の集中緩和 仮契約導入。北方領土に共同統治案。
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乱流にある米中日のリアリズム

2016年10月16日 | 経済
 日本のように自国語で豊富な国際ニュースを読めるのは、決して当たり前ではなく、これは全国紙の大きな社会的役割の一つである。100年前、初の政党内閣を実現し、対米協調を確立した宰相原敬は、大阪毎日新聞社長として、国際報道の充実にも力を注いでいる。傑出したリアリストとして、当然の所作だったが、国の将来を誤らぬためには、良質な国際報道と論説は不可欠である。前著で米中日の外交の内実に迫った日経の秋田浩之編集委員が『乱流』を上梓したのだから、これは読まずばなるまい。

………
 『乱流』の1~3章では、米中のせめぎ合いが描かれる。世界第2の経済大国に躍進した中国は、軍備増強に励み、東シナ海と南シナ海を勢力圏にすべく、周辺諸国への圧迫を始める。オバマ政権は、話し合いによって協調体制を築こうとするものの、首脳同士でも解決できないことを悟り、対立路線へと変わっていく。そして、4章で、対抗上、米国が日本との関係を強めようとする姿、5章で、米国の反発に、一旦は軟化する中国の姿が描かれる。その上で、残る6,7章で今後のシナリオが考察される。

 21世紀の中国を考える際には、実は、戦前の日本の経験が役立つ。第一次大戦後、高成長を背景に五大国の一つとなった日本は、原敬の指導の下、シベリア撤兵を進め、中国への干渉をやめ、対米協調路線を取り、ついには、軍備管理を受け入れるまでになった。それは、別段、原敬が平和主義者だったからではなく、国益を守る上で、現実的であったからである。しかし、それは崩れるのも早かった。政党政治は、浜口内閣の緊縮財政による恐慌で民心を失い、手っ取り早く対外戦争で景気を良くする強硬路線に屈してしまうのである。

 そうしてみると、中国に対する基本戦略は、国際協調に具体的利益があることを示しつつ、強硬路線では、それを損なうのみならず、無意味になると明らかにすることだろう。例えば、自由貿易圏へのアクセスや通貨安定へのサポートは、安全保障上の緊張緩和を条件にするといったものだ。逆に、中国は、国内の経済的利権が欲しければ、強硬路線を甘受せよという戦略で来るので、一致して、これに乘らないようにしなければならない。こういう枠組で眺めると、物事が整理され、評価が楽になると思う。

………
 日米同盟がなすべきは、中国が与えるものに釣られず、南シナ海の聖域化のような譲れない対象を明らかにすることだ。また、周辺国に対しては、経済的に中国に頼る必要をなくし、選択の自由を確保してやらなければならない。むろん、中国は、その裏返しの戦略となる。「核心的利益」を強調するのは、そのためである。我々にとってのそれが何かを改めて考える必要があろう。

 軍事的に、今の中国がしていることは、オホーツク海を戦略原潜の聖域として米国へ対抗した旧ソ連の戦略によく似ている。重い経済負担と引き換えに実行されたが、同盟国の日本が大規模な対潜能力の整備に乗り出したために無力化され、国力を疲弊させるだけに終わった。したがって、中国に対しても、軍備増強は、対抗策を生むだけで、骨折り損になることを事前に悟ってもらわなければならない。そうして、軍部の国内での発言力を殺いでいくのである。

 おそらく、日本は、米国に軍備増強を求められるだろう。まずは、空軍力と海軍力だ。また、中距離ミサイル対策に必要となる米軍のアクセスポイントの増加だろう。次の段階としては、敵基地への攻撃能力となる巡行ミサイルの配備になる。こうした構想を示しつつ、粘り強く軍備管理を呼びかけていくべきだ。その先の核戦力については、米国から提供を受けることが考えられるものの、かえって、核抑止力を弱めかねない心配がある。

………
 中国の台頭は、一面で、日本の没落でもある。もし、日本が米国並みに成長し、1990年代後半の対米1/2の水準を維持できていれば、米中日の構図は、違ったものになっていた。いまや、日本は対米1/4であり、対中4割でしかない。せめて、フランス並みに成長し、GDPが実際より15%大きかったなら、周辺国支援や安全保障で取り得る余地は、かなり広いものになっていたはずだ。

 その意味でも、まず日本が取り組むべきは、経済の立て直しである。殊に、輸出に頼らず、内需で好循環を実現し、成長していけることを世界に示さなければならない。こうしたモデルのリーダーとなって、拡大する市場を提供していくことが、迂遠なようで、アジアの平和と繁栄に貢献するだろう。国際協調を利益あるものにし、強硬路線を無意味にしていくには、それがリアリズムというものである。

(図)



(今週の日経)
 大卒内定6年連続増 来春2.8%。雇用保険料の負担軽減を・諮問会議。機械受注、増加の公算 7~9月。補正、はや「3次」の声。街角景気3カ月ぶり悪化。都心の割高感で敬遠・REIT。賞を日本の技術で・レノボ。科学研究がITで変貌。洞察力は学びの素直さ・Gバーニソン。

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彼我を分けた20年の歳月

2016年10月09日 | 経済
 1990年代半ば、少子化の底にあったフランスは、保育などを充実させ、出生率が2.00人を超えるまでになっている。同時期にオランダは、労働時間の長短の差別禁止に踏み切り、今では賃金格差が極めて小さい。日本は、1997年の度外れた緊縮財政でデフレに転落し、無益な構造改革に血道を上げてきたために、深刻な社会問題を未だに抱えたままである。節度を欠いた財政再建至上主義は、ここまで彼我を分けてしまった。

………
 先日、『給食費未納』(鳫咲子著)という新書を読ませてもらったが、正直、愕然とした。子供の貧困が深刻化し、学校給食で栄養補給を保障しなければならない時代へと逆戻りしているのである。敗戦から1997年までの、「経済成長を実現し、福祉国家を建設する」という日本人の営々たる努力は何だったのか。その頃までに、「欠食児童」など、死語となっていたものだった。

 新書では、給食費の未納は、他の公課より少なく、子供が窮地にあるサインとして受け取るべきこと、就学援助の利用を親身になって促すことが重要なこと、困窮者に限らず誰もが利用できる制度の大切さなどが指摘されている。そして、韓国では既に無料化が実現しているのに、日本では、経済財政諮問会議で必要性が議論されるにとどまるとする。我々の遅れぶりは、欧州と比べてというだけではない。

 昨年の最大の政策テーマである「一億総活躍」では、待機児童解消のために、保育士の処遇改善が焦点だったが、結局、見送られ、後で強い批判を受けて、措置せざるを得なくなる事態に追い込まれた。また、今年のテーマの「働き方改革」では、「103万円の壁」解消の切り札となる「夫婦控除」の導入は、早くも頓挫したようである。その最大の要因は、財源の問題で、要は、財政再建の方が何より優先されているわけだ。

 その一方、補正予算では、そのとき限りのバラマキが毎年3~4兆円もなされる。つまり、本予算で絞り過ぎ、景気を停滞させ、補正でテコ入れすることが常態化している。それくらいなら、待機児童対策でも、働き方改革でも、本予算で初めから措置し、その分だけ、計画的に補正を減らせば良い。本当は財源がないのではなく、場当たり的で、硬直した予算編成の慣行を変えられないから、成長も、財政再建もできず、社会も劣化しているのである。

………
 社会保険においても、被用者保険の適用拡大で、一切、保険料を負けないというのは硬直的過ぎると思う。例えば、専業主婦が130万円を超えた場合、健康保険で保険料を減免しても、制度全体では、まったく負担にならない。既に夫の負担で健康保険を利用しているからだ。もし、保険料を取るなら、その分、夫の保険料を軽くできるようになる。

 また、母子家庭の母の場合は、国保で保険料を納めているので、本人には、130万円の壁自体がなく、むしろ、負担の半分が事業者に移って軽くなる。その事業者負担を軽減することは、母子家庭の母の就業促進に補助金を出すのと同じである。これは出し得ないものなのか。しかも、多くの母子家庭の母は、少しでも多く働き、軽減のレンジを超える年収を得ようと頑張るはずである。

 厚生年金に関しては、保険料を軽減すると、保険料に見合わない受給権を付与することになるので、年金財政は悪化する。その分は、マクロ経済スライドをかけて、全体の給付水準を下げることで調整し、長期的に均衡を取り戻すことになる。つまり、低所得者や女性の年金を手厚くするように、全体のパイの切り分け方を変えるということだ。負担増というより、再分配なのである。

 それどころか、これをする方が全員にとっても有利とさえ言える。今のまま放置しても、低年金の者は生活保護など別の手段で救わざるを得ず、そちらで負担を求められるからだ。弱者を見捨てる非情さがないのなら、低所得者を迎え入れ、130万円の壁を超えて、精一杯、働いてもらう方が、パイが大きくなって、結局は得になる。それは、若者の所得を底上げし、出生率を向上させ、年金に大きく貢献する可能性もある。

………
 さて、今週は、日銀の9月短観があり、結果は横ばいであった。不思議なのは、現状や見通しについては弱気なのに、更に人手は不足すると思っているところだ。円高による物価安で、名目は伸び悩んでも、実質では成長しているからかもしれない。いずれにせよ、中堅中小の景況感が堅調なこともあり、人手不足→賃金高→消費増→売上増の展開を通じ、徐々に矛盾は解かれていくだろう。

 折しも、9月の消費動向調査は、消費者態度指数が2か月連続の上昇となり、消費増税後の最高値を記録した。中でも、雇用環境は、前月比+1.7と、2か月連続で大幅に回復した。また、8月の毎月勤労統計も、常用雇用が前月比+0.3と着実に積み上げている。実質賃金は、前月の急伸の反動で大きく下がったものの、賃金×雇用で見れば、上昇トレンドを着実に歩んでいる。

 8月の景気動向指数も、一致指数が前月比-0.1と、ほぼ横ばいだったことから、第一生命研の新家義貴さんによれば、10月分で基調判断が「改善」に上方修正される可能性が十分あるようだ。むろん、先行指数は、2月頃を底に、揺れつつも、緩やかな回復傾向を示している。これは、先週のコラムで取り上げた家計調査や商業動態とも軌を一にする。景気の課題は、いかに労働供給を促し、消費を加速させるかに移って来ている。

(図)



………
 財政再建は重要だし、保険原理も大切だ。しかし、それらは成長があってこそである。日本は、1990年代前半までは、成長率でフランスを大きくリードしていたが、1990年代後半以降は、フランスが上回るようになり、成長率の差の累積は15%にもなる。少子化対策だけでなく、成長政策でも、財政再建至上主義の日本がいかに稚拙だったかが分かる。ここには、少子化対策という労働供給の促進策がフランスの成長を支えた面もあろう。

 20年遅れで、日本は、フランスやオランダが既に解決した課題に取り組む。それも、財源論に足を取られ、未だ思うような手を打てない。しかも、本当に財源がないのではなく、本予算と補正を連結し、計画的に調整することもできないという、「しょうもない」理由で、長期的に広く利益をもたらす政策を埒外にしている。まあ、その程度の国だからこそ、体たらくも当然ではあるのだが。


(今週の日経)
 米雇用15.6万人増に鈍化。魅力山盛り!学校給食。夫婦控除 解散風に散る。NY原油、50ドル台に上昇。経済教室・同一労働同一賃金の論点(下) オランダ、労使合意で推進・権丈英子。中国、不動産バブル警戒。ノーベル賞に大隅氏。もたつく景気 長引く 9月日銀短観。英、3月末までにEU離脱通告。
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アベノミクス・これから起こること

2016年10月02日 | 経済(主なもの)
 8月の鉱工業指数の結果は良好で、概況判断も上方修正された。これにより、多くのエコノミストが景気回復局面にあるという見方をするようになると思われる。まあ、本コラムでは、かなり前から指摘していた話ではあるが。それでは、今後、どのような展開になるのか。日本経済が1997年の消費増税でデフレの泥沼にはまってから20年にもなるので、景気回復の過程なんて覚えがないという人がほとんどだろう。

………
 金融緩和をすれば、設備投資が盛んになり、景気が回復するというのは、机上の空論で、異次元緩和の失敗も、基本的な理由は、そこにある。実際の経営者は、金利より、需要リスクに強く支配されているため、消費増税で需要を抜いたりすれば、景気が低迷するのも当然だ。ここにきて、景気が持ち直しているのは、追加的需要の輸出、公共、住宅が底入れし、需要が安定してきたことによる。

 こうした需要の安定があって初めて、金融緩和は意味を持つ。追加的需要を起点に、投資増→所得増→消費増→投資増と回転し、景気は次第に加速していく。この段階で、経営者はどういう行動をするかというと、利益「率」より利益「量」を取りに来る。すなわち、儲けより成長を志向するようになる。いわば、バイトの時給を上げてでも、頭数を確保し、売上げを伸ばそうとするのだ。

 誰しも、考えることは同じなので、そのうち、人材や設備の投資競争が始まる。成長する経済では、投資は生産性向上に結び付くので、遅れると、市場から追い払われかねず、利益なき繁忙になろうと、負けるわけにはいかない。ITなど新興市場でのアグレッシブな企業行動を考えれば、想像がつくと思う。むろん、デフレ経済では構図が逆になる。普通の経営者は、一に顧客、二にライバルで、金融政策など気にしてない。

………
 8月の職業紹介状況は、注目のパートの新規求人倍率が前月比+0.07の2.74倍となった。着実に上乗せしてきたと言えよう。パートの新規求人数は、7月に陰りが見られたが、8月の前年同月比3.2万人増と復調した。内訳は、医療・福祉が1/3、卸小売+飲食宿泊が1/3となっている。また、8月の労働力調査の就業者数は、前月比-12万人であったが、6,7月が高水準だったことからすれば、十分な内容である。

 一方、8月の家計調査では、勤労者世帯の実質実収入が前月比+0.5と、順調に増加している。この分だと、7-9月期は、消費増税直前の水準を取り戻せるかもしれない。ここで、「消費も良好」といきたいが、8月は大幅減のイレギュラーな動きを見せた。世帯人員と世帯主年齢を調整した消費水準指数では、さほどの減でなく、商業動態も同様なことから、消費「総合」指数の公表を待ちたい。

 そして、8月の鉱工業指数は、生産が+1.4となり、9,10月の見通しも+2.2,+1.2と好調だ。これで、7-9月期の生産は、高めのプラスが期待できる。なお、建設財出荷が停滞気味なのは、少し気になる。8月は、住宅着工が前月比で大きく低下し、相続税対策の貸家の減は少ないものの、分譲住宅の減が大きかった。消費増税前の駆け込みを当て込んだものが剥落してきたのかもしれず、要注意である。

(図)



………
 先週のNHKスペシャル「縮小ニッポンの衝撃」が大きな反響を呼んだようだが、今後、人口減少は加速し、あと数年で年間50万人を超すようになる。「団塊ジュニアが30代のうちに少子化対策を」と訴えてきたが、理解を得られぬまま、既に手遅れとなり、移民でも埋め切れないほどの人口崩壊社会がやってくる。将来を見越しての対応は、かくも難しい。

 足元でも、早く130万円の壁を取り除いて、能力を生かせるようにしなければ、蓄積の乏しさから、将来、経済の停滞や貧困を招くことになる。しかし、日経ビジネスO.L.『10月から改定、壊れるか?パート130万円の壁』(9/30)で、野村浩子さんが指摘するように、上手くいっていないようだ。おそらく、少子化対策と同じ運命にあると思われる。

 130万円の壁は、段階的に保険料を課すようにすれば解決できる。それに必要な費用は、成長に伴う効果で社会保険内で賄える可能性もあるし、そこまで行けなくとも、高年金者から低年金者への再分配が起こるだけで、財政や国民の負担が増すものではない。結局、「保険料は負けられない」というイデオロギーを変えるのに、長いながい時間が必要なのだ。景気回復によるパート不足が、これを短くしてくれることを祈るのみである。


(今週の日経)
 金融緩和なぜ効かぬ? 成長力低下刺激伝わりにくく。日銀、国債買い入れ減額 長期金利低下に対応。社会保険の適用拡大 流通、パート確保策急ぐ 保険料負担で時短も。アパート建設 空室率悪化で泣くオーナー。黒田総裁、こだわった「2%超」。給付型奨学金 7.8万人、成績3.5以上。外国人労働者受け入れ 介護や建設、政府検討。
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