「戦艦」と聞けば、映画『戦艦ポチョムキン』や日本が降伏文書に署名した戦艦ミズーリ、日本製では戦艦大和などが頭に浮かぶが、2016年10月上旬の衆院予算委員会で、稲田朋美防衛省が突如、中国の戦艦を尖閣周辺の海域に出現させた。
10月4日の朝日新聞朝刊掲載の政治短信は以下の通り。
【防衛相答弁】
後藤氏 稲田朋美防衛相は昨日、「中国の戦艦が尖閣に入ってきた」と答弁したが、間違っている。
稲田防衛相 正確には、尖閣の接続水域であったことは補足する。私の答弁で強調したかったのは、初めて中国の戦艦が入ってきたということだ。
後藤氏 防衛省発表では「艦艇」「艦船」という言い方をしている。言葉の選び方を慎重に。
戦艦はいわゆる大艦巨砲主義の時代の遺物で、第2次大戦後その非効率と脆弱さを理由に世界の軍備リストから消えていった。最後まで戦艦とよばれるタイプの軍艦を使っていたのはアメリカ合衆国で、ベトナム戦争や湾岸戦争で沖合から艦砲射撃をした。現在、アメリカ海軍の「戦艦」とよばれた軍艦はすべてが退役し、各地で博物館になっている。日本が降伏文書に調印した戦艦ミズーリはハワイのパールハーバーで博物館として保存されている。
そういうわけで、ミサイルが大砲にとってかわったいまの時代、我々がいわゆる「戦艦」と聞いて思い浮かべるタイプの戦闘艦を保有している国は、世界中探しても見つからない。
戦艦の定義は①戦争に用いる船。戦船。軍艦②特に、第2次世界大戦まで海上兵力の中心であった大型の軍艦の1つ。大口径砲を搭載し、攻撃力、防御力ともに最もすぐれ、艦隊指揮艦となった、と『精選版 日本国語大辞典』にある。
日常の雑談、講演会での漫談スピーチ、右寄り路線を売りにするメディアでの放談などでは、前記①の定義でよろしいが、国会の委員会質疑となればやはり精緻な用語法に心がけるべきだ。でないと、諸外国から―――仲の良い国からも、仲の良くない国からも―――日本ではあの程度の人物が防衛の要にいるのかと、用心され、馬鹿にされてしまう。稲田防衛相の存在そのものが、日本の防衛の脆弱性の象徴になる。
(2016.10.8 花崎泰雄)