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news commentary

しばし小休止

2023-12-23 17:08:04 | 社会

明日24日にはオーブンでローストチキンをつくり、31日に鴨南蛮そばで年越しをする。真似事のようなおせち料理を食べ、本も読まず、言葉も発せず、口はものを食べるときだけに使い、しばしの小休止を楽しむ。「諸縁を放捨し、万事を休息して善悪を思わず、是非を管すること莫れ」といったのは道元だが、ウクライナの戦場にいる兵士や住民、ガザの兵士や戦闘員や住民、パーティー券のキックバックをめぐって胸騒ぎがしている議員や議員秘書、彼らを追っかけている検察とプレスはそうもいかないだろう。それ以外の方々には適宜小休止をお勧めする。

(2023.12.23 花崎泰雄)

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性悪説

2023-12-16 22:51:29 | 政治

人間の本性は悪である。その悪い性を改善できるのは教育だ。むかし中国の荀子がそんなことを言っていた。

日本で国政に携わる国会議員の多くが、勉強をしたかどうか定かではないが、ともあれ大学を卒業している。自民党派閥の政治資金パーティー券売上金キックバックなどの行為はよくないことだと知っていながら、ついついその種の金に手を出してしまうのは、彼らの本性が悪いからだ。と同時に、これらの人びとの性根を教育で矯正することはできなかった。ロッキード事件、リクルート事件など過去に恥ずかしいスキャンダルがあったが、彼らがこれらの政治スキャンダルを教材にして政治倫理を学ぶことはなかった。

東京地検特捜部が国会閉会を機に、パーティー券にかかわった議員から任意で事情聴取を始めた。捜査が順調に運び、パーティー券スキャンダルにかかわった議員を起訴し、有罪に持ち込み、公民権停止まで持っていけるか。検察の評価がかかる展開が週明けから始まる。

自民党や野党の対応を注意深く眺めつつ、できるだけ多くの議員に対して公民権停止の判決が出るよう有権者としては、怒りの視線を政界に向けることになる。

ただし、ぼんやりと検察の捜査を眺めるのではなく、政治資金をめぐる法規制を、性悪の議員たちが逸脱できないような厳しいものに変える作業を国会に求めなければならない。まずは政治資金の使い道に徹底的に領収証の添付を義務付けそれを公開することだ。やや、これはきつい。議員稼業は子どもには継がせたくない仕事になってしまった、と現役国会議員がぼやくまでに規制をかければ、日本の政治がまともになるきっかけになるだろう。金を潤滑油に使う政治よりも、清潔第一の政治をしばらくの間やってみるのも悪くはない。

(2023.12.16 花崎泰雄)

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熊手であぶく銭

2023-12-10 16:50:37 | 政治

11月の浅草・鷲神社の酉の市は熊手。熊手でお金をかき集められますようにという縁起ものである。新年10日の大阪・夷神社の十日えびすの縁起物は福笹――商売繁盛笹もってこい。

商売をする人が縁起と実利を願って自民党派閥のパーティー券を買った。派閥の国会議員が派閥の割り当てで政治資金パーティー券を売った。ノルマを超えたぶんはピンハネ――洋風にいえばキックバック、少し品のいい日本語表現では「還流」――を享受した。むかし収入増を目論んでローマ・カトリックの教皇庁が免罪符を売り、その悪辣な手口への批判がプロテスタント教会の誕生につながった。

12月10日の朝日新聞一面に松野官房長官、西村経済産業相、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長の安倍派五人衆の面々の顔写真が並んだ。だが、世間がこれを忘れたころにはこれら5人衆は叙勲の対象者にもなるのだろう。のどかな国柄である。

政治の目標は「善」であるが、「何が善か」は人によって異なるとアリストテレスが『二コマコス倫理学』(岩波文庫)でいっている。世上一般の最も低俗な人々が解する善や幸福は「快楽」である。アリストテレスは快楽追求を善とする生活を畜獣的・奴隷的人間の暮らしと言った。他方、「政治的」生活者が追求するのは他者から己の優越性を求められる名誉である。だがこれもまた「善」とは違うものであると、アリストテレスは言う。

「パンとサーカス」状態をうまくつくり、統治しやすい国民を育成するのが統治の仕事と考える国があったし、今もある。統治者はそれによって権力者の優越性を求める。その地位を永続化させるために、非統治者に向けて快楽的社会を維持しようとする。

12月11日月曜日からのパー券スキャンダルの展開観覧を楽しみに、日曜日の御託はこのくらいにしておこう。

(2023.12.10 花崎泰雄)

 

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師走の黄昏

2023-12-02 22:25:07 | 国際

日本時間で12月1日、ガザで戦闘が再開した。人道的戦闘中止は1週間ほどで終わり、その先の延長交渉に失敗した。天井のない監獄のガザが、塀の中の瓦礫置き場と墓地になる日が近づいてくる。

ハマスがイスラエルにロケット弾を撃ち込み、戦闘員がイスラエルから人質をガザに連れて帰ったことが発端だった。イスラエルはガザ地区北部を空爆し、地上部隊を送り込んでハマスの戦闘司令部を探した。だが、地下トンネルは空っぽ。攻撃された病院では入院患者や嬰児、避難してきた住民らが死んだ。攻撃の理由だった病院地下の司令部については、その存在をイスラエル軍は世界に示すことができなかった。

ベトナム戦争を思い出す。米軍は戦略村、索敵殲滅、ボディー・カウント、カンボジア侵攻などなど珍奇な戦術を尽くしたが、結局のところ、中国と折り合いをつけて、ベトナムから敗退するしかなかった。ベトナム南部の農村で暮らす人びとを、南政府側の農民、南ベトナム民族解放戦争のシンパの農民、北ベトナムから潜りこんでいる兵士に分別するのは難しかった。手をやいた米軍は農民の集落を焼き、時に住民を殺し、ベトナムの森林に枯葉剤を撒いた。

米中国交やベトナム和平の協議で活躍(または暗躍)したヘンリー・キッシンジャー氏が11月29日死去した。享年100歳。米国がその軍事力を背景に、ベトナム、カンボジア、チリと世界の出来事に介入し、反ソ連の旗を掲げる米国の利益をめざして外交を繰り広げることができた時代だった。ジョゼフ・ナイ・ハーバード大学名誉教授はForeign Affairsのために書いた追悼文 “Judging Henry Kissinger: Did the Ends Justify Means?” に、ボストンで開かれたキッシンジャーを囲む会の会場で、聴衆の一人がキッシンジャーに向かって “war criminal” と叫ぶ声を聴いたと書いている。かつてキッシンジャー氏が大統領補佐官になるために、ハーバード大学を去ってワシントンDCに向かったとき、学生たちが「もう帰ってこないで」と書いたパネルを抱えて見送った、という記事を新聞で読んだ記憶がある。とはいえ、ナイ氏のキッシンジャー外交の評価は、キッシンジャー外交のモラルの逸脱と彼が成就した世界の平和をはかりにかけると、功績の方が多かったとした。ドイツ出身の国際政治学者キッシンジャー氏も、ハンス・モーゲンソー氏もナショナル・インタレストの追及が外交の目的であるとするリアリストだった。2人ともドナルド・トランプ氏風の “America First” の思考を、国際政治学のレトリックを用いて、ちょっと上品に説明した。

日本駐留の米軍のオスプレイが11月29日に屋久島沖に墜落した。新聞報道によると日本政府は米国にオスプレイの飛行中止を正式に要請したが、米国防総省は公式の中止要請は受けていないと発表した。墜落したオスプレイの捜索のために沖縄からオスプレイが飛来し、奄美空港に着陸、燃料を補給して現場近くの海に向かった。日米地位協定第5条によって、米軍の航空機や船は入港料や着陸料なしで日本の港や飛行場を利用できることになっている。

日本政府は日本の14の空港と24の港湾を自衛隊など(つまりは米軍も)が使いやすいようにするために設備を改良する計画をしている(11月27日朝日新聞朝刊)。有事の際の部隊展開などのための施設の強化が目的で、滑走路を延ばし、海底を浚渫して空港・港湾の民間と軍の共用を進めるという。中国と台湾の関係が緊張する中で、日本の安全保障の「南西シフト」にそって、九州から沖縄にかけての空港や港湾が共用化の候補にあがっている。朝日新聞によると、38施設のうち約7割の28施設(14空港、14港湾)が該当する。同紙は「ジュネーブ条約上、自衛隊と民間会社が共用する空港や港湾を敵国が攻撃しても、敵国は条約違反に問われない。民間人を『人の盾』にしたとして、日本側の戦争犯罪が問われる恐れがある」という専門家の見方を紹介している。自民党の安全保障信仰がもたらした錯覚だ。もし中国の台湾武力侵攻が始まったら、戦いが日本に波及するだろうという「台湾有事は日本有事」説があり、南西シフトによる空港・港湾の民軍共用は攻撃する側にとっては便利なエクスキューズになる。自民党は政権の座に長居しすぎて、議員の才覚の縮小再生産が進んでしまった。

加えて、自民党の派閥、特に安倍派が政治パーティー券の売りあげで裏金を作り出しているとの新聞報道があった。暮れのボーナス時の話題になっている。パーティー券販売ノルマを超えた分の金額のキックバック、あるいはノルマを超えた分を売り上げた議員があらかじめ天引きし、ノルマ分だけを派閥におさめるなどの裏金作りの手口が報道されている。東京地検特捜部が調査を始めているそうだ。闘争心が希薄になってきている野党だが、ここは奮起の時である。

(2023.12.2 花崎泰雄)

 

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