Podium

news commentary

白い気球

2023-02-10 01:07:48 | 国際

米国モンタナ州のミサイル基地上空あたりに出現した白い気球のニュースは最近ではめったにない滑稽な話であった。

アメリカでは中国が放ったスパイ気球とみなされた。中国は民間の観測気球がコースをそれたと説明した。

その気球が大西洋に出たとき、米軍はすぐさま最新鋭の戦闘機を飛ばし、ミサイルで気球を撃ち落とした。いま気球の残骸を海から回収し、気球の正体について調査を始めている。

アメリカではモンタナ上空でミサイル関連の電波情報を収集していたという説が出された。上空に気球を浮かべて電子情報を収集するというのはのんびりしたはなしではないか。いやいや、気球に小型核爆弾を忍ばせ、米国上空で運任せに核爆弾を投下することもできるのだぞという脅かしだろうという説も唱えられた。対米戦争中に日本軍が米国に向けて放った風船爆弾の例がある。

気球が運搬する核爆弾という想像には背筋が凍る。核爆弾がどこに落ちるかは運まかせなのだから。

半世紀ほど前、米ソ冷戦真っ盛りのころ、核兵器は地球上につるされた「ダモクレスの剣」だというたとえが国際関係や核戦略の専門家によって唱えられた。ダモクレスの剣は細い糸1本でつるされており、いつ糸か切れてあなたの頭上に落下してくるかもしれない。

白い気球が海上に出るやいなや、それを撃ち落としたアメリカ人にはそのような不吉な記憶があったのであろう。

以上、笑い話ではあるが、これを機にアメリカの軍事・安全保障関係者が「対中核戦略」の練り直しに熱をあげるようになる可能性がある。となると、さしずめ日本もその尻馬に乗って軍備増強をいっそう加速させることになる。笑い事ではあるが、笑っているうちに気が滅入ってくる。

 

(2023.2.10 花崎泰雄)

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする