Podium

news commentary

積極的平和主義

2013-09-28 16:12:39 | Weblog

積極的平和主義とは何だろう――「積極的平和主義」は、安倍晋三・日本国首相が最近出かけたアメリカ合衆国のあちこちで口にした言葉だ。

この言葉のわかりにくさは、平和の定義がはっきりしないことだけが原因ではない。たとえば、『国際政治経済辞典』(東京書籍)は、戦争がないだけでなく、社会が、繁栄、調和、自由、民主、福祉などに満ちた状態を「積極的平和」と定義している。だが、日本国首相の言う「積極的平和主義」は、どうもこれとは違うものらしい。

米国保守派シンクタンクのハドソン研究所でのスピーチで、日本国首相は次のように言った(日英両文とも首相官邸サイトから引用)。

みなさま、私は、私の愛する国を積極的平和主義の国にしようと、決意しています。

I am determined, ladies and gentlemen, to make my beloved country a "Proactive Contributor to Peace."

日本国首相は積極的平和主義をProactive Contributor to Peaceと英語で説明した。「積極的」にあたる言葉が、おそらく “proactive” なのであろう。それでは、proactiveは activeやpositiveと、どう違うのだろうか。

Webster の辞書はproactiveを “acting in anticipation of future problems or needs”と説明している。Oxfordの辞書は “Of a person, policy, etc.: that creates or controls a situation by taking the initiative or by anticipating events (as opp. to responding to them); also loosely, innovative, tending to make things happen”としている。さらに、同辞書は次のような用例をあげている。

1980 W. Safire in N.Y. Times Mag. 2 Mar. 9/2 Webster says he has been forced to choose between ‘reactive’ law enforcement—responding after a bank has been robbed—and ‘pro-active’ enforcement, in which his men are in on the planning stages of a crime.

この用例はニューヨーク・タイムズ紙の言葉に関するコラムを担当していた保守派の論客ウィリアム・サファイアの文章で、銀行強盗が起きたのち法を執行するのがreactive (作用に反応しての反作用)で、犯罪行為を予測してのその計画中に介入するのがproactiveな法の執行だという定義である。

そうすると、積極的平和主義=proactive contributor to peaceとは、平和かく乱の気配を感じ次第、先制的に平和維持行動に出る態度のことになる。

日本国首相はハドソン研究所の講演で聴衆に次のように約束した(英日両文とも首相官邸サイトから)。

I am determined, ladies and gentlemen, to make my beloved country a "Proactive Contributor to Peace." I am now aware, that my historical role should be to revitalize the nation and encourage the people to be more forthcoming, thereby leading them to become a proud bearer of the banner, the banner for a Proactive Contributor to Peace.

みなさま、私は、私の愛する国を積極的平和主義の国にしようと、決意しています。いまや私にはわかりました。私に与えられた歴史的使命とは、まずは日本に再び活力を与えること、日本人に、もっと前向きになるよう励ますこと、そうすることによって、積極的平和主義のための旗の、誇らしい担い手となるよう、促していくことなのだと思います。

日本国首相は同じスピーチの中で、

まとめとして言うならば、日本という国は、米国が主たる役割を務める地域的、そしてグローバルな安全保障の枠組みにおいて、鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない、ということです。日本は、世界の中で最も成熟した民主主義国の一つなのだから、世界の厚生と安全保障に、ネット(差し引き)の貢献者でなくてはならない、ということです。日本は、そういう国になります。日本は、地域の、そして世界の平和と安定に、いままでにも増してより積極的に、貢献していく国になります。

Now to sum up, Japan should not be the weak link in the regional and global security framework where the U.S. plays a leading role. Japan is one of the world's most mature democracies. Thus, we must be a net contributor to the provision of the world's welfare and security. And we will. Japan will contribute to the peace and stability of the region and the world even more proactively than before.

したがって、積極的平和主義とは、軍事・安全保障問題を念頭に置いて、米国を平和の構築者と考え、米軍を世界の平和維持軍であるとみなし、日本は米国の随伴者にふさわしい安全保障政策を作り上げ、そのことを日本国民に周知徹底させると公言したわけだ。

さて、米国はこれまでどのような平和の構築者・維持者だったのだろうか。

2003年のイラク攻撃開始にあたって、ブッシュ大統領はこう演説した。

Our nation enters this conflict reluctantly, yet our purpose is sure. The people of the United States and our friends and allies will not live at the mercy of an outlaw regime that threatens the peace with weapons of mass murder.

だが、大量殺りく兵器は見つからなかった。

米国のベトナム介入とベトナム戦争の前夜、アイゼンハウアー大統領が有名なドミノ理論を披歴している。

You have a row of dominoes set up, you knock over the first one, and what will happen to the last one is a certainty that it will go over very quickly.... This would lead to disintegration in Southeast Asia....the loss of Indochina, of Burma, of Thailand, of the Peninsula, and Indonesia following.

アジアにおける共産主義のドミノ倒し理論は、のちにケネディ政権、ジョンソン政権によるベトナム介入の理論的根拠になった。冷戦期の米国流proactive pacifismだが、これが大いなる錯誤であったことは歴史を読み直せば一目瞭然だ。

米国も平和に関しては信用しきれない国である。にもかかわらず、日本国首相は米国の随伴者として、かの国の世界戦略のお先棒を担ごうと約束した。

日本国首相のいう積極的平和主義の「平和」とは、どうやらPax Americanaのことらしい。たいそうな約束をしたものである。

(2013.9.28 花崎泰雄)


コメント
この記事をはてなブックマークに追加