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news commentary

グレート・グレート・ウォール

2017-01-28 01:26:22 | Weblog
万里の長城は宇宙からでも視認することができる。地球上最大の構造物だ。その長さは渤海湾から嘉峪関まで、3000キロ近くにわたる。この長城は明時代に築かれた。

外敵の侵入を防ぐために中国は戦国時代から壁を築いた。これらの古い時代の壁をベースにして、秦時代に北方遊牧民の侵入を防ぐための本格的な城壁が築かれた。

前漢・後漢、隋、唐、明と、唐の時代をのぞいて長城は補強・拡張された。唐王朝は城壁にさほど関心を持たなかった。唐王朝は周辺の遊牧異民族に対して守りの姿勢でなく、積極的な攻勢に出た。

中国の王朝は古代から明の時代まで外部からの異民族侵入を防ぐために万里の長城を営々として補強・拡張してきた。しかし、歴代の王朝が外部異民族に対して城壁の建設費・修復費を支払うよう求めた記録は残っていない。

朝鮮半島は、いわゆる38度線で分断されている。韓国と北朝鮮の南北双方はそれぞれDMZ(非武装地帯)に沿って、鉄条網や高圧電流を流したフェンスを設け、その外には地雷原を敷設している。韓国が北朝鮮に対して、北朝鮮が韓国に対して、それらの費用を支払うよう求めたという記録は、ない。

1961年から1989年まで、東ドイツの領域の中で孤島化していた連合国管理地域・西ベルリンと東ドイツの境に、約160キロにわたってベルリンの壁が築かれていた。東ドイツの政治・経済体制に絶望した東ドイツ市民が西ドイツに逃亡するのを防ぐのが目的で、東ドイツ政府が壁を築いた。逃げてきた東ドイツ市民で西ベルリンが人口過密になるのを防ごうと、西ベルリン当局が壁を築いたわけでない。西ベルリン市民は同胞の脱出を助け、歓迎した。東ドイツ政府が西ベルリン当局に対して、壁の建築費用の弁済を求めたという記録も、また、ない。

ドイツを目指す難民の流入を防ごうと、ハンガリー政府が国境に100キロ以上にわたって鉄条網を二重に張った。鉄条には鋭い刃がついている。難民を流出させた国々の政府に対して、ハンガリー政府がその支払いを求めたというニュースも見聞きした記憶がない。

アメリカのトランプ政権発足に勢いを得て、イスラエルはパレスチナのイスラエル入植地を拡張しようとしている。イスラエルはヨルダン川西岸地区のパレスチナ境界に分離壁を構築中だ。計画では総延長700キロほど。堀、有刺鉄線、電気柵、壁で構成されている。パレスチナからのテロリスト侵入を防ぐことを目的としている。だが、イスラエルがパレスチナ自治政府にその費用の弁済を求めたというニュースは聞いたことがない。余談になるが、旧約聖書には、ユダヤ民族を拒んだイェリコ(ジェリコ)の壁を、ラッパを吹いて崩したという伝承が収められている。それから長い長い時を経て、ユダヤ民族が真逆のことをやっている。

トランプ・新米大統領がアメリカ・メキシコ国境に壁をつくってメキシコ人の侵入を防ぎ、その費用をメキシコ政府に負担させると、人の褌で相撲を取るような虫のいい要求を、素面でふっかけている。

(2017.1.27  花崎泰雄)


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少女に翻弄される日韓関係

2017-01-08 23:35:02 | Weblog


慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意の韓国側の不履行に抗議して1月7日、日本政府が長嶺駐韓大使らに一時帰国命令を出した。日本の公館の威厳を侵害する慰安婦問題の象徴である少女像を韓国政府がいまだに撤去しないでいるのは合意違反であり、ウィーン条約22条の「公館の威厳の侵害を防止する」責務をはたしていない、とパク大統領が職務停止になり、韓国の政治の混乱している最中に、日本政府がこぶしを振り上げて見せたのである。

翌8日、日本大使は9日に日本に帰るが、ソウル不在期間は1週間程度と日韓の外交筋がみているというニュースがソウルから伝えられた。2012年8月に当時のイ韓国大統領が竹島(韓国名・独島)に上陸したさい、日本政府は武藤駐韓大使を12日間一時帰国させた。慰安婦問題は日本政府にとって竹島上陸問題ほどは深刻でないから、こんどの日本大使の一時帰国期間は前回よりも短い、と見通したてているそうである。

安倍政権が釜山の総領事館前の少女像設置を契機に対韓強硬路線に踏み切ったのは、政権の支持基盤への政治的ゼスチャーであり、外交上のメンツを重んじたからである。日韓関係決裂も辞せず、との勇ましいポーズのかげで、日韓の裏方が慎重に筋書きを相談している様子が垣間見える。

2015年12月28日、日本の岸田外務大臣と韓国のユン外交部長官は、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と発表した。日本側は①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する②韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出する、ことなどを表明した。韓国側は、韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する、と述べた。

ソウルの日本大使館前、プサンの日本総領事館前におかれた、慰安婦問題の象徴としての少女像が日本国政府の尊厳を侵害するのであれば、韓国の元慰安婦やその支援をする人々にとって、慰安婦像は人間としての尊厳を踏みにじられた悲しみと怒りの象徴である。ソウルの日本大使館前におかれた少女像は無許可で設置された物だが、行政当局は市民の反発を恐れて強制撤去ができない。プサンの場合は、一度当局が強制撤去したが、市民から反発と苦情が出て、改めて市当局が設置を認めた経緯がある。

安倍総理大臣は8日、NHKの「日曜討論」で、北方領土問題について「北方四島に住むロシア人の人々が理解を示さなければ北方領土は返ってこないという現実に向き合わなければならない」と話した。それと同じで、韓国の人が少女像はもういらないと思うようになるまで、少女像はなくならないだろう。

日本政府が、なぜこの時期に対韓強硬姿勢をとったのかも、よくわからない。2015年の日韓合意のさい、1年以内に撤去するよう努める、という裏約束でもあったのだろうか。プサンの道路管理者が少女像の設置を認めた件が怒りのひきがねになったのだろうか。

パク大統領に代わる新しい韓国大統領が選出されるのは時間の問題である。今回の日本政府の強気の姿勢が、次の韓国政権にどんな影響を与えるか――安倍政権は当然のことながらそのあたりは読んでいることだろう。今回の日本政府の出方によって、次の韓国の政権が少女像の撤去し、それによって日韓関係が円滑に進むようになるか、少なくとも、マイナスの効果はないと踏んでいるのだろう。だが、外交には読み違えがつきものだ。

まもなく米国でトランプ政権が発足する。何をやり出すのか予測不能である。上司が部下にあたると、部下がその配偶者にあたり、配偶者が子にあたり、その子が猫を蹴飛ばす、というジョークもあることだ。米国が日本や韓国を攻撃すると、日本国民の鬱屈感を韓国への攻撃で晴らし、韓国は韓国で民の鬱屈を日本攻撃で晴らす、というパターンが増え、日韓関係が少女像をめぐって混迷を深める可能性がある。

(2017.1.8 花崎泰雄)

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老子

2017-01-06 00:33:11 | Weblog


『老子』(中央公論版『世界の名著』)にこんな話が載っている。

兵器があっても使わせないようにし、人民に生命を大事にさせ、遠くへ移住することがないようにさせれば、船や車があってもそれに乗るまでもなく、武器があったところでそれらを並べてみせる機会もない。世の中を太古の時代にもどし、粗末であっても食物や衣服を、もうまい、着心地が良いと思わせ、住まいに落ち着かせ、素朴な習慣の生活を楽しく過ごすようにさせる。そうなれば、隣国がすぐ見えるところにあって、鶏や犬の鳴く声が聞こえるほど近くにあっても、人民は老いて死ぬまで他国の人と互いに往来することもないであろう。

ごもっともな説であるが、肝心のどのようにして人民にそう思わせるか、が書かれていない。

現在では、兵器があると軍人はそれを使いたくなる。兵器には昔の「村正」のような妖気が漂う。アメリカの兵隊は朝鮮半島、湾岸、パキスタン、イラクと命がけで戦い、アメリカの企業は安い人件費を求めて工場を途上国に移し、本国の産業を空洞化させた。その空洞化が進む国に、仕事を求める人々が押しかけて安い賃金で働く。そういう流入外国人を締め出そうとする動きが欧米で強まっている。日本は昔から外国人の流入を嫌った。独立・解放記念日には、兵隊がおもちゃの兵隊のようにパレードし、ミサイル兵器が行進して隣国を脅そうとする国がある。食道楽・着道楽は豊かな社会の虚飾であって、高い金を払って膝小僧の破れたジーンズのパンツを買ってはく人がいる。

アメリカの企業も日本の企業も、安い労働力を求めて途上国に生産拠点を移すことで金儲けをはかった。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。中国人民は昔のクーリーのように働き、中国を世界第2位のGDPを誇る経済大国に育てた。経済大国中国が軍事大国に変貌した。中国はウクライナから買い取った空母を改造・完成させて、太平洋で演習してあたりを威嚇した。

米国の次期大統領はフォード社に圧力をかけて、メキシコでの工場新設をやめさせた。謝金をもっと払わないと、日本やNATOから米軍を撤退させると選挙期間中に脅し文句を並べた。

NATOも日本駐留米軍ももともと、米国の息のかかった地域を共産主義勢力から守り、ひいては米国の安全を保障する政策から始まったものだ。米国人が国境を越えて投資してきたのも第一義的には彼らの金儲けのためであった。

それがいまでは米国が与えた恩恵のように米国人は考えるようになった。米国人は貧しくなったのだから、自由貿易など縮小し、兵隊も工場も本国へ呼び戻せ、という議論が勢いづいている。ところがどっこい、米国の一人当たりGDPは、リーマンショック後の2009年を例外として順調に右上がりで推移している。米国内での富の分配の方程式が変わり、格差が広がって貧困層が増え、窮乏感が強まっただけである。

今月20日に就任するトランプ大統領が何をやろうとしているのか、あるいは何をやればよいのか分かっていないのか――そこのところもよくわからない。ただ、次期大統領が指名した政権幹部は、権威主義的性向の人物、狂犬とあだ名された将軍など武闘派の元軍人たち、ウォール・ストリートの成功者が目立つ。おそらく、落ち着きのない政権発足になるだろう。

にもかかわらず、もっか株高である。

(2017.1.5 花崎泰雄)
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 お年玉 

2017-01-01 00:29:37 | Weblog

2016年の12月、BBCを見ていたら、同局の編集幹部・イアン・カッツによる米誌『ニューヨーカー』の編集長、デイヴィッド・レムニックのインタビュー番組を流していていた。ドナルド・トランプが米大統領選挙で勝利したことがなぜアメリカの悲劇なのか、がテーマである。

「アメリカの悲劇」はセオドア・ドライザーのフィクション An American Tragedyをふまえているのだが、直接的には、ヒラリー・クリントンの敗北とトランプの勝利をうけて、デイヴィッド・レムニックが同誌に書いたエッセイ “An American Tragedy” (2016年11月9日)が英国をはじめ欧州で話題になったことによる。

インタビューそのものはBBCのサイトで見ることができる。その内容はさておき、レムニックがそのエッセイの中で、次期大統領に対して激しい罵りの言葉を浴びせているので、そのところに触れておこう。

レムニックはエッセイの冒頭で、トランプの当選はアメリカ国民にとっての悲劇、憲政の悲劇であり、国内外における粗暴な力、移民排斥主義、権威主義政治、女性不信、人種差別主義の勝利である、と書き、さらにトランプの大統領就任は合衆国とリベラル・デモクラシーの歴史における胸糞の悪い出来事であるとたたみかけた。2017年1月20日には高潔で、威厳と寛容の精神に富んだ、初のアフリカ系アメリカ大統領に別れを告げる。代わりにペテン師の就任を目の当たりにするのである。レムニックはそう書いた。

輝かしい光が消えてどす黒い闇がとって代わるのだと、レムニックは言うのである。去りゆくものは常に美しく、来たるものは醜悪に見える――新しい年の始めに、鬼が失笑するような昨年の話を持ちだした理由は、レムニックが書いたトランプの勝利の背景である「粗暴な力、移民排斥主義、権威主義政治、女性不信、人種差別主義」に加えて、米国にとっては耐え難い「ロシアによる米大統領選挙への干渉」の疑いが浮上したからである。KGB育ちのプーチンの仕業であることをオバマはにおわせた。

年末ぎりぎりになって、オバマ大統領はロシア外交官の退去などの報復措置を――米紙報道によると、遅まきながら――とった。

諜報機関が陰謀を使って他国の内政に干渉するのはことさら珍しいことではない。驚いてみせる人はカマトトである。かえりみれば米国もチリのアジェンデ政権崩壊に一役買ったほか、中南米のあちこちで陰謀を企みた。インドネシアではスカルノ政権崩壊に関与し、ベトナムではゴ・ジンジェム政権転覆・殺害のクーデタにくみした。日本では児玉誉士夫や岸信介をCIAのエージェントにして戦後日本の反共・保守政治の路線形成をはかった。これらはスパイ小説のお話ではなく、れっきとした公文書にもとづくノンフィクションに書かれていることである。

だからと言って、オバマは米大統領としてロシアの振る舞いをそのまま見過ごすわけにはいかず、ロシアに対して報復措置をとったのだ。だが不思議なことに、プーチン・ロシア大統領はラブロフ外務大臣の進言にも関わらず、当然とるべき外交上の対抗措置をとらなかった。ウクライナからクリミアをもぎ取ってロシアに併合し、シリアのアサドを救って中東の橋頭保を強化し、次のアメリカ大統領に唾をつけているプーチンとしては、金持ちケンカせずの気分なのだろう。この一件でトランプ次期米大統領はうかつにも「プーチン大統領はスマートだ」と感想を述べてしまった。これでプーチン・トランプ密約へと噂話の花が咲く。

共和党のライアン下院議長はオバマ大統領の措置を妥当だと評価し、同じ党のマケイン上院議員はロシアのハッキングは戦争行為に等しいとして、さらに厳しい追加の報復措置をとるべきだと表明した。

トランプ政権と連邦議会の溝を深刻化させる狙いのオバマの時限爆弾付き置き土産はトランプへのお年玉である。『ニューヨーク・タイムズ』は12月29日の社説で “In less than a month, Mr. Trump will have to decide if he stands with his democratic allies on Capitol Hill or his authoritarian friend in the Kremlin.” と書いた。

連邦議会とともに立つのか? クレムリンを選ぶか? そういう風に新聞に問い詰められる合衆国大統領就任予定者をこれまで見聞きしたことがあるか?

(2017.1.1 花崎泰雄)
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