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news commentary

85万の人口減

2023-01-25 18:57:53 | 政治

中国の人口は2022年末で14億1175万だった。2021年末と比べると85万の減少である。

中国の人口減少は1961年以来、61年ぶりのことだ。国連などの予測では2023年中にはインドが世界最大の人口を持つ国になる。

1960年と1961年の人口減原因は毛沢東の「大躍進」政策が作り出した餓死である。餓死者の数は正確にはわからない。1000万以上5000万未満と推定されている。

2022年の人口減の理由は、ひとことでいえば一人っ子政策の結果だ。人口の急上昇を抑えるために1970年末に一人っ子政策を始めた。その政策が少子高齢化社会へとつながり、今世紀に入ってから一人っ子政策をやめた。政策はやめたが、出生数は回復しなかった。

人口はその国の経済力の基盤であり、経済力は軍事力の基盤である。国家の経済力や軍事力の大小がそこで暮らす人間の営みにおいて、彼らの幸福度とどの程度関連しているかについてはいちがいにはいえない。様々な見方がある。

一方で、国を代表して他国とわたりあう政治指導層にとっては、国家が単位となって構成する国際関係にあっては、経済力と軍事力がその国の影響力の源となり、そのベースとなる人口は一般国民とは異なって、権力エリートの自負心や生きがい、幸福度に関係する。

日本では1月23日に通常国会が開会した。首相の岸田文雄は施政方針演説で、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と強調した。日本の少子化は社会機能維持の瀬戸際にあり、「出生率を反転させなければならない」と演説した。

日本の少子化は今に始まったことではない。30年も前の1990年代初めから少子化は労働力の不足に繋がり、高齢化は社会福祉費の増大を招くと問題になってきた。政治家も官僚も財界もメディアも社会も、それは問題だと発言した。だが、少子化は食い止めるべき問題なのか、それとも少子化の先の社会を構想すべきなのかについて議論は深まらず、人口を増やすべきだという方向に流れた。とはいうものの、では何をするのか対策を煮つめるでもなく、事実上この30年間にわたって、少子化問題を他人事のように傍観し続けてきた。

岸田首相は異次元の少子化対策を語るが、その対策に必要な財源をどうねん出するのかについては具体的な方法を語ることができない。どうやら日本の政治家たちには、国債を発行し続ける以外に方法を思いつく才覚がないらしい。

通常国会の重い問題の一つである防衛費の増額についても声高に語ることはできるが、こちらも財源については増税なのか、国債なのか、予算のやりくりなのか、いっこうに話がまとまらない。ありていにいえば、日本政府にはお金がないのだ。国庫に金がないまま防衛予算を増額すれば、あとはその他の支出を減らすしかない。さしずめ社会保障費だろう。

国際環境の急激な変化に対応するための防衛費増と日本政府は言っている。だが、それは突然やってきた激変ではなかった。中国の軍事大国化の意思は空母「遼寧」を就役させ、海軍力を整え始めた十数年前からわかっていたことである。

安全保障環境の激変とは、これも前から予想されたことだが、米ソ冷戦終結後の米国による一国世界支配維持の経費に米国の経済力が耐えられなくなった点である。これもまた、トランプ前大統領がNATO諸国や日本などに防衛費の増額を声高に要求していたことからよく知られた事実だった。

米国からの防衛費増額要求に耐えきれなくなった日本政府が、安全保障環境の激変を理由に太平洋における米国の権益維持に金を出すことにしたのだ。敵基地攻撃能力をふくむ防衛構想はその実現にかかる費用の論議よりも、まず第一に憲法の精神と関わる問題なのだが、憲法より日米同盟を重くみる政府は、まず、米国に誠意を見せ、そのあとで、日本の国民を丁寧に説得するという手順を採用した。安全保障環境の激変という言葉は、他にてだてはなかったのだというイクスキューズである。

(2023.1.25 花崎泰雄)

 

 

 

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ボッティチェリの美人画

2023-01-22 00:13:58 | 社会

さきごろ東京・大手町の丸紅ビルに行ってきた。大した用件ではなかった。サンドロ・ボッティチェリが描いた15世紀フィレンツェの美女シモネッタ・ヴェスプッチの肖像画を見に行ったのである。

子どものころ西洋美術史を教えてくれた教師がボッティチェリのファンで、そのせいで後年わたしはフィレンツェへ行き、ウフィッツ美術館でサンドロ・ボッティチェリの『春』や『ヴィーナスの誕生』を見た。今ではボッティチェリよりも、その時フィレンツェのレストランで食べた巨大なフィレンツェ風ステーキの記憶の方が鮮明に残っている。塩味だけの炭火焼――ビステッカとか言っていたな。

As time goes by…….

ボッティチェリがシモネッタの肖像を描いてから600年余り。丸紅がこの絵を購入してから50年余り。シモネッタを展示している丸紅ギャラリーは丸紅ビルの3階にあり、1階のロビーにはボッティチェリが描いたシモネッタの拡大写真が飾られていた。企業は金儲けに奔走するだけのものではない、という自負の表れなのだろう。

丸紅といえば、田中角栄のロッキード事件の残像が消えない。「ピーナッツ」が裏金の単位として使われたことの滑稽感も忘れられない。

立花隆が死んでまもなく1年になる。ロッキード事件報道における立花隆の活躍は、伝統的な大手新聞ジャーナリズムの怠慢の表れでもあった。

(2023.1.22 花崎泰雄)

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年頭所感

2023-01-13 23:42:05 | 国際

ロシアがウクライナに攻め込み、ウクライナを支援する国々たいして天然ガスの輸出を制限し、エネルギー危機が生じた。ついでに穀物危機も。そのさなかに日本では通貨「円」の交換価値が下落し、物価が上昇した。2022年12月の東京都区部の消費者物価指数は生鮮食品を除く総合指数が前年同月比4パーセントあがった(総務省発表)。イギリスの消費者物価指数は2022年12月が10パーセントほどの上昇だった。物価上昇率は英国と比べると日本は低いが、物価指数を算定する商品の選定は国によって異なるので、生活する人の不安感や窮乏感は数字だけではわからない。

そうした中で、日本では物価の優等生である卵まで値上がりした。卵は物価の優等生といわれてきた。食品値上がりのさいも卵の値段だけは変わらなかった。鳥インフルエンザによる卵生産量の落ち込みも理由の一つのようだが、ついに「卵よお前もか」というわけで、これで物価高騰が新しい年の重要テーマの一つとして定着した。

卵の値上がりにひっかけて、夕方の某テレビが卵1つで3人分の親子どんぶりをつくる方法を伝えていた。みじめったらしいアイディアなので見る気もしなかった。卵値上がり、即、卵1つで3人分の親子どんぶりと発想したテレビの送り手の発想の貧困にげんなりしたからだ。

そうこうするうちに、中国が日本人と韓国人を対象にしたビザの発行を停止した。中国のこの措置は、中国を仮想敵国とみなした日本の敵基地攻撃能力構想と米軍との積極的な安全保障態勢の整備にある。つまるところ台湾有事のさいに、米国が日本をお供にしたがえて台湾防衛にあたるという意思を中国に見せつけることで、中国に対する抑止力としようとする日米安保体制強化という脅しに対する中国側の不快感の表れである。

日本国の岸田首相がフランス、イタリア、英国、カナダを歴訪し、米国のワシントンに到着した。すでに日本の外相と防衛相が米国の国務長官と国防長官とワシントンで会合を持ち、日本の適地攻撃能力の獲得と防衛予算の増加で意見の一致を見た。日米の周辺整備はすでに終わっている。

台湾問題の失策は中国共産党の権威失墜にもつながる問題である。習近平政権も神経をとがらせている。習近平政権はコロナ対策で上海市民の強い抗議を受けた。抗議を受けてあっさりとゼロコロナ政策をおしまいにした。対外的には体面を失った直後だ。

日本に対するビザ発行停止は、日本の敵基地攻撃と日米軍事一体化という脅しによる中国抑止に対するお返しである。中国経済あっての日本経済でしょう、日本人が中国に来られなくなったら日本経済はどうなりますか? 中国は黙ってみていませんよ、という脅しである。日本政府に対する脅しであり、中国国民に対する政権盤石のポーズである。

ロシアではプーチンが対ウクライナ戦争を仕切る将軍の首をせわしなくすげ替えている。ウクライナを簡単にひねりつぶすことができなかったプーチン大統領はメランコリックになっている。アメリカではバイデン大統領も機密文書を自宅に持ち帰っていた。トランプ前大統領と同じ失策だ。ブラジルではブラジルのトランプの異名で知られるボルソナーロ前大統領派の群衆が国会議事堂に乱入した。

ブリキの古バケツが空っ風にを受けて、ガラガラと音をた立てて転がりまわっているような、しけた正月風景である。

(2023.1.13 花崎泰雄)

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隻手の音声

2023-01-01 01:38:17 | 政治

神社に初もうでした人はパンパンと手をたたく。これを拍手(かしわで)という。お寺に初もうでした人が拍手を打つことはまれだ。たいていは手を合わせ合掌する。

江戸時代の臨済僧・白隠は「隻手の音声」という公案をつくった。両手を打ったら音がするが、さて、片手に音はあるのか、あるとすればどんな音であるか。そのような問いを発して、修行僧をしごいたそうだ。

年明けの国会では、議員・閣僚・官僚が集まって、敵基地攻撃は先制攻撃であるのか、先制攻撃ではないのか、問答を重ねる。日本が外国から武力攻撃を受けたとき、これに反撃するのは国際法で認められた正当な自衛権行使である。攻撃は開始されていないが、攻撃が始まることが明白である場合には、敵基地攻撃は正当化できる自衛権行使であり、国際的な非難を受ける先制攻撃にはあたらないと主張する意見がある。

他方、日本が基地攻撃をした相手国は日本から先制攻撃を受けたとして、正当な自衛権を発動し、本格的な日本攻撃を始める。

日本が行った攻撃が自衛のための敵基地攻撃であるのか、自衛権の行使を隠れ蓑に使った先制攻撃であるのかを判断するのは誰になるのだろうか。国連なのか、世界政治を牛耳る大国なのか。小田原評定になるだろう。というのも、先制攻撃とはだれが見てもわかる現実の行為であり、その先制攻撃が自衛権の行使とみなされるのは、その動機の解明による。この厄介な一国の政治的動機の解釈によって、許される先制攻撃と許されない先制攻撃に分けられる。国際社会は先制攻撃という拍手の「隻手の音声」を判定しなければならなくなる。以上のような事情で、敵基地攻撃という自衛権の行使は使いにくい手法になる。

敵基地攻撃能力の取得は、安全保障上のブラフとして使える。だが、日米安保条約によって日本が米国に守られ、米軍が東アジア地域の安全保障に主導的にかかわっていることから、日本が敵基地攻撃を希望しても米軍が米国の戦略な観点からそれに反対すことがあり得るだろう。米国が日本に敵基地攻撃をすすめても、日本が外交上の理由からそれを拒否することもありうるだろう。

日本の敵基地攻撃能力が、米国の対中政策の一環として役立つことを米国は喜んでいる。米国の世界戦略の一端に日本が手弁当で参加してくれるのだから。

 

(2023.1.1 花崎泰雄)

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