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news commentary

疑惑の連鎖

2020-02-27 23:59:13 | 政治

医師が患者を診断してコロナウイルスの検査が必要であると判断したのだが、保健所から検査を断られたというケースが報道されている。国会の審議でも問題になった。

中国以外では日本・韓国・イタリアでコロナウイルスが拡散している。日本で学校の閉鎖やラグビー、サッカー、大規模な催しの中止などに躍起になっているさなか、気になる日韓比較をメディアが報じている。

韓国は3万人近い人のPCR検査を済ませたが、日本ではまだ2千人に届かないという。日本の医療体制の緊急対応能力の低さに唖然とする。

一方で、PCR検査で陽性と判断できても治療法が確立されておらず、対症療法しかないのだから、PCR検査に大きな意味があるわけではない。よく手を洗い、人ごみをさけ、熱が出たらしばらくの間は自宅で安静にして様子をみるしかない、という意見も流れてくる。

日本政府が25日に発表した新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の骨子は、国民に対して生活指導はするが、政府がいつまでに①PCR検査を韓国並みの能力に引き上げるのか②簡易検査キット開発発のメド③特効薬開発の時期④重症者用のベッド増床の目標など、政府のやるべきことについては、具体的な説明を避けている。

日本政府はコロナウイルス陽性者の数を巣やしたくないのであろう。オリンピック開催に影響が出るのを避けようとしている。政府は1日のPCR検査能力は3600人であるとしているが、実際に検査したのは1日900人に過ぎない。やればできるはずの検査態勢の強化に取り組んでいないのは、陽性者の数を増やしたくないからだ――と海外のメディアに書きたてられている。

たとえば、2月26日付の韓国『東亜日報』――。

「日本政府が新型コロナウイルス感染症の診断検査を制限的に実施し、感染者数が実際より大幅に縮小されているという指摘が出ている。医師であり医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは25日、東亜日報の電話取材に対して、『日本は大病院だけが重症患者に対する新型コロナの検査を行っている』とし、『医療保険で診療を受けることができる病院全てが検査を実施しなければならない』と強調した。また、『日本政府が開催を控えた東京五輪を意識して、日本国内で感染は蔓延していないと主張している』と指摘した」

いくら安倍政権だとはいえ、そこまではやるまい、と思うのだが、2013年9月、安倍首相にはオリンピック招致にあたって、フクシマは「アンダーコントロール」とブエノスアイレスで演説した過去がある。まだタンクからもれた汚染水が地下水にまじって海に流れている時期だった。

オリンピック開催のために二度目の「アンダーコントロール」のメッセージをなんとしても世界に伝えた気分なのだろうと、森友・加計・桜・検事長問題で増幅している安倍首相の人柄への疑いの目が、政権のコロナウイルス対策に対しても向けられている。

(2020.2.27 花崎泰雄)

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某大学法学部卒業試験問題

2020-02-24 00:51:43 | 政治

<報道にもとづく背景>

日本国政府は2020年1月31日の閣議で、黒川・東京高検検事長の定年延長を決定した。検察庁法には定年延長の規定がないので、国家公務員法の規定を適用した。ながらく政府は検察官には国家公務員法に基づく定年延長は適用しないと解釈してきた。2月12日の衆院予算員会で人事院は「現在も同じ解釈を引き継いでいる」と述べた。翌13日になると安倍首相が、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると、今般解釈することとした、と衆院本会議で解釈の変更を明言した。すると人事院は2月19日の予算委員会で、「現在」という言葉の使い方が不正確だったとして、2月12日の答弁を撤回した。野党は政府の恣意的な解釈次第で、制度の運用が変わるのは問題だと、激しく追及している。

<関係する条文>

  1. [検察庁法第22条] 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
  2. [国家公務員法第81条の3] 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

<問題>

  1. 国家公務員法と検察庁法の関係は、前者は対象範囲が広い一般法、後者は対象範囲の狭い特別法にあたる。特別法である検察庁が退職年齢のみを定め勤務延長について言及していないのは、勤務延長を認めていないからであると解することが妥当であるという見解と、検察庁法は退職年齢に言及したのみであり、勤務延長については国家公務員法が適用される、という二つの意見について、特別法と一般法の優先という考え方を念頭に、どちらの考え方が妥当か、論じなさい。
  2. 検事長は任命権者が内閣であることから、黒川検事長の定年延長については閣議で決定した。安倍首相は国家公務員法の規定が適用されると解釈変更したと明らかにしたが、その解釈変更のプロセスについてはまだ完全に明らかになっていない。人事院や法務省のレベルでの解釈変更で十分なのか、閣議決定が必要な人事案件なので解釈変更も閣議決定が必要なのか、国家公務員法あるいは検察庁法の該当条文の変更が必要であるのか、論じなさい。

      ◇

<余談>このところつれづれなるままに、衆議院サイトの国会審議中継をみている。これがめっぽう面白い。野党議員が声を荒げて激怒して見せたり、妙に冷静な声で答弁する側を油断させようとしたり、答弁する側は意味不明の弁舌を繰り返したり、議事録に残る国会での答弁なので嘘は言っていないと言わんばかりの答えをしたり、閣僚によっては事務方の書いた答弁書を棒読みして、質問者の野党議員に「よく読めました」と褒められたり……。「森友」「加計」「桜」「検事長」と、大量の嘘を重ねてきた安倍政権――という感触は多くの人が抱いているのだが、国政調査権を持つ野党にしても、政府と与党と官僚の壁に阻まれ、その嘘を白日の下にさらすことができないでいる。見ている側にも切歯扼腕の方が多いことだろう。かつて発展途上国の政治過程を研究課題にしてきた私にとっては、今の日本の政治過程が、過去フィールドワークで足しげく訪れたどこかの国と似ていて、郷愁のような既視感がある。

 (2020.2.24  花崎泰雄)

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Maiden name

2020-02-09 21:56:56 | 社会

24日の衆院予算委員会で茂木外相が、日本のパスポートの別名併記の仕組みは外国の入国管理で分かりにくいので、2020年の後半以降に新しい方式に切り替える意向を示した。

このことを伝える新聞記事を読んでいて興味深かったことがある。別名併記の一例として女性の結婚前の旧姓をとりあげて、次のように外相は説明した。

「見ただけでは旧姓だと分からない……maiden nameなどと書くことではっきりと分かるような形を取っていきたい」

Maiden name は結婚前の女性の旧姓だ。Maidenという言い方がいかにも古臭く、男中心の家父長制のにおいが漂うので、英語圏ではbirth name が中立的な用語として使われている。

日本では9割以上の女性が結婚のさい夫の姓に改姓する。9割以上ということは、逆に、何パーセントかの男性が妻の姓に改姓することを示している。

ところで、改姓した男性の旧姓をmaiden nameと英文表記するとまた別の混乱を招くことになる。

外務省のホームページを見ると、現行の別姓併記方法は旧姓を括弧の中に入れるだけの方法である。日本のパスポートに不慣れな入国管理官がいる空港もあろうから、添付写真の括弧内の名を説明する赤字のような「旧姓=former surname」 という書き方もあろう。Maiden nameよりformer surnameの方が穏当である。

こうした煩わしさが付きまとうのも日本政府が日本国民に夫婦同姓を強制しているからである。「調べた限りでは、夫婦同姓を義務付けている国は日本だけである」という文面を閣議決定したと、かつて新聞が伝えたことがあった。国連女性差別撤廃委員会は日本が夫婦同姓の強制をやめて選択的夫婦別姓制度を導入するよう日本政府に対して再三に勧告している。

茂木外相が “maiden name”という語を用いたのは、結婚に際して妻になる人は夫になる人の姓に改姓するのが大勢であるという認識が背後にあるからだ。「通称使用」や「別姓併記」など、なんだかんだと弥縫策を弄して、自民党の政治家は夫婦同姓の義務を永続化させようとする。彼らの選挙区の頭の固いオジサンやオジサン的考え方に何の疑問を抱かないオバサンたち――岩盤的支持層――の意向を無視できないからだ。

2020.2.8 花崎泰雄)

 

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おもしろうてやがて悲しき……

2020-02-04 01:09:23 | 政治

桜を見る会の安倍晋三後援会の案内文について、首相は「幅広く募っているという認識でございまして、募集しているという認識ではなかった」と国会答弁をした。この答弁は「頭は痛いが頭痛ではないと言っているに同じ」と野党議員に揶揄され、予算委員会の笑いをさそった。この手の珍妙な言い回しは、それまで憲法に抵触するとしてきた集団的自衛権を外部環境の変化に合わせて、憲法上問題ない集団的自衛権もある、とした論法以来おなじみの修辞法である。

ひきつづき「桜を見る会」とその「前夜蔡」である安倍晋三後援会の夕食会をめぐる国会問答は、下手な漫才よりよほど面白い笑いを提供し続けている。野党の質問者が「つっこみ」で日本国首相が「ぼけ」の役割を分担して、国会中継の視聴者を笑わせてくれる。

2月3日もついNHKの国会中継を見てしまった。衆院野党会派の辻元清美氏がこの日のトリをつとめ、えいえいやっと切り込んでいく。

辻元氏は2013年からニューオータニや全日空ホテルで催されてきた「前夜祭」は、会費五千円、参加者各自がホテルと契約し、ホテルが参加者それぞれに領収書をわたす「安倍方式」でやったのか、と質問した。

安倍首相は、いずれの年の夕食会もホテル側との合意のもと、一人五千円という価格設定だった。会場入り口の受付で安倍事務所の職員が会費を収集し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受け付け終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡す、という形で参加者からホテル側への支払いがなされた。領収書にホテルの担当者が金額などを手書きし、宛名は空欄だったと説明した。

すると辻元氏が、「安倍方式」でやれば政治資金収支報告書に不記載でも違法ではないということを、日本中の自治体議員や国会議員に対して太鼓判を押してほしい、といなおってみせた。

すると首相が安倍晋三後援会としての収入支出は一切ないから、収支報告書への記載は必要ない、と答弁。同じ形式であれば問題ないと考えている、とも答えた。高市早苗総務相が政治団体の収入・支出でない場合は記載の義務はないと念を押した。首相も総務省も衆院予算委員会の場で「安倍方式」にあっけらかんと太鼓判を押すわけにもいかないが、この答弁で認印ぐらいは押した感じである。

首相が地元でやる新春の会では後援会が会費をとり、収支報告書に載せていると弁明すると、すぐさま辻元氏に、じゃあ、なぜなぜ「前夜祭」にかぎって参加者が直接ホテルへ支払ったのか、とつめよられた。

これに対して首相は、後援会の人たちが集まり、食堂なりレストランで割り勘で会費を払った場合は収支報告書には載せない、と「前夜祭」を割り勘の催しであるかの如く説明した。そこで辻元氏が、ホテルの会場を借り切った八百人の会合で、そんな話、聞いたことはない、とあきれてみせる。さらに、辻元氏が、前夜祭の参加者が安倍さんのおかげで、高級ホテルで五千円で飲食できたとなれば買収。ホテルがだいぶディスカウントしてくれたとなったら、寄付を受けているのではないか、という疑いを持たれる。収支報告書を訂正し、追加記載することを求めた。

首相の事務所が「前夜」に参加した人からホテル発行の領収書を集めて開示すれば、疑惑を払拭する一助になるだろう、と辻元氏がつめよると、首相は、領収書は間違いなくニューオータニ側が出しており、違法性はない。あえて後援者から集める必要はないと考えている、と日本国首相の国会答弁が信用できないのかといった態度である。

一般会計総額が過去最大の102兆6580億円に達した2020年度予算案を論じる国会の議論としては金額的にはちまちまとした事柄に見えるのか、桜より予算本体の議論をという声もあるのだが、予算を編成した政権の体質批判を抜きにして、カネの使い道だけを議論するのもむなしい。だって、森友、加計、桜を見る会……仏の顔も三度とやら……。

くわえて、安倍政権は2月7日で定年退官する予定だった東京高検検事長の黒川弘務氏について、半年後の8月7日まで勤務を延長させることを閣議決定している。

報道によると、検察庁法では検事総長の定年は65歳、その他の検察官は63歳と定めている。しかし、国家公務員法では、職務の特殊性や特別の事情から、退職により公務に支障がある場合、1年未満なら引き続き勤務させることができると定めているので、この規定を適用して、東京高検検事長の勤務を延長することにしたと政府は説明している。

検察庁法の定めを国家公務員法の定めでオーバールールしたのだが、野党は黒川氏を次の検事総長に据えるための工作だとして、国会の内外で批判を始めている。野党党首は安倍政権の意に沿い、法務行政を牛耳ってきたと言われていると発言、週刊誌などは安倍政権の番犬を温存したのではないかと伝えている。何のため。黒川氏の定年延長が決まったのは1月31日。定年退官予定日の1週間前だった。その時、政権が心配していた事件はIR汚職事件である。

(2020.2.3)

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