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news commentary

Quarantine

2014-10-29 14:48:47 | Weblog


昔々、勤め先の同僚が新婚旅行でインドに行き、帰国後ただちにコレラと判定されて隔離されたことがあった。以来、久しくquarantine の訳語は「検疫」とだけしか頭の中になかったが、エボラが世果中を戦々恐々とさせるに及んで、quarantine=隔離の訳語が、生々しくよみがえってきた。

日本でも西アフリカへ行った帰りの人が発熱してエボラ感染の疑いで隔離された。10月29日までの報道では、陰性だったようであるが。

オーストラリア政府は西アフリカ諸国からの渡航者に対してオーストラリア入国禁止の措置をとった。アメリカ合衆国では、国境なき医師団のメンバーとしてシエラレオネでエボラ患者の治療にあたった看護士が米国に帰国したさい、特にエボラの兆候もないのに隔離されて、問題になった。米軍は救援活動のために西アフリカに派遣した兵士を海外基地のキャンプで隔離することを決めた。

日本の自衛隊も求めがあれば自衛官を西アフリカに派遣するのだろか? 地球規模の安全保障と外交を看板にしているのであれば、求めがあれば断りきれないだろう。日本はハンセン病患者の隔離政策を不必要なまでに継続してきた国柄だから、エボラ救援活動帰りの人々が世間からどのような目で見られるか、心配なことである。

Quarantineという英語は40日を意味するイタリア語quarantinaから来た。伝染病封じ込めのための隔離は古くからおこなわれていた。14世紀ごろから海運が盛んになった。外国からきた船舶を隔離する政策を始めたのは、当時の貿易都市国家ベネチアである。当初は30日の隔離だったので、trentinaとよばれた。やがてこれが40日間に延長されてquarantinaになった。40日間という日数は、キリストとモーゼが荒野で40日間を過ごしたという言い伝えによっている。

エボラをきっかけに、防疫と人権の観点から、隔離の条件を再検討する必要が出て来た。同時に、エボラの恐怖が世界中に広がったことで、エボラの予防薬、治療薬などの開発が進むことになろう。

(2014.10.29 花崎泰雄)

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自衛隊の世界展開?

2014-10-05 23:28:37 | Weblog

最近の毎日新聞や朝日新聞によると、安倍政権は新しい日米防衛協力ガイドラインで、自衛隊の米軍後方支援から地理的な制約を外す方針だ。現在のガイドラインにある「周辺事態」のしばりを外し、朝鮮半島や台湾有事といった周辺事態だけでなく、自衛隊が米軍の後方支援をおこなえる地理的な範囲を世界に広げるのが目的だ、と新聞は伝えている。

日本国憲法はその法理学的解釈は棚上げされて、もっぱら状況に合わせた行政府による便宜的解釈が繰り返されるようになって久しい。自民党政権は2001年にはテロ特措法を成立させ、自衛隊をインド洋に送って給油活動を行った。2年後の2003年には、フセイン政権崩壊後のイラク復興支援のため時限立法でイラク特措法を制定して自衛隊をサマワに送った。

安倍政権になって、ついに、一内閣の憲法解釈が憲法そのものを変質させる事態になり、それによって自衛隊の米軍後方支援体制が世界的規模に拡大されることが可能になった。

アメリカが日本の自衛隊に支援を要請するのはアメリカの国防予算の削減を自衛隊の支援で穴埋めしようとしているからだという説がある。米国の国防予算は2010年をピークに右肩下がりが続いている。人件費や調達などの基本的予算は横ばい状態、戦費が減っている。このままでは米国の軍事力の世界展開に支障をきたす。一部の機能を同盟国に肩代わりさせようという考え方である。

その意味では、かつてのオーストラリア・ハワード政権はアメリカのよき友だった。2001年のニューヨーク9.11事件以後、ハワード政権は、米国のアフガニスタン攻撃やイラク攻撃に参加した。マレーシア、インドネシアなどアジア太平洋地域のムスリム人口の多い国では、オーストリアは世界の保安官アメリカの保安官助手になってしまった、と批判が高まった。

安倍政権下の日本にも、保安官であるアメリカに庇護されるだけでなく、率先してその助手になりたがっている人々がいるのだろう。日本の政権はながらくアメリカのために、使い走りや雑巾がけをやらされてきたので、一人前の保安官助手として認められるのはさぞ嬉しいことだろう。特に、安倍政権の積極的平和主義にもとづく世界進出とやらを演出している外務省官僚は自負心をくすぐられる。外の国から日本をながめると、そう見えるかもしれない。

世界のもめごとに自衛隊を関与させることについて日本国民を納得させる理屈が、北朝鮮と中国の脅威である。冷戦時代はソ連の脅威が喧伝された。冷戦構造が崩壊すると、北方領土はソ連が占拠したままだが、ソ連の脅威という論題は後退した。北朝鮮の粗暴ぶりに変わりはないが、台湾海峡はこのところ波穏やかである。日本の安全保障論者を刺激しているのは、個別具体的な脅威ではなく、大金を懐にした中国の軍拡意欲である。

中国が太平洋に引いた3本の列島線や南シナ海に引いた9段線を例にあげて、中国の海上覇権主義の脅威が説明される。歴史上、中国は陸続きの西と南に領土を拡張したが、東の太平洋には大した興味を示さなかった。元の時代に日本襲撃があった程度だ。

海洋国家としての経験の乏しい中国が、やがて太平洋での米国の一方的な覇権を崩すことに成功するのだろうか。米国は東アジアでは日本、韓国、タイ、シンガポールに基地を持っている。ついでに言えば、オーストラリアとキルギスタンにも基地を持っている。インド洋の英領・ディエゴガルシア島にも基地を持ち、中国を包囲している。

一方、中国は海外に軍事基地をまったく持っていない。アメリカはベトナム戦争後、フィリピンのスービック基地から撤退したが、最近新しく米比軍事協定を結び、米軍のフィリピン復帰が始まっている。中国は南シナ海の領有権をめぐって東南アジアの国々と対立し、また警戒感を高めさせているので、中国が東南アジアに基地を開くことは難しい。中国は目下韓国と親密度を高めているが、在韓米軍撤退後に中国が基地をつくれるか? 

そういうわけで、中国の日本に対する脅威とは、具体的事例ではいまのところ尖閣列島に船を送るとか、防空識別圏の設置とか、時々の領空・領海侵犯程度のジャブにとどまっている。

この程度のジャブに対して集団的自衛権を持ち出して、その代償としてたいそうな持ちだしも辞さないというのは、政治算術としてまっとうな判断ではない。

安倍政権は中国を念頭において集団的自衛権の議論をするふりをしているが、集団的自衛権公認の動機は米国の助手としてのバッジを手に入れたいという、虚栄心である。だとすれば、ポリティシャンの行動として合点がいく。

(2014.10.5 花崎泰雄)
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