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軍人は小児に近いものである

2008-11-02 17:47:26 | Weblog
自衛隊の現職航空幕僚長・田母神俊雄(60)が「日本は侵略国家であったのか」という一文を書いて、民間企業・アパグループの懸賞論文に応募したら、最優秀賞をもらってしまった。しかし、このことで賞金300万円と引き換えに幕僚長から更迭された。

それにしても、あきれるのは、日本最大の暴力装置・自衛隊のトップ将官の頭の構造がこれほどまでに粗雑であったという事実である。

第一は、たかだかA4用紙9枚の分量で、戦前の日本が侵略国家ではなかったことを証明する論文を書けると考えたお粗末である。これまでの通説を覆すだけの新証拠の発見でもなければ、この程度の分量では、アジビラ程度のものしか書けない。幕僚長殿はプロパガンダと論文の違いさえ理解できていなかった。

第二に、田母神はその論文――とはいうものの、その論理構成、資料批判、文献探索、例証、文章法などからみて、とても「論文」と呼べる文章ではなく、粗雑なプロパガンダに過ぎないが――において、日本が侵略国家でないことを主張するために、例えば、「日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり、真珠湾を攻撃した」と断定している。

田母神説によると、①ルーズベルトは日米戦争を始める口実を作るために、日本に攻撃をしかけせさせた②日本はルーズベルトの罠にはまり真珠湾攻撃を決行した③ルーズベルトの親友である財務長官モーゲンソーの信頼する部下だったハリー・ホワイトはコミンテルンのスパイで、ホワイトがモーゲンソーを通じてルーズベルトを動かし、日本を日米戦争に追い込んだ。以上のようなジョゼフ・マッカシーも顔負けの大胆な推論であるが、それを支える歴史資料が何一つ示されていないので、単なる妄想に終わっている。また、1941年中の日本の開戦準備の歴史的経緯については何一つ触れられていない。

第三に、田母神は「多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある。タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ」と主張するのだが、その根拠は示されていない。

日本の外務省の2008年のアセアン6ヵ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)における対日世論調査の結果はつぎのとおり。

 <質問>第二次世界大戦中の日本について、現在あなたはどうお感じですか?
<回答>
●悪い面でわすれることはできない         20.2%
●悪い面はあったが、今となっては気にしない    68.1
●全く問題にしたことはない             8.5
●分からない                    3.2

筆者がむかしインドネシア語の勉強のために読んだインドネシアの小学校社会科教科書にはこんなことが書かれていた。1980年代(日本の政権と親密だったスハルト政権の時代)にインドネシアの教育文化省がつくったものである。

「日本は私たちの国にやってきてオランダにとってかわりました。インドネシア国民は日本の戦争に協力するため重労働を強いられました。日本占領時代の強制労働は“ロームシャ”という言葉でよく知られています。人々は一層の苦しみを味わいました。食べるものは乏しくなり、たくさんのインドネシア人がおなかをすかせて死にました」

大東亜戦争を戦った日本という国に対する、インドネシアという国の、一般的な認識はこんなものだった。

この田母神論文は英訳されてアパグループのサイトに掲載されている。多くの人が世界中で読むわけだ。「どの国にも変な人はいるものだ」「軍人は小児に近いものである」(芥川龍之介)と、まともな外交問題としてとりあげてくれないことを、日本政府としては祈るしかないだろう。

(2008.11.2 花崎泰雄)

<追記 2008.11.4>
11月4日の朝日新聞によると、田母神は三日、都内で記者会見した。記者たちから「論文は本や雑誌の引用がほとんどだ」と指摘されると、こう答えたという。

「書かれたものを読んで意見をまとめた。現職なので歴史そのものを深く分析する時間はとれない」

歴史そのものを深く分析しないで、「政府見解は間違っている。私の見解が正しい」と言い張るのだから、やはり、軍人は小児に近い。


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