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籠池デー

2017-03-23 23:57:57 | Weblog

 

3月23日は「籠池デー」だった。

 右翼愛国教育を旗印にする森友学園「瑞穂の國記念小學院」(一時期は「安倍晋三小学校」を標榜)をめぐる国有地の払い下げ問題や、学校設立準備中に安倍晋三総理大臣夫人の安倍昭恵氏から「安倍晋三からです」と100万円の寄付を頂いたと発言していた、同学園理事長(理事長退任をすでに表明)の国会証人喚問が午前中は参議院で、午後は衆議院で行われた。また、そののち、籠池氏は午後6時過ぎから外国特派員協会で記者会見に応じた。

 午前中の参院喚問は自宅のテレビで、午後の衆院喚問はスポーツクラブのトレッドミルなどについているディスプレーでNHKの中継を見た。シャワーを浴びて自宅に帰り、今度はPCのインターネット中継で特派員協会での記者会見を見た。

 国会審議で野党がさんざん籠池氏の参考人招致を要求しても、与党は応じる気配を見せなかった。籠池氏が「安倍昭恵氏から100万円の寄付をいただいた」と発言した途端に、自民党は籠池氏の証人喚問を提案し、野党と合意を見た。証人喚問は参考人招致と違って、宣誓の上で証言し、偽証すると刑事罰が待っているという厳しいものである。

 去る3月17日の衆院外務委員会で、日本維新の会の足立康史議員が、仮に寄付をしていたとしても(寄付は選挙区外のことで、公職選挙法上は何ら問題ではなく)教育への寄付はむしろ美談ではないか、と発言した。足立氏は本気だったのか、冗談で言ったのか、よくわからなかったが、その足立発言に対して、安倍首相が要旨次のように答えた。妻は名誉校長をしていたので寄付することもありうるから確認をとったが、寄付はしていないということだった。寄付して悪いわけではないが、寄付していないからしていないと答えている。

 安倍昭恵氏が仮に100万円を寄付していたとしても、寄付行為には問題ないと、安倍首相も考えているわけだ。

 それでは、なぜ、与党自民党は籠池氏を証人喚問したのか。まさか自民党議員が野党と組んで、安倍政権打倒を目指すわけはないから、安倍晋三からですと首相夫人から寄付金100万円をもらったという籠池発言が、政府与党に激しい衝撃を与えたのだろう。

 では、どんな衝撃か。安倍首相は森友学園への国有地格安払い下げに関して、すでに国会で、首相も首相夫人も関わっていない、もし関わっていたら首相も国会議員も辞任する、と啖呵を切っている。籠池氏をこのまま野に放置して、吠えつづけさせるわけにはいかなくなったのである。緊急籠池対策が必要になった。

 そういうわけで、たとえば参院の証人喚問ではこわもての自民党・西田昌司議員が、籠池氏が言っている内容は、安倍首相や安倍昭恵氏が言っていることに反するので、うその証言をすると罪に問われますぞ、と強く念を押した。同時に衆参の与党議員は質問を通じて、小学校認可申請をめぐる籠池氏の詐欺師的策略を、テレビ中継を見ている人に強く印象づけようと試みた。

 仮に、籠池氏が詐欺師であったとすれば、この一件はこういうことになる。右翼で愛国者を名乗る詐欺師が立てた小学校設立計画に、国家主義者の安倍晋三首相が、一時期ではあるが、森友学園について、すばらしい教育をしていると聞いていると発言し、また、首相夫人が一時期ではあるが、その名誉校長を名乗り、くわえてその詐欺師が安倍晋三からだと言うことで、安倍夫人から100万円の寄付金をもらったと広言する。つまり、首相夫妻が詐欺の被害者だった、という間の抜けた話になる。だが、一国の首相が間抜けで困るのは国民である。

 偽証は罰されますぞ、と警告された籠池氏だが、間違いなく100万円の寄付を受けていると言い張った。偽証罪を問われることもある証人喚問での籠池発言は、日本国首相その他に守られた夫人の言い分より重い、と思った人は少なくなかったであろう。

 夕方からの外国特派員クラブでの記者会見で、籠池氏は、ある時期、神風が吹いたように学校設立計画が進み、最後の段階で、その風が強い逆風に変わって計画がとん挫した、と背後に大きな力があったのではないかと推測した。

 そういうことで、23日には早速、民進党が安倍昭恵氏の証人喚問を求め、籠池氏と同じ立場で森友学園との関係を聴いてはどうかと言い出した。証人喚問で籠池氏の口封じをしようとした自民党のやり方は、いってみればヤブヘビだった。

 小学校開校が不可能になり、学園の幼稚園は差し押さえを受け、やがて多額の債務に苦しむことにもなるであろう籠池氏が、安倍首相夫妻と抱き合い無理心中を図ろうとしているようにもみえた。

 

(2017.3.23  花崎泰雄)

 

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「問題ない」は条件反射?

2017-03-21 22:59:57 | Weblog

 主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明に、これまでは盛り込まれてきた「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という文言が今回は米国の抵抗で削除された。このことについて、日本国の菅義偉官房長官が3月21日の記者会見で、「問題ない」と発言した、と日本の新聞各紙が伝えた。

菅氏から見れば「問題ない」問題なのだが、G20に集まった各国の財務相・中央銀行総裁は、侃々諤々の議論をし、挙句のはてに、内に忸怩たるものを持ちながらも、米トランプ政権の横車を入れたのである。

菅官房長官の「問題ない」発言を不見識とする意見もある。菅氏が国際政治や国際経済に優れた見識持っているかどうかはさておき、彼は永田町における自分の役目に限って言えば、十分な見識を持っている。

麻生太郎財務相(副総理)が現地バーデンバーデンで、「反保護主義」が盛り込まれなかった点に関して、「『毎回同じこと言うな』って言って、次のとき言わなかったら『なんで言わないんだ』という程度のもの」と説明(日経新聞)している以上、麻生コメントを否定するような発言を控えるのが役目柄というものであろう。官房長官は閣内融和の要である。

菅官房長官は3月14日の記者会見でも、稲田朋美防衛相が2007年に学校法人「森友学園」が起こした民事訴訟に原告側代理人弁護士として出廷したことを示す記録が見つかったことについて「個人的な活動に関することなので政府としてはコメントを差し控えたい。稲田氏から適切に説明されると思う」と述べるにとどめた。稲田氏の進退に関しては「まったく問題ない」とした。(3月14日、産経新聞電子版) 

稲田防衛相は安倍総理大臣のお気に入り閣僚なので、稲田氏を擁護することが安倍首相擁護につながる。

とはいうものの、菅官房長官の定例記者会見での「問題ない」の多発に、気を悪くしている国民もいると見えて、インターネットの世界をのぞくと、菅官房長官の「問題ない」というコメントをメディアの報道から集めた書き込みがあちこちにあった。そのいくつかを拾い読みしていて、筆者の頭の中にも過去の発言がよみがえってきた。

菅官房長官自身の政治資金集めパーティーで同氏の事務所が白紙領収証のやり取りをしたことについて、官房長官が「問題ない」(2016年10月)。望月環境相の政治資金めぐる問題でも、「返金しており、全く問題ない」(2015年2月)。宮沢経済産業大臣が過去に代表を務めていた自民党の支部が、外国人が株式の過半数を保有する企業から献金を受けていたことについて、事実が判明したあと、すぐに返金して適正に処理しているとして、「問題ない」(2014年10月)。原子力規制委員会の委員に就任予定の田中知・東京大工学部教授が、原子力関連事業者から今年前半まで報酬を受け取っていたことについて「いずれも少額で、また専門技術委員の立場から助言を行うような内容であり、委員に就任するうえで全く問題ない」(2014年7月)。百田尚樹・NHK経営委員の個人的発言「南京虐殺は無かった」発言について「は問題ない」 (2014年2月)。NHK籾井会長の「戦争地域ではどこでもあった」という慰安婦問題についての発言も「問題ない」(2014年1月 )。米国の諜報機関の各国首脳の電話盗聴の件で、安倍首相の携帯電話は大丈夫かと聞かれ「問題ない」(2013年10月)。

まあ、ざっとこんな調子である。政権に降りかかる火の粉を払うのは官房長官の役目だろうが、ここまで来ると、定例会見での記者の突っ込み質問に、梅干しを見ると唾が出るような条件反射で「問題ない」と答えているようにも思える。

(2017.3.21 花崎泰雄)

 

 

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一国資本主義

2017-03-04 00:12:25 | Weblog

 アメリカ合衆国のトランプ大統領が2月末日、米議会上下両院の合同会議で演説した。日本の新聞が伝えるところでは、国防予算の増額やオバマケアの撤廃、法人税減額などの税制改革とともに、メキシコ国境での壁建設開始を強調した。

トランプ大統領は打ち上げ花火のように思いつきの政策目標を次々に打ちだして人気を煽り、大衆からの喝采に酔いしれる自己陶酔型の人物と、大統領とその側近が敵視する米国の主流派メディアは酷評する。

日本のテレビやアメリカのCNN、イギリスのBBCが流す映像では、トランプ大統領はいつでも自ら拍手して聴衆の拍手を煽っている。ペンス副大統領もポール・ライアン下院議長もトランプ大統領と一緒に立っているときは、大統領に拍手をおくっている。メキシコと米国の国境に壁を張り巡らし、その建設費用をメキシコに払わせるというアイディアに、副大統領も下院議長も拍手喝采してきたのだろうか。

それはさておき、国境の壁の建設費をどうやって捻出するか、具体的な方法論なるといまだに状況は混沌としている。

国境の壁の建設はフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策・テネシー川流域開発ほどには雇用促進の効果は出ないだろうが、それでも1兆円を超える費用がかかるそうだ。

この金額をメキシコ政府あての請求書に書き込んだところで、メキシコがこれを支払うことは100パーセントない。日本の安倍政権の対米インフラ投資やソフトバンクの雇用協力資本を回すこともできない相談だろうから、結局、米国自身が払うしかない。

トランプ大統領はメキシコからの輸入品に税金をかけると言った。

日本の関税法では、関税を納める義務がある者は、通常、貨物を輸入する者と規定している。つまり荷物の受取人が関税を払うのである。

この制度は米国でも同じとみえて、メキシコからの輸入品に課された税金を払うのはアメリカの輸入業者である。アメリカの業者はこの税額を商品の価格に反映させるので、最終的にはアメリカの国民の財布からの支出となる。連邦政府が予算から支出しないというだけのことである。

このような手品はすぐバレてしまうえ、メキシコ製品への関税についてはWTOの協定違反になる可能性が大きい。

そこで、「国境税調整」という共和党のアイディアに乗って税制改革で建設費を捻出する策に、トランプ大統領が乗り気だと報道されている。

国境税調整というのは、一口で言えば、米国内に生産拠点を置く企業の輸出には税制上の優遇措置を与え、米国外に生産拠点がある商品の米国内販売には税制上きびしく対応する方式の法人税の扱いである。

これもまた、新手の輸出補助金の疑いで、WTOの場で問題になる可能性が大きいそうだ。

だが、アメリカ・ファーストの「一国資本主義」を声高に叫ぶトランプ政権は、WTOの決定がアメリカの主権を侵害する場合はその決定に従わない方針である。、最新のニュースがそう伝えた。

米国がWTOの決定を無視すれば、あらゆる国が自国に不利なWTOの決定を無視するようになり、WTOがTPPと同じ運命をたどることになる。

(2017.3.3  花崎泰雄)

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スルタン的支配への回帰

2017-02-18 18:07:01 | Weblog

[ドイツ=小野フェラー雅美] ドイツをはじめEUで暮らすトルコ国籍のトルコ人・クルド人は数百万人に上る。ドイツでは人口の3,3%、ブルガリアは10,2%、オランダは2,5%を占める。2016年のトルコのクーデター未遂事件後には、トルコの高官を含む40人の軍人とジャーナリストがドイツに政治亡命を求めた。一応は存在していたトルコの民主主義が、エルドアン大統領の権力拡大にともなって崩壊している。トルコのEU加盟交渉も昨年、中断されたままだ。EUもドイツもトルコとの関係に神経質になっている。

エルドアン政権打倒を目的とした軍の一部によるクーデター未遂事件は2016年7月15日に発生した。エルドアン大統領はこれを鎮圧し、彼の政敵であるアメリカ在住のイスラム教指導者ギュレン師が企てたクーデターだったと発表した。だが、証拠は無い。ギュレン派一掃のために事件後2日間で6000人が逮捕された。つづいてエルドアン政権は緊急事態宣言を発令し、大統領が大統領令を使って政治を行い、集会の自由や報道の自由といった基本的人権を停止させることもできるようにした。

トルコはヨーロッパの隣国であり、中東地域の主導的国家である。NATOと共同体制を取り、EUと連携してシリア難民を受け入れている。トルコの動静に敏感なヨーロッパのさまざまなメディアは、クーデター未遂事件以後、概略以下のような詳細なトルコ報道を続けてきた。

2016年7月24日 アムネスティー・インターナショナル(AI)によると、首都アンカラだけで6000人が拘束された。政府側に属さないアンカラの弁護士団が法的支援の活動をはじめた。何百人もの容疑者が汚物で溢れる厩舎に、3日間も食事なしで監禁された。腕を後ろ手に縛られ、吊るされたという。同弁護士団によるこの報告はAI報告と重なる。依頼人の青アザや傷の写真を撮った女性弁護士は、写真を消去するよう警察に強いられたという。依頼を受ける弁護士の多くは、若く、経験が少ないうえ、1人で10人以上の被告を受け持っている。依頼人と弁護士の会話は当局が傍聴する。非常事態宣言によって、被疑者を起訴前の30日間にわたって拘束することができるようになった。弁護士の1人は「お前たちも奴らの見方(ギュレン派)か?」と言われたという。

7月27日 CNNによると、クーデター後80以上の報道機関が閉鎖された。内訳は、テレビ局16、ラジオ放送局23、新聞社45である。

7月29日 ギュレン派とみなされた逮捕者総数は18044人に及び、そのうち9677人を拘置。NATO閣僚も任を解かれた。「粛清の波」は軍、司法機関、大学、学校、そしてメディアに及んだ。AIの抗議に対し政府は、ギュレン派に踊らされている、と返答。29日だけで48人の将軍が退職させられた。クーデター未遂後1700人の軍人が解雇され、陸海軍の将軍職の40%がそれに含まれている。

7月31日 クーデター未遂容疑者の検挙は商業界にも及んだ。有名な複合企業Boydak Holding の幹部数人と経営協議会会員も逮捕された。軍首脳部はクーデターに参加した軍人数は8651人と報告。2週間弱前の未遂クーデターに参加した軍人は全軍の1,5%で、この2週間で6万人以上の軍関係者、役人、教師、官員が逮捕された。

8月7日 反クーデターの大衆集会の会場でエルドアン大統領が死刑制度の再導入を示唆した。死刑制度があるとEU入りが許されないため、2004年に廃止された。ギュレン派と関係するとみなされる国民の国外逃避を不可能にするため49000人以上のパスポートが無効にされ、世界中のトルコの外交官の内88人も容疑対象となった。8月下旬、報道関係者の粛清は続けられ、左派及びクルド系の報道機関が閉鎖された。

10月25日 禁止されているPKK(クルディスタン労働者党)所属の容疑で、クルド系の多い東南トルコの町で公選され任に着いていたクルド人市長と同じく女性の副市長が逮捕された。副市長はクルド寄り野党HDP(国民民主主義党)幹部。クルド系の人々がいくつかの町でデモを行った結果、HDP所属の24人が逮捕された。

10月29日 大統領は再び議会で死刑制度導入を示唆し、緊急事態措置の拡大を発表した。1万人の公務員をギュレン派との関連容疑により解職。逮捕された人は3万7千人。1万人の法務・警察・軍部の関係者が解職・解雇。

10月31日 非政府系の独立した報道を続けていた最後の新聞・クムフリエット紙の編集長以下13人の編集員が逮捕された。PKKやギュレン派との関係容疑で、7月15日のクーデターを是認したことが理由とされた。しかし、同紙は実際には、クーデターを糾弾し、ギュレン派批判を論調とする報道をしていた。2015年5月にトルコ政府の過激イスラム派への武器供給を同紙が暴露する記事を掲載した頃から、同紙は政府のブラックリストに上っていた。同紙は国外では真のトルコの声とみなされていたため、トルコ国内各地やベルリンやパリなどで抗議デモが行われた。

11月4日 親クルド派の野党HDP党の党首2人を含む11人のメンバーの身柄が拘束された。政府は既にクーデター前の5月に59人のHDP党の国会議員の議員資格を剥奪している。HDP党がPKKの代弁者であるとみなしたからだ。

このように、クーデター未遂事件を機にエルドアン大統領は権力集中の動きを加速させた。2017年に入って1月21日、イスラム教保守派の与党AKPが圧制する議会で、339対142票で、憲法改正が可決された。憲法改正に必要な5分の3の票を9票上回る結果だった。4月の国民投票で過半数の票が得られれば発効する。憲法改正によってトルコは議院内閣制から大統領制に移行する。トルコ議会は、議会自身の権限の無力化を決議し、首長制の導入を許可したことになる。また、エルドアン大統領は4月16日に予定されている憲法改正の国民投票に、死刑制度の導入を加えた。過半数の賛成でトルコに首長制と、同時に死刑制度が再導入される。クーデター未遂事件後の非常事態下で拘束された人々の生命が危ぶまれている。

こうした状況の中で、ドイツのメルケル首相が2月2日にトルコのエルドアン大統領を訪ねた。言論の自由についての意見を述べるための訪問だった。「メルケルは詳細に報道の自由を説き、去年7月のクーデター未遂後もトルコにおける表現の自由と三権分立が遵守されることは非常に重要で、野党の存在は民主主義の一部である、と強調した」(スイス紙『ノイエ・チュリヒャー・ツァイトゥング』2月2日電子版)

4月の国民投票で決定すると、2019年以降は首長としての現大統領エルドアン1人がすべての行政権を把握することになる。大統領は大臣と裁判官の任命権も、議会を解散させる権限も持つ。更に、覆すことの難しい大統領令を発布し、緊急事態宣言の発動も可能となる。そして、議会は大統領に対する不信任決議を行う権限を失う。

大統領には各5年、2回までの任期が許されているので、2019年に新憲法下で行われる大統領選挙でエルドアン氏が改めて当選すれば、同氏は2029年まで、また、その後再延長が議決されれば、2034年まで実権を握り続けることが可能となる。その時点で彼は80歳のはずだ。

エルドアン大統領と与党は、内的・外的な脅威で不安定になっているトルコの現状を打開するためにはこの政治制度変更が必然である、と主張する。野党は専制政治の方向に向かっていると警鐘を鳴らしてやまない。だが、クーデター未遂後、政府批判の報道をする報道関係者が多数拘束されたり、新聞社が取り潰されたりしている。報道の自由が侵害されているため、野党の主張は国民の耳に届かない。トルコ弁護士会の会長は、確実に進みつつある首長制を過去のスルタン制度に比したという。

民主主義制度は、立法・行政・司法が互いに互いをコントロールしあう事で成り立つ。行政を任される大統領が、立法権(議会)と司法権(裁判所)を無力化して権力を行政に集中させると、大統領制の名の下で、マックス・ウェーバーやホアン・リンスが「スルタン的支配」と呼んだ苛烈な個人支配体制が成立してしまう。

アメリカでは現在トランプ大統領が、大統領令を矢継ぎ早に発令するという、異例な政治を行っている。エルドアン大統領はトルコの大統領制もアメリカやフランスの大統領制と同じだと主張するが、前者には影響力の大きな議会があり、後者にはそれに加えて首相もいる。また両者にはトルコにはない地方分権制度があり、報道の自由がある。その点がトルコと異なる。

イギリスのEU離脱に加え、米国のトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、足元では極右政党の伸長と、EUは内憂外患の時代に入っている。

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家産制国家への道

2017-02-11 22:20:43 | Weblog

トランプ米大統領の長女のファッション・ブランド「イヴァンカ・トランプ」の取り扱いをやめたアメリカの百貨店ノードストロームを、大統領が「不公平だ」となじった。

例によってツイッターの利用である。最初の“つぶやき”は私的なアカウントで。そのあと大統領専用のツイッター・アカウントで念を押した。曰く、

「ノードストロームは娘のイヴァンカを不公平に扱っている。彼女は素晴らしい人間だ。私が正しい行いをするよう常に背中を押してくれる。ひどい話だ」

ノードストロームは中止の理由は売り上げが落ちたからだと説明していた。

トランプ氏は大統領正式就任以前からツイッターを使って日米の自動車業界を困惑させた。ツイッターのごときは、オバマ政権時代のケリー国務長官が「「ツイッターの140文字で、複雑な政策について十分に対応できるとは思わない」とトランプ氏を皮肉った、その程度のものである。したがって、ノードストロームは娘に対して不公平である、程度の父親のボヤキなら舌足らずなツイッターの分にあっている。

とはいうものの、ホワイトハウスから大統領が大統領専用のツイッター・アカウントを使って語るに値する内容ではあるまい。

これが普通の人の感覚である。

だが、ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は役目柄、普通の人の感覚にとどまってはいられない。それで記者団にこう言った。

「大統領には自分の娘を守る権利がある。ノードストロームの決定は政治的な動機に基づくものだ」

ホワイトハウス上級顧問のケリーアン・コンウェイ氏も「イヴァンカの商品を買いに行きましょう」とFOXニュースに出演して大ぴらに宣伝した。

「ネット上で一部の高官がイヴァンカや彼女のブランドを困らせるようなことを言いふらしているのはおかしな話です。にもかかわらず、彼らはトランプ政権で最も傑出した女性を利用しています。最も傑出した彼の娘をですよ。彼女を利用しているんです。彼女は職場で女性が権限を持つことを支持してきましたし、トランプ大統領にもそうするよう促したのです」「みなさんはそのことがわかっていると思います。イヴァンカ・トランプの商品を買いに行きましょう! 私は買い物が嫌いですが、今日自分で直接買いに行きます」「イヴァンカ・トランプの店は素晴らしい品揃えです。私もいくつか持っています」「私はここで、無料でコマーシャルをするつもりです。みなさん、今日買いに行ってください。オンラインでも買えますよ」(『ハフィントン・ポスト 日本語版』2月10日)

米国からの報道がそう伝えている。

トランプ大統領就任式の人出が少なかったこというメディアの報道にトランプ大統領が不満を持っていることを告げられると、スパイサー報道官は、メディアは嘘をついている、史上最高の人出だった、と大統領の妄想を擁護した。その根拠を問われて、コンウェイ上級顧問が使った言葉が “alternative facts”。

現在のホワイトハウスを観察していると、何世紀も前の家産制国家における王様とその家族とその臣下の右往左往を思い起こさせる。歴史は前進するだけではなく後退することもあり得る。デモクラシーの旗振り役を自称してきたアメリカ合衆国においても。

(2017.2.11  花崎泰雄)

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朝貢外交

2017-02-04 22:29:18 | Weblog

来日したマティス米国防長官が2月3日、安倍・日本国首相に「尖閣諸島は日本の施政下にある領域であり、安保条約の適用範囲だ」(朝日新聞2月4日朝刊)と明言し、中国の拡張的態度に戦々恐々としている日本政府を安心させた。

しかし、よくよく考えるまでもなく、上記の「安保条約適用範囲」発言は先のオバマ政権でも、当時の米国防長官がしばしば口にし、2014年は来日したオバマ大統領自らも言明した約束である。

日本政府は日米安保条約が日本の安全保障の根幹であり、日米同盟の核心であると言い続けてきた。そうした重要な日米国家間の約束事でありながら、米国の大統領が交代したことで、改めて約束の確認をとらねば安心できないという不安定さは異常だ。

尖閣諸島が日米安保の適用範囲であるとの確認を、日本政府がアメリカ政府高官に求めたのは、トランプ米大統領の政治家としての資質の欠陥に不安を抱いているからだ。

トランプ米大統領の常軌を逸した発言とふるまいが、異常事態を巻き起こしている。メキシコ大統領との電話会談で、メキシコが麻薬問題などを自力で解決できないのなら米軍を送り込む、と発言したと伝えられた。オーストラリア首相との電話会談では、オバマ政権時代にオーストラリアと約束した難民の引き取り――オーストラリアにいるイラク人を中心にした難民1000人余りを米国が引き取り、代わりに米国にいる中米からの難民をオーストラリアが引き取る約束――をめぐって、豪首相がアメリカへ爆弾犯を輸出しようとしていると非難し、1時間の予定の電話会談を25分で一方的に打ち切った。オーストラリアは湾岸戦争、アフガニスタン、イラクと米軍に寄り添って出兵し、オーストラリア国内でも、オーストラリアは世界の保安官・米国の副保安官になっている、と身内からも批判が出るほどだった。それほど米国に寄り添ってきた国の首相であっても、このような仕打ちを受ける。

ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストである経済学者のポール・クルーグマンが2月3日の同紙に “Donald the Menace” という論評を書いている。書き出しはこうだ。トランプ政権は米国人を外交的危機、ひょっとしたら戦争にさえ引きずり込むかもしれない。

このような人物とまともな外交交渉は可能か?

トランプ大統領の、イスラム教徒をターゲットにした米国入国禁止の大統領令は米国内に分裂をもたらし、ヨーロッパの主要国や国連事務総長らからも厳しく非難されている。日本国の安倍首相はこうしたトランプ批判からは距離を置いて、米国の内政問題であると逃げを打っている。国連決議で米国に遠慮して棄権にまわる例の手法である。安倍首相は2月10日に米国でトランプ大統領と会談しなければならない。下世話で下品な言葉遣いをすれば、どのツラさげて俺に会いに来た、というような状況は避けたい。そのようなことを平気で言う人物であると恐れている。

訪米に先駆けて、「日米首脳会談に向け、政府が検討する経済協力の原案が2日、明らかになった。トランプ米大統領が重視するインフラへの投資などで4500億ドル(約51兆円)の市場を創出し、70万人の雇用を生み出すとしている。日米間の貿易不均衡を批判するトランプ氏に10日の会談で示して理解を得たい考えだが、日本の公的年金資産の活用をあて込むなど異例の手法だ」という記事が朝日新聞に掲載された。

ホワイトハウスへの手土産である。「ただ、政府内には『米国なしに日本経済は成り立たない。(相互利益の)ウィンウィンだ』(政府関係者)という評価の一方、トランプ氏に寄り添い過ぎて朝貢外交と言われてしまう(首相周辺)という批判もある」と同記事はいう。

米国の名目GDPは4兆6千億ドル規模で世界のGDPの22%を占め、日本のそれは17兆3千億ドル規模で6%弱を占める程度である(2014年)。1人当たり名目GDPは米国が約5万6千ドルで世界第7位、日本が約3万2千ドルで第28位(2015年)。失業率は米国で5%ちょっと、日本で3%台である(2015年)。

2017年2月3日発表の米国の統計では、1月には米国の雇用は22万7千人増えた。失業率は4.8%、賃金は3%伸びて26ドルの増。

日本に比べればはるかに経済好調な大国・アメリカのさらなる雇用増のために、国債残高がGDP比で300%近い日本(米国は100%少々)が、友好の証として投資をして差し上げようというのだから、朝貢外交と言われても仕方がない。

トランプ大統領は日本に対して、米軍駐留経費の負担増をもとめ、日本は米国からの自動車輸出を困難にしている、為替操作をしている、など根拠のない言いがりをふっかけいる。

日本に駐留する米軍の経費の75%は日本国が負担している。韓国とイタリアでは各40%、ドイツでは30%である。フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディは日本で売れ行き好調である。トランプ大統領は日本だけではなく、ドイツにも中国にも為替操作をしていると言っている。

これらが米大統領の妄想であることは、日米安保の費用分担問題を見ればよくわかる。日米安保条約は第6条で「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」としている。米軍は日本の安全に寄与すると同時に、米国の安全と利益を目的として、極東において日本の基地を使用することができる。米国にとって日米安保条約の意義はそちらの方にある。日本の基地を母港とする米空母がイラク攻撃に出撃したこともある。イラクは極東の範囲から外れるが、出撃ではなく移動であるからと日米両政府は問題にしなかった。

そういうわけで、これ以上日本が米軍駐留経費の負担増に応じれば、新たな日米安保ただ乗り論が噴出する可能性がある。過去のただ乗り論では、ただ乗りするのは日本だったが、新しいただ乗り論では、米国が自国の核心的利益である世界戦略の一環として日本に駐留させている米軍の駐留経費の大半を日本に負担させて、ただ乗りをしているという議論になる。

以上、すべてはわかりきったことなのに、それでもアメリカに対して日本の為政者は朝貢外交を続けている。どこか別のところに根の深い理由がある。

(2017.2.4  花崎泰雄)


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グレート・グレート・ウォール

2017-01-28 01:26:22 | Weblog
万里の長城は宇宙からでも視認することができる。地球上最大の構造物だ。その長さは渤海湾から嘉峪関まで、3000キロ近くにわたる。この長城は明時代に築かれた。

外敵の侵入を防ぐために中国は戦国時代から壁を築いた。これらの古い時代の壁をベースにして、秦時代に北方遊牧民の侵入を防ぐための本格的な城壁が築かれた。

前漢・後漢、隋、唐、明と、唐の時代をのぞいて長城は補強・拡張された。唐王朝は城壁にさほど関心を持たなかった。唐王朝は周辺の遊牧異民族に対して守りの姿勢でなく、積極的な攻勢に出た。

中国の王朝は古代から明の時代まで外部からの異民族侵入を防ぐために万里の長城を営々として補強・拡張してきた。しかし、歴代の王朝が外部異民族に対して城壁の建設費・修復費を支払うよう求めた記録は残っていない。

朝鮮半島は、いわゆる38度線で分断されている。韓国と北朝鮮の南北双方はそれぞれDMZ(非武装地帯)に沿って、鉄条網や高圧電流を流したフェンスを設け、その外には地雷原を敷設している。韓国が北朝鮮に対して、北朝鮮が韓国に対して、それらの費用を支払うよう求めたという記録は、ない。

1961年から1989年まで、東ドイツの領域の中で孤島化していた連合国管理地域・西ベルリンと東ドイツの境に、約160キロにわたってベルリンの壁が築かれていた。東ドイツの政治・経済体制に絶望した東ドイツ市民が西ドイツに逃亡するのを防ぐのが目的で、東ドイツ政府が壁を築いた。逃げてきた東ドイツ市民で西ベルリンが人口過密になるのを防ごうと、西ベルリン当局が壁を築いたわけでない。西ベルリン市民は同胞の脱出を助け、歓迎した。東ドイツ政府が西ベルリン当局に対して、壁の建築費用の弁済を求めたという記録も、また、ない。

ドイツを目指す難民の流入を防ごうと、ハンガリー政府が国境に100キロ以上にわたって鉄条網を二重に張った。鉄条には鋭い刃がついている。難民を流出させた国々の政府に対して、ハンガリー政府がその支払いを求めたというニュースも見聞きした記憶がない。

アメリカのトランプ政権発足に勢いを得て、イスラエルはパレスチナのイスラエル入植地を拡張しようとしている。イスラエルはヨルダン川西岸地区のパレスチナ境界に分離壁を構築中だ。計画では総延長700キロほど。堀、有刺鉄線、電気柵、壁で構成されている。パレスチナからのテロリスト侵入を防ぐことを目的としている。だが、イスラエルがパレスチナ自治政府にその費用の弁済を求めたというニュースは聞いたことがない。余談になるが、旧約聖書には、ユダヤ民族を拒んだイェリコ(ジェリコ)の壁を、ラッパを吹いて崩したという伝承が収められている。それから長い長い時を経て、ユダヤ民族が真逆のことをやっている。

トランプ・新米大統領がアメリカ・メキシコ国境に壁をつくってメキシコ人の侵入を防ぎ、その費用をメキシコ政府に負担させると、人の褌で相撲を取るような虫のいい要求を、素面でふっかけている。

(2017.1.27  花崎泰雄)


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少女に翻弄される日韓関係

2017-01-08 23:35:02 | Weblog


慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意の韓国側の不履行に抗議して1月7日、日本政府が長嶺駐韓大使らに一時帰国命令を出した。日本の公館の威厳を侵害する慰安婦問題の象徴である少女像を韓国政府がいまだに撤去しないでいるのは合意違反であり、ウィーン条約22条の「公館の威厳の侵害を防止する」責務をはたしていない、とパク大統領が職務停止になり、韓国の政治の混乱している最中に、日本政府がこぶしを振り上げて見せたのである。

翌8日、日本大使は9日に日本に帰るが、ソウル不在期間は1週間程度と日韓の外交筋がみているというニュースがソウルから伝えられた。2012年8月に当時のイ韓国大統領が竹島(韓国名・独島)に上陸したさい、日本政府は武藤駐韓大使を12日間一時帰国させた。慰安婦問題は日本政府にとって竹島上陸問題ほどは深刻でないから、こんどの日本大使の一時帰国期間は前回よりも短い、と見通したてているそうである。

安倍政権が釜山の総領事館前の少女像設置を契機に対韓強硬路線に踏み切ったのは、政権の支持基盤への政治的ゼスチャーであり、外交上のメンツを重んじたからである。日韓関係決裂も辞せず、との勇ましいポーズのかげで、日韓の裏方が慎重に筋書きを相談している様子が垣間見える。

2015年12月28日、日本の岸田外務大臣と韓国のユン外交部長官は、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と発表した。日本側は①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する②韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出する、ことなどを表明した。韓国側は、韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する、と述べた。

ソウルの日本大使館前、プサンの日本総領事館前におかれた、慰安婦問題の象徴としての少女像が日本国政府の尊厳を侵害するのであれば、韓国の元慰安婦やその支援をする人々にとって、慰安婦像は人間としての尊厳を踏みにじられた悲しみと怒りの象徴である。ソウルの日本大使館前におかれた少女像は無許可で設置された物だが、行政当局は市民の反発を恐れて強制撤去ができない。プサンの場合は、一度当局が強制撤去したが、市民から反発と苦情が出て、改めて市当局が設置を認めた経緯がある。

安倍総理大臣は8日、NHKの「日曜討論」で、北方領土問題について「北方四島に住むロシア人の人々が理解を示さなければ北方領土は返ってこないという現実に向き合わなければならない」と話した。それと同じで、韓国の人が少女像はもういらないと思うようになるまで、少女像はなくならないだろう。

日本政府が、なぜこの時期に対韓強硬姿勢をとったのかも、よくわからない。2015年の日韓合意のさい、1年以内に撤去するよう努める、という裏約束でもあったのだろうか。プサンの道路管理者が少女像の設置を認めた件が怒りのひきがねになったのだろうか。

パク大統領に代わる新しい韓国大統領が選出されるのは時間の問題である。今回の日本政府の強気の姿勢が、次の韓国政権にどんな影響を与えるか――安倍政権は当然のことながらそのあたりは読んでいることだろう。今回の日本政府の出方によって、次の韓国の政権が少女像の撤去し、それによって日韓関係が円滑に進むようになるか、少なくとも、マイナスの効果はないと踏んでいるのだろう。だが、外交には読み違えがつきものだ。

まもなく米国でトランプ政権が発足する。何をやり出すのか予測不能である。上司が部下にあたると、部下がその配偶者にあたり、配偶者が子にあたり、その子が猫を蹴飛ばす、というジョークもあることだ。米国が日本や韓国を攻撃すると、日本国民の鬱屈感を韓国への攻撃で晴らし、韓国は韓国で民の鬱屈を日本攻撃で晴らす、というパターンが増え、日韓関係が少女像をめぐって混迷を深める可能性がある。

(2017.1.8 花崎泰雄)

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老子

2017-01-06 00:33:11 | Weblog


『老子』(中央公論版『世界の名著』)にこんな話が載っている。

兵器があっても使わせないようにし、人民に生命を大事にさせ、遠くへ移住することがないようにさせれば、船や車があってもそれに乗るまでもなく、武器があったところでそれらを並べてみせる機会もない。世の中を太古の時代にもどし、粗末であっても食物や衣服を、もうまい、着心地が良いと思わせ、住まいに落ち着かせ、素朴な習慣の生活を楽しく過ごすようにさせる。そうなれば、隣国がすぐ見えるところにあって、鶏や犬の鳴く声が聞こえるほど近くにあっても、人民は老いて死ぬまで他国の人と互いに往来することもないであろう。

ごもっともな説であるが、肝心のどのようにして人民にそう思わせるか、が書かれていない。

現在では、兵器があると軍人はそれを使いたくなる。兵器には昔の「村正」のような妖気が漂う。アメリカの兵隊は朝鮮半島、湾岸、パキスタン、イラクと命がけで戦い、アメリカの企業は安い人件費を求めて工場を途上国に移し、本国の産業を空洞化させた。その空洞化が進む国に、仕事を求める人々が押しかけて安い賃金で働く。そういう流入外国人を締め出そうとする動きが欧米で強まっている。日本は昔から外国人の流入を嫌った。独立・解放記念日には、兵隊がおもちゃの兵隊のようにパレードし、ミサイル兵器が行進して隣国を脅そうとする国がある。食道楽・着道楽は豊かな社会の虚飾であって、高い金を払って膝小僧の破れたジーンズのパンツを買ってはく人がいる。

アメリカの企業も日本の企業も、安い労働力を求めて途上国に生産拠点を移すことで金儲けをはかった。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。中国人民は昔のクーリーのように働き、中国を世界第2位のGDPを誇る経済大国に育てた。経済大国中国が軍事大国に変貌した。中国はウクライナから買い取った空母を改造・完成させて、太平洋で演習してあたりを威嚇した。

米国の次期大統領はフォード社に圧力をかけて、メキシコでの工場新設をやめさせた。謝金をもっと払わないと、日本やNATOから米軍を撤退させると選挙期間中に脅し文句を並べた。

NATOも日本駐留米軍ももともと、米国の息のかかった地域を共産主義勢力から守り、ひいては米国の安全を保障する政策から始まったものだ。米国人が国境を越えて投資してきたのも第一義的には彼らの金儲けのためであった。

それがいまでは米国が与えた恩恵のように米国人は考えるようになった。米国人は貧しくなったのだから、自由貿易など縮小し、兵隊も工場も本国へ呼び戻せ、という議論が勢いづいている。ところがどっこい、米国の一人当たりGDPは、リーマンショック後の2009年を例外として順調に右上がりで推移している。米国内での富の分配の方程式が変わり、格差が広がって貧困層が増え、窮乏感が強まっただけである。

今月20日に就任するトランプ大統領が何をやろうとしているのか、あるいは何をやればよいのか分かっていないのか――そこのところもよくわからない。ただ、次期大統領が指名した政権幹部は、権威主義的性向の人物、狂犬とあだ名された将軍など武闘派の元軍人たち、ウォール・ストリートの成功者が目立つ。おそらく、落ち着きのない政権発足になるだろう。

にもかかわらず、もっか株高である。

(2017.1.5 花崎泰雄)
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 お年玉 

2017-01-01 00:29:37 | Weblog

2016年の12月、BBCを見ていたら、同局の編集幹部・イアン・カッツによる米誌『ニューヨーカー』の編集長、デイヴィッド・レムニックのインタビュー番組を流していていた。ドナルド・トランプが米大統領選挙で勝利したことがなぜアメリカの悲劇なのか、がテーマである。

「アメリカの悲劇」はセオドア・ドライザーのフィクション An American Tragedyをふまえているのだが、直接的には、ヒラリー・クリントンの敗北とトランプの勝利をうけて、デイヴィッド・レムニックが同誌に書いたエッセイ “An American Tragedy” (2016年11月9日)が英国をはじめ欧州で話題になったことによる。

インタビューそのものはBBCのサイトで見ることができる。その内容はさておき、レムニックがそのエッセイの中で、次期大統領に対して激しい罵りの言葉を浴びせているので、そのところに触れておこう。

レムニックはエッセイの冒頭で、トランプの当選はアメリカ国民にとっての悲劇、憲政の悲劇であり、国内外における粗暴な力、移民排斥主義、権威主義政治、女性不信、人種差別主義の勝利である、と書き、さらにトランプの大統領就任は合衆国とリベラル・デモクラシーの歴史における胸糞の悪い出来事であるとたたみかけた。2017年1月20日には高潔で、威厳と寛容の精神に富んだ、初のアフリカ系アメリカ大統領に別れを告げる。代わりにペテン師の就任を目の当たりにするのである。レムニックはそう書いた。

輝かしい光が消えてどす黒い闇がとって代わるのだと、レムニックは言うのである。去りゆくものは常に美しく、来たるものは醜悪に見える――新しい年の始めに、鬼が失笑するような昨年の話を持ちだした理由は、レムニックが書いたトランプの勝利の背景である「粗暴な力、移民排斥主義、権威主義政治、女性不信、人種差別主義」に加えて、米国にとっては耐え難い「ロシアによる米大統領選挙への干渉」の疑いが浮上したからである。KGB育ちのプーチンの仕業であることをオバマはにおわせた。

年末ぎりぎりになって、オバマ大統領はロシア外交官の退去などの報復措置を――米紙報道によると、遅まきながら――とった。

諜報機関が陰謀を使って他国の内政に干渉するのはことさら珍しいことではない。驚いてみせる人はカマトトである。かえりみれば米国もチリのアジェンデ政権崩壊に一役買ったほか、中南米のあちこちで陰謀を企みた。インドネシアではスカルノ政権崩壊に関与し、ベトナムではゴ・ジンジェム政権転覆・殺害のクーデタにくみした。日本では児玉誉士夫や岸信介をCIAのエージェントにして戦後日本の反共・保守政治の路線形成をはかった。これらはスパイ小説のお話ではなく、れっきとした公文書にもとづくノンフィクションに書かれていることである。

だからと言って、オバマは米大統領としてロシアの振る舞いをそのまま見過ごすわけにはいかず、ロシアに対して報復措置をとったのだ。だが不思議なことに、プーチン・ロシア大統領はラブロフ外務大臣の進言にも関わらず、当然とるべき外交上の対抗措置をとらなかった。ウクライナからクリミアをもぎ取ってロシアに併合し、シリアのアサドを救って中東の橋頭保を強化し、次のアメリカ大統領に唾をつけているプーチンとしては、金持ちケンカせずの気分なのだろう。この一件でトランプ次期米大統領はうかつにも「プーチン大統領はスマートだ」と感想を述べてしまった。これでプーチン・トランプ密約へと噂話の花が咲く。

共和党のライアン下院議長はオバマ大統領の措置を妥当だと評価し、同じ党のマケイン上院議員はロシアのハッキングは戦争行為に等しいとして、さらに厳しい追加の報復措置をとるべきだと表明した。

トランプ政権と連邦議会の溝を深刻化させる狙いのオバマの時限爆弾付き置き土産はトランプへのお年玉である。『ニューヨーク・タイムズ』は12月29日の社説で “In less than a month, Mr. Trump will have to decide if he stands with his democratic allies on Capitol Hill or his authoritarian friend in the Kremlin.” と書いた。

連邦議会とともに立つのか? クレムリンを選ぶか? そういう風に新聞に問い詰められる合衆国大統領就任予定者をこれまで見聞きしたことがあるか?

(2017.1.1 花崎泰雄)
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