Podium

news commentary

天網怪怪疎にして…

2009-12-31 23:04:15 | Weblog
 石橋をたたいたすえに引き返す転ばぬ先の老いの杖かな

アムステルダム発デトロイト行きノースウエスト航空の機内で2009年12月25日爆破テロ未遂事件が起きたというニュースはソウルで聞いた。韓国テレビドラマ『チャングム』を面白がってみていたつれあいとクリスマスの宮廷料理を食べに行っていた。

爆破未遂事件について、バラク・オバマ米大統領は国土保安システムに重大な齟齬があったと、休暇先のハワイで語った。

米紙の伝えるところでは、アルカイダの一味がナイジェリア人をテロリストに仕立てようとしているという情報が、事件に先立って、イエメンからアメリカ政府に届いていたという。また、テロ容疑者のナイジェリア人の父親は、11月にナイジェリアのアメリカ大使館を訪れ、過激化したすえ姿をくらました息子ウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブを探し出して連れ戻すための助力を求めていた。CIAをふくむ大使館の情報・保安関係者が父親から提供された情報を分析し、ワシントンに連絡していた。ワシントンはその情報をもとに、テロと関連のありそうな55万人の名前の入ったデータベースにウマルの名を加えた。だが、彼の名前は搭乗を拒否すべき4,000人のリストや搭乗に先立って精査すべき14,000のリストには加えられなかった。

イエメンの「アラビア半島のアルカイダ」が12月28日、イエメン政府と米国から受けた軍事攻撃に対する報復として米機爆破を計画したとウェッブ上に声明を出した。容疑者が2009年8月から12月上旬までイエメンに滞在していたと、イエメン政府が発表した。

イエメンはアルカイダの総帥オサマ・ビン・ラデンの父親モハメド・アワド・ビン・ラデンの出身地だ。モハメドはイエメン東部のハドラマウト地方の貧しい村に生まれ、この村を出てサウジアラビアに出稼ぎに行った。ついには建設業で大成功して財を築いた。いわゆるハドラミーである。ちなみにドラマウト地方の出身者・ハドラミーはインドネシアにも渡っており、バリ島・クタのナイトクラブ爆弾事件をきっかけにアルカイダとつながる東南アジアのテロ組織だとされたジェマー・イスラミヤのアブ・バカール・バアシールもハドラミーの末裔だ。

オサマ・ビン・ラデンとつながりの強いイエメンはアルカイダの活動が盛んなところである。2000年10月、イエメン・アデン港に停泊していた米海軍ミサイル駆逐艦コール号にアルカイダのボートが体当り自爆攻撃をかけた。17人の乗組員が死んだ。2001年9月11日の世界貿易センターテロ攻撃の1年ほど前のことだ。

イエメンのアルカイダの隠れ家の秘密通信を米国家安全保障局(NSA)が1999年に傍受したことがあった。「ハリド、ナワフらがクアラルンプールへ行く」という内容だった。CIAはその通信内容から、ハリド・アル=ミダルとナワフ・アル=ハズミの2人を割り出し、クアラルンプールまで追跡した。CIAはマレーシア当局の協力を得て、クアラルンプールでミーティングに参加したアル=ミダルらを撮影した。彼らのミーティングの会話そのものについては具体的な情報は得られなかったが、何らかのテロ攻撃計画の打ち合わせであったと推測された。だが、CIAからFBIへの連絡が不十分だったせいで、2人はアメリカに入国してしまった。アル=ミダルもアル=ハズミも当時はアメリカに危害を与える可能性のある要注意人物のリストに入っていなかったからだ。のちにアル=ミダルとアル=ハズミが9.11同時多発テロのさい国防総省へ突っ込んだ航空機の乗っ取り犯だったことが判明した。クアラルンプール・ミーティングで同時多発テロ計画の具体的な計画が練られたにちがいなかったとアメリカ政府はホゾを噛んだ。

米政府は2008年ごろからイエメンにCIA要員や軍の特殊部隊を送り込み、イエメン政府軍に対テロ戦術を教えている。もしデトロイト近くの空で、あのナイジェリア人の若者が股間に隠していた高性能爆薬が爆発していたら、アメリカはアフガニスタン、イラクに続き、イエメンにも軍を送りこまざるをえなくなる可能性もあった。今年はイエメンからキナ臭いテロの匂いが漂ってくるのだろう。

ソウルからの帰りの金浦空港で、私はオーバーコート、ジャケット、財布、時計、ボールペンなどをはずしてトレイにのせてから金属探知機のゲートをくぐったが、警報が鳴った。ベルトのバックルに反応したのだ。同じようにして羽田の金属探知機を通ってきたのだが、そのときは警報音が鳴らなかった。

(2010.1.1 花崎泰雄)

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

海外要人会見

2009-12-15 21:10:35 | Weblog
  地金出し辞表を出せと口に出す北京帰りの小沢上皇

「君は日本国憲法を読んでいるか。天皇の行為は何て書いてある……憲法に。国事行為は、内閣の助言と承認で行われるんだよ」。12月14日の記者会見で、民主党幹事長・小沢一郎は、質問した記者に天皇の国事行為について教えた。

日本を訪れた中国の国家副主席・習近平が、天皇と外国要人の会見は1ヵ月前に宮内庁に申し込むべしという慣例を破って、急遽、日本の天皇と会見することになったことで、内閣が会見を強要したのはおかしい、と宮内庁長官が抗議した。その天皇の政治利用にからむ事柄についての記者会見でのことだった。

質問した記者が憲法を読んでいたかどうかは不明であるが、小沢一郎が日本国憲法をきちんと読んでいなかったことは明らかである。

日本国憲法は天皇の国事行為を①憲法改正、法律、政令及び条約の公布②国会召集③衆議院解散④国会議員の選挙の施行を公示⑤国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証⑥大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の認証⑦栄典の授与⑧批准書及び法律の定めるその他の外交文書の認証⑨外国の大使及び公使の接受⑩国賓の接遇・友好親善のための諸外国訪問⑪儀式を行うこと――と定めている。

衆議院解散や国会召集をはじめとする天皇の国事行為について、1ヵ月前に宮内庁に予約しなければならないという話は聞いたことがない。天皇と外国要人の会見は外務省が宮内庁に対して1ヵ月目に申し入れるというきまりは1995年ごろにできた。ということは、国賓でない外国要人の接遇は憲法が定める国事行為に含まれていないということだろう。小沢のいう「外国要人接遇は国事行為」は正確ではない。

といって、外国要人接遇は天皇の私的行為ともいえないだろう。憲法に規定された国事行為でもなく、といって私的行為でもない天皇の行為は、一般に「公的行為」と了解されている。国事行為について天皇には内閣の助言に対して天皇の側に拒否権がないとされているが、私的行為にはありうるだろう。では、天皇の公的行為に関してはどうか。

天皇には私的行為と、憲法が定めた国事行為以外の公的行為はいっさい認められないとする意見もあるが、自民党政権下で、外国要人との会見、行事への出席などの公的行為を行ってきた。それらの行為は象徴であることにともなう行為であって憲法に違反しないと説明されてきた。

大日本帝国憲法では天皇は日本の国家元首だったが、日本国憲法では「日本国民統合の象徴」であると規定され元首ではなくなった。したがって、日本の外務省は対外向けの資料で、There is no official head of state. Emperor Akihito fills the post unofficially. (1995、APEC, Osaka 資料)と説明している。

一方で、海外では天皇を国家元首と見なしている。例えば、米国務省のサイトでは、日本についてPrincipal Government Officials: Head of State--Emperor Akihito, Prime Minister (Head of Government)--Yukio Hatoyamaと紹介している。

そういうわけで、日本を訪れる外国要人は、天皇に面会させくれたかどうかで、日本国政府の自分に対する評価の軽重をはかる。誰を天皇と会わせるか。それは政府にとって外交上の重要な判断になる。習近平の天皇面会申し入れが締め切りの1ヶ月を切っていたからといって、胡錦濤の後継者とみられる人物と中国政府の意向をすげなく切り捨てるわけにいかないだろう。

それに、宮内庁のサイトを見ると、天皇・皇后の12月上旬の日程は、①12月1日:勤労奉仕団に会釈、人事異動者拝謁・執務、皇太子夫妻・長女が挨拶②12月2日:外務省総合外交政策局長進講、法務大臣らと午餐、執務、武道大会隣席、展覧会③12月3日ハンガリー大統領と会見・午餐、勤労奉仕団に会釈、厚生大臣表彰者拝謁④執務⑤12月7日(月):国立障害者リハビリテーションセンター式典隣席・施設訪問、構成労働大臣らと会食⑥12月8日:衆議院議長ら挨拶、勤労奉仕団に会釈、執務信任状捧呈式⑦12月9日:新任外国大使夫妻とお茶、皇太子妃挨拶、陵墓監区事務所長拝謁、人事院総裁賞受賞者接見⑧12月10日:在京外国大使らと午餐、人事異動者拝謁、勤労奉仕団会釈、即位20年国民祝典尽力者とお茶――といったぐあい。

この行事日程を見ていると、小沢が記者会見で「天皇陛下のお体がすぐれないと、体調がすぐれないというのならば、それよりも優位性の低い行事を、お休みになればいいことじゃないですか」と言ったのは正しい。中国要人との面会をねじ込めない日程や要件ではないだろう。

内閣からの会見要請に難色を示した宮内庁長官羽毛田について、小沢は「一部局の一役人が内閣の方針、内閣の決定したことについて、会見して、方針をどうだこうだと言うのは、日本国憲法の精神、理念を理解していない。民主主義を理解していないと同時に、もしどうしても反対なら、辞表を提出した後に言うべきだ」と怒ってみせた。羽毛田の首を切りたいのであれば、格好の理由が別にある。

羽毛田は11日、習近平との会見を渋った理由を記者団に説明する中で、天皇の国際親善は、政府のやることとは次元を異にするもので、政治的な重要性、懸案、政治判断を超えたところでなされるべきだ、とし、「陛下の国際親善のなさりようというのは、国の外交とは違うところにある」と言ったと報道されている。

羽毛田は天皇が海外の要人と面会することは、天皇の私的行為であるか、もしくは公的行為であっても、天皇の国際親善は政府のやることと次元を異にしたところで行なわれるべきだと、憲法違反の見解を口にした。このことは長官更迭の理由になりうる。

以上のような小沢と羽毛田の憲法無知のおろかな発言はさておき、話がこじれたのは、別の理由があったと思われる。北海道新聞は、12月9日に日本政府が中国側に天皇の健康がすぐれず会見は難しいと伝え、会見はいったん見送りの方向になったが、中国側からの強い要望と訪中を控えた民主党の小沢一郎幹事長らの意向が反映され、10日に官房長官が宮内庁長官に会見実現を指示した、という筋書きを伝えている。

永田町あたりで天皇の政治利用と騒いでいるのは、小沢一郎が自らの権勢の基盤拡大に天皇を利用したということのようである。だからこそ、小沢一郎は記者会見を開き、高圧的な口調で宮内庁長官を非難して見せたのだろう。そのあたりの詳しい話はいずれ発売の週刊誌でどうぞ。

(2009.12.15 花崎泰雄)


コメント
この記事をはてなブックマークに追加

師走の鳩

2009-12-11 21:29:15 | Weblog
 身にしむや師走のころのすきま風小首ふりふり鳩ちぢこまる

首相・鳩山由紀夫の喋り方には独特なところがあって、話の途中や、末尾で、ふっと息が抜けたように語気が弱まり、発声が頼りなくなる。

NHKニュースが流すインタビューを見ていて、このところ、声に力がなくなることが多くなった印象を受ける。

沖縄と予算では連立を組む社民党と国民新党にしてやられた。とくにテレビのインタビューなどでとくとくとして喋る亀井静香など、まるで自分が内閣を率いているような気分にあふれている。

会って話をしても時間の無駄だ、とオバマには面会を断られてしまった。民主党の幹事長小沢一郎は国会議員140人強をふくむ約600人の大訪中団を引率して北京に乗り込んだ。小沢は胡錦濤に、自分が民主党の司令官であると語ったそうだ。鳩山に国務を任せているが、民主党のオーナーはオレである、ということなのだろう。

事業仕分けも終ってみれば、重箱のすみをつついたほどの金額に終った。長らくに渡って自民党政権が食い散らかした後かたづけや、自身が母親からもらった金の後始末は大変だろうが、それに追われて新機軸が打ち出せないままでいると、鳩山人気が色あせるだろう。

(2009.12.11 花崎泰雄)
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

北朝鮮のデノミ

2009-12-07 17:50:31 | Weblog
 千里馬は手綱捌きのあやまりでいまや息切れ百歩あゆめず  

北朝鮮が最近、100旧ウォンを1新ウォンとするデノミを行った。だが、その意図がはっきりしない。日本語でデノミとは英語denominationの省略形だが、その意味は貨幣の単位名称ではなく、貨幣の単位名称変更redenominationを意味する。歴史的にはデノミはインフレで膨れ上がった通貨の桁数を引き下げるために行われてきた。古くは第1次世界大戦後にソ連が500億旧ルーブルを1新ルーブルとし、ドイツが1兆旧マルクを1レンテンマルクとした。最近では2005年にトルコが100万旧トルコ・リラを1新トルコ・リラにしている。

北朝鮮のデノミは引き下げ率から見てインフレの後始末とはおもえない。一時期、日本でも100円を1円とし、為替相場で1円=約1米ドルとなるようにしようではないかという議論があった。国際的な見栄張り効果をねらったデノミ論である。北朝鮮にはもっかのところ為替相場で対外的な見栄を張る必要もないだろうから、今回のデノミはインフレ処理などの経済的な理由や、国家の国際的威信向上をねらったものではない。

北朝鮮政府は新旧通貨の交換にあたって、1世帯あたり交換の上限を当初10万旧ウォンとした――北朝鮮の平均的勤労者の給与は月額3000-4000ウォン、実質為替相場で言えば1米ドルなので、北朝鮮ウォンの値打ちについては、はかりかねるところがある。韓国紙の報道によると、交換できなくなった金を30万‐300万旧ウォンまで銀国に預金することも許したが、ただしその預金を自由に引き出すことは禁じられたそうである。

一言で言えば、国民からの財産没収である。その後、交換の条件を微調整したと報道されているが、貧しい北朝鮮経済の中で商才や悪知恵を働かして小銭をためこんでいた中間層が一財産を失うことになった。富裕層はもともとウォンなど信用しておらず、米ドルや中国元で商売しているから影響を受けない。下層階級は貯金などないから影響を受けようがない。

以上のことから、韓国や米国の北朝鮮ウォッチャーたちは、育ち始めた中間層から――北朝鮮で政権の脅威になるようなどんな中間層が育ち始めているのか議論のあるところだが――金を奪い取ることによって、中間層が家産国家金王朝の邪魔にならないよう予防措置を講じたのだと説明している。同時に、北朝鮮情勢分析専門家たちは、一瞬にして金を失った北朝鮮のニューリッチを怨嗟の的にしていた下層階級に、いい気味だと溜飲を下げさせることによって、体制維持の情緒的支えにしようとした、ともみなしている。

さらに、労働者には旧ウォンで支払われていた給与の額が、新ウォンに切り替わってもそのままの額で保証されるともいわれている。つまり労働者の給与は一挙に100倍増するという計算になる。そのような給与引き上げが可能かどうかはさておき、もし仮に給与100倍増が実現すれば、それがインフレの火付け役になる。給与が増えた労働者の購買意欲は高まるが、商品の供給がそれに追いつかない。物価高騰に火がつき、またたくまに新ウォンの値打ちは旧ウォンのそれと同じになる。

そういうことを考えると、北朝鮮の国家指導者たちが、芽生え始めた中間層の豊かさへの通路を遮断することを目的にこのデノミを実施したという分析は、中間層の有無、その政治的ポテンシャルなどの議論は別にして、体制維持に神経質になっている権力者たちの怯えという意味で、それなりの説得力がある。

(2009.12.7 花崎泰雄)




コメント
この記事をはてなブックマークに追加