▼福島原発事故から2年後の2013年、NHKスペシャル「メルトダウン」取材班がまとめた、講談社発行の『メルトダウン連鎖の真相』の報告書を読み終えた。現場で事故処理にあたった人たちが共有した「失敗したら地獄のようになる」という恐怖感が、読む者にも伝わってきた、息苦しさが残る読後感だ。
▼原発は平常時の事故であれば、対応体制が確立しているのは理解できる。だが、福島での事故は大地震と大津波による、非常電源までもが使えないという、全電源停止という最悪な状態に陥ったのだ。原子炉を冷やす冷却水が止ったことは、、核燃料棒が融けて炉内の圧力が増加しメルトダウン(炉心溶融)につながる。
▼爆発を防ぐための減圧も、すべて電力が必要だが、その電力が喪失している。暗闇内での手作業しかないが、放射線量の高さから侵入もできない。さらに水蒸気爆発でのがれきの飛散は、応援物資や消防車両の進入をも阻む状態だ。手の施しようがない状態で、現場関係者は自分たちの使命を自覚し、死を覚悟での対応に迫られたという危機感は、名状し難い恐怖だ。
▼原発事故対応での危機管理能力の高さは、米国バージニア州にある。日本のように国や電力会社に任せるばかりではなく、州政府自らが『化学防護隊』を結成し、処理にあたるという。それは「自分たちの故郷は、自分たちで守る」という、防災意識の高さにある。
▼日本は受け入れた地域が、被害者意識を前面に出し、国や事業者を糾弾するだけのような気がする。引き受けたからには、自らが故郷を守るという姿勢も必要なのだろう。
▼福島原発での事故処理で、最前線を要求されたのは、消防と警察、そして自衛隊だろう。彼らには「国民の生命・身体財産の保全」という大義と使命があるからだ。だが、最前線は放射線量が基準を大きく上回っている。今後このような事故が発生した場合、果たして隊員は率先参加するであろうか。特攻隊のような自己志願では間に合わないのだ。
▼今回の災害現場ではこのようなことがあった。手動作業が必要な場面で「誰か行く者はいないか」と希望者を募ったところ「自分は独り者で、身寄りもいませんから、私が行きます」と志願した、若い作業員がいたという。胸が張り裂けるような場面だ。まさに戦争状態と同様の現場なのだ。
▼いまだ収束の目途も経っていないのに、再稼働を推進するアベ政権。再稼働の目的の一つには、地上最強の武器である核爆弾の製造があると言われている。最強の軍隊には最強の武器が必要だ。それが核爆弾だからだ。自衛隊を軍隊にしさえすれば、志願などの方法をとらなくても、命令一つで可能だ。原発事故の処理にしても、戦争をできる国にするのにも、国家国民の安全・安心を確保するには『軍隊』が必要というのが、アベ総理の「美しい国」への持論なのだろう。
▼福島原発事故での東京電力の総括は『人災』だとの結論を出した。この結論は極めて正常で真摯な受け止め方だ。そして、この報告書が私たちに問いかけるものは『人間は核を制御できるか』ということだ。
▼「原子力災害は、長期にわたり人の活動を制限する命をかけた戦い」と結んでいる。事故から6年を過ぎたが、福島原発の原子炉は、開ける目途さえついていないし、故郷へ戻れない人も大勢いるのを、私たちは決して忘れてはならない。
でもこのような報告書もあるのですね。
明るく朗らかに暮らしたいと思いながら、こうした闇に押し込められた問題を忘れてはならないと思います。フクシマへの諸事情を報道陣が書かなくなっているようにも感じます。
何年経過しようとも、現地へ行き広く取材し報道する、勇気ある人達、今後も必ず存在すると思いたいです。