毎日新聞 より
http://mainichi.jp/select/opinion/
editorial/news/20110820k0000m070125000c.html
社説:視点…金高騰と通貨=論説委員 福本容子
◇「信用」の守り手は誰だ
世の中、金ブームである。
「史上最高値更新」のニュースを今月だけでも何度聞いただろう。
ニューヨーク市場の先物相場は18日、終値で初めて1オンス=1800ドルを突破した。
「バブルの恐れあり」と顧客に警告し始めた米金融機関もあるようだが、「次は2000ドル」といった強気の声は衰えそうにない。
ブームをけん引している買い手に中央銀行が含まれるというから驚く。
世界の主要金鉱山会社が加盟するワールド・ゴールド・カウンシルによれば、
中央銀行による金の買い越しは今年上半期だけで208トンに達したそうだ。
過去の年間の最多が276トンだったことを考えると、際立っているのがわかる。
通貨の守り手のはずの中央銀行が通貨を信用しなくなってきたと言える。極めて深刻だ。
40年前の8月、ニクソン大統領がドルと金の交換停止を突然発表し、ドルは金の裏打ちのない、ただの紙のお金になった。
ベトナム戦争で軍事費がかさんだ一方、貿易収支が赤字に転落、第二次世界大戦後、固定されていた金1オンス=35ドルでの交換を続けられなくなったからである。
それまで世界の通貨は1ドル=360円など固定相場でドルとつながれていたが、そのドルが金という錨(いかり)を失った。
代わって「信用」が錨となった。
しかし、その錨がどんどん軽くなっていったのが、この40年の歴史である。
政治家は国債という便利な借金の味をしめ、中央銀行はほとんど借り入れコストゼロの資金を大量に供給し続ける。
通貨の値打ちが保たれる、との信用は弱まる一方だ。
金の高騰はそれを映し出す。
問題は、それでもなお、主要国が通貨の信用低下につながる動きを加速させようとしていることである。
米国の中央銀行が、ゼロ金利を今後2年は続けると宣言した。
量的緩和第3弾に進むかどうかは不透明だが、日本など、ドルに対して通貨高が予想される国では、追加の金融緩和など対抗措置を求める声が強まる気配だ。
「通貨戦争」の再燃が懸念される。
通貨戦争に勝者はない。
インフレを生むか、資産バブルになるか、金余りはどこかに大きなひずみを作る。
米国には回避する一義的責任があるが、日本の行動も問われている。
ニクソン・ショックから40年。
ドルに再び金の錨を付けるべきだ、との主張がかつてない盛り上がりを見せている。
現実的とは言い難いが、それほど今の通貨と、政府と中央銀行が信用を落としてしまった。
真剣に受け止めないと、とてつもないしっぺ返しを受けるだろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます