コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

白黒はっきりしない理由

2010-12-01 | Weblog

11月30日火曜日。すでに投票終了から2日が経つ。選挙管理委員会の公式発表は、まだ出てこない。アビジャンの街中を、不穏な空気が支配している。

決選投票の前、選挙結果は極めて迅速に出る予定だ、と言われていた。そのために、選挙管理委員会も、国連も、一生懸命準備をしたのである。チョイ国連代表は、決選投票の当日(11月28日)夜にでも、開票調書を集めて集計し、おおかたの結果を出すという算段でいた。そのために、開票調書の迅速な送達の態勢を用意した。つまり、各投票所にお金を配って、それぞれの運搬手段を用意させるという、チョイ代表の名案を実施に移した。日本と欧州連合(EU)とスイスが、そのための追加資金を出した。そして実際に、この態勢のお陰で、開票調書の運搬はほぼ問題なく行われた。

2人の候補者も、迅速に結果が出ることを想定していたようだ。木曜日(11月25日)の対面テレビ討論では、お互いに、決選投票の当日夜半にはどちらが当選するかが明らかになるという前提で話していた。バグボ候補が、自分はウワタラ候補から、当日の深夜2時に祝福の電話を受けるのだ、と述べたら、ウワタラ候補は、自分こそバグボ候補から、当日の夜10時ごろには祝福の電話を受けるのだ、と応酬した。

しかし、決選投票の当日(11月28日)夜に何が起こったか。夜間外出禁止令が出されて、街に人っ子一人いなくなった。そうなると身辺が不安になると感じた、地方各地の選挙管理委員が、夜間外出禁止令が出される夜10時前に、地方選挙管理委員会の事務所を引揚げて帰宅してしまう、という事態が生じた。いや、夜間外出禁止令に反対する野党系の選挙管理委員のボイコットだという説もある。真相は分らない。いずれにしても、運搬された開票調書が、行き場を失うという事態が生じた。特に警護の措置もないまま、開票調書が奪われたりすり替えられたりして、得票集計作業が危殆に瀕すると危惧された。チョイ代表は、何とか事態打開を図ろうと、深夜に私たち大使連中に頼んだ。私たちも、夜中の2時まで走り回った。

夜が明け、投票の翌日(11月29日)朝を迎えた。夜から朝にかけて、各地の地方選挙管理委員会で何が起こっていたのかは、まだ手元に情報がない。ただ、開票調書が損なわれたという話は聞いていない。開票調書は、どこででも大方守られた。人々の手によってである。各投票所でまとめられた開票調書を守ろうと、夜間外出禁止令にかかわらず、人々は地方選挙管理委員会に詰め掛けた。そこに各投票所から届けられた開票調書を、一つの地方選挙管理委員会ごとに約50~60枚ほど集まる開票調書を、人々が集団になって監視した。人々が自分の手で、選挙を守った。

夜間外出禁止令が解かれる朝6時から、各地の地方選挙管理委員会での得票集計作業が再開された。私は、アビジャン市内の複数個所で行われている集計作業の一ヶ所を訪ねた。そこでは、担当地区の地方選挙管理委員長を筆頭に、きわめて整然と、集計作業が進められていた。何十枚とある開票調書の封を開き、中身が間違いなく開票調書であることを確かめたうえで、そこに記された得票数を読み上げ、表に書きあげていく。この作業を、各政党の代表ほか、多くの証人の見守る前で行う。

夜間外出禁止令の間、集計作業が止まったために、およそ半日以上の遅れが出たものの、それ以外はおおよそ順調に集計が進んでいったようである。全国の19州ごとに、集計が纏められていく。そして投票日翌日(11月29日(月))の午後あたりには、アビジャンなどの都市部では、おおかた集計が終わった。いくつかの州でも、すでに集計結果が出て、中央選挙管理委員会に届けられているはずである。そして、中央選挙管理委員会は、その集計結果を、届けられた順に発表していく。

・・・という段取りであるはずであった。第一回投票の時は、投票後3日間、何の情報も出されないまま、人々の間に緊張が高まるという事態を招いた。その反省から、集まってくる情報を、中央選挙管理委員会でその都度発表していく、という約束になっていた。ところが、月曜日(11月29日)の日中は何の結果発表もないままに過ぎた。選挙管理委員会は、夜8時から、部分的な結果を発表する、と約束した。また日が暮れ、夜7時から夜間外出禁止になった。そして夜8時を迎え、確かにテレビは選挙管理委員会からの中継になった。

テレビでは、選挙管理委員会の報道官が、海外からの得票を発表した。アフリカ各国や欧州各国の在住コートジボワール人の投票結果である。そこまでで、結果発表は終わり。そんな馬鹿な。もう全国の各州からの集計が集まりつつあることは、誰もが知っている。なぜ、それを発表しないのだ。報道官は、明日朝10時から、各州の集計を発表していくので一晩お待ちください、と言った。発表されたのは、海外得票のわずか1万票分だけ。それでも、その結果はこれから起こることを十分暗示していた。
「バグボ候補40.03%、ウワタラ候補59.97%」

再び、夜間外出禁止令で誰も外に出ない、不気味な一夜が明け、火曜日(11月30日)を迎えた。朝10時前に、テレビを点ける。またまた、日本の民謡コンサートの再放送をやっている。どうも放送局は、こうした社会の緊張を和らげるのに、わが民謡番組が最適であると考えているのだろうか。ところが、10時になっても、選挙管理委員会からの中継が始まらない。そして、何の説明もないまま時間が過ぎていく。

その頃には、街中に噂が流れ始めた。
「ウワタラ候補が当選する。」
この噂は、私の情報源からも確認された。アビジャン市内の得票数を集計すると、バグボ候補とウワタラ候補がほぼ拮抗しているという。これに、あとブアケ市内の票、つまり圧倒的にウワタラ候補が強い場所の票を加えると、かなりウワタラ票が優勢になる。そして、アビジャン市内の票数は全国の3割、ブアケ市内の票は1割ある。つまり、全国の4割で、ウワタラ優勢なのだ。そして、残る地方の票のうち、北部の票は圧倒的にウワタラ票である。

バグボ大統領側の反応からも、その趨勢が知れた。与党の人民党の、アフィ・ヌゲサン党首が、記者会見を開き、北部の多くの地域で、バグボ大統領側の支持者が、激しい妨害行動を受けたので、北部の得票は無効にすべきだと激しく糾弾したのである。記者会見で、ある記者が聞いた。そういう主張をしなければならない、ということはつまり、バグボ候補は負けているということをお認めになっているということですね、と。与党側はもう自らの組織で集計して、結果を知っているのだ。

アビジャン市内は、もう成り行き不明のために不穏になり、ほとんど誰も出勤していない。店も事務所も固く鉄格子の扉を閉じている。人も車も閑散としている。異様な光景である。いつ何時、両陣営の支持者たちによる衝突、あるいは軍の介入、そうした騒動が始まるかもしれないと、人々は恐れているのである。つまり、第一回投票のときの教訓は生きなかった。選挙結果を早く発表しなければ社会は不穏になる。その発表は、午後になっても行われなかった。

そして、発表が行われない理由は、もはや第一回投票の時とは違う。結果を出すのに手間取っているからではない。結果は出ている。発表できないのである。国営放送が朝10時に予告していた結果発表を行わなかった理由は、「技術的理由だ」とされた。選挙管理委員会からの中継機材が、不具合になったからという。そんな理由が通るだろうか。中継ができないのなら、選挙管理委員会の報道官が、放送局に出向いて発表すればいいだけなのだ。

火曜日(11月30日)夕刻には、もう誰もが「ウワタラ候補が当選したのだ」と口にするようになった。そして、バグボ大統領側は、どういう手を打ってくるのだろう。アフィ・ヌゲサン人民党党首が主張していたように、北部のウワタラ候補優勢の選挙区の投票を、全部無効だという手続きをとって、選挙結果をバグボ候補当選にもっていこうとしているのか。あるいは、「若き愛国者」のような急進派の支持者たちが町にでて、暴力行為を始めて、混乱を作ろうとするのか。憶測が憶測を呼んだ。

とにかく、選挙結果がいつ、どういうかたちで発表されるかに、運命がかかってきた。いまさら、順次部分的に発表するといった話ではない。どちらの候補が当選したかの発表である。選挙管理委員会は、詰め寄る報道陣に対して、夕刻6時から記者会見を開く、と伝えた。報道関係者がその時間に委員会に赴くと、内務省から派遣された委員が、選挙結果発表には手続き的に問題があると主張し、用意されていた発表文を破ったという。これは現場にいた記者から聞いた話である。それで、記者会見も中止になった。改めて夜10時から再開されるとされた記者会見が、結局これも開かれなかった。つまり、選挙管理委員会の中で、激しい内部対立がある。世の中には、白黒がはっきりしないまま、不穏な時間が過ぎていく。

しかし、選挙管理委員会が白黒をはっきりしないことが、一般市民の人々に一つの明らかなメッセージを送っている。ウワタラ候補が当選したのだ、という噂が、だんだんと力を増している。そして水曜日(12月1日)の朝を迎えた。

 開票調書の集計作業(ココディ地区第2集計所)
集計所の一室に、地区内の投票箱が届けられて、積まれている。

 投票箱の中から、開票調書の入った封筒を取り出す。

 封筒の中に入っている、開票調書の表紙。

 これが、得票を書いた書類。
「バグボ候補200票、ウワタラ候補102票」と記録されている。

 投票所ごとの得票を読み上げる。

 それを壁に記入していく。

 見守る関係者。各候補者の政党の代表も証人となる。

 ここの責任者となっている、選挙管理委員。


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