コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

対面テレビ討論会

2010-11-27 | Weblog
いよいよ明日となった、コートジボワールの大統領選挙の決選投票。バグボ大統領と、ウワタラ元首相と、どちらの候補者が次期大統領に選ばれるか、それが最も重要な点であることはもちろんである。しかし、それにも増して、投票およびそれに引き続く開票、結果発表という選挙の過程が、どこまで平穏で安全に進むのか、そちらのほうも大いに懸念されている。

アフリカで行われる大統領選挙では、時にこの点で残念な結果をもたらすことがある。ケニアでは、2007年12月に行われた大統領選挙で、選挙結果への不服から、現職大統領派と、野党派との間で衝突が起こり、やがて大規模な暴動に発展した。双方で1千人を越える死者と、非常に多くの国内避難民を生み出した。これは極端な例であるとしても、対立候補の双方の支持者が、投票時に小競り合いを起したり、選挙の結果を巡って衝突したりするということは、ここコートジボワールでも十分ありうる。

第一回投票の時も、暴力沙汰が懸念されていたけれども、予想を覆して、とても平穏な選挙になった。でも、あの投票はまだ準決勝であった。今度は決勝戦である。かなり熱くなるに違いない。現実に、選挙期間が始まった今週になって、地方のいくつかの都市において、双方の支持者の間での小競り合いから、多少の暴力事件が発生している。アビジャンでも、バグボ大統領支持者が集まっているココディ大学構内から、若者たちが繰り出して、野党の党本部敷地に入り込んで暴れ、憲兵隊が乗り出して排除するというような事件が起こった。

それに、コートジボワールでは、2004年にフランスおよびヨーロッパ人に対して、また2006年に国際機関に対して、激しい暴力がふるわれた経緯がある。このときは、「若き愛国者」という若者の団体が、組織的に破壊行動を仕掛けてきた。「若き愛国者」は、バグボ大統領を熱狂的に支持している。今回も、彼らが騒ぎ出すのではないか、と心配されている。そして、ウワタラ候補の側でも、若者や支持者たちが組織されていると言われている。こうした組織が動き出せば、流血や破壊を伴うような衝突が起こりうる。

懸念が膨らんできたのは、選挙期間に入ってから、バグボ候補とウワタラ候補の舌戦が、相手を激しく非難する、対立の様相を際立たせてきたことによる。若者や支持者たちは、それぞれの候補がどういう姿勢なのかを見ているはずだ。もし、相手の候補をあからさまに攻撃する姿勢であれば、若者や支持者たちもそれに倣い、相手の支持者を攻撃する態度になる。もし、候補者どうしがフェアプレイの姿勢を見せれば、支持者どうしも暴力を控えざるを得なくなる。

そういう意味で、木曜日(11月25日)夜に行われたテレビ討論会が、どのように展開するのかは、たいへん注目された。このテレビ討論は、「対面(Face à face)」と名付けられ、バグボ候補とウワタラ候補が左右に立ち、司会が時間を割り当てて、国政、経済、社会、外政のそれぞれの分野について、双方に同じ質問をして答えを得る、という形式であった。大統領選挙にあたって、このような候補者対決型のテレビ討論が行われるのは、西アフリカでは歴史的だ、つまり史上初めてであると言われている。

夕刻から、テレビ局の周辺は交通が遮断され、大渋滞になった。双方の支持者たちが集まるのを阻止して、あらゆる突発事態を防がなければならない。そういう用心を重ねたうえで、テレビ討論は、夜9時から始まった。私ももちろん、テレビの前に座る。

司会が皆さんこんばんわと述べて、番組が始まった。始めの質問は、立候補をした動機である。
(ウワタラ候補)「私は、祖国に奉仕するために、わが党から立候補しました。この危機の時に、コートジボワールは人物を必要としています。そして私は、国を統治した経験があるだけでなく、西アフリカでも、そして世界でも経験があります。国の危急の時にこそ、私が力を尽くさなければならないのです。」
(バグボ候補)「私が立候補するのは、私の長い闘争活動の帰結なのです。18歳の時に、学生運動に身を投じて以来、私はずっと闘ってきた。そして人民党を創設し、多党制の民主主義に導いたのです。そうして闘って、民主主義になったのです。だから、それを継続しなければならない。危機を完全に終わりにしなければならない。クーデタを、戦争を、危機を終わりにしなければ。」

ひとまずは、物腰柔らかに始まった。でも、バグボ候補が、クーデタを終わりにしなければ、と言ったのが気になる。ウワタラ候補を「クーデタの首謀者だ」と決め付けた、バグボ候補のあの選挙演説と重なるからだ。

質問が続く。第一回投票は、とても良い雰囲気の中で行われました、決選投票に向けて、雰囲気をどう見ていますか。
(バグボ候補)「残念ながら、よからぬことを考える人々がいるようです。今日、ダロアで沢山の武器を隠した車とともに、21人が検挙されました。この雰囲気は良くない。私は軍を動員することにしました。そして、投票日当日(11月28日)以来、夜間外出禁止令を出すことにしました。このような措置をとったので、安全は確保されます。この選挙が、笑顔とともに終わることができるように、すべての措置をとりました。」
(ウワタラ候補)「私は、前向きに見ていますよ。わが国民は、成熟した平穏な人々であることが分かりました。決選投票も、同じく平穏に進むでしょう。危機こそ経験しましたが、コートジボワールは常に平和の国であったのです。選挙は、平和の選挙でなければならない。だから、過去数日、各地で暴力沙汰が散見されることを、私は非難します。わが国民よ、暴力は何物ももたらさない。夜間外出禁止令も結構ながら、どうして私に相談してくれなかったのですか。そんなものは、物事を大げさにするだけです。とにかく、投票は平穏に行われなければなりません。私の側は、私の支持者も含めて、暴力の無い選挙に努めます。そして、挑発に屈してはいけません。」

夜間外出禁止令とは、また厄介な話だ。たしかに人々を家に閉じ込めれば、暴力沙汰も起こらないかもしれないけれども、あたかも国内が不穏だと言わんばかりじゃないか。この点では、私はウワタラ候補に賛同する。それにしても、両候補とも、暴力の無い選挙が重要だ、という点では、しっかり見解が一致している。これは良い事である。

そして、質問は国の制度改革、軍と防衛・治安維持のあり方、経済政策の方向、産業振興、失業対策、超過債務、教育の改革、保健医療、移民対策、外交政策と、じつに多様な分野にわたって延々と続いた。バグボ候補、ウワタラ候補の両人とも、丁寧かつ紳士的にこれらの質問に答えた。決して非難の応酬にならない。何より、議論が噛み合っていて、非常に面白いやりとりがいくつも見られた。二人とも、さすがに指導者の器量を有している。

どうですか、11月28日の選挙結果はどうなるでしょう、と挑発的な質問。
(バグボ候補)「もちろん、ウワタラ首相は翌朝2時とか3時ごろに私に電話してきて、私におめでとう、と言うのです。まじめな話、勝者は勝者だし、敗者は敗者なのです。それを認めなければ、私たちは、子供たちや、そしてコートジボワールに、何が残せるでしょう。私は、ウワタラ首相が私に電話してくれると、信じています。」
(ウワタラ候補)「さて、互いに電話するということを、ここで約束しましょう。そして、バグボ候補が私に電話してくるのだ、ということを確信しています。それは、おそらく当日の夜22時ですね。今回は、選挙結果がかなり早く出るようですから。私は投票結果を受け入れる、と選挙のはじめから言っています。選挙実施に5年を待ったのです。でも、こうして実現しました。平和な選挙にするために、これだけの時間がかかったのです。だから、心配する人はいますけれども、私は言います。怖れることはない、平穏な選挙になるよ、と。」
双方が、笑いを交えながら答えている。いい雰囲気である。

最後に、国民へのメッセージを、と促された。
(ウワタラ候補)「多くの国民が、バグボ氏と私が、この場で殴りあいをするのではないか、と危惧していたでしょう。そんなことはない、私たちは兄弟のようなものです。この選挙は、とても重要です。そして、私はこの国に貢献するために、勝ちたいのです。この国への解決を抱いているから、勝つと信じています。その解決の第一は、社会の一致団結です。だから憎悪を呼ぶ議論は止めるべきだ。第二は、国民和解です。第三は、挙国一致内閣です。首相は民主党から選びます。そして人民党からも入閣してもらいます。権力は神様が与えるのだから、神様がこの国を護り、そして選挙の後に平和な国が来るでしょう。」
(バグボ候補)「国民の皆さん、私はあなた方に言うでしょう。私はあなた方とずっと一緒にやってきた。一緒に危機を過ごし、犠牲を払ってきた。一緒に、やっとここまで来たのです。この選挙は、過去11年間迷い道を辿ってきた国を、正しい道に戻し、平和に戻す選挙なのです。私とウワタラ首相と、ともに選挙結果を受け入れることを確認できたことで、たいへん満足です。コートジボワールに幸運あれ。アフリカに祝福あれ。」

2時間15分の間、二人は立ちっぱなしで討論に応じた。とてもいい討論会であったと思う。いろいろな点で意見の相違はあったけれど、平和な選挙をやろう、ということと、選挙結果は受け入れよう、という点では、二人とも合意していた。明日の投票と、そして開票と選挙結果の発表も、この討論会のように進めばいい。二人の候補者は、選挙運動の最後の最後になって、きちんと模範を示したのである。

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1 コメント

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Unknown (ぴな)
2010-11-27 12:17:57
今さら、このブログの存在を知り、着任当時や、今回の選挙のことを読ませていただきました。
大使の任国への熱い思い、温かいまなざしが伝わってきます。
大統領選挙を通した国民の祖国に向けて期待、思い・・・。明日は、日本でも沖縄県知事選挙が行われますが、コートジボワールの人たちに自慢できるような結果になることやら・・・。
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