コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

熱々のアロコ

2010-12-21 | Weblog
アロコといえば、バナナから作る家庭料理である。プランテン・バナナといって、果物のバナナとは少し違う青いバナナを、細かく切って油で炒める。ここコートジボワールでは、肉料理などの付け合わせとして、誰もが親しんでいる惣菜だ。

さて、「熱々のアロコ」という歌が人々の間で流行っている、という。よく聞いてみれば、その歌とは、11月の初めに来訪して、「平和と未来のコンサート」で演奏したわが民謡楽団が歌った、「ソーラン節」のことなのだ。

わが民謡楽団のコンサートは、その後、国営放送局によって番組に組まれて、放映された。しかも、決選投票の時期の前後に、繰り返して流された。選挙管理委員会の結果発表をめぐる、とても視聴率の高い時間帯に、間をつなぐ番組にも使われた。私の知っている限りで、4回は放映されている。だから、「ソーラン節」も何度も流されて、人々の耳に沁みついた。

「熱々のアロコ」というのは、フランス語で「アロコ・ショー(aloko chaud)」と言う。「ソーラン節」の中で、「あーどっこいしょー、あーどっこいしょー」と囃している。それが、コートジボワールの人々には、「アロコ・ショー、アロコ・ショー」と聞こえた。だから人々は、熱々のアロコを食べながら、日本の民謡を口ずさんだのだろう。これは愉快極まりない。

私は12月3日に、バグボ大統領の公邸の待合室にいた。おりしも憲法院が、バグボ当選を宣言して、待合室にも歓声が響いて来た。飛びこんで来た人々の中で、一人の女性が、日本大使ですよねと話しかけてきた。
「日本には、選挙を始め、いろいろ協力してもらっていて、感謝しています。みんな、日本のことをよく知っていますよ。私は、ヨプゴン地区に住んでいるのです。それで、ヨプゴン地区の子供たちは、路地で遊びながら、日本の歌を、皆で声を合わせて歌っているのですよ。」
日本の歌ですか、と私は訝る。
「ええっと、どんどん、とかいう歌です。」
あの民謡だ。どんどんぱんぱ、どんぱんぱ、という歌ですよね。
「そうそう、それそれ。どんどんぱんぱ、どんぱんぱ。」
彼女はその場で口ずさんだ。まことに、テレビ番組の威力はすごい。

さて、緊張しながらも選挙プロセスの上にあって、政治上の議論に留まっていたあの頃から、まだたった2週間余りしか経っていない。でも、世の中の様相は、大きく変わってしまった。選挙結果をめぐる対立で、二人の大統領が宣誓し、アビジャンの街は終日麻痺し、そしてとうとう銃撃戦まで起こった。国際社会は一致して、ウワタラ大統領当選を支持する一方で、コートジボワール国内ではバグボ大統領の政権が、国際社会への敵対の姿勢を、だんだん激しく表しつつある。

オバマ大統領、サルコジ大統領が、ともにウワタラ大統領を唯一の大統領であると宣言し、バグボ大統領に降りるように促した。西アフリカ経済共同体(ECOWAS)もウワタラ大統領を認定し、アフリカ連合(AU)がこれに続いた。国連も、ここでのチョイ代表の明確な立場表明だけでなく、潘基文事務総長はウワタラ候補の当選は明白であると認定し、次期大統領に就任するべきであると声明した。欧州連合(EU)は、バグボ政権に対する制裁措置を決めた。

このように、国際社会全体の立場からは、コートジボワールは全く孤立している。しかし、ここアビジャンでは、バグボ政権は官憲の力を動員し、ウワタラ大統領と彼の政府を、ゴルフホテルに全く孤立させている。国営放送を独占して宣伝番組を流し、政府系新聞にはバグボ支持の記事ばかり載せ、国内世論の情報操作を図っている。国際社会は、国家主権に内政干渉し、まことに怪しからん、という世論を煽っている。アビジャンでは、むしろ国際社会のほうが孤立しつつある。

各国大使は、コートジボワールに在留する自国民が、ここで迫害を受ける可能性を、だんだん心配し始めた。欧州連合(EU)の諸国は、バグボ政権に対する制裁措置がEU本部から発表されるとともに、警戒を高めた。この週末以来、オランダ、英国、スペイン、ベルギー、ドイツの各国が、在留の自国民に対して、可能な限りにおいて国外に出ることを勧める、という通達を出した。いわゆる退避勧告である。

私も日本についてどうするのか、東京の本省と相談し、昨日(12月20日)、渡航情報を引き上げた。コートジボワール全域に、「退避勧告」を出した。コートジボワールにこれから来ようとしている人々には、渡航の延期を求めるとともに、現在滞在している全ての日本人の方々に対して、コートジボワールから、安全な国・地域への退避や、日本への帰国を勧告するものである。大使として、在留の日本人の安全に責任がある。これから一人一人の在留邦人の事情を聞いて、安全対策を図る必要がある。それにいささかでも怠りのないように、今は平穏が戻って静かになっているけれども、事態の進展に備えて「退避勧告」を出した。

そういう措置をとりながら、私はそれでも、一番の安全対策は、コートジボワールの人々が日本人に日ごろから好意を持ってくれているということだと考える。幸いにして、日本人の評判はすこぶる良い。誰もが、日本人と一緒に仕事をして好感を持ち、日本の文化や社会に一目置いてくれている。私も日ごろから、いろいろな協力案件を進め、それを宣伝してきたので、日本はコートジボワールの良き友人である、ということになっている。

だからこそ、殊更にこういう難局にあたって、私は「熱々のアロコ」の話を頼もしく思うのだ。民謡楽団が、日本からはるばる来訪し、「平和と未来のコンサート」でコートジボワールの聴衆を魅了した。テレビ番組でも放映され、いまや子供たちが、日本の民謡を口ずさむ。彼らの演奏のお陰で、私たちを含め、ここに在留する日本の人々は、かなり安全の度合いを高めたと言えるかもしれない。文化面での協力を、けっして軽視してはいけない。いや、文化・社会の理解を進め、日本への好意を醸成することこそ、日本にとり最良の自己防衛策なのだ。

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