コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

国連出ていけ

2010-12-19 | Weblog
話は数日さかのぼる。ソロ首相の呼びかけた「行進」が、いよいよ明日に迫ったという水曜日(12月15日)、国軍のマングー参謀総長が声明を出した。

「野党側によって企画されている、16日および17日の、2つの「行進」を、国連(UNOCI)のチョイ代表が支援しているという情報がある。この「行進」が行われるという話を、チョイ代表はある海外メディアの報道関係者に漏らしているのだ。はっきり述べておく。この「行進」は、無辜の市民を治安部隊に対立させ、両者の間に衝突を起させようという試みに他ならないのである。国軍は、こうした態度を厳しく糾弾する。」
そして、結論を述べる。
「国軍および全ての治安部隊は、今回の「行進」によって引き起こされるべき、あらゆる予測不可能な事態について、その責任はすべてチョイ代表にあると考える。」

どうもお門違いではないか。「行進」を行おうとしているのは、ウワタラ大統領とソロ首相なのだから、非難すべきなのはそっちの方なのに、国連のチョイ代表を槍玉に挙げて、全ての責任はチョイ代表にあると言う。それに、あたかも、チョイ代表がこの「行進」を画策してきたような言い方だ。そんなことは、あり得ない。私は知っている。この「行進」がいかに危険な試みであるかを懸念して、それを止めさせようとしてきたのは、チョイ代表自身なのだ。

そして、「行進」が行われ、ゴルフホテルの近辺で激しい銃撃戦になった日(12月16日)の翌日、政府系の新聞である「友愛朝報」は、珍しく写真ばかりの頁を作った。そして、そのうちの数枚が、カラシニコフ銃と携帯ロケット砲を抱えた、明らかに「新勢力」軍と思われる兵士が、国連平和維持軍の白い兵員輸送車や、「UN」と書かれた白い乗用車を背景に歩いている写真である。
「国連のブルーヘルメットが、戦車の上から見守る前で、「新勢力」軍は敵対行為を始めた。」
そういう説明が付いている。

国連平和維持軍は、その任務として、コートジボワール市民の安全を守る、という仕事がある。たとえそれが「行進」であっても、市民が丸腰で出て行って暴力に曝される危険があるというならば、その人々の安全のために出動する義務がある。ただ、今回の問題は、その市民つまりソロ首相をはじめとする人々とともに、「新勢力」の兵士たちも、いっしょにゴルフホテルの中から出てきたということである。「行進」の安全を守ろうとする、国連平和維持軍の行動が、あたかも「新勢力」軍と合同の行動のように見做されかねないという問題があった。

銃撃戦の日の翌日(12月17日)は、ソロ首相はこの日にも「行進」を続ける、今度は首相府の建物も目的地にする、と言っていたのに、何事も起こらなかった。アフリカ連合(AU)のピン委員長が解決を探りに緊急にアビジャンを訪れたので、「行進」に打って出るわけにはいかなかった、という事情があったかもしれない。それならば、その翌日つまり今日(12月18日)に、「行進」を継続するような動きがあるかと、用心しながら過ごしたけれど、また一日静かなままであった。

そして、午後3時のテレビ報道で、バグボ政権のオブル国民教育相が画面に現れた。彼女は手元の声明を読み上げた。
「国連は、2004年に採択された安全保障理事会決議1528号に基づき、中立的兵力としてコートジボワールに派遣された。その任務の中には、反乱軍を武装解除し、紛争当事者が戦闘行為を停止することを支援するということが入っていたはずである。しかし、残念ながら何度にもわたり、この任務は守られなかった。大統領選挙を通じて、国連の権限の悪用と、中立の立場への侵犯が繰り返された。コートジボワール政府は、そのようなチョイ代表の態度に憤慨している。」

引き続き、チョイ代表への非難である。
「具体的には、チョイ代表は、選挙を通じて北部地域に起こった暴力事案を、まったく無視した。暴力の犠牲者の苦しみを、何でもないこととして扱い、欧州以外の選挙監視団の出した(暴力事案を強く指摘した)意見を、まったく顧みなかった。」

「決選投票の翌日、他ならぬ国連事務総長が、候補者に対して、選挙法を守るように繰り返し呼びかけていたではないか。しかし、その選挙法の規定に従い、かつコートジボワールの国家制度がきちんと正式決定したにもかかわらず、チョイ代表は、選挙管理委員会の出した違法な選挙結果だけしか認めない、という声明を出した。そして、一国の大統領が誰であるかを指名したのである。このようなことは、国連の歴史に、あってはならないことである。」

「さらに、国連がここで設置したラジオ局(ONUCI-FM)は、野党の宣伝局になり下がり、人々の間に憎悪を呼び起こす放送ばかりを繰り返した。わが国の憲法院の決定を否定し、国民に不服従を呼び掛けた。国際社会に改めて考えてもらいたい。憎悪の宣伝がいかなる帰結を呼ぶかを。」
憎悪の放送、というのはルワンダ虐殺の時に地元ラジオ局が演じた役割として、人々の心に記されている。それを思い起こさせる表現をわざと使っているところに、バグボ政権の宣伝臭がかなり感じられる。

「そして、12月16日、野党側によって企画された「平和の行進」において、「新勢力」軍の兵士たちは、国連軍の軍帽をかぶって「行進」に参加し、ゴルフホテルの近辺で、コートジボワール正規軍の治安部隊に、重火器をもって攻撃を仕掛けた。ティエビスその他の国内各地で、「新勢力」軍は国軍に戦闘を仕掛けたところ、彼らが保有していた武器は、国連の車両やヘリコプターによって補給されたものである。ヤムスクロでは、国連の車両が、野党側の人員を輸送して、彼らに治安部隊を攻撃させている。このような行動によって、国連は犠牲者の数を増大させたのである。コートジボワール政府は、示威運動が暴力事件に変異していった責任は、国連にあると言わざるをえない。国連は、国内を不安定化し、国民を分裂させる手先と化したのだ。」
国連軍が「新勢力」軍に補給していたなど、証拠を示すことなく、検証し得ない事実を並べている。こういう言い方も、かなり宣伝臭を強めている。まあ、つまりは、一つの結論を導くための言い訳なのだ。

「コートジボワール政府は、以上に鑑みて、国連はその任務を大きく逸脱したと結論付けざるをえない。」
さて、結論が告げられる。
「たしかに2002年以来、コートジボワールが危機から脱出できるように、国連が行ってきた支援には、感謝を申し上げたい。しかしながら、以上の経緯から、共和国大統領は、国連平和維持軍およびリコルヌ軍(仏駐留軍)に対して、即刻わが国を出て行くように要請する。」

やはり、そういう結論であったか。リコルヌ軍が、何の理由の説明もなく、国連平和維持軍といっしょに追放されるのは、とばっちりで割が合わない気がするけれど、とにかく結論は結論である。国連とリコルヌ軍は出ていけ。これは大そうなことになってしまった。

私は、チョイ代表に電話をかけた。いやはや、バグボ政権は、全面対決を仕掛けてきましたね。これには、どう対応したものですかね。するとチョイ代表は言った。
「あれ、国連にはぜひ残ってほしいと、要請されていますよ。ウワタラ大統領からの正式な文書で。」

つまり、国連はバグボ政権を認めておらず、ウワタラ政権だけが正式な政府という立場である。だから、バグボ政権から出ていけと言われても、聞く必要はないというのである。さても、この意地比べは、どこに帰結するのであろうか。私はとりあえず、はらはらしながら見守るしかない。

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